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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

政府報告とパラレルレポート
―権利条約第26条及び第27条を中心に―

松井亮輔

障害者権利条約(以下、権利条約)の各論は多岐にわたるが、ここでは第26条ハビリテーション(適応のための技術の習得)及びリハビリテーション(以下、リハ)、及び第27条労働及び雇用を中心に取り上げる。

1 第26条リハビリテーション

リハは、「保健、雇用、教育及び社会に係るサービスの分野」(第26条1)にわたるが、そのうち雇用分野に関わる職業リハについては、この分野の国際基準となっている国際労働機関(ILO)の「職業リハビリテーション及び雇用(障害者)に関する条約(159号条約、1983年)」(第7条)によれば、「職業指導、職業訓練、職業紹介及び雇用に関するサービス」から構成される。そして、雇用に関するサービスには、「一般雇用に就くことが可能でない障害者のための各種の保護雇用注」(「同勧告(168号勧告、1983年)」)(10(b))も含まれる。

[(注)わが国の福祉的就労(就労移行支援及び就労継続支援など)もその一種といえる。]

同条にかかる政府報告では、職業リハは、障害者雇用促進法に基づいてハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等で実施されるもの等に限定されている。なお、同法に基づくハローワークでの職業紹介等の職業リハサービスについては、第27条労働及び雇用にかかる政府報告でも言及されている。

職業リハの重要な部分を占める職業訓練については、政府報告では、第24条教育で、職業能力開発促進法に基づき障害者職業能力開発校等が設置されていることが、言及されている。

一方、職業リハのうち、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスとして実施される、就労移行支援及び就労継続支援については、政府報告では、第26条「相当な生活水準及び社会的な保障」で触れられている。

このように職業リハについて、政府報告では、第26条だけでなく、第24条、第27条及び第28条にも記載されているのは、それぞれの根拠となる法律、所管する政府機関及び財源が異なることによる。

ILO「職業リハビリテーション(障害者)に関する勧告(99号勧告、1955年)」(22(2))により職業リハサービスは無料提供とされていることを受け、労働行政が所管する障害者雇用促進法及び職業能力開発促進法等に基づくものは、無料ないしは手当が支給されるのに対し、福祉行政が所管する、障害者総合支援法に基づくものについては、原則として利用料の定率負担が求められる、といった一貫性にかける対応となっている。

パラレルレポートでは、政府報告で言及されていない、こうした問題を提起し、その改善措置を講じるよう求めることも重要であろう。

2 第27条労働及び雇用

本条に関する政府報告では、障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率制度により、民間企業における障害者雇用数が年々増え、「障害者雇用は着実に進展している」とされるが、雇用率制度の対象とはならない、常用労働者数50人未満の企業も含め、民間企業全体として同様のことが言えるのかといったことや、労働者全体と比べかなり低い障害者の就業率に改善が見られるのかについては、明らかにされていない。

こうした量としての障害者雇用の問題に加え、その雇用の質に関わる賃金についても、障害のある労働者、特に知的障害及び精神障害がある労働者のそれは、労働者全体と比べかなり低いことが、厚生労働省が5年ごとに実施している障害者雇用実態調査結果等でも示されているにもかかわらず、政府報告ではその背景にある原因も含め、言及されていない。

また、今回の政府報告では、権利条約の国内実施の一環として2016年4月施行の、改正障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止及び合理的配慮提供の義務化に向けての具体的な取り組みについて記載されていないのは、次回の政府報告で、その取り組みの有効性を検証する上でも問題であろう。

一方、福祉的就労については、政府報告では、第27条ではなく、第28条で障害福祉サービスの一種として言及されている。しかもその関連データとしてあげられているのは、一般(雇用)へ移行した者の人数だけで、就労継続支援については、労働法適用のA型事業、労働法非適用のB型事業の利用者とも平均賃金(工賃)は、民間事業所で雇用されている障害者のそれと比べてはるかに低く、特にB型事業利用者の場合、障害基礎年金と合わせてもその収入では、生計を賄うことはできない、といった実態については触れられていない。第28条では、そうした障害者の生活実態を踏まえた所得保障のあり方が課題として取り上げられてしかるべきであろう。

3 政府報告の課題とパラレルレポートに期待されること

以上から明らかなように、政府報告では、関連法に基づき、各政府機関によって実施されている施策・措置の現状の説明にほぼ終始しており、政府全体としての総合的な視点からの実態や課題の把握、そうした実態や課題を改善するための、施策(措置)の有効性についての検証は、行われていない。

したがって、パラレルレポートでは、政府報告では言及されていない、障害者が他の者と平等に、社会経済活動をはじめ、さまざまな活動に参加できるようにする上での課題とその要因、その要因を取り除き、課題を解決するために必要とされる対応策について、実態や具体的な事例等を踏まえて明らかにすることが求められよう。

(まついりょうすけ 日本障害者リハビリテーション協会副会長)