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盲老人の豊かな生活を求めて 援助の手引

第III章 日常生活援助の実際

処遇を展開するにあたって

 高齢に加え失明というハンディを持つ盲老人の日常生活援助を、個別にどのような創意をもって実践しているかを種々の援助パターンの中から総合的に分析、併せて各施設の事例を紹介しながら、効果的な処遇方法を模索したいと思います。
 盲老人ホームを利用している視覚障害者の入所理由、およびさまざまなニーズについては前章で述べた通りです。ホームはそれらのニーズに対応するために各種の援助を行いますが、入所理由の中での「自立した生活を営めなくなった」とか、「家族に迷惑がかかる」「経済的な問題」等はホーム利用開始により解決することが出来ます。しかし、私達の考える処遇というのは毎日の日常生活の中で、盲老人が自己をみつめ心身とも安定した生活を送れるよう援助することにあります。
 その処遇方法を追求する職員は、盲老人の人格、人間性の尊重を基本に、常に相手の立場を理解しようという姿勢が必要です。

具体的にまとめると
1 個別化
2 専門的介護を必要とする部分
3 ホームの処遇方針=職員の姿勢ということになるでしょう。

利用者の生活に影響を与える要因

利用者

  • 性格
  • 1.生活暦
    2.職歴
    3.社会的地位
  • 家族関係
  • 家族構成
  • 視力障害状況
  • 日常生活
    自立状況
  • 疾病学
    身体状況
  • 居室内の人間関係
  • 友人関係他園内の交流関係
  • 職員との関係
  • ホームの処遇方針
  • 趣味活動
  • 建物設備

一、個別処遇

 個別の処遇というのは常に一対一の関係で援助するということではありません。個々の状況を十分把握しどの生活場面でどの程度の援助が必要かを判断し、適切な処遇を行うことが個別処遇の意味するところです。従って援助の場面がグループ内で行われる時もある訳です。

〈痴呆老人のための小グループ活動〉

 A子さんは、一度居室を出ると自分の部屋が分からなくなり時間の感覚もほとんどない、白内障による後天性(六十四歳時)の視覚障害老人です。夜間の徘徊(時間の感覚が分からないため当初徘徊なのかどうかの判断に迷いましたが)異食、弄便等があり対応に苦慮していたケースです。このホームでは他に同様の老人が二人おり、何とか日中だけでも規則正しいリズムで、皆と生活をともに出来るようにと考え三人一組でグループ活動を試みました。その中でA子さんに対する目標は、定時にトイレに連れていくこと(手すりに目印―人形―を置く)、他の老人の昼食配膳の準備を手伝うこと、一日三百メートル~五百メートル位の散歩に他の老人と出かけることにおきました。ゲームや歌、ボール送り等の遊びとともに日中出来るだけ活動的な状態におくように努力しました。本人の“二つや三つの子供じゃあるまいしばからしいと言う言葉を何度も聞きながら、少しずつ夜間の動きは減少してきました。

 このように集団の中でも個々の問題を明確にしていくこともあります。
 健康上の訴えの背景が淋しさであったり、日常生活上の不満・不適応の表出である場合も少なくありません。
 これらの状況を理解し援助することが個別化であり専門性にもつながってくる訳です。

二、職員の姿勢とホームの方針

 日常生活場面で直接援助に当る職員がいかにその方針を理解し、尚かつ必要な技術を身につけているかということも大切なことです。
 方針の理解には、視覚障害および障害者に対する知識が必要不可欠であり、自ら積極的に取り汲まなければなりません。
 また具体的な援助場面においては言葉づかい、態度などの暖かい人間性が最も求められその上に歩行や、日常生活援助の技術の習得が必要になってきます。
 特に盲老人ホームにおいては点字、短歌、俳句、歌、テープの編集、朗読等学習的活動も少くありません。必要に応じというよりはむしろ、学習活動のもつ意味を十分に理解すると同時に自ら盲老人と同じ条件で生活体験を試み、どのような援助の方法が理解されやすいかを考えながら、積極的に取り組むことが必要です。

第一節 入所段階での援助

 盲老人ホームにおける「処遇」は、生活の場の提供、日常生活動作の介助、健康管理、生きがいを高めるための活動、職員とのかかわりを通じての生活援助等に加え、視覚障害者の生活する専門施設としてのサービス体系を含めたものでなければなりません。
 盲老人ホームはその特殊性から、他施設よりの入所、家庭の不和、健康上の理由等の入所理由が上位をしめ、最近の傾向としては自ら希望してホームを利用する視覚障害者が増加しています。入所時の年齢も高齢化し、病弱者への対応等も早急に解決しなければならない問題として取り上げられてきています。
 利用者自身のニードも、ホーム入所直後の「同じ障害をもった老人同志の安心感」から、自分の生活する場所として周囲の環境に適応していく過程でのニード、自分の生活圏を確保し、自由な生活をしたいというニード、生活内容を充実させたり、安定した人間関係を作り上げ、自立した生活を送りたいというニード、いつでも健康で生活したいというニード等へと、質的に随時移り変っていきます。このような状況をふまえ、個々の生活の流れの中から援助を必要とする場面が生じた場合に、自力で目的の達成や、問題の解決にあたっていくための条件を満たしていくことが処遇の基本です。
 この章では、盲老人ホームがどのような専門的配慮のもとに生活援助を行っているかを全国の盲老人ホームの実践事例から紹介するものです。

