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特集/総合リハビリテーション研究大会'87研究発表論文

<成人>

身体障害者のリハビリテーションにおけるスポーツ活動の影響

中川一彦

1.はじめに

 一般に、1日の生活は、仕事の時間、睡眠の時間、そして自由な時間という3つの要素で構成されている。

 ところで、これらの要素のうち、個人の意志によって左右し得るものは、多くの場合、自由な時間、つまり個人生活ということになり、この時間の使い方によって、睡眠の時間も増減することになるであろう。

 例えば、脳卒中の後遺症者等では、自由な時間を上手に使うことが出来なくて、睡眠時間が増大し、1日の生活のリズムが乱れ、痴呆等と呼ばれるいわゆる惚け症状を呈することになるとも考えられている。

 それ故に、この自由な時間を有効に、上手に使うことが、精神と身体の平衡状態と考えられる健康に影響すると考えられるので、そのためにはどうしたら良いだろうということになってくるのである。

 健康保険組合連合会の調査によると、「健康づくりは意欲ばかり先行」ということで、大半の人は、睡眠や食事に気を使うだけで(それぞれ39.5%、39.0%)、実際に、健康づくりのために、スポーツ(身体活動)を実行している人は大変少なく、散歩や体操を実施している人は、わずか15.5%でした。そして、今後の健康づくりのために、運動やスポーツをしたいと考えている人が、41.2%あったと報告していた。

 そこで、ここでは、この自由な時間に行なわれるスポーツ活動が、身体障害者の健康維持に果たす役割についての研究の一端を紹介する。

2.研究方法

 本研究は、I県の身体障害者のためのリハビリテーションセンターにおけるリハビリテェィティブスポーツについて、郵送法で、アンケート調査を実施したものである。

 調査の実施期間は、昭和59年6月20日から同年8月6日であった。

 対象者は、I県のリハビリテーションセンターの最近12年間の退所者のうちから、住所等のわかっている204名を選び、対象とした。

 その結果、女25名、男83名、計108名(52.9%)から回答を得たので、これらを分析の対象とした。

 なお、アンケート調査は、①対象者の属性に関すること、②スポーツ活動に関すること、③スポーツ活動の影響に関すること、④生活状況に関することの4つの部分で構成した。

 そして、108名の分析対象者を、入所中、スポーツ訓練を受けた群52名(以下スポーツ訓練群と言う)とスポーツ訓練を受けなかった群56名(以下非スポーツ訓練群と言う)に分け、調査項目別に結果を求めた。

 さらに、回収した調査票をコーディングし、筑波大学学術情報処理センターの大型電子計算機(FAC、M―380)により、各調査項目についてクロス集計を行い、比較検討した。

 次に、スポーツ活動の影響をみるために、スポーツ経験を、A群:入所中、週1回のスポーツクラブのみに参加した者(40名、以下非スポーツ群と言う)、B群:入所中、前述スポーツクラブ、スポーツ訓練に参加した者(28名)、C群:入所中の前述スポーツクラブ、スポーツ訓練とかつ退所後のスポーツ活動にも参加した者(17名、以下スポーツ群と言う)の3群に分け、5段階評価を求めた、身体的、精神的、そして社会的変化に対する回答の平均得点を元に、3群を比較検討した。

3.結果と考察

 アンケート調査の結果から、以下のことが明らかになった。

 1.対象者の属性について

 スポーツ訓練群は、障害の発生原因を外傷とする35歳以下の若い人が多く、その生活の拠点は、家とする傾向が高かった。これに対し、非スポーツ訓練群は、障害の原因を疾病とする高年齢層で、その生活の拠点も、施設や病院とする者であった。しかしながら、障害の程度、障害の種類については、有意な差が認められなかった。そして障害や性別に関係なく、若く、スポーツの出来る人が、スポーツ訓練に参加している傾向にあることがうかがわれた。(表1)

表1 対象者の属性

対象群

項目

スポーツ訓練群 非スポーツ訓練群 2値並びにP

年 齢

35歳以下 34(65.4) 24(42.9)

58(53.7)

4.63
P<0.05
36歳以上 18(34.6) 32(57.1)

50(46.3)

52     56     108    
41(78.8) 42(75.0)

83(76.9)


N.S.
11(21.2) 14(25.0)

25(23.1)

52     56    

108    

障害の発生原因

外傷 22(44.9) 9(20.0)

31(33.0)

5.50
P<0.05
疾病 27(55.1) 36(80.0)

63(67.0)

49     45    

94    

障害の種類

中枢神経系疾患

27(51.9) 36(64.3)

63(58.3)


N.S.

