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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年6月号

列島縦断ネットワーキング【京都】

「誰もが住み慣れた地域で、いきいきと自分らしく暮らし続けることができる街づくり」をめざして
~NPO法人てくてくの取り組み

尾瀬順次

1 はじめに

乙訓(おとくに)地域(向日市、長岡京市、大山崎町)は京都府の南西部に位置する、西山や田園風景が広がる緑豊かな地域です。京都・大阪のベッドタウンで、2市1町合わせて人口は約15万人です。

NPO法人てくてく(以下「てくてく」)は、2002年の法人設立以来、乙訓地域及び近接する京都市西域で暮らすメンバーの皆さんと一緒に活動してきました。

2 「てくてく」の原点

「てくてく」の原点は、1991年に開設された「重症心身障害者通所施設どんぐりの家」にあります。当時、養護(現支援)学校に通っていた重症児にとって、卒業後の生活は入所か在宅かの選択肢しかなかった状況の中、家族が中心になって自宅で生活をしながら日中通って活動できる場を作ることを目指し、地域のさまざまな方々の協力を得ながらスタートしました。さらに日中活動だけに留(とど)まらず、ここを拠点として、生活に必要な支援を展開してきました。

一方、大阪などで取り組まれていた障害のある人たちの外出を支援するガイドヘルプの実践に学び、知的障害のある人たちの家族が中心となった自主的な取り組みとして、「ガイドヘルパー派遣てくてく」が1997年に始まりました。

「どんぐりの家」は、2000年に社会福祉法人による通所施設が整備されたことでその役割を終え、また「ガイドヘルパー派遣てくてく」も市の事業として実施されることとなり(後に法による事業に移行)活動を終了しました。どちらの取り組みも、現在の「障害者総合支援法」の制度ができるずっと前から行われていました。この時の「卒業後、集う場がほしい」「お休みの日にお出かけをしたい」という希望に対して、「制度がないからできない」ではなく「できるように自分たちでつくっていこう」という思いを持った人たちで、文字通り「手探り」「手作り」でやってきた経験が、今の「てくてく」にも根付いています。

3 「てくてく」設立の経緯

このように通所の場や余暇(外出)の支援が少しずつ確保されてきた状況の中で、次に考えていかなければならなかったのが「生活の場」でした。特に「どんぐりの家」に通所されていた「障害が重い」と言われる人たちが、生まれ育った街で暮らし続けていけるよう、また一人の大人として、たくさんの人との関わりを持ちながら自立した生活にチャレンジしていける場を作っていきたい、という願いが家族の中から出てきました。

具体的には「暮らしの基盤となる場」のグループホームづくりを目指して、ホームでの生活を希望する「どんぐりの家」の通所者3人と「ガイドヘルパー派遣てくてく」の利用者1人の計4人の生活づくりを具体的に考えることから取り組みがスタートしました。

障害の状況も違えば、もちろん性格や個性も異なる4人の関係作りのために、一緒に外出したり、ホームに使う予定の家を借りてお試しのお泊まり会をしたり…というところから始めて、徐々に「一緒に過ごす」イメージをつくっていきました。並行して、ホームの設立運営のための準備を進め、2002年11月にNPO法人としての認可を受け、翌年の4月にグループホーム「あっとホームどんぐり」を開設しました。同時に、ホームのメンバーにヘルパー派遣を行う事業所「にこりん」を開設しました。

4 「てくてく」の活動

メンバー4人の暮らしの支援からスタートした「てくてく」ですが、その後2004年に「あっとホームジャンプ」、2005年に「あっとホームつばさ」「あっとホーム翔」、2011年に「あっとホームたんぽぽ城の里」と新たなホームを開設し、現在5軒のホームに21人のメンバーが生活しています。いずれも「初めにホームありき」ではなく、まずホームで暮らしたい人が集まり、その人たちが暮らしていくためにはどんなホームがよいか、ということを考えながら準備を進めていったことに、「てくてく」の特色があったと思っています。

また「にこりん」では、ホームへのヘルパー派遣に留(とど)まらず、「ガイドヘルパー派遣てくてく」からの流れも踏まえ、地域で暮らすメンバーの外出支援や自宅での生活支援も行なっており、現在の利用者数は約90人になっています。

年々メンバーも増え事業規模も大きくなっていく中で、法人の拠点も何度か移転を余儀なくされてきましたが、2013年には長岡京市一文橋に「てくてく『みんなの家』」を開設しました。そこに拠点を確保すると同時に、1階部分で短期入所「あっとハックいちもんばし」を開始、「たんぽぽ城の里」の空き室で行なっていた「あっとハックしろのさと」と併せて、地域でのニーズが高かった短期入所を実施しています。

これらの事業を通したメンバーの支援には、登録スタッフ(ヘルパー・ホーム世話人等)の方々のマンパワーが欠かせません。登録スタッフには学生から主婦の方、シニアの方まで老若男女、さまざまな方が関わってくださっており、常時90人前後の方が登録されています。

さらに昨年度から、相談支援事業所「ぱれっと」を立ち上げ、計画相談にも取り組み始めました。一方で制度による事業だけではなく、「メンバーの願いを実現する」活動として、ボランティアの協力も得ながら、「地域力活性隊『コロぼっくる』」と銘打った余暇活動を行なってきました。「みんなの交流会」でメンバーと話し合いながら、イベントでの取り組み(バンドでの発表など)やクラブ活動(サイクリング・マラソン・料理など)を年度ごとに計画を立てて実施してきました。ボランティアには近所の主婦の方から他事業所の職員さんまで、幅広い方が参加してくださり、メンバーも日頃通所している事業所の枠を超えた交流ができる場として、取り組んできました。

5 現状と課題

こうして多くの方に関わっていただいている「てくてく」ですが、法人としての事業規模が大きくなっていくことで課題も山積しています。「メンバー一人ひとりの願いを大切にした支援を」という当初の思いに変わりはありませんが、増え続けるニーズに対して、十分に対応することが困難な現状があります。とりわけマンパワー不足の問題は深刻で、さらに、支援者の年齢層が徐々に高くなってくる中で新たな支援者確保と育成は急務です。さらには登録スタッフの確保など、働く人の労働条件の整備や支援者の資質向上のための研修などにも取り組んでいかなければなりません。

こうした中で「コロぼっくる」でのクラブ活動も、ボランティアの確保の困難さやコーディネートに当たる職員の業務負担の増大などから、今年度の活動を休止することになりました。残念なことですが、まずは足元をしっかり固める時期と捉えています。

現状は大変厳しいものがありますが、「てくてく」が大切にしてきたことはこれからも変わることはありません。困難な状況にある時こそ、何を目指していくのかを明確にする必要があると考え、昨年度「『てくてく』が『めざすもの』(理念)」と「『てくてく』として『大切にしていきたいこと』(基本方針)」を明文化しました。「誰もが住み慣れた地域で、いきいきと自分らしく暮らし続けることができる街づくり」という「めざすもの」の実現に向かって、てくてくと一歩ずつ、じっくり歩んでいきたいと思っています。

(おせじゅんじ NPO法人てくてく事業統括本部長)