一、入所時の不安と入所の動機

 視覚を喪失した老人は、一般晴眼者に比して、環境の変化に対する不安傾向はことさら強いものと推測されます。ホーム入所を自分で決める前には、長年住みなれた“家”から離れる不安や、話しを聞いただけで自分で確かめることのできない不安、新たに人間関係を作り上げていくことの不安等が、盲老人ホーム入所前の不安としてあげられています。(表3-2)
 また、失明年齢から見ると先天性や、老人になる以前に失明した人にこの割合が高く表われています。また、ホーム入所の動機については表3-4の通り「単身生活の困難さ」「家庭不和」「経済的理由」等があげられていますが、むろん背景には視覚障害者による生活上の問題があることはいうまでもありません。
 上記のホーム入所の動機も決して単一のものではなく家庭内の人間関係や、失明後の本人の生活状況、精神状況等が複雑に交錯し、悩んだあげく、ホーム入所に至っています。
 私達の仕事はホーム入所時の不安に満ちた表情や“よろしくお願いします”という言葉にかくされた内面を理解する努力に始まります。
 同じ視覚障害を有しているといってもその人の人生感、性格、生活歴などにより現在の心の状態は全く異なっています。ともすれば、集団の一員として画一的に判断しがちですが、生活施設という意味合いが個々の尊重という原則に立っていることを確認しなければなりません。
 そのためには、ホーム利用に当たっての不安内容を、個々の状況に応じて理解し、新たな環境に適応していくことが出来るような援助体制を作り上げておくことが大切です。さらに、盲老人ホームの入所を希望する視覚障害老人には高齢にともなう様々な心身の疾患があることも考慮に入れておかなければなりません。特に、視力を失った後の不安定状態がでの程度克服されているかが入所後の生活に大きく影響をあたえます。
 このような盲老人ホーム入所に至るまでの心身状況を考えると、入所者へのアプローチは、福祉事務所にホーム入所希望の申請があがり、入所開始の決定が成された時点から始められる必要があります。(さらに進んだ状況では、在宅での生活を継続していくための援助、必要な部分のみを援助するディサービス、家族への適切な助言、体験入所等が考えられます。)
 入所前のアプローチは、入所後の生活の適応や、不安を軽減する目的で行われますが、ここでは「入所前インテーク面接の内容」「入所時の受け入れ」「入所後のオリエンテーション」「所持金品の取扱い」を順に説明していきたいと思います。

表3-1 盲老人ホームに入所するのに不安がありましたか。

       男女別

項目
合計
不安を感じた 317 44.4 816 52.3 1,133 49.8
不安を感じなかった 320 44.9 605 38.8 925 40.7
わからない 76 10.7 140 8.9 216 9.5
合計 713 100.0 1,561 100.0 2,274 100.0

表3-2 不安があった人はその内容は何でしたか。(主なものを2つまで)

                       男女別

 項目
合計
盲老人だけの集団で心配 43 6.0 107 6.9 150 6.6
施設に対する認識が無かった 93 13.0 259 16.6 352 15.5
なれた所や家族と離れる不安 133 18.7 321 20.6 454 20.0
新しい環境に適応できるか心配 128 18.0 320 20.5 448 19.7
入所者同志の人間関係がうまくいくか不安 119 16.7 316 20.2 435 19.1
病気になった時どうするか不安 63 8.8 153 9.8 216 9.5
老人ホームに入所するという世間体にこだわった 20 2.8 54 3.5 74 3.3

表3-3 盲老人ホーム入所時の不安(失明年齢別)

      項目
種別
盲老人だけで
心配
施設に対する
認識がない
なれた所家族と
離れる
新しい環境 人間関係
先天性 7 6.3 13 11.6 26 23.2 19 17.0 32 28.6
10歳未満 17 6.5 41 15.6 48 18.3 54 20.5 57 21.7
10~19歳 10 8.7 19 16.5 31 27.0 25 21.7 26 22.6
20~29歳 6 5.6 14 13.0 25 23.1 29 26.9 24 22.2
30~39歳 8 7.0 19 16.5 16 13.9 25 21.7 26 22.6
40~49歳 16 9.2 22 12.7 21 12.1 32 18.5 36 20.8
50~59歳 19 6.8 47 16.9 52 18.7 59 21.2 55 9.8
60~69歳 23 6.7 68 19.9 63 18.4 62 18.1 61 17.8
70~79歳 14 6.7 37 17.6 47 22.4 46 21.9 28 13.3
80歳以上 1 3.8 4 15.4 9 34.6 4 15.4 2 7.7
わからない 9 15.0 7 11.7 13 21.7 13 21.7 9 15.0
弱視者・晴眼者 20 4.2 61 12.9 103 21.8 80 16.9 79 16.7

表3-4 あなたが盲老人ホームに入所した動機は何ですか。

         男女別

項目
合計
家庭の不和 77 10.8 209 13.4 286 12.6
経済的理由 56 7.9 110 7.0 166 7.3
単身生活が困難なため 309 43.3 694 44.5 1,003 44.1
施設の生活を希望して 265 37.2 539 34.5 804 35.3
無回答 6 0.8 9 0.6 15 0.7
合計 713 100.0 1,561 100.0 2,274 100.0

二、ホーム入所申請

一、盲老人ホーム、利用対象者
 「老人福祉法」(昭和三十八年、法律第百三十三号)は第十四条で、老人福祉施設の種類を規定しており「養護老人ホーム」「特別養護老人ホーム」「軽費老人ホーム」「老人福祉センター」の四施設を、老人福祉施設としています。そのうち老人ホームというのは、「老人福祉センター」を除く種類で、「盲老人ホーム」については老人福祉法に何ら規定されていません。
 即ち現段階では、「老人福祉法あるいは施設の最低基準に規定された施設ではないが、施設運営関係の通知*1(老人保護措置費の国庫負担)の中で晴眼老人を対象とする養護老人ホームでの処遇運営に比して、視覚欠損という特殊性からより多くのケア業務を必要とする」との行政判断から一般養護老人ホームとは異なった位置付をされているのです。従って盲老人ホームの利用対象者は*2老人福祉法第十一条等二項にあてはまるものでなければならず、なおかつ、全盲および弱視等の視覚障害を有するものでなければなりません。

