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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年12月号

ワールドナウ

フィンランドにおけるソーシャルファームの動向

野村美佐子

はじめに

ソーシャルファームは「障害者あるいは労働市場で不利な立場にある人々の雇用のために作られたビジネス」として、欧州を中心に発展してきている。日本障害者リハビリテーション協会では、ここ数年来、日本における障害者の雇用促進の手法として、障害保健福祉研究情報システム(DINF)と呼ばれるサイトを通してソーシャルファームの紹介をしている。

今年の8月下旬、炭谷茂ソーシャルファームジャパンの理事長(日本障害者リハビリテーション協会会長)と桑山和子ぬくもり福祉会たんぽぽ会長によるフィンランドのソーシャルファームの実態調査に同行した。2003年に設立したソーシャルファーム法により、フィンランドではどのような進展があったのだろうか。その動向を紹介する。

バテス財団について

フィンランドのソーシャルファームの支援機構の役割を果たしていたのが、今回の視察プログラムを作ってくれたバテス財団である。1993年に設立し、「障害者と長期的な病気を抱えている人、部分的に就労が可能な人の同等な雇用機会を促進する」というミッションを持つ専門的な組織だ。全国及び地方組織、自治体の社会福祉事務所、そして雇用サービスの提供団体など35の組織を含み、支援付き雇用の分野においてさまざまな役割を果たしている約750団体の全国的ネットワークを持っている。そうしたネットワークへの支援などにより同財団は、中央政府に客観的かつ十分な根拠に基づいた見解を提供している。

フィンランドのソーシャルファームとは

フィンランドにおいては、長期失業者等に対する雇用政策の一環として、ソーシャルファーム法がある。この法律の下で、ソーシャルファームは、長期失業者、障害者、そして長期にわたる疾患のために就労が困難な人を従業員の30%以上雇用しなければならない。労働時間については、その職種における最長労働時間の75%で、障害のある人は50%以上となる。しかし、目的や利益配分に関して制限はないので民間企業として利益が保障される。

ソーシャルファームに対する補助金には、この法律と2012年成立の公的雇用・ビジネスサービス法により、障害のある求職者を雇用するための賃金補助(給料の50%)、労働環境を整備するための補助金(上限4,000ユーロ)、事業の設立など事業開発のための総活動費の75%を上限とする雇用政策補助金がある。

またソーシャルファームのロゴがあり、使用するためには管轄する雇用経済省に登録が必要となる。最初は200の団体や会社が登録したが、基準に合わないため取り消しが相次ぎ、現在は59になった。そのうち20%が何らかの第3セクターまたは地方自治体、80%が民間企業になる。これらの企業や団体を見ていくと、政府の就業促進政策の影響があるのかもしれないが、図1のようにソーシャルファームが常勤雇用の場として、また、一般労働市場への移行を助ける訓練とコーチングの場としての位置づけが推測できる。ただし、バテス財団のリンドバーグ氏によると、比較的成功している大規模なソーシャルファームの大半は、移行が中心だそうだ。ここにフィンランドのソーシャルファームの特徴をみた。

図1
図1拡大図・テキスト

ソーシャルファームの実態

今回の視察先で、特徴的なソーシャルファームを紹介する。

(1)ヘルシンキメトロポリタン・エリアユース・センター

設立当初から株式会社組織で、ヘルシンキ市が大株主で、自治体や市民団体も株主だ。環境保護と失業者を雇用する目的で、持ち込まれるさまざまな物品を中古品として販売、あるいは、廃棄物に分別する事業で、売上げが年550万ユーロもある大規模なソーシャルファームである。学校や事業者向けに環境のコンサルタントも行う。平均的な従業員数は、325人だが、50人を割る常勤者以外は、賃金補助で長期失業者が就労している。また、刑期終了が間際の受刑者や軽犯罪者の職場にもなっている。少ないが障害者もいる。ここの賃金助成は国からの補助だが、足りない分は自治体であるヘルシンキ市が助成を行なっている。

(2)ポシヴィレ株式会社

2008年に立ち上がり、現在、ヘルシンキ市、ヘルシンキウーマン病院地区と不動産会社により経営が行われているソーシャルファームである。障害者、移住者、失業者、疾病をもっている人、若者など、就労困難者を一般市場で仕事を得る、あるいは教育機関へ移行できるように訓練をする企業だ。訓練生は、ヘルシンキ市の社会福祉関係や病院、高齢者や障害者のグループホームなどで、知的障害者のデイケア、清掃、調理、コンピュータ操作、介護補助、補助器具の修理や管理などの仕事に従事する。訓練生を職場に送り出す前に研修を行い、最初は指導員がついていく。訓練期間は、制限を設けていないが、1年半ぐらいが妥当だと考えている。ここでの訓練は、手厚く、訓練生の自尊心と生活管理能力を高めるとして口コミで評判になり、年間100人くらいを訓練している。

(3)ティトリュ協会

タンペレにある12の障害団体とタンペレ市が、障害者が働く場所として1979年に設立した団体である。従業員は、知的障害者、精神障害者、身体障害者など、従業員の70%~80%は、何らかの障害をもっている。最近では、長期失業者や海外移住者を受け入れている。従業員は、金属精密部品を組み立てる機械作業部門、作業服やユニフォームを仕立てる縫製部門、梱包、パッキングなどをするパッキング部門で個々の特性に応じた仕事を行う。年間予算は、180万ユーロで、収入の70%は売上げから、残り30%はタンペレ市から一定の障害者を雇用することで援助も受けている。賃金は、同じ職場と比べると低く、障害の程度や技能によって契約を変えている。この協会の責任者は、最初はテナント貸しであったが、現在は、それぞれの部門で訓練や教育の場としての製品づくりではなく、高品質な製品を目指していると誇らしげに語ってくれた。現在、職員10人、契約社員40人、そして研修生は年間40人で、内容的には、ソーシャルファームだが、形態的には今のままで不都合がない、と彼は述べた。

(4)テュオホンヴァルメンネス・バルマ株式会社

最初は、市町村連合が学習や訓練機関として立ち上げたが、現在は、ラフティを中心に8か所に拠点があり、食品加工、木工製品、木工製品のゲーム、金属加工、リサイクルなど6部門を持つ株式会社になった。ソーシャルファームのステータスはない。常勤従業員は53人、毎日220人が働いている。失業者の訓練生は、ハローワークから半ば強制的に送られてくる。年約600万ユーロ以上の売上げがあり、訓練生たちが大きな力になっている。しかしそのためには、「就労し働く喜びを手に入れる」という意識を持たせることが必要だった。そう語るのは、ここに転職をした責任者で、今までのキャリアを踏まえて、プロジェクトリーダーとしてモルックという木製のゲーム用品を開発した。その結果、国際的なパテントがつき、世界各地で販売をしており、その売上げは年200万ユーロになるとうれしそうに語った。

おわりに

フィンランドにおけるソーシャルファームの進展はあまり明確でなく、バテス財団でレクチャーをしてくれた雇用経済省のアドバイザーは、ソーシャルファームの数が増えないので、改革と経営モデルの開発が必要だと述べた。しかし、今回の訪問では、生きがいを感じながら障害者と共に働く経営者のリーダーシップが、とても印象に残っており、経営モデルというより、経営者モデルの開発がソーシャルファームの成功のポイントになると感じた。

今回の実態調査報告の詳細は、DINFに掲載予定である。

(のむらみさこ 日本障害者リハビリテーション協会情報センター)