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デビット・ワーナーの活動(地域に根ざしたリハビリテーション)

- CBRにおける障害者の役割 -

アジア・デイスアビリテイー・インステイテート 中西由起子

項目 内容
掲載雑誌名: JANNET NEWS LETTER
発行者・出版社: 財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
Japanese Society for Rehabilitation of Disabled Persons
巻数および頁数: 第4巻3号 5頁
Vol.4 No.3 p.5
発行年月: 1997年10月
October 1997
文献に関する問い合わせ先: 〒162 東京都新宿区戸山1-22-1
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
Phone: 03-5273-0601
Fax: 03-5273-1523

特集デヴィット・ワーナーの活動

- CBRにおける障害者の役割 -

アジア・デイスアビリテイー・インステイテート 中西由起子

1982年にメキシコで始めた「村が運営するリハビリテーション」であるプロヒモ・プロジェクトの開始当初から、デビッド・ワーナーは地域のリハビリテ-ション活動への障害者の参加を必須のことと考えた。そのため障害のある貧しい村の若者がスタッフとして雇われた。彼らはフィールド・ワーカーとして、補装具や車いす製作の技師として働いている。 村のリハビリテ-ション・プログラムへの障害者の参加の重要性は、以下の点による。

  1. 障害をもつ仲間の気持ちやニ-ドの把握がすぐれている 彼らは自分自身の経験から障害者の問題や、ニ-ド、可能性が理解できる。自ら社会の拒絶、誤解、不正な取扱いに悩んだからこそ、より良いもの、もっと人間的な社会を作り出す闘争でのリ-ダ-となる可能性をもつ。
  2. サ-ビス利用者の問題の解決への関与が容易 ワ-カ-は対等な立場で接することができるので、障害児ですら自分のニ-ドの評価に関して、またどのような訓練や自助具が効果的かについて意見を言うようになる。
  3. よりよい訓練や自助具を提供できる。
  4. ロ-ルモデルとしての役割をもつ。 障害者がチ-ムとなって良い結果を生み出す仕事をし、障害のない人たちよりもっと他の人々の助けとなり、やっていることを楽しんでいる。それを見たとき障害をもつ子供は将来へのビジョンと希望をもつことができる。また家族にとっても、子供が外で遊ぶことを禁止したり、自分で何かをしようとするとすぐ手を出してしまう過保護な態度が、新たな可能性を前にして改まることになる。これこそがリハビリテ-ションへの大きな一歩であると、デビッドは強調する。
  5. 仕事に対して意欲的である。 障害のないワ-カ-と比べると、仕事を果たす強い決意と、献身がみられる。これは今までは社会でのハンディでしかなかった障害が、技能訓練や運営・指導経験を与えられることで雇用、強いては人間としての尊厳にまで結びつくことになるからである。

デビッドが指摘する障害者の参加が進まない理由は、フィリピンなど数カ国を例外として、大半のCBRプログラムに該当する。

  1. 専門家や行政担当者は障害者をサ-ビスの受益者としかみられない 伝統的なリハビリテ-ションの考え方では、障害者は弱い存在、何もできない存在とされ、サ-ビスを受ける一方のクライアントであった。常に助けられる側の障害者が、積極的に意見を述べ有効な活動ができるとは見なされていなかった。専門家のこうした考え方が技術とともに地域社会の人々に引き継がれ、地域社会で障害者がなんらかの役割を担っていた状況に水を注すことにもなってしまった。
  2. サ-ビス供給がトップダウンの体制になっている リハビリテ-ションにおいては知識や技能が必要とされ、それらをもっている専門家をトップとする技術譲渡のピラミッドが形成されてしまう。地域レベルのリハビリテ-ションを活性化させるのに望ましいのは、障害者やその家族をトップとして、サ-ビスの受益者のみでなく提供者としても位置づける逆ピラミッド型の思考である。逆ピラミッドを成功させるには、ワ-カ-の選考の際に障害者のリク-トに力を入れること、および障害者が結成した自助団体を通して彼らの声を吸い上げていることが必要である。
  3. 障害者がスタッフとして登用されない。リハビリテーション・プログラムの目的は、障害をもつ人たちをリ-ダ-として訓練し、彼らをエンパワ-させることである。彼らを既存の体制やアクセスの悪い環境の中で社会参加させるのでは、その機会はなくなる。彼らが自分たちのチームの中での助け合いによって、また社会で差別されている他のグル-プと協力して地域社会の環境を改善することを目指していくことが必要である。

デビッド・ワーナーは、筋萎縮症による障害者である自分自身に対する誇りと、今までリハビリテーションと言う名の下に障害者を一定の社会規範に閉じこめようとした専門家に対しての怒りをもっている。それは障害者中心のプログラムを主張する彼の多くの文献の随所に垣間みることができた。

注)Wernerの以下の論文を参考とした.

  • (1990) "Sataring in a Village - Where to Begin", CBR News, No.7, pp.6-7.
  • (1993) "Preface", The Handicapped Community: The Relation Between Primary Health Care and community Based Rehabilitation (Primary Health Care Publications 7), ed. by Harry Fenkenflugel
  • (1995) "Strengtehning the Role of Disabled People", O'Toole, Brian &McConkey, Roy. ed.Innovations in Developing Countries for People with Disabilities, Lancashire,England: Lisieux Hall Publications, pp. 222-23