*1 老人福祉法による養護老人ホームにおける介助員加算および病弱者介護加算制度について

〈制度創設の趣旨〉

 養護老人ホームを利用している病弱な老人については、本来特別養護老人ホームに措置変更を行うべきであるが、同ホームの整備状況等から、ただちに措置変更することは困難な状況にあり、一部の養護老人ホームの寮母の勤務体制に多大な影響を与えている。
 したがって、これら養護老人ホームに対して病弱者介護者分を加算するとともに、寮母の介護業務を補強する介助職員を配置(加算)して、老人の処遇および職員の勤務条件の改善を図るものである。
 なお、盲老人ホームについては、施設の特殊性を考慮して全施設につき加算の対象とし、この加算分は、交付要綱中の別表1の1の(2)盲老人ホーム一般事務費基準額(月額)に、病弱者介護加算分は昭和五十年十月一日以降適用の、介助員加算分は昭和五十三年十月一日以降適用の単価表にそれぞれ算入済であるので、これら制度に伴う算定等は行わないものであること。

〈養護老人ホームにおける介助員加算および病弱者介護加算制度の取扱いについて〉

  • 一、盲養護老人ホームに対する介助員加算及び病弱者介護加算分は一般事務費基準月額の単価に算入済みであるが、さらに夜間における職員の勤務条件等の改善を図り利用者処遇を確保するため、二に示す要件を満たしている施設については交付要綱(「老人保護措置費の国庫負担について」昭和四十七年六月一日厚生省社第四百五十一号厚生事務次官通知)の別紙1の1の(1)のイの(ウ)に示すほか、特別基準として昭和六十年十月一日から病弱者介護加算分を一般事務費基準月額に加算する。
  • 二、加算の対象となる施設は次の(1)~(3)のいずれにも該当する施設であること。
    1. 寮母の実配置数が、職員配置基準数を充足していること。
    2. 病弱者介護加算寮母を加算することにより勤務体制を宿直から夜間も業務できる体制に移行すること。
    3. 利用者のうち夜間業務(オムツ交換、便所への誘導介助等)を必要とする対象者が二〇%以上いること。
  • 三、加算寮母数および加算額
    • ○加算寮母数 各施設一人
    • ○加算額 五六十九万三千六百円(ただし、六十年度は八十四万六千円)
  • 四、加算対象者の算定方法
     算定時期は、毎年四月一日(昭和六十年度については十月一日)現在において行うものとし、その年度の中途において当該施設の加算対象率が変更になった場合でも再判定は行わないものであること。

*2 養護老人ホーム利用対象者の規定
 六十五歳以上の者であって、身体上若しくは精神上または環境上の理由および経済的理由により居宅において養護を受けることが困難なものを当該地方公共団体の設置する養護老人ホームに収容し、または当該地方公共団体以外の者の設置する養護老人ホームに収容を委託すること。

二、入所申請

 盲老人ホームにおける入所者の受け入れは入所希望の本人または家族が、福祉事務所に、入所申請をした時点から始まります。入所を希望するときは、福祉事務所の窓口でその申し込み手続きをしなければなりません。窓口では所定の様式により入所申請を受け付けます。申請内容は次の通りです。

  1. 入所を希望する主たる理由および本人の意志
  2. 視覚障害の程度と身体障害者手帳の有無
  3. 入所希望者の生活歴、とくに失明以降の生活歴について
  4. 日常生活および家庭生活における行動範囲の状況
  5. 眼疾患以外の疾病および治療、通院状況、および健康診断書
  6. 家族または親族の状況およびホームに関する意見
  7. 本人および家族の収入状況
  8. 施設入所の希望月日
  9. 施設側との入所前面接希望日

 これらの点が入所申請段階で必要とされる事項です。入所を希望するとき、これら(1)~(9)の事項を福祉事務所に申請しなければなりません。
 各福祉事務所は、この申請をもとに面接やその他の調査を行い、盲老人ホームへの入所可否を決定します。
 福祉事務所は、上記の内容調査の結果、入所可能と認めた時点で、盲老人ホームに入所の依頼打診をします。その後、調査書類が福祉事務所から盲老人ホームに送付され、その書類により入所が可能か否かの判定をします。この可否判定は視覚障害の有無、精神障害の状況、日常生活の自立程度等の内容を中心に医師、施設長、福祉事務所等で構成される判定委員会により協議決定されます。

三、ホーム入所前面接

 ホームへの入所が決定すると、ホームの理解と入所後の処遇方針を立てること等の目的で入所前面接を行います。現在全国の盲老人ホームにおいてもその必要性の認識が高まり、ほとんどのホームが面接を実施しています。

一、面接の目的

  1. 入所後の対応をスムーズに行えるようにする(主に人間関係を作りあげる)
  2. 施設の生活に適応していけるのか、またどのような援助が早い時期に必要か(居室の決定、日常生活のオリエンテーション)
  3. 緊急を要するケースか否かの確認(入所時期)
  4. 本人の心の準備を促し、家族にはホーム理解および入所後の協力を依頼する。
  5. 視力を失った後の生活状況、自立への意欲および自立状況等についての確認

二、面接内容

  1. 本人の意志の確認
  2. 身体的、精神的状況の把握
    (ADL、視覚障害状況)
  3. ホームの概要、日常生活の説明
  4. ホームへの要望等
  5. 身元引受人等家族状況の確認(家族の意向)
  6. 入所時に必要なもの等の確認

等が主な面接内容です。
 以上のような目的と面接内容により、入所希望者、および家族に対し十分な理解を得られるように説明します。さらに視覚障害者にとっては話を聞いただけでは、状況の想定が困難な場合が多いので、できることであれば、事前に一度ホームを訪問するよう促すことも必要になってきます。
 入所前面接の際にもう一つ気をつけることは、視力を失った老人が、生活の一つ一つの場面でどのような認知の方法をとり、工夫しているかを聞くことです。自分の荷物をどのように整理しているのか、トイレにいく時間は何を頼りにしているのか、目印は何かとか、一人でどれ位の範囲の行動が可能なのか等を、できるだけ詳細に聞きとります。また聞きとりの際には本人の努力の過程に対し、最大限の評価を与えることが大切です。そのことが本人にとっては“私を理解しようとしてくれている”ということでの安心につながっていきます。形式や、書類にこだわりすぎると緊張を高める結果となり、本来の目的を見失なうことにもなりかねません。面接の方法についての基本的技術を研鑚しておくことも是非必要なことです。
 面接内容は、面接者が皆に報告し、討議する資料としてこれを記録に残す必要があります。しかし、余り記録にこだわりすぎ、記録を書くための面接になっては意味がありません。相手の話しやすい部分から徐々に発展しながら全体を把握することが大切です。また、その場で面接票に記録していくことも相手の話を中断することにもなりかねないのでメモ程度にとどめておくのがよいでしょう。また、面接記録票は、特に日常生活場面において視力の欠損がどの程度の影響を与えているかを具体的に記入しておくと、入所後のオリエンテーションに役立ちます。福祉事務所よりの入所申請書―入所前訪問面接記録―入所時のオリエンテーション―ケース記録が一つのファイルに順に整理されていることが、その後の処遇計画に役立ちます。

