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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年1月号

列島縦断ネットワーキング【徳島】

はじめまして。niyary.(ニヤリィ)といいます。

矢西正人

はじめに

ニヤリィは、徳島県板野郡上板町の田園に囲まれたところにあります。散歩に出かけると、農家の方があたたかい声をかけてくれたり、みんなの名前まで覚えてくれていたり、野菜や果物のお裾分けをいただけたり。そんなあたたかくてのどかな地域の中にある障害福祉サービス(生活介護)事業所です。

ニヤリィでは障害種別の特定はしておらず、知的・身体・精神・発達障害のある人が1日12~15人通所しています。ここでは、通所者を共に日々を過ごす仲間としてみんなを「メンバー」と呼んでいます。メンバーもスタッフも、ましてや障害者と言われる人たちや健常者と言われる人たちも、ただの「ひと」にはかわりないこと。そんなことを考えながら、ここでの日常をみんなでのんびり過ごしています。

設立した経緯

きっかけは、以前訪問させていただいた県外の福祉施設でした。「アートに特化した施設」「施設から地域移行へを目指す施設」。自分の知っている福祉施設とは全く違った印象を受けました。今でも、その時の感動やあたたかさはひと時も忘れません。その後もたくさんの施設や事業所に見学をお願いし、(時には唐突に)訪問させていただきました。そうした中、素晴らしい施設や事業所の方々との出会いもあり、いつしか自分でも「自由で人間味あふれる福祉事業所をつくりたい」と思うようになりました。

まず初めは、有志を募り、小さなボランティア団体を設立。知り合いの元縫製工場の事務所を借りて、芸術や音楽のイベントやワークショップ等いろいろなことをしました。そして、さまざまな出会いやニーズもあり事業所設立が具体化しました。

事業所の場所を探すにあたりイメージしていたのが「畑のある古民家」。それは、通所してくれるみんなや来てくれる人をアットホームな雰囲気で迎えたいと思うところからでした。1年後、人との繋(つな)がりや出会いにより、イメージ通りの古民家が見つかりました。その古民家は、4年ほど空き家になっていたため廃虚寸前になっていましたが、大工さん等による工事(耐震補強やバリアフリー等)や、みんなでの自主改修工事(土壁作りやタイル貼り等)を経て、平成27年4月にニヤリィを開設することができました。

日常としてあること

ニヤリィにはプログラムがありません。メンバーがその日その時、自分のやりたいことをしてもらうことを基本コンセプトとしています。しかし、活動の『箱』は用意しており、まず一つめは『アート』。指導等は行わないことを前提に、自由な絵画や創作等ができるようさまざまな種類の画材や道具等を揃え、表現すること自体を楽しんでもらうようにしています。「気が向いたら制作する」という人が多いですが、毎日10数枚描く人もいれば、1年で1枚の絵を描く人もいます。二つめが『無農薬にて野菜や果物を育てる畑』。「暑い、寒い、汚れる」と言い、参加するメンバーは少ないのが困った現状ではありますが、のんびり(スタッフは必死で)やっています。そして三つめが、そこで採れた野菜や果物を使ったスイーツを提供する『niya.cafe』。外部からは見えにくく、閉鎖的に感じられることが多い福祉施設での事業所開放の目的や、それに伴い、それぞれの社会を広げる広義な目的も兼ねて、毎週水曜日と土曜日にカフェをオープンしています。

またその他メンバーのニーズがあれば、その都度いろんな『箱』を増やしていくことにしています。身体を動かすことが好きな人がいれば、思いっきり運動できるような環境を作り、またお笑いがしたい人がいれば一緒に漫才をする。将棋がしたい人がいればスタッフも本気になって勝負する。そうした中、メンバーは自分のやりたいことを選んで、ニヤリィでの普通の日常を過ごす。別にアートをしなくてもいい。別に畑が嫌ならしなくてもいい。とにかく、福祉というカテゴリーや既成概念のカタチでしめつけないこと。ひとつひとつの想いやいろんな自己表現を大切にしたいと考えています。

スタッフに求めること

よく言われます「誰が障害者か分からない」。これは自分たちにとって最高の褒め言葉です。スタッフもいつも私服で髭(ひげ)を生やしていたり下駄を履いていたり(これは自分)。その他にも、数々の福祉の資格や経験を持つ食品管理衛生士や刺繍作家(自称)、いつも数々のミラクルを起こしてくれるシステムエンジニア等など。福祉分野の経験がなかった者が半数を占めていますが、人として魅力のある「ひと」たちです。そして何より、障害者と言われる人たちを「ひと」として見ます。スタッフにはこれだけを求めます。メンバーとスタッフ間での「支援、介護、サービス、利用者」といった福祉の中でよく使われる言葉をできるだけ使わないこと。そして、社会の中で「ただ共に生きるという覚悟」を持つことを。

現状と課題、今後

ニヤリィのメンバーのうち、他の事業所と併用しながら通所している人や、施設入所しながらも日中に通所している人、また、いろいろな問題やそれぞれの諸事情により「他の施設から受け入れてもらえずニヤリィしかなかった」という経緯の人もいます。障害があるがゆえにかどうか分かりませんが、確かに、生活におけるさまざまな問題やいろいろな課題を抱えている人が多いのが現状です。そうしたニーズにどう応(こた)えていくか。これからどう進んでいくか。まだまだ大きな課題でもあり、楽しみでもあると思っています。

ニヤリィは開所して2年も経ちません。とりあえず、3年間は事業所としての地盤を作ることに重点を置いています。いつしかそれぞれの当たり前の日常が何らかのカタチで社会と繋がることができたなら、ここを設立した大きな社会的な意味ができてくるのかもしれないと思います。

「障害者だから守る」「障害者(福祉施設)だからこうしないといけない」等のいろいろな感情と思想が混沌する社会。障害者と言われる人もただの「ひと」。しかし、それぞれがただの「ひと」としていろいろなことを抱えながらも当たり前の日常を過ごすことができたなら…。あくまで社会の中の日常として、そして福祉というものを特別なことにしてしまわないように、些細(ささい)なことでも共に喜び、時にはいろいろなことに共に悩みもがきながら、みんなと共に当たり前の日常を共に過ごせることをこれからも願います。

(やにしまさと NPO法人らくえん 障害福祉サービス事業所niyary.理事長)