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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年12月号

製品のユニバーサルデザイン

星川安之

身近にあるユニバーサルデザイン

ユニバーサルデザイン、アクセシブルデザイン、デザインフォーオール、共用品と、さまざまな言葉で呼ばれている「より多くの人が使える製品」は、すでに私たちの生活の中に多く入ってきている。

風呂場にあるシャンプー容器の多くには、側面と上部にギザギザが付き、目の不自由な人や髪を洗う時に目をつぶる多くの人が、リンス容器と識別ができるようになっている。

また、昨年からボディソープ容器の側面と上部に凸状になった線が付き、他の容器と触って分かる製品が増え始めている。【図(イラスト)1】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図(イラスト)1はウェブには掲載しておりません。

食卓に並ぶものでも、同じように触って識別できる工夫のあるものが数多くある。

牛乳の紙パックの上部、開け口と逆側には半円の刻みがありジュースなど他の容器と触って識別できる。また、缶アルコールの上部、ジャム瓶、ソースやケチャップ容器の側面には、点字でそれぞれの「おさけ」「じゃむ」「そーす」「ケチャップ」と付いている。

台所では、家庭用のラップのパッケージ側面にラップ(WRAP)の頭文字である「W」が、浮き出た文字で表示され、近くにあるアルミホイールのパッケージと、蓋をあける前に触って区別できるようになっている。

家電製品にも障害の有無、年齢の高低にかかわらず多くの人たちに使いやすい工夫がある。電子レンジや洗濯機などが、開始、終了などを知らせる「音」の高さは、2500ヘルツ以下になっているものが多い。以前は5000ヘルツほどの高い音が出ていたが、高齢の人たちが加齢による身体的変化により、高い音が聞き取りにくいことが調査により分かったためである。

シートスイッチといって、凹凸がわずかなON-OFFスイッチでは、ON側に凸点が付き、OFFと触って区別できるようになっている家電製品が多くある。ON-OFFスイッチ以外のスイッチには点字表示が付いている家電も増えている。各種リモコンにもさまざまな工夫がある。テン(10)キーの5番のボタンには、凸点が付き、目の不自由な人や、暗いところで使用する場合には、5番を基点に他のボタンも位置関係で把握することができる。

地デジテレビ用のリモコンには、字幕や音声ガイドを表示させるためのボタンが付いている。字幕や音声ガイドの付いた番組も増え、目や耳の不自由な人が理解でき、楽しめる番組も増えている。最近では、字幕が付いたテレビコマーシャルも増えている。

2人で遊ぶオセロゲームは、一つの石の表裏が黒と白、どちらかを自分の色と決め、自分の色で相手の石をはさむと相手の石を裏返し、自分の色にでき、最後は自分の色が相手の色より一つでも多かったら勝ちという盤ゲームである。発売当初、石の黒と白の手触りは同じだったため、目の不自由な人が遊ぶことは困難であった。そのことに気付いたメーカーは、黒面に同心円の凸線を付け、触って白黒を判別できるようにし、目の不自由な人も共に遊べるようになった。さらにメーカーは、オセロの石をつまめない人がいることに気づき、盤から石がはずれないようにし、各石の隅を指一本で押すと、白から黒へと、石が回転して変わる工夫を行うとともに、黒の石には同心円の凸線を継続して付けることにより、より多くの人たちが遊べるように進化を遂げている。【図(写真)2】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図(写真)2はウェブには掲載しておりません。

最初は、福祉用具だったモノ

今まで紹介したのは、もともとあった製品に、不便さを感じている人の声を反映させ、より多くの人が使える製品になったものである。

次に紹介するのは、初めは障害のある人のために開発されていたものが、障害のない人に広がったものである。その代表的なものは、温水洗浄便座と電動歯ブラシである。

温水洗浄便座と電動歯ブラシはともに、アメリカで障害のある人のために開発された。温水洗浄便座は、肢体不自由の人のための医療機器として開発され、主に施設で使用されていたところ、日本の大手衛生機器メーカーが輸入し、はじめは同じく障害者関連の施設での販売のみであったところ、「お尻だって洗ってほしい」というテレビCMで、購入層が拡がり今では、元が医療機器であったことを知っている人の方が珍しい状況になっている。

不便さ調査

これまで紹介してきた、より多くの人が使える製品の日本での市場規模は3兆円ほどになっており、今回紹介したモノはその中のごく一部である。他にも車椅子や杖使用者が乗降しやすい乗降時に段のないノンステップバス、お金の投入口やボタン、そして取り出し口が車椅子使用者でもアクセス可能な高さにある自動販売機、操作ボタンに点字表示が付き、また操作ボタンの位置が低く、車椅子使用者が一人で乗っても操作できるエレベーターなど、公共施設で使用するものまで幅広い。

これらの製品が日本で本格的に普及してきたのは、2000年あたりからである。普及するきっかけの一つが、障害のある人たちとともに、それぞれ障害別に300人以上に行なった「日常生活における不便さ調査」である。

最初に行なった目の不自由な人たちへの調査では、「平面に書かれている文字や絵が分からない」、「自由に移動することが困難」が不便さの代表的な二つであった。

共用品推進機構が行なったこの調査の報告書を多くの関係機関に配布したところ、それらの不便さを解決する製品が開発、販売されるようになった。

体重計の表示部分にはカバーがかかっており、針やメモリを触ることができない。そのために音声体重計が開発された。最初は、イヤホンがなかったため、「自分の体重を他人に聞かれたくない」のニーズに応えるため、メーカーは、他人に聞かれないようにイヤホンを付けるなどの改良版を作ったということもあった。

耳の不自由な人たちへの調査では、部屋、店、駅、病院、レストラン、などのシーン別のイラストを描き、そこに該当する製品を描き、その製品が発する音を、漫画の吹き出しのように描き質問用紙とした。質問は、これらの製品から出ている音や音声を知っていましたか?とともに、それぞれの製品から出ている音・音声に加えて、光や振動を付けた方がいいものはありますか?であった。アンケートでは多くの不便さやニーズが明らかになり、これまた報告書として発行したところ多くの企業が、その不便さを解決した製品の開発、販売に至ったのである。

まとめ

今回ご紹介した製品には、日本から国際標準化機構(ISO)に提案し制定したガイドを元に作られた日本工業規格(JIS)を参照している製品が多い。

参照されている高齢者・障害者配慮分野のJISは現在36種類制定され、大きくは表示と操作性に関するJISに分かれている。表示に関するJISは、色の組み合わせ、字の大きさといった目でみる表示以外にも、音や音声など耳で聞く表示、さらには触って分かる点字や触知記号に関するものもある。さらにアクセシブルミーティングというJISでは、会議に障害のある人も参加できる工夫が掲載されている。

今後はさらに、利用者、開発者の共同作業をシステム化することで、当該分野の製品はより高度化していくことが可能と思われる。

(ほしかわやすゆき 公益財団法人共用品推進機構専務理事)