三、入所前面接に携帯する資料

 入所前面接では、主に生活指導員、寮母、看護婦がそれぞれ分担を持ち福祉事務所の担当ワーカーとともに訪問するのが一般的です。しかし、そのホームの考え方により、施設長、医師等が面接に参加する場合もあります。また、寮母については、あらかじめ居室担当が決定している場合には、担当寮母が訪問するホームも少なくありません。
 ホーム入所前面接は状況によりホーム側より訪問するケースと、直接来園を促すケースの二通り考えられます。
 特に、未知の環境に移ることに大きな不安を感ずる盲老人に対しては、出来るだけ事前の来園により、園内諸設備の案内・日課・共同生活上の説明等を通し、自己決定に必要な情報を提供するように心掛けたいものです。
 家庭を訪問するにせよ、ホームを訪れてもらうにせよ、本人が十分に納得した形で利用を開始することが大切です。
〈入所前訪問面接携帯資料〉

  1. 施設概要(要覧、パンフレット、広報)
  2. 入所案内(日課、行事、入所時の所持品、生活の手引、入所案内録音テープ等々)
  3. 福祉事務所よりの書類(措置依頼書)
  4. 訪問面接記録(含、ADL調査表)

四、入所時の持込品の範囲

 特に一人暮らしから入所する場合は荷物の引取り先の問題や処分になかなかふんぎりがつかないことから持込品が、どうしても多くなりがちです。ホーム入所前に本人や家族と良く話し合いの上、持込品の範囲についてあらかじめ納得していただく必要があります。
 盲老人ホームの居室は静養室以外畳の部屋がほとんどです。最近のホームは出来るだけ居室内を広く使えるよう、タンス、靴箱等ははめ込み式にする等の工夫が施されています。持込品の範囲については各施設で事情が異なりますが、おおむね次のような物を許容しています。

  1. 寝具・衣類や身の廻り品
  2. 家庭電気製品(ラジオ・カセット・テレビ・冷蔵庫(小型)・電気毛布・電気コタツ・電気ポット等)
  3. その他、小型仏壇・タンス等

■北海道・恵明園(利用案内)

一、施設(ホーム)利用に際してのお願い
 お年寄りの方が、在宅または病院からホームに入られるということは、周囲の人が考える以上に精神的苦痛が伴うものです。ホーム利用後不安定な状態が続く老人の多くは、ホームに入る理由をよく理解できず、家族または周囲の人々の一方的決定によるホーム利用という経過をたどっています。時間をかけ、十分に理解して頂くよう努めて下さい。ホームに入られてからもお年寄りの心は常に家族の方々のことで一杯です。家庭にいたとき以上の暖かい思いやりと配慮が必要です。
 老人ホームは終生収容の場ではありません。家族の事情が好転した時はいつでも迎え入れるよう十分話し合いが必要です。同時にホーム利用後も必ず交流をより深めるよう心掛けて下さるようお願いします。

二、ホーム利用の際の所持品について

  1. 手続きに要する物
    • イ、江別市以外から転入される方
      ○保険者証(国民健康保険加入以外の方は遠隔地証明が必要ですので早めに手続きをお願いします)○印鑑○身体障害者手帳(交付を受けている者)○各種年金証書○老人および身元引受人の所得証明○転出証明書
    • ロ、市内からの利用者について
      ○保険者証○老人医療受給者証○印鑑○身体障害者手帳(交付を受けている者)○各種年金証書
  2. 所持品について(必ずマジックで名前を書いて下さい)
    • イ、下着類(最低三かわり程度)、寝巻(パジャマ)、くつ下(タビ)、室内ばき一足
    • ロ、普段着(各三枚程度)
      イ、ロとも夏物、冬物それぞれそろえて下さい。
    • ハ、外出着……通院、行事、他外出用
    • ニ、洗面道具……コップ等は割れにくいものを選んで下さい。

○本人希望品

  • ホ、ラジオ、テレビ(小型)、テープレコーダー
  • ヘ、茶道具、ポット、きゅうす、湯呑み、フキン等、タッパー(小・中各一)、食器ケース(卓上)
  • ト、寝たきり老人について……横呑み、尿、便器等(下着類を多く)
  • チ、その他所持したいものがあれば事前に問い合せをして下さい。
  • リ、整理タンス

三、ホーム利用の際の留意事項

  • イ、利用前はどのようなことでも不明の点はご相談下さい。
  • ロ、利用前に在宅に訪問することがあります。ホームの生活をより理解して頂くためのものです。
  • ハ、老人ホームと家族の方々とのつながりは切り離すことができません。またホームに入られる方の気持ちの持ち方がホームの生活に影響します。
  • ニ、外出・外泊については特に健康上支障のない限り自由ですが、単独では、不慮の事故等を鑑み、許可はできませんので、必ず付き添いが必要です。外出・外泊時には健康保険証を携帯して下さい。
  • ホ、老人ホームは病院ではありません。皆様が生活する場所です。しかしながら高齢であり、身体的ハンディを持った人がほとんどであり容体の急変、持病の悪化、また不慮の事故等、避けることのできない場面も生じます。園内で処置できないケースも生じます。この様な場合は身元引受人の承諾を得て入院先を決めて頂くことになっております。