その他

25(48.1) 20(35.7)

45(41.7)

52     56    

108    

障害の程度

重い 18(34.6) 21(37.5)

39(36.1)


N.S.
軽い 34(65.4) 35(62.5)

69(63.9)

52     56    

108    

生活の拠点

 38(74.5) 31(55.4)

69(64.5)

3.48
P<0.10
施設・病院 13(25.5) 25(44.6)

38(35.1)

51     56    

107    

( )内は%、N.S.:有意差なし

 2.退所後のスポーツ活動の要因について

 調査項目間のクロス集計、分散分析の結果、入所中、スポーツ訓練に参加していたかどうかが大きな意味を持ち、(F=9.2、P<0.01)、障害の程度を要因とした場合、年齢の若い方が、退所後のスポーツ活動に参加することが明らかになった。(F=2.8、P<0.10)

 しかしながら、生活の背景としての職業の有無、収入、性、結婚の状況、そしてスポーツ大会への参加などとは、有意な関係がみられなかった。(表2)

表2 退所後のスポーツ活動の要因

対象群

項目

参 加

不参加

値並びにP

年  齢 35歳以下

17(70.8)

41(48.8)

58(53.7)

2.81
P<0.10
36歳以上

7(29.2)

43(51.2)

50(46.3)

24    

84    

108    

20(83.3)

63(75.0)

83(76.9)


N.S.

4(16.7)

21(25.0)

25(23.1)

24    

84    

108    

障害の種類

中枢神経系疾患

12(50.0)

51(60.7)

63(58.3)


N.S.
その他

12(50.0)

33(39.3)

45(41.7)

24    

84    

108    

障害の程度

重い

11(45.8)

28(33.3)

39(36.1)


N.S.
軽い

13(54.2)

56(66.7)

69(63.9)

24    

84    

108    

スポーツ訓練への参加

19(79.2)

33(39.3)

52(48.1)


10.35
P<0.01

5(20.8)

51(60.7)

56(51.9)

24    

84    

108    

スポーツ大会への参加

16(66.7)

36(45.6)

52(50.5)


N.S.

8(33.3)

43(54.4)

51(49.5)

24    

79    

103    

職   業

12(50.0)

34(41.0)

46(43.0)


N.S.

12(50.0)

49(59.0)

61(57.0)

24    

83    

107    

収   入

8万円以上

11(91.7)

17(60.7)

28(70.0)


N.S.

8万円未満

1( 8.3)

11(39.3)

12(30.0)

12    

28    

40    

生活の拠点

18(75.0)

51(61.4)

69(64.5)


N.S.

施設・病院

6(25.0)

32(38.6)

38(35.5)

24    

83    

107    

結婚の状況

既婚

6(26.1)

23(31.1)

29(29.9)


N.S.

未婚

17(73.9)

51(68.9)

68(70.1)

23    

74    

97    

( )内は%、N.S.:有意差なし

 3.スポーツ活動の身体障害者の身体的、精神的、社会的側面に対する影響について

 1)身体的側面に及ぼす影響

 スポーツ訓練群と非スポーツ訓練群を比べると、スポーツ訓練群は、非スポーツ訓練群に比べ、スポーツが上手になる、寿命が長くなる、感覚が鋭敏になる、体調が良くなるの項目について、特に好影響があると回答していた。(図1)

〈図1〉リハビリテーションセンター入所中のスポーツ活動による身体的変化を問うアンケート項目に対する回答
(※P<0.05、※※P<0.01、※※※P<0.001)

〈図1〉リハビリテーションセンター入所中のスポーツ活動による身体的変化を問うアンケート項目に対する回答

 また、スポーツ群は、非スポーツ群に比べ、からだが丈夫になる、寿命が長くなる、危急の場合身を守るために役立つ、スポーツが上手になる、感覚が鋭敏になる、身体の一部が異常に発達するの項目について、特に好影響があると回答し、スポーツが、身体障害者の身体面に好影響をもたらすことを肯定的に認めていた。(図2)

