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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年11月号

多世代全対象型の就労支援を目指して
~廃寺を活用した取り組み~

安倍真紀

廃寺を、もう一度人が集まる場所に

石川県小松市野田町にある浄土真宗大谷派 西圓寺(さいえんじ)。建立は室町時代にさかのぼり、長い間、地域の人たちの信仰や集いの場として利用されてきました。数年間放っておかれていた西圓寺は、平成17年に当時の住職が亡くなり、後継者も決まらず廃寺となってしまいました。庭の木々が鬱蒼(うっそう)と生い茂り、蛇やヤブ蚊などの害虫の住処(すみか)となり、町内にとっても大きな問題の場所となっていました。町内の役員、西圓寺の門徒でこの廃寺をどうするかが話し合われ、駐車場にでもしようかという意見でほぼ決まろうとしていましたが、長年受け継がれてきた西圓寺を残したいという意見も根強くありました。そんな中、ふとしたご縁で会議に参加をしていた弊法人が提案した「寺構えはそのままで、福祉施設として、町のコミュニティー施設として、一緒にやりましょう」という意見にご賛同いただき、廃寺の再利用化へと進んでいきました。

町の方々と話を重ねていく中で、「温泉もあたったらいいな」という意見も上がり、温泉掘削をしながら、さまざまなコンセプト作りをしていきました。温泉掘削や荒れ放題の西圓寺の改修には約1年半かかり、2008年1月『三草二木 西圓寺』としてオープンしました。

『三草二木』は法華経の中の薬草喩品の一節からとったものです。太陽の光や雨は万物に平等に降り注ぎます。けれどもこの社会には大木小木があり、それぞれの花や実をつけて、持ち前を発揮しながら支え合い生きています。さまざまな世代の人たちが、障害のある人もない人も、誰もが日常的に交流し支え合いながら暮らせる町づくりをしていくことが、今もこれからも求められているのです。

ごちゃまぜで働く場

さまざまな人たちが集う三草二木 西圓寺(以下、西圓寺)では、野田町民が無料で利用できる天然温泉のほか、3つの福祉サービス事業を行なっています。高齢者の通所介護、障がい者の生活介護、就労継続支援B型です。

西圓寺の中では、通所介護と生活介護の利用者が本堂(カフェスペース)で活動をしており、そこへ町の方や一般のお客様も日常的にカフェのご利用にいらっしゃいます。もちろん、温泉もデイサービスの利用者と一般のお客様が一緒に利用されます。開所当初は、一般客からデイサービスの人と入浴時間を分けてほしいという意見もありました。

『三草二木』には誰もが日常的に支え合うという意味が込められています。私たちはそれを信念として、このようなご意見にはその都度、丁寧に説明をしてご理解を得てきました。今では、このようなお話をいただくことはなくなっています。

デイサービスの方々の傍らで、温泉や館内掃除、カフェの運営、隣の建物で漬物作りをしているのが就労継続支援B型の利用者です。本堂の掃除をマイペースで行う男性。温泉の浴槽掃除を“自分がやらなければ”と、責任を持って行なっている男性。お客様への「いらっしゃいませ」がとびきり素敵な女性。全員が、それぞれの役割を感じ、活き活きと仕事をしています。

西圓寺には、ワークシェア制度があります。町内の65歳以上の方を対象に、梅干し作りや郷土料理作りなど、昔取った杵柄(きねづか)を活かして高齢者と障害者などみんなが連携、協力し合い、生き生きと働くという制度です。

開所以来、毎年夏に行なっている梅干し作り。ここ数年、ワークシェアで働く町の方から「○日頃は晴れが続きそうだから梅を天日干ししよう」と提案され計画を立てています。長年の勘と経験のアドバイスのおかげで、自家製梅干しは好評をいただいており、生産量も毎年増加しています。梅干しのほか、自家製味噌やらっきょう、浅漬けなどの漬け物を製造販売していますが、東京からのお客様も、定期的にお取り寄せをいただくほどになっています。

以前は、自分からあいさつをすることが少なかった自閉症の男性が、今では一人ひとり名前を付けて「○○さんおはよう」と言うようになり、お互いを意識し、理解し合いながら仕事をしていることを感じます。

すべての人が活躍できる町に

この野田町は西圓寺のオープン後、町内の世帯数は増加傾向にあります。現在は68世帯で以前は57世帯でした。西圓寺があることがその理由とは言い切れませんが、「西圓寺の温泉に入ることで、町民同士が付き合いやすくなった」と町の人は言います。

家庭菜園で採れた野菜を「カフェで使って」と持ってきてくれる方。「いつも温泉に入らせてもらっているから、できることをさせてもらうわ」と温泉掃除をボランティアでされている女性。脱衣場の水飲み用のコップが「使い終わったから洗って」と受付カウンターに持ってきてくれる幼児。閉店時間に脱衣場の水タンクと使ったコップを片づけてくれる親子。夏祭りで、流しそうめんのそうめん流しやカラオケ大会の司会を買って出る小学生。それぞれが、自分にできることをして支え合い貢献しています。

これからの野田町を支えていく人たちが、この町をどうしていきたいか、どうするか。西圓寺に貢献していただいているパワーを町全体に広め、子どもから大人まで、いつまでも住み続けたい町になるよう貢献していきたいと思います。

(あんばいまき 社会福祉法人佛子園、三草二木 西圓寺施設長)