■島根県・湯の川温泉盲老人ホーム(入所案内)

一、入所者の生活
入所者全員が明るく楽しい共同生活が営なまれるよう、規律ある生活を行っています。〔清掃作業〕自分の施設を美しくするため、毎朝清掃作業を行っています。

  • 〔運動〕毎日老人むきの体操や歩行訓練を行っています。
  • 〔面会〕面会所または、自室で自由に行っています。
  • 〔食事〕健康保持に必要なカロリー栄養、嗜好を考えた献立表により給食を実施しております。
  • 〔入浴〕湯の川湯泉を利用した、湯泉療法をとり入れています。
  • 〔お茶〕各自室で自由に飲むことができます。
  • 〔お酒〕各自室で自由に飲むことができます。(但し健康に支障のない程度)
  • 〔タバコ〕各自室で自由にすうことができます。
  • 〔医療〕嘱託医の診断指導により看護婦が健康指導にあたります。
  • 〔娯楽〕民謡、詩吟、川柳、歌謡曲、点字、器楽、縫製、陶芸等のクラブ活動を実施しているので趣味に合ったクラブに入って楽しむことができます。ラジオ、テレビも自由に楽しむことができます。
  • 〔外出外泊〕申し出により認めております。
  • 〔年中行事〕創立記念日、旅行(年2回)、七夕祭、盆踊り、彼岸法要(年2回)、野外食、部屋食、忘年会、クリスマス、新年会、節分祭、敬老の日等の外毎月誕生会を行い誕生日を祝い長寿を祈念しております。

二、入所手続
 地区担当民生委員、市町村役場、福祉事務所に申し出て下さい。

三、入所時の持物
 転出証明書、戸籍謄本、健康診断書、身元引受者、各種年金証明書、身障手帳、印鑑、寝具、衣類若干、日用品、その他

四、居室の決定について

図3-2 入所申請の流れを現した図

 以上のような経過を経て受入れ段階迄の準備を終えた訳ですが、ここでまた問題となるのが居室の決定です。
 ホーム入所後一日も早く生活に適応していくための大きな要因が居室内の人間関係にあります。全て個室化されたホームであれば同じ条件に近いということができるかもしれませんが、ほとんどが相部屋の施設ではそうはいきません。あらゆる角度から慎重に居室を決定することが必要です。まず居室の決定にはどのような条件を考慮に入れたらよいのでしょうか。

  1. 視力の程度
  2. 身辺自立の程度(歩行能力を軸に)
  3. 性格(協調性、趣味、人格)
  4. 設備と健康状態(例えばトイレの近くの居室、食堂近く等)
  5. 病弱者、痴呆等の心身の状況
    (例~排泄の回数、問題行為)
  6. 同室予定者の状況

等が判断の材料となり、入所予定者の希望等も考慮して処遇会議、職員会議で決定します。
 これらを総合して考えてみると居室決定に最も必要なことは入所希望者の対人関係を中心とした生活歴と人間性に対する適切な判断です。
 入所後の生活の中では、利用者間の交流状態をよく把握し、良好な関係を維持している利用者間、対立や互いに嫌悪感を感ずる利用者間それぞれの、プラスの要因(共通項目、性格)マイナスの要因を観察、記録しておくことが大切です。
 また職員のかかわり方も影響が大きいことを知る必要があります。問題が感情的対立にまで進展する前に相互理解を深めるような積極的かかわりを持つ姿勢が求められます。

五、オリエンテーション

 さまざまな不安を胸に抱いて老人ホームの門をくぐることになりますが、この始めの印象も入所者の心に長く記憶として残ります。玄関への出迎えは、園長を始め出来る限り全職員で迎えたいものです。
 ある特別養護老人ホームでは職員はむろんのこと同室の利用者も共に来園を待ち、到着時には花束を贈呈し歓迎をしています。職員全員でホームを支え、作り上げていこうとする努力の表われでしょう。あらかじめ到着時間が分っているにもかかわらず到着後あわてて二~三人の職員が挨拶もそこそこに荷物を受取り、事務的手続を済ませる等のことがないように配慮します。
 入所当日は、家族も含めてあらためてホームの概況について説明します。
 オリエンテーション期間は一日でよいとするホームや、一週間あるいは二週間必要というホームもありますが、いずれにせよオリエンテーションという意味合いは“初期段階における方向付け”ということであり、この期間中にホームの生活について説明し、本人にどの程度の理解力、自立力があるかを判断する訳ですから個々の状況により期間は異なってきます。
 家族に対しては、主に次のような内容でオリエンテーションを行います。

  1. 施設の概要と方針
  2. 面会依頼(含外出、外泊)
  3. 疾病時の協力依頼(通院、入院)
  4. 金品保管に関すること
  5. 行事等への参加(含家族会)

 家族の存在が、処遇上大きな関わりを持つことを認識してもらいます。老人ホームに入っている利用者の立場で考えると家族に対するさまざまな想いが、生活している意識の根底にあることを忘れてはなりません。家族の果たす役割がいかに大切かを十分に説明し常に交流が必要なことを知ってもらいます。
(以下 家族の項参照)

図3-3 オリエンテーションの流れを現した図

■東京都・聖明園曙荘(入所時のオリエンテーション)

No.1 受入れプログラム (氏名 昭和 年 月 日)