〈図2〉リハビリテーションセンター退所後のスポーツ活動による身体的変化を問うアンケート項目に対する回答
(※P<0.05、※※P<0.01)

〈図2〉リハビリテーションセンター退所後のスポーツ活動による身体的変化を問うアンケート項目に対する回答

 2)精神的側面に及ぼす影響

 スポーツ訓練群は、非スポーツ訓練群に比べ、学力の向上、紳士的態度が身についたことの項目について、好影響があったと回答していた。(図3)

〈図3〉リハビリテーションセンター入所中のスポーツ活動による精神的変化を問うアンケート項目に対する回答
(※P<0.05)

〈図3〉リハビリテーションセンター入所中のスポーツ活動による精神的変化を問うアンケート項目に対する回答

 また、スポーツ群は、非スポーツ群に比べ、人間性が豊かになった、紳士的態度が身についた、学力の向上、感激したことがあった、思慮深い人間になったの項目について、特に好影響があったと回答し、スポーツが、身体障害者の精神面に好影響をもたらすことを肯定的に認めていた。(図4)

〈図4〉リハビリテーションセンター退所後のスポーツ活動による精神的変化を問うアンケート項目に対する回答

〈図4〉リハビリテーションセンター退所後のスポーツ活動による精神的変化を問うアンケート項目に対する回答

 3)社会的側面に及ぼす影響

 スポーツ訓練群は、非スポーツ訓練群に比べ、友人がふえた、行動範囲が広がった、相手のことを考える態度が養成できた、集団生活に耐えられるようになった、クラブやサークルへ入る動機になったの項目について、特に好影響があったと回答していた。(図5)

〈図5〉リハビリテーションセンター入所中のスポーツ活動による社会的変化を問うアンケート項目に対する回答
(※P<0.05、※※P<0.01、※※※P<0.001)

〈図5〉リハビリテーションセンター入所中のスポーツ活動による社会的変化を問うアンケート項目に対する回答

 また、スポーツ群は、非スポーツ群に比べ、行動範囲が広がった、クラブやサークルへ入る動機になった、友人がふえた、相手のことを考える態度が養成できた、生活に張りができた、集団生活に耐えられるようになった、品行が良くなったの項目について、特に好影響があったと回答し、スポーツが、身体障害者の社会的側面に好影響をもたらすことを肯定的に認めていた。(図6)

〈図6〉リハビリテーションセンター退所後のスポーツ活動による社会的変化を問うアンケート項目に対する回答
(※P<0.05、※※P<0.01、※※※P<0.001)

〈図6〉リハビリテーションセンター退所後のスポーツ活動による社会的変化を問うアンケート項目に対する回答

 4.身体障害者のリハビリテーションにおけるスポーツ活動の影響

 スポーツ活動の身体障害者の身体的、精神的、そして社会的側面に対する影響について、スポーツ経験の3つのパターン(A、B、C群)の違いについて、一元配置分散分析及びA、C群間のt検定を行ってみたところ、スポーツ経験が豊富になるにつれ、スポーツが上手になり、対人関係が広がり、相手のことを考える態度ができ、生活にも張りが出て、行動範囲も広くなり、からだが丈夫になり、感覚が鋭敏になり、感激したことがあった、明朗になったなどという傾向がうかがわれ、反対に、寿命が短かくなる、堕落した、学力が低下した、野蛮になったなどについては否定的な傾向がうかがわれたことから、スポーツ活動が、身体障害者の身体的、精神的、そして社会的側面に好影響を与えていることが明らかになった。

 しかしながら、障害そのものの軽減、就労の機会の増大や収入の増大にはあまり影響していないものと考えられた。(表3)

