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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年11月号

ワールドナウ

第3回アジア太平洋CBR会議報告

小川喜道

はじめに

2015年9月1日~3日、東京の京王プラザホテルにて第3回アジア太平洋CBR1)会議が開かれ、46か国・地域から549人の参加があった。初日、開会式の会場に入ってすぐさま感じた熱気はどこかで味わった気がする。27年前の1988年9月、1週間にわたって第16回リハビリテーション世界会議2)が、同じ京王プラザホテルで行われた。懐かしくそのときのことを思い出した。

当時、CBR分科会が行われ、CBR分野の著名な先駆者であるハンドヨ・チャンドラクスマ氏(インドネシア)、パドマニ・メンディス氏(スリランカ)、アイナー・ヘランダー(WHO)らが壇上に立った。たしかに彼らを含む先人がいて、今のCBRがあると言える。WHOがアルマ・アタ宣言(1978)3)にてCBRの戦略を示したが、それから10年を経た当時は、まだ概念の説明やモデル事例の報告であり、世界的に定着した活動とは成り得ていなかった。しかし、今回の会議に参加して気づいたことは、CBID4)へと発展的概念として確立され、また、地域の諸活動としても格段の広がりを見せていることであった。

開会式・初日全体会

開会式では、常陸宮殿下がご登壇され、ゆっくりとした口調でこの会議の意義を述べられたことは、参加者すべてがこの会議に臨む姿勢を正すものであった。そして、初日の全体会は、この3日間の議論の方向性を示していた。

アリシア・バラ氏(フィリピン、ASEAN社会文化共同体事務局次長)は、最近のアジアを巡る障害者の人権動向を障害者権利条約(2006)、バリ宣言(2011)、インチョン戦略(2012)などを経て、障害者自身の参加、役割が重要であることを強調していた。

もう一人のスピーカーである福田暁子氏(世界盲ろう者連盟事務局長)は、参加者にとって刺激的なメッセージを送った。具体的には、障害当事者の立場からみたCBIDの3つのステップとして、1.障害者は自分が達成したいことを持ち、夢を抱くこと、2.地域に出て、他者と関わる努力をすること、そして、3.自分がどうやって達成したかを他者に教えること。こうしたプロセスを通して障害者自身がよりよい社会を創るための重要な存在であることを伝えている。リスクそのものをチャンスと捉え、力にしていく福田氏は、ユーモアと機知に富んだスピーチで会場を沸かせ、すべての参加者を一つの輪の中に包み込んだ。

熱気にあふれた各会場

会議は、5全体会、13分科会、その他各種報告、イベントが行われた。たとえば、「障壁の無い環境」の分科会では、アートによるコミュニティ介入(マレーシア)、精神保健分野での隔離収容からコミュニティ統合への試み(香港)、などが報告された。そして、人が作り出している障壁の打破は、すなわち人の意識変革であることが示された。「支援機器」をテーマとした分科会では、聴覚障害の当事者報告があり、手話普及、手話習得の教育手法開発、DVD教材の作成などが紹介された(スリランカ)。また、車椅子の提供、補修に加えて、アクセシブル・トイレなどの提供に力を入れてきた民間団体が、さらにASEAN諸国へと活動を広げることを述べた(日本)。

参加者は、支援機器、技術は各地の社会的背景、現状に適合させつつ発展させていく必要性を理解することになった。また、「コミュニティにおける自助グループと当事者団体」では、サービスの理解やその利用困難な点、改善のための好事例を見出す活動(ラオス)や、精神保健分野でピアカウンセラーらを包含した地域での組織的展開(日本)などが報告された。各会場では、報告の一つ一つに多くの質問やコメントがあり、各会場とも熱気あふれる議論が重ねられていた。

交流会とCBID実践報告

会場の一室では、なごやかな盛り上がりを見せていた。国際協力を継続してきた国内の団体、アジア太平洋地域における国際的支援団体がブースを出し、参加者はコーヒーカップ片手にさまざまな交流が行われていた。

今回、全参加者に配布された『CBID好事例集』は、アジア太平洋地域における障害者の地位向上に向けたさまざまな実践が載せられており、一方、日本国内の『CBID事例集』はCBRマトリックスを活用し、実践の全体構造、過不足を可視化し、将来計画の道程を示している。これらを通して、国内の実践活動をさらにアジア太平洋地域へ発展させることが可能と思われた。

現在のCBR推進に欠くことのできない活動家、マヤ・トーマス氏(「障害・CBR・インクルーシブ開発」ジャーナル編集長)は、CBR活動はエビデンス・ベースと言われているが、その成果は十分に上がってきている。今日にあってはさらに積極的なアクションが必要であることを示唆していた。

ところで、今回、個人的にはベンカテシュ・バラクリシュナ氏(インド、CBRグローバルネットワーク会長)に出会えたことがうれしかった。私が20年前にCBRコース(ロンドン大学)に在籍していた時、インドの障害当事者運動で活躍していた全盲のベンカテシュ氏の言葉がまとめられている本からたくさんのことを学んだ経験があるからだ。彼は名言をたくさん発しているが、今回も分科会のモデレーターとして、ソフトな発言の中に、専門家の報告よりも“当事者の発信”を望む言葉を織り込んでいたことが印象に残る。

国内での参加者として、高嶺豊さん、中西由起子さん、中西正司さんはじめ、長年アジア地域の障害者のエンパワメントに貢献してきた方々がこの会議の中心にいることはうれしさとともに、若い日本の障害者のパワーをもっと発見したかったという思いも抱いた。

おわりに

最終日、本会議における大会宣言が採択された。CBIDは、持続的開発目標を達成する効果的な戦略として認識し、インクルージョン、平和の構築、貧困の削減、地域エンパワメントの促進、個別化されたサービスの紹介・利用、災害リスクの削減、正義、地域資源の協働、に焦点を当て、何よりも障害当事者団体とさまざまなレベルの公的・私的団体が国際協力を強化し、活動を推進することが全参加者の下で確認された。

次回、第4回アジア太平洋CBR会議は、2019年にモンゴルで開催予定となっており、また、それに先立って、第2回CBR世界会議は2016年9月26-28日にマレーシア、クアラルンプールで開催される。CBR分野のさらなる発展を期待したい。

(おがわよしみち 神奈川工科大学教授)


【注】

1)Community Based Rehabilitation(地域に根ざしたリハビリテーション)。その概念、方策は、WHO、UNESCO、ILOのジョイント・ポジション・ペーパー(1994、2004)に示されている。DINFサイトにて日本語訳を読むことができる。

2)日本障害者リハビリテーション協会『第16回RI世界会議報告書』(515頁)、1989、pp.121-134

3)旧ソビエト連邦のアルマ・アタで行われた第1回プライマリ・ヘルス・ケアに関する国際会議(WHO、UNICEF主催)で採択された宣言。その後「全ての人々に健康を」を合言葉にWHOの施策が動いていくが、そこにCBRが戦略として示された。

4)Community Based Inclusive Development(地域に根ざした共生社会の実現)。CBIDを達成するための方策としてCBRを位置づけている。