業務(説明、助言、指導、観察) 担当印 留意点、チェック等
到着
出迎え
午前 時 分 (玄間)
午後 時 分 (玄間)
心身状況(疾病度等)観察
指導員
看護婦
寮母
 到着を知った職員は各パートに連絡し、
出来るだけ多くの職員で迎え、
暖かい歓迎とねぎらいの声をかける。
(家庭訪問した職員は必らず出迎える)
入園
手続き
午前 時 分 (談話室)
午後 時 分 (談話室)
 本人、家族、ケースワーカーの応対。
 事務手続きと、ホームの概況、
利用者心得の一部(日課等)、
ホームの提供するサービス等説明。
指導員 収容依頼書・健康診断書・戸籍謄本・転出証・
非課税証明書(前年度所得証明書 含扶養義務者分)
生活歴他。
                          預かり印
身体障害者手帳・年金証書・健康保険証・
金銭管理の助言
居室
案内
午前 時 分
午後 時 分
 廊下歩行の注意事項説明。
 同室者紹介。
寮母 廊下…手すりに掴まり、声を出して歩くこと。
居室…棟名、室名、玄関からの高さ、広さなど説明。
紹介…紹介し、お互いに声を出していただく。
※トイレ使用の有無を聞く。
食堂
案内
午前 時 分 (昼食または夕食)
午後 時 分 (昼食または夕食)
 食事の約束事、マナー説明
寮母  食卓の位置、向き、椅子の出し入れ
(始めから出し入れしていただく)、献立設明の後、
おしぼりを使用。すわっていただき、
終了後は棟順に退場など。
紹介 在園者に紹介(食事前) 指導員 紹介の後、本人から簡単な挨拶をしていただく。
荷物
整理
小休止後
午前 時 分 (居室)
午後 時 分 (居室)
 荷物整理について本人、
家族に説明と助言。荷物整理介助。
寮母  記名を確認し、使用するとき困らないよう自分で
収納するよう助言する。
 重い物などは家族と共に収納介助。
 納めた物は本人に確認していただく。
※持参品はチェックしておく。
家族に 午後 時 分 (談話室)
 家族会について説明、加入依頼。
指導員
看護婦
寮母
 外出、外泊、面会等の方法について説明、依頼。
 本人の家庭での生活状況、介助状況、
健康状態等聴取。(趣味、嗜好、性格、通院等)
家族
見送り
午後 時 分
 本人を第二玄関に誘導。
指導員
看護婦
寮母
面会等の交流を依頼する。
施設
案内
午後 時 分
 日課、歩行等の再説明、居室、
トイレ、洗面所案内、ナースコール等
設備の使用法を教える。
寮母  トイレ、洗面所など覚えられないときは、
誘導、案内図を作って夜勤等に申し送り、
統一した誘導を行う。
夕食 午後5時20分 食堂案内 寮母 誘導案内図を作り誘導する。食欲に注意。
夕食後 布団の敷き方指導 夜勤寮母 布団を敷く位置を定め、敷き方を指導する。
夜間のトイレのため布団から玄関への出方を
指導する。
トイレ誘導 要・不要 要のときは、排尿間隔、
次のトイレ使用予定時間を聞いて誘導する。
翌朝 布団上げ、着替え観察 出来ない場合は指導する。
洗面所誘導、お湯入れを教える。 ※夜勤者は、左記4項目が出来ない老人の場合は、
日勤者に指導を申し送ること。

■兵庫県・千山荘(家族に対するお願い)

家族の方へ
 ホームの生活は利用者にとって困難なことです。生活することが困難なことは今まで親しくしていた人々と離れなければならないことです。また長年の生活の中心であった家庭、家具などと離れなければならないことであり、新しい環境に適応しなければならないことです。
 この気持の変化および適応は、もし親族、友人が親しく必要な援助を示して下さいますならばかなり解決すると思います。利用者の方々にとりまして家族、友人から届けられる贈り物、手紙、訪問は何よりもありがたいものです。利用者は家族や友人から忘れられていないことを望んでいます。利用者の幸せは家族、友人の協力と善意によるところが大きいものです。

  • ○定期的な訪問をお願いいたします。
  • ○利用者が外出、外泊出来ることを望みます。
  • ○利用者が忘れられていないということを示すために小さなプレゼント、例えばお花、食物、手紙は大歓迎です。
  • ○利用者を隔離しないように社会との接触を保つように心がけて下さい。
  • ○利用者の生活の重要な日々、例えば誕生日、クリスマス、敬老の日、新年その他人生における意義ある日々を止れないで下さい。

○利用者の立場に立って下さい。
 あなたもある日老人になることを忘れないでほしい。

第二節 日課の中での援助

一、日課の中での援助

 日課、週課についての基本的考えは第一章で述べた通りですが、日課は全ての老人の生活をわくにはめるものではありません、職員の勤務形態と深いかかわりを持っていますが、一般に考えられる社会的常識から極端にかけ離れた生活リズムを、日課の中で設定しないような努力をすることが必要です。単調な生活の中で一人ひとりが何らかの形で生活の中に目的を持てるよう援助します。
 また職員の業務分担の中では、どうしても当番業務が多くなりがちですが、担当としての十分な関わりを持つことも必要です。ある施設では入浴等の業務分担は原則として担当が行い、担当不在の際は同じ棟の寮母が行うなど、出来る限り担当との人間関係を重視して行っているところもあります。また、平日と祝祭日で起床時間を変えたり、食事時間に幅を持たせている施設もあり、日課に対する考え方もあまり枠にはまらない生活を作り上げる努力をしています。
 このような方向の中で特に介護に当る職員側としては、朝の起床時間また食事時間だからといって、昨日心配ごとでなかなか寝つかれなかった利用者を無理に起こし、“御飯はどうするんですか”等の言葉が老人に向ってとび出さないようなあたたかい配慮が必要です。また、老人ホームの中では老人同志の互いの抑制や規律的なことが自然に形づくられ、ある人はだらしがないとか、我ままだというようなことも生じてきます。援助する側として常に個々人の状墳を把握しその場に応じた対応を心掛けたいものです。
 日課の中では食事、入浴を除くほとんどがクラブ活動に当てられています。毎日の決まった日課としては体操、散歩、朝の放送が主なようです。

 体操は各施設共毎日実施しています。体操の内容もバラエティにとんでおり、

  • ○ラジオ体操
  • ○棒体操(バトン体操)
  • ○竹踏み体操
  • ○老人体操(全社協推選、民謡体操、数えうた体操)