表3 スポーツ経験別一元配置分散分析及びA群・C群間のt検定結果

スポーツ経験

項 目

A群 B群 C群 F値 有意水準 A群とC群間のt値及び有意水準
MEAN S.D. MEAN S.D. MEAN S.D.
1)体の調子がよくなった 3.98 1.07 4.36 0.95 4.41 0.80 1.79   1.51
2)身体障害がかるくなった 2.95 1.41 3.11 1.07 3.24 1.39 0.39   0.70
3)体が丈夫になった 3.80 1.42 3.96 1.07 4.59 0.71 2.62   2.79   **
4)感覚が鋭敏になった 2.98 1.29 3.57 1.26 3.76 1.35 2.96   2.09   *
5)身体の一部が異常に発達した 2.35 1.33 2.50 1.29 3.18 1.47 2.30   2.08   *
6)健全な心身の発達がさまたげられた 1.78 1.03 1.58 0.92 1.35 0.79 1.25   1.52
7)寿命が短かくなると思った 1.90 1.30 1.50 0.88 1.00 0.00 4.73 2.85   **
8)危急の場合身を守るのに役立った 2.65 1.39 3.00 1.22 3.35 1.41 1.75   1.74   **
9)スポーツ(たとえば卓球)が上手になった 2.83 1.38 3.89 1.37 3.94 1.14 7.05 ** 2.94   **
10)機能回復訓練に役立った 4.08 1.27 3.89 1.26 4.18 0.88 0.34   0.30
11)友人がふえた 3.83 1.41 4.68 0.72 4.71 0.59 6.66 ** 3.33   **
12)相手のことを考える態度が養成できた 3.33 1.46 3.96 0.92 4.29 1.16 4.35 2.43   *
13)生活にはりができた(積極的になった) 3.65 1.33 3.61 1.03 4.47 0.87 3.57 2.33   * 
14)就労の機会や収入がふえた 2.20 1.42 2.21 1.13 2.65 1.73 0.68   1.02
15)行動範囲が広がった 2.95 1.48 3.89 1.31 4.35 0.86 8.13 *** 4.46   *** 
16)集団生活に耐えられるようになった 3.60 1.55 4.11 1.07 4.24 0.83 2.03   2.00   *
17)クラブやサークルに入る動機になった 2.18 1.41 2.54 1.43 3.82 1.59 7.75 *** 3.88   ***  
18)だ落した 1.75 1.24 1.57 0.92 1.00 0.00 3.37 2.49   *
19)娯楽になった 3.68 1.49 3.64 1.34 3.41 1.18 0.23   0.65
20)規律のある生活をするようになった 3.75 1.28 3.79 1.23 4.06 1.03 0.41   0.88
21)気分転換になった 4.38 1.13 4.21 1.07 4.76 0.44 1.60   1.88
22)単純になった 2.30 1.40 2.14 1.72 1.82 1.24 0.77   1.22
23)学力が低下した 2.05 1.34 1.68 0.94 1.35 0.79 2.49   2.45   *
24)感激したことがあった 3.30 1.64 3.75 1.55 4.29 1.36 2.52   2.20   *
25)考えない人間になった 1.63 1.13 1.61 0.92 1.24 0.66 1.03   1.62
26)無鉄砲な人間になった 1.78 1.21 1.68 0.94 1.24 0.66 1.65   2.16   *
27)人間性が豊かになった 3.68 1.33 3.57 0.79 4.24 0.83 2.17   1.92   **
28)明朗になった 3.55 1.34 3.71 1.01 4.29 0.77 2.55   2.63   *
29)(女性の方へ)男性的になった
  (男性の方へ)女性的になった
1.87 1.13 1.86 1.01 1.59 1.18 0.43   0.85
30)野蛮になった 1.97 1.37 1.61 0.99 1.24 0.66 2.65   2.72   **

(※P<0.05、※※P<0.01、※※※P<0.001)

4.まとめ

 I県のリハビリテーションセンターにおけるスポーツ活動の身体障害者に及ぼす影響について調査を実施した。

 その結果、①障害や性別に関係なく、若く、スポーツの出来る身体障害者が、スポーツ訓練に参加している傾向にあること、②退所後のスポーツ活動の要因として、入所中、スポーツ訓練に参加したか否かということが、大きな意味を持っていること、③スポーツ活動が、身体障害者の身体的、精神的、そして社会的側面に好影響を与えていることなどが明らかになった。

 つまるところ、スポーツ活動は、精神と身体の平衡状態と考えられている健康の要素、身体的健康、精神的健康、そして社会的健康を保証する媒体のひとつとして、余暇(自由な時間)のために重要な意義を担い、身体障害者のリハビリテーションの一手段としての役割をはたしていると言うことが出来たのである。

参考文献 略

筑波大学体育科学系助教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1988年3月(第57号)19頁~25頁