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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年8月号

今後の障害児支援の在り方
―インクルーシヴな社会を目指して―

柏女霊峰

1 子ども家庭福祉、障害児支援の動向

2015年度から子ども・子育て支援制度が始まっている。本制度の淵源は、2000年の介護保険法施行ならびに社会福祉法の制定・施行、すなわち社会福祉基礎構造改革にさかのぼる。

これで、高齢者福祉(2000年)、障害者福祉(2005年)、子ども家庭福祉(2015年)の3分野それぞれに、狭義の公的福祉制度と、個人の尊厳ならびに利用者主権を重視する給付制度との併存システムが実現したことになる。

また、子ども・子育て支援制度は、いわゆる社会づくり政策としての福祉改革(包括的・一元的な体制づくり)と人づくり政策としての教育改革の結節による所産である。そして、その根底を支える理念は、いわゆるソーシャル・インクルージョン(social inclusion:社会的包摂)1)でなければならない。障害児支援もそのただなかにある。

2 障害児支援の理念

これらの体制づくりに呼応する障害児支援の理念としては、いわゆる障害者総合支援法第1条の2、子どもの権利条約、障害者の権利条約、障害者基本法、いわゆる障害者差別解消法などにみられる共生社会の実現とそのための地域生活支援、子どもの最善の利益、包容と参加、合理的配慮などがある。

子どもの権利条約は、子どもの最善の利益保障を最大の理念としつつも、子どもも主体的に自分の人生を精一杯生きようとしている存在であるという、権利行使の主体としての子ども観を鮮明に打ち出している。ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)は、本条約が定める権利を、生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利の4種に整理している。

さらに、わが国が2014年に締結した障害者の権利条約も、その第7条(障害のある児童)において子どもの権利条約の趣旨を引き継ぐとともに、意見を表明するために支援を提供される権利を有することを言明している。そのことは、障害者の権利条約第2条の合理的配慮や障害者基本法改正、障害者差別解消法の理念につながる。

さらに、障害者基本法第17条(療育)は、身近な場所における療育ならびに家族・きょうだい支援などが講じられるべきことを規定している。発達支援の視点といってよい。このように、障害児支援の理念は、地域生活支援や権利擁護を主眼とする地域社会への包容・参加(インクルージョン)2)である。

3 障害児童福祉の課題

障害児支援制度は、近年、成人との整合化が重視された改革により、子ども一般施策との融合が求められつつも、狭義の子ども家庭福祉との乖離が続いている。2012年度からの改正児童福祉法施行により、子ども・子育て支援制度創設に一歩先んじる形で、障害児支援サービスの改革が始まっている。

また、子ども一般施策においては、2015年度から子ども・子育て支援制度が創設された。そのなかでは、障害児支援の充実や障害児童に固有のサービスも創設されている。サービス利用の調整を担う利用者支援事業も創設されている。

今後、障害児支援制度と子ども・子育て支援制度との整合性の確保、均衡ある発展や、障害児相談支援事業と利用者支援事業とのワンストップを目指した緊密な連携、両事業の専門職である(障害児)相談支援専門員と利用者支援専門員3)との連携強化が求められる。障害児の発達や保護者の気持ちを理解できる相談支援専門員の養成も急務である。また、子ども・子育て支援制度の給付における障害児の利用を支援するため、障害児固有のサービス機関が特定教育・保育施設や地域型保育事業等をバックアップできる体制の整備が求められる。

4 2016年障害者総合支援法改正に伴う児童福祉法改正

2016年に成立した改正障害者総合支援法に伴う改正児童福祉法では、1.乳児院や児童養護施設等に入所している障害児や重度の障害等のために外出が困難な障害児に発達支援を提供できる体制の整備、2.医療的ケア児4)に必要な支援を提供するために障害児支援制度に明確に位置づけること、3.放課後等デイサービス等の障害児通所支援、障害児入所支援の質の向上と支援内容の適正化を図ること、4.障害児支援に関するサービスを計画的に確保するための規定を設けること、などが法定化された。施行は、2018年度からである。

1については、前者は、保育所等訪問支援事業の対象児童の拡充として制度化されるが、被虐待児童の多い措置施設における支援であるだけに、制度設計の在り方や実践の積み重ねが重要である。また、後者については「居宅訪問型児童発達支援」として法定化、制度化されるが、児童発達支援センター(医療型、福祉型)等の事業として、整備されていくことが必要とされる。2については、法定内容は抽象的な支援体制整備にとどまっており、今後、モデル事業等を通して具体化を図っていくことが必要とされる。3については、4で策定される障害児福祉計画の量を上回った事業者指定をしない権限を知事に与えるものである。障害児に固有のサービスが必要以上に整備されることが、質の低下や障害児童の抱え込みを招かないための仕組みであり、評価できる。4については、現在、努力義務とされている障害児福祉計画の策定を法定化したうえで義務化するものであり、事業の計画的な整備を進めるものである。いずれも、重要な制度改正であるということができる。

なお、同時期には、子ども虐待防止や社会的養護に関する大きな改正児童福祉法が成立している(施行は一部を除いて2017年4月)。ここでは、児童福祉法第3条の2で、家庭で養育できない児童に関する家庭養護優先の原則5)が法定化されている。おりしも、本稿執筆現在、障害児入所施設における被虐待児童の実態も公表された。この家庭養護優先の原則は、当然のことながら障害児童にも適用されるものであり、今後、この原則に沿い、障害児支援分野においても、里親・ファミリーホーム養護の推進、障害児入所施設の小規模化、地域化、職員配置基準の向上ならびに心理職等新たな専門職の配置が進んでいくことを期待したい。

