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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年2月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

情報アクセシビリティ・フォーラム2015の開催

兵藤毅

1 はじめに

国連の障害者権利条約、日本の第三次障害者基本計画にも「アクセシビリティ」という言葉がありますが、一般にはまだなじみが薄いと思います。私たちが開催したフォーラムの「情報アクセシビリティ」とは、これまでの「情報にアクセスする」という考えから、一歩踏み込んだ「誰でも情報にアクセスしやすい」を目指して開催しました。

単に情報にアクセスできればいいということではなく、必要な情報をより簡単に、より便利に入手できるようにするという視点が「アクセシビリティ」の意図するところです。

情報を分かりやすく、容易に入手できる社会を目指し、全日本ろうあ連盟(以下、連盟)は2013年11月、東京・秋葉原で初めて「情報アクセシビリティ・フォーラム」を開催し、延べ13,000人の来場者を得、各方面から大きな反響をいただきました。その後、各方面よりフォーラム再開の要望が強くあり、2015年12月12日~13日の2日間、再び東京・秋葉原で「情報アクセシビリティ・フォーラム2015」を開催しました。

前回のコンセプトは「あらゆる情報を、私たちの望む形で、より分かりやすく・より簡単に入手することができる社会の実現を広く啓発する」でしたが、今回は、「情報アクセシビリティが織り込まれた社会とは何か、どのような形で実現するのか」を加え、より具体的なモデルを示していくさまざまな企画を立てました。師走の時期であったにもかかわらず、約1万人の来場者があり盛況となりました。

2 なぜいま「情報アクセシビリティ」なのか

情報保障は私たちの基本的人権です。「いつでも、どこでも、誰からでも自由に情報を受け取ることができ」「いつでも、どこでも、誰にでも情報を発信し」「コミュニケーション手段を自らの意見を自由に選択する」ための情報保障がなされることで、私たちが初めて情報にアクセスできる環境が整います。

情報アクセシビリティは聞こえない人だけの問題とせずに、さまざまな人の情報アクセスのために必要な整備をソフト・ハードの両面で整備しなければなりません。

「読むこと」「話すこと」「書くこと」「聞くこと」「見ること」といった情報へのアクセス手段も、聞こえない・聞こえにくい状況であれば、手話通訳・要約筆記・文字通訳による人 的支援、ICT機器を活用した機器やサービス等、さまざまな手法によるアクセス手段の保障が考えられます。

一方で、たとえば会話障害や知的障害のある人の場合は、アクセス手段の保障だけでなく「より分かりやすく読むことができる」「より分かりやすく聞くことができる」「より簡単に話すことができる」といった「分かりやすさ」が必要になります。

画一的な手段の提供ではなく、それぞれの状態に合わせた「より便利なアクセスを保障すること」が「情報アクセシビリティ」なのです。

聞こえない人の場合、情報保障がなければ、聞こえる人と同等の情報を得ることはできません。その情報保障もその人にあったものでなければ、十分な情報を得られず、その人本来の力を発揮することもできないことになります。また、情報にアクセスできる環境を整えない限り、ユニバーサルデザインやバリアフリー等の障害者全体に関わる施策を検討する場にさえも参加できません。

その結果、聞こえない人の意見が抜け落ちた制度、製品、規格が多く存在することになります。

あらゆる人が、社会に完全に参加できる環境を整えなければ、さまざまな人が共に暮らす「社会づくり」そのものが成立しないということが示される一例だと思います。

3 情報アクセシビリティ・フォーラム2015の概要

以下、「情報アクセシビリティ・フォーラム2015」の概要を紹介したいと思います。当日は、大きく分けて3つのフロアで企画を行いました。

(1)学ぶフロア・カンファレンス

冒頭のカンファレンスで、アクセシビリティ確保に係る施策に積極的に取り組んできた先駆者の皆さんにそれぞれが考える「情報アクセシビリティ」についての報告をいただきました。その後、5本のカンファレンスでは、あるべき社会像をさまざまな視点(当事者、障害者スポーツ、企業、自治体、国)において、情報アクセシビリティが確保された社会像を、参加者とともに切り出し、ディスカッションを行いました。

(2)学ぶフロア・ワークショップ

参加者も体験して学ぶ「参加型」のワークショップを実施しました。「働きやすい職場づくり」、「誰にでもすぐに電話できる環境づくり」、「学びやすいやすい職場づくり」といった、「情報アクセシビリティ」について体験しながら学ぶセッションと、「手で創るアート」のように、音声中心の社会とは異なる手話という豊かな文化を学び、その文化を維持しながら情報アクセシビリティを実現する方策を考えるセッションを設けました。

(3)感じるフロア

聴覚障害者の生活向上に寄与する最新技術、情報アクセシビリティに関わる機器・サービスを29の企業・団体の出展によって紹介しました。

また、連盟等の活動を紹介する啓発コーナー、連盟加盟団体のグッズや書籍を紹介・販売するお国自慢コーナー、聴覚障害者や手話関連の書籍等を多数揃えて販売する書籍販売コーナー、出展企業の紹介やミニ手話講座、映像作品の投影を行うミニステージ等の企画を開催し、終日多くの参加者で賑わいました。

(4)その他

12月12日(土)午前中には、秋篠宮妃殿下ならびに佳子内親王殿下にご臨席をいただき、式典を開催しました。この式典には内閣総理大臣夫人安倍昭恵様をはじめ、各省の政務官や多くの議員の皆様をはじめ約120人の参列がありました。また式典では、秋篠宮妃殿下から情報アクセシビリティについて、約20分間、手話でお話しいただきました。

また、日本財団理事長の尾形武寿様から「日本財団が目指す誰もが生活できる社会」のテーマで特別講演がありました。

このほか、会場外のレストラン街や秋葉原駅等に「コミュニケーション支援ボード」を配布し、聞こえない人と円滑にコミュニケーションができるよう配慮をお願いしました。

4 「障害者差別解消法」の先にある「情報アクセシビリティ」あふれる社会への期待

2016年4月には「障害者差別解消法」の施行が予定されています。「合理的配慮」と「基礎的環境の整備」を謳った同法の施行に先立って、現在、各省庁から対応要領・対応指針が出されていますが、社会への普及啓発や行政・民間企業共に現場への周知が進んでいない状況です。法の理念を広めるためにも、障害当事者がこれからも自らのアクセシビリティの向上について声を上げていかなければならないと感じています。

聞こえない人の読む権利、書く権利、話す権利、聞く権利、そして見る権利を保障する「情報保障」は、これまで福祉分野に閉じ込められがちでしたが、本来、これらは福祉分野にとどまらず、社会生活全般に行使されるべきです。

「情報アクセシビリティ・フォーラム2015」では、社会のさまざまな場面で、その人に適切な「情報アクセシビリティ」とその確保の重要性が示されました。

障害者を取り巻くさまざまな法律を実効あるものとし、私たちの実際の生活を変えていく一助になるよう、行政・立法・司法をはじめとする関係各所、そして市民の理解を得ながら、連盟はこれからも「情報・コミュニケーション法」や「手話言語法」の制定に向けて取り組んでいきたいと考えています。

(ひょうどうたけし 一般財団法人 全日本ろうあ連盟情報アクセシビリティ・フォーラム2015準備室)