等、それぞれに行っております。中でも竹踏み体操は手軽でリズミカルな音楽に合わせ楽しく、しかも足の裏を刺激することが健康に良いとのことで全国に普及しています。
 ここでは二施設が行っている体操を紹介します。

■ 長野県・光の園(バトン体操)

  • 一、指の体操…親指から指を1本ずつ折り小指から1本ずつのばす 一~十 四回
  • 二、手の体操…バトンを握り手の平を上に向け握ったり開いたり 一~八 四回
  • 三、背のび…バトンを握り両腕を真すぐのばし背のび 一~四でのばし五~八でおろす 四回
  • 四、頭たたき…バトンの両腕の玉を持ち頭たたき、額から後首へ 一~八 四回
  • 五、首の体操…バトンを後首に当て首の体操、前後、横後、前後一~八 二回、左右一~八 二回、後 一~八 二回
  • 六、体の横曲げ…バトンを両手で持ち腕をのばし真すぐ上へ、体を左右へ倒す 一~八 四回
  • 七、肩たたき…バトンを片手で持ち反対側の肩をたたく 一~八で左右交替 四回
  • 八、深呼吸…バトンを両手で持ち、腕を真すぐ上げて深呼吸、一~四で吸う 真すぐ上へ二回、五~八ではく 二回

三、朝の放送

 朝の放送は一日の主な行事予定や日課の紹介、社会のニュース、音楽、体操等を盛り込んで、三十分位の時間帯で行われているのが一般的です。社会的関心の薄れていくホームの利用者に対しては、地域の一員であり社会の一員としての意識化も必要になってきますので、地元のニュース・出来事や、社会的問題(老人問題)も積極的に提供するようにします。

四、散歩

 散歩は運動量が総体的に少ない利用者にとって大変大切な日課になっています。各施設とも工夫をこらし、散歩道を整備しています。散歩には盲老人に対する配慮があちこちに見られます。サークル的な名称のもとに散歩を楽しみの一つとして定着させたり、季節を考え戸外の散歩が可能な時は、散歩の途中で体操、ゲーム、歌等を取り入れたり野草稿みを行う等、自然と親しむ機会を作り大いに気持を明るくする等の工夫がみられます。日頃、年をとってから“指先の訓練等必要ありません”と言っている老人もこのような時には、次から次へと“これは何の花?”とか“もう咲き出したんだねえ”と指先に神経を集中させています。
 散歩道に民謡や小鳥の鳴き声のテープを流す、近くの神社に参拝に行く、途中に香りの花園を作り、香り、手ざわりを楽しむ等ただ歩くということの他に喜びを見出すような配慮もされています。また敷地内の整備された散歩道より出る時は、寮母の手引、誘導ロープや竹等を利用した誘導、白杖使用の指導を兼ねて散歩等個別の状況に応じた方法がとられています。足腰の不自由な利用者は車椅子での介護の途中起立保持の練習や芝生の上での反転等の訓練的内容を盛り込み、利用者が散歩の中に目的を持つ等の工夫も必要になって来るでしょう。弱視者による全盲老人への援助という場面も生じますが、このような時は任せきりにせず、弱視者の方へ相手の歩くペースを知らせ、押しつけにならないような配慮が必要です。またこのような一部分の相互の援助も、全盲の老人にとって日常生活全般の依存という形に進展しないような注意が必要です。
 散歩の中に楽しみと、感覚の訓練、健康保持等の要素を個々に目的として与えていくことが大切です。また歩いた距離を記録にとどめ、それぞれのホームからどこどこの街まで何キロメートル歩いた等ということを、食事の時等に皆の前で発表することも励みの一つとなります。

五、通院・入院

 盲老人ホームの利用者は、一般養護老人ホームと違い、自分の意志で自由に診療に行くことは比較的難しいため、看護婦の役割は大きいといえます。つまり、看護婦は嘱託医と利用者とのパイプ役になり、診療が円滑に行われ、利用者の満足がいくように努めることが必要です。
 特に、病状によっては往診も必要ですから、看護婦は嘱託医と緊密な連携を保ち、スムーズな診療が受けられる態勢をつくっておくことが大切です。こうしたことにより利用者は本当に安心した日常生活が送れることになります。
 盲老人ホームで最も頻繁に行われる外来診療はもちろん眼科です。
 外来診療に際しては、できるだけ利用者の希望を尊重するよう心がけ、「ひどい眼病ではないか」とか「完全失明者になってしまうのではないか」といった治療に当たっての不安感を少しでもやわらげるような配慮が必要です。
 また、利用者が希望する病院への通院はどのように対応したらよいのでしょうか。全国の盲老人ホームの約半数が希望する病院への通院を認めています。問題となるのはその際の施設の対応の仕方です。
 施設で全て行うことには色々な面で無理を生じますし、一人で通院させることにも不安が残ります。可能な限り家族、知人等を頼んで引率してもらうようにしているホームがほとんどです。どうしても家族が付添い出来ない状況にある場合や身寄りがない場合はホームが対応出来うる条件を本人とよく話し合い、また通院先の病院に理解を得た上で通院させるようにします。
 入院の際にネックとなるのが付添の問題です。ホームの中では自立しており、入院中も場所の認知さえ出来れば付添が必要ないと判断されるケースにおいても、“付添をつけて欲しい”と言われる場合が少なくありません。
 また、入院中は病院と病状についての連絡を欠かさず、たびたび面会に行き励ますことも必要です。

第三節 排泄と入浴の援助

一、排泄

 盲老人の排泄については、主に設備上の問題と排泄後の後始末、特に汚れていても分からず使用する等の問題があり配慮が必要となります。

一、設備面

 手すり、床板、便器前のすべり止め、障害者用トイレ、および水洗ボタン等それぞれに配慮を必要とします。トイレの入口には点字ブロック、チャイム、手すりには点字で印をつける等それぞれに工夫をしています。また男子トイレと女子トイレの印を別々にしているところもあります。トイレの入口の設備では、ドアは衝突の危険が高いとのことで、引き戸、アコーディオンカーテンを使用している施設がほとんどですが、始めからつけていないところもあります。
 脱臭についての配慮も大切です。ホームの中でのトイレの位置、風通し、換気設備の条件により左右されますが、常に清潔にしておくことが第一です。
 洋式トイレで、特に気温の低い地方では、保温便座、便座カバーを使用します。また病弱者のためにトイレにナースコールを取り付けることも必要な場合が生じてきます。最近では各トイレに洗面所を設置する施設もあり、より盲老人が生活しやすい設備内容となってきています。