5 今後の障害児支援施策の在り方

これからの障害児支援の基本は、子どもたちに当たり前の生活を保障することにある。そのためには、地域生活支援が最も必要とされる。地域の身近なところで一般児童とともに生活を営むことができ、また、必要に応じた専門的療育支援が受けられるような社会にしていかなければならない。また、家庭環境を奪われた子どもたちには、代替的環境としてまず家庭養護を提供し、それが困難な場合にはそれに近い環境が用意されなければならない。こうした点を踏まえると、今後の障害児支援施策は、以下の4つの次元で充実されなければならない。

1.子ども・子育て支援制度における障害児支援の充実(合理的配慮を含む)

2.子ども・子育て支援制度から障害児固有の支援サービスへのつなぎの充実

3.子ども・子育て支援制度の各施策に対する障害児支援施策による後方支援の充実

4.障害児に固有の支援施策の充実

2014年7月に公表された障害児支援の在り方に関する検討会報告書では、障害児支援の役割を、あえて「後方支援」という用語に凝縮させている。このことは、障害児支援は、福祉施策としてどのような社会をつくることを目指そうとするのかという「社会観」についての投げかけを行うものでもある。私たちは、障害児支援によってどのような社会を目指そうとするのか、それを踏まえた論議がなされ、施策が推進されていくことが必要とされる。こうした点を踏まえて、あえて、障害児支援固有のサービスは、子どもに普遍的なサービス体系である子ども・子育て支援制度を後方支援できるようにしていくことが必要と提言したのである。障害児童の地域生活支援をバックアップできる障害児支援の在り方が問われている。

6 おわりに―包括的で一元的な体制づくりを目指して

そのためには、障害児支援施策における専門的な支援の充実を図る必要がある。そのうえで、これを支える基礎構造の充実が必要である。特に、都道府県と市町村の二元化行政を解消し、インクルーシヴな実施体制を実現すること、人材の確保・養成、財政支援の充実の3点が重要である。特に、市町村を中心として国、都道府県が重層的に支援する包括的・一元的行政実施体制を確立し、子ども分野においても地域包括ケアが実施しやすい体制づくりを進めることが必要とされる。

また、人材育成に関しては、障害児支援の専門性(発達の理解や障害の理解、療育スキルなど)、家族支援の専門性、機関連携、他職種連携の専門性、社会(地域)づくりの専門性など、ミクロ、メゾ、マクロレベルにわたる幅広い専門性が必要とされる。さらに、財源については、子ども・子育て支援制度と障害児支援制度との一元化が望まれる。「後方支援」のための環境整備が必要とされている。

障害児支援サービスの充実によって目指されるべき社会は、社会的排除のない世界、ソーシャル・インクルージョンを目指す共生社会と考える必要がある。そのことが、いわゆる障害者総合支援法第1条の2で示される「すべての国民が、…相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現する」一里塚となるのである。

(かしわめれいほう 淑徳大学総合福祉学部教授)


【文献】

・柏女霊峰(2015)『子ども家庭福祉論[第4版]』誠信書房

・柏女霊峰(2015)『子ども・子育て支援制度を読み解く―その全体像と今後の課題』誠信書房

・柏女霊峰(2016)「―障がい児支援―地域の縦横連携で人生に当たり前の暮らしを」『公明』122号 公明党機関誌委員会

・柏女霊峰(2016)「子ども・子育て支援制度の創設と障害児支援の今後の在り方―インクルーシヴな社会をめざして」『小児の精神と神経』第55巻第4号 日本小児精神神経学会


【脚注】

1)介護保険法が施行された2000年には、いわゆるソーシャル・インクルージョン(social inclusion:社会的包摂)を目指すという政府の報告書「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」が公表されている。

2)地域社会への包容・参加とは、地域社会において、すべての人が孤立したり排除されたりしないよう援護し、社会の構成員として包み支え合うことである。障害者の権利条約第19条は、「この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加すること(full inclusion and participation in the community)を容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。」としている。

3)子ども・子育て支援法に位置づけられた利用者支援事業において、地域の子育て支援サービスを円滑に利用できるよう支援する専門職であり、保育士、保健師などの一定の資格を有する者や子育て支援経験者が子育て支援員研修(地域子育て支援コース・利用者支援事業基本型・特定型)を受講・修了することによって利用者支援専門員となることができる。

4)障害児支援の幅を広げるために障害者部会報告書において初めて規定された対象概念であり、「NICU等に長期間入院した後、人工呼吸器等を使用し、たんの吸引などの医療的ケアが必要な障害児」と定義されている。報告書では、これらの児童や家族の負担軽減を図るための方策等を取るべきことを提言している。

5)児童福祉法第3条の2第1項は、「国及び地方公共団体は、児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう、児童の保護者を支援しなければならない。ただし、児童及びその保護者の心身の状況、これらの者の置かれている環境その他の状況を勘案し、児童を家庭において養育することが困難であり又は適当でない場合にあつては児童が家庭における養育環境と同様の養育環境において継続的に養育されるよう、児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合にあつては児童ができる限り良好な家庭的環境において養育されるよう、必要な措置を講じなければならない。」と規定している。