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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年8月号

世田谷区における障害児等保育についての検討と今後の取り組み

世田谷区子ども・若者部保育課

1 検討に至った経緯

平成27年4月からスタートした、子ども・子育て支援法に基づく子ども・子育て支援新制度の基本指針の中で「子どもの最善の利益」が実現される社会を目指すとの考え方を基本とし、障害、疾病、虐待、貧困など社会的な支援の必要性が高い子どもやその家族を含め、すべての子どもや子育て家庭を対象とし、一人ひとりの子どもの健やかな育ちを等しく保障することを目指すことが示された。また、障害児支援の取り組みとして、新たに居宅訪問型保育が地域型保育事業に位置づけられ、利用者支援事業でも、障害児を療育する家庭からの相談等について、区市町村の所管部局や障害児相談支援事業所等と連携しながら適切な対応を図ることも示された。

平成27年3月に、区が策定した「世田谷区子ども計画(第2期)」において、日常を過ごす場や地域で安心して過ごせる支援の充実を目指しており、障害のある子どもが過ごす場所での合理的配慮の提供と基礎的環境の整備に向けた取り組みを進めるとともに、安心して過ごすことができる療育や日中活動の場の確保に取り組むこととした。また、平成27年3月に策定した「せたがやノーマライゼーションプラン」において、障害のある子どもの保育の充実に加えて、障害児通所支援の拡充等により配慮が必要な子どもへの療育や日中活動の場の確保を図ることや、配慮が必要な子どもが、保育園等に安心して通うことができるよう、子どもに関わる支援者の理解の促進や対応スキルの向上に取り組むことを定めた。

平成27年6月、区では、障害児等保育検討委員会を設置し、保育園における障害のある子どもへの保育の在り方や、障害や疾病等により医療的なケア等の配慮が必要な子どもへの保育の在り方についての検討を行なった。

2 世田谷区における障害児保育の現状と課題

世田谷区の就学前人口(0~5歳)は、平成27年は43,365人となっており、平成21年からは毎年1000人近く増加を続けている。また、女性の就労率の上昇もあり、保育需要は全国の自治体でみられる状況を凌ぐ勢いで増加しており、平成28年4月1日時点の保育待機児童数は1,198人(平成27年4月1日時点1,182人)となり、待機児童解消は、喫緊の課題となっている。

区の認可保育園では、ノーマライゼーションの理念に基づき、障害のある子ども一人ひとりの状況に応じた支援が行えるよう、嘱託医師や総合福祉センター、発達障害相談・療育センターと連携し、職員の知識と技術の習得に努め、保護者の協力の下、集団の中で保育を実施している。平成26年度は、区立保育園は49園、私立保育園は40園で配慮が必要な子どもの保育を実施しているが、保育待機児童への対策として定員を最大限受け入れていることから、医療的ケアが必要な子どもの預かりについては、安全に長時間預かるためのスペースや保育士・看護師等の人員に余裕がないことから、できていない現状にある。また、区内には、国立成育医療研究センターや特別支援学校等があり、重度の障害のある子どもや医療的ケアが必要な子どもが多く居住しており、在宅生活を送るための社会資源の整備が求められているが、平成27年10月現在、看護師を配置した上で児童発達支援事業を行う重症心身障害児施設は、区内に2か所しかなく、不足している現状にある。

世田谷区における年齢別就学前児童数の推移
グラフ 世田谷区における年齢別就学前児童数の推移拡大図・テキスト

検討委員会では、1.医療的ケアを適切に行うための場所や専任看護師の配置等の体制整備、2.療育や医療的な視点での助言を保育現場が受けられる体制づくり、3.より専門性の高い職員向け研修や個々の障害に応じた技術支援の実施、4.障害のある子どもが利用しやすい基礎的環境の整備、が保育園で受け入れる上での課題として挙げられた。

また、地域生活を送る上での課題として、1.社会的な自立や発達を促すための療育や日中活動の場の拡充、2.ライフステージに応じて障害のある子どもやその家族に寄り添い、支援するための相談支援の充実、3.医療と連携した支援が乳幼児期から受けられる支援の仕組みづくり、が挙げられた。

3 今後の方向性と具体的な取り組み

検討委員会での議論の結果、今後は、これまで保育園で預かりができていない子どもについて、保育園や居宅訪問型保育等の子育て支援での保育を実施するとともに、医療や障害児通所施設等と綿密に連携を取りながら、障害のある子ども一人ひとりの状況やニーズに対応するための体制整備を目指すとした。

この方向性に基づき、区では、平成28年度以降、以下の取り組みを実施する予定である。

(1)居宅訪問型保育と児童発達支援事業の連携による保育の実施

居宅訪問型保育は、障害や疾病等により、集団保育が著しく困難であると認められる子どもに対し、乳幼児の居宅において、保育者が1対1で保育を行う事業である。居宅訪問型保育の保育者や事業者には、保育に関する知識や支援力に加え、障害や医療的ケアに関する専門的な知識や支援力が求められるため、人材の育成や日常的な支援についても、児童発達支援事業等の施設と連携することが必要であり、施設や事業者の確保とその連携体制の整備が不可欠である。そのために、区では、児童発達支援事業等を実施する施設を居宅訪問型保育における連携施設とした上で、平成28年度から平成32年度までに、重症心身障害児施設を2施設、整備する計画である。

平成28年度については、平成29年1月に、区の子ども・子育て総合センター内に、重症心身障害児児童発達支援事業(居宅訪問型保育連携型)施設を開設する予定である。

この施設では、主に保護者の就労等の理由により保育を必要とし、かつ重度の障害や疾病等により保育園での集団保育が難しいと判断される子どもを対象に、居宅訪問型保育と連携しながら、児童発達支援による療育を実施する予定である。

(2)保育園での医療的ケアの実施

平成30年度以降、順次、保育待機児童への緊急対策としての受入拡大枠を見直し、医療的ケア等を適切に実施するための人員体制や環境を整えた上で、区内各5地域に指定保育園を各1か所整備し、集団保育が可能と判断される場合において、医療的ケアを実施する予定である。

これまでも、保育園では、子どものさまざまな育ちの場面を捉え、個々の障害や発達に応じた支援や配慮を行なってきた。今後、医療的ケアが必要な子どもを保育するには、職員の障害や疾病への理解や支援技術をより一層高めることが必要となるため、災害時や緊急時を含めた対応マニュアルの作成や医療的ケアに関する研修を実施していく。また、療育機関や医療機関等からのサポートを必要とするケースが増えることが想定されるため、保育所等訪問支援の活用等により、保育園を専門機関がバックアップする体制を整備する予定である。

保育園・居宅訪問型保育と児童発達支援の連携
図 保育園・居宅訪問型保育と児童発達支援の連携拡大図・テキスト

4 おわりに

今回の障害児保育の在り方については、障害児支援、子育て支援のそれぞれの制度の枠に捉われず、障害児施策を担当する部署と子ども施策を担当する部署とが共同で検討し、まとめたものである。平成26年7月に、障害児支援の在り方に関する検討会がまとめた報告書においても、障害児施策や子育て支援の関係部局間の連携をさらに一層推進することが極めて重要とされており、引き続き、担当部署間で緊密な連携を図りながら、障害のある子どもの地域生活を支えるために必要な支援に取り組んでいきたい。