図3-4 おむつ使用による心理的影響

二、介護面

 病弱者、痴呆老人、精神疾患で幻覚のある老人、歩行不能者または困難な老人、場所の確認ができない人、失禁者(排泄感覚のない老人)等については常時トイレ誘導、排泄の確認、後始末等の介護を要求されます。
 中には、尿、便器の使用可能であっても心身の状況によりオムツを使用する場面も生じます。このような場合には特養の処遇と同じような対応が求められ、まず老人個々について排泄の特徴をつかんでおくことが必要です。排泄の間隔、一人でトイレに行けない理由、どの程度の介助を要するか等のチェックが必要です。やむを得ずオムツを使用する場合には特に配慮を必要とします。小川猛著「実践老人心理学」の中では老人が排泄の失敗から始まる心の動きを上図のような流れを示しています。失禁によりオムツ使用が長期化すると、人格崩壊、全身衰弱へと退行する過程がよく理解できます。またその際の介護する側の配慮としては、

(1) 排尿間隔を把握し、本人と相談の上交換する。病的頻尿等の場合には医師に相談します。

(2) オムツの材質や大きさ、あて方にも十分な知識が必要です。盲老人ホームでは余り経験のない分野でしょうが、吸水性が高くしかも肌ざわりの良い皮膚に圧迫感を与えない材質を選びます。化学繊維類は皮膚炎や、褥瘡等の原因になりますので注意します。

(3) 寝たきりの状態にある人には寝具類、衣類に十分検討を加えます。特に冬期間しかも夜間のオムツ交換は急に布団をめくる等の行為は慎しまなければなりません。あらかじめ声をかけ交換する旨を告げ、必要な部分のみの着脱で済ませるように配慮します。

(4) 相部屋の場合は他の老人に分からないようにする配慮もなされなければなりません。盲人だからと言ってカーテン等もせず皆の中で交換する等は人格を著しく傷つけることになります。

(5) 便器を併用する場合の尿器、便器は常に利き手側、片麻痺の場合は健肢側に置きます。またポータブルトイレを使用させる場合も同様ですが、歩行が不安定な場合は十分に起立訓練が出来る状態を確認して使用します。また、そのような状態では、ベッドの使用が自立へ大きな手助けとなります。さらにベッドにはポータブル便器への移動を補助する手すりをつけると便利です。

(6) 臭気にも気を配ります。蓋の付いた容器を用意し、また臭気を残さないために換気は一日二~三回は必ず行います。

(7) 本人に注意や叱責等による精神的負担を与えないようにします。

 これらがオムツ使用者、尿便器使用者に対する主な留意点と言えますが、夜間のトイレの巡回も大切な仕事です。普段自立していると思っている人でも方向を間違える、便器を汚す、紙がつまって、溢れる等の状況が生じてきます。このような時、次に使用する老人が分からず、衣類を汚すこともあるので定期的巡回が必要です。また介護を要する人への声かけ、誘導も必要です。このように盲老人ゆえの介護上の問題に対しては特に配慮するようにしたいものです。
 トイレの履物についても水こぼれがあってもすべらない、使用しやすいものを選びます。歩行不安定な老人の骨折事故がトイレで発生するケースもあり、履物と同時に水のたまらないような床面の構造についても検討すべきです。

二、入浴

 入浴介護上取り上げる事項には、設備上の工夫、事故防止、入浴時間等があります。最近はホームの生活をより家庭での生活習慣に近づけようと夜間入浴を実施しているところもあります。

一、設備面

(1) 浴室内……スロープ、手すり、気泡装置、シャワー、蛇口の下に洗面器が入るように切り込み(図)、スベリ止めタイル、給湯温度調節器、転倒防止用マット、シャワーチェアー、浴槽の縁に位置を示す点字ビス、ナースコール、一人用浴槽(皮膚疾患者用)等が整備されてきています。

(2) 脱衣所……ロッカー、盲人用体重計、貴重品収納棚、扇風機、長椅子、マッサージ機、洗面所、出入口、浴槽口に点字ブロック、手すり、暖房設備、廊下から脱衣所の入口に誘導チャイム等々が設備されています。また老人の希望により、ラドン湯や水流マッサージ装置、ミネラル温泉浴等も取り入れられています。

二、介護面

 視覚障害のために不慮の事故が起きないよう十分注意しますが、主に次のような点に留意します。

(1) 浴室内には石けんが落ちていたり、腰掛台、洗面器等が通路に当る部分に置かれていることのないよう常に整理しておきます。

(2) 職員は、脱衣所、浴槽内にそれぞれついているようにします。所定の位置を離れる時は必ず代りの人に介護を頼みます。

(3) 皮膚病や、湿疹等に気をつけ早期発見に努めます。

(4) 心疾患、高血圧等の持病を有する人の入浴については医療的側面からの注意が必要です。常に看護婦と連絡をとり細心の注意を払います。

(5) ADLの状態に著しい差異がある場合は、衝突による不慮の事態も予想されますので考慮します。

(6) 脱衣室での衣類、履物の間違えもよくあることです。担当は常に確認しておくことが必要です。また、貴重品等については入浴時持たせないようにしますが、どうしても不安な場合や、やむを得ない人に対してはあらかじめ保管場所を決め寮母が責任を持って保管、入浴後返すようにします。

三、入浴時間帯

 時間帯については、定員の多いホームでは午前中からまた少ない定員のホームは午後から行っているところが多く、入浴の回数も週二~三回が普通です。夏期間特別に気温の高い地方や湿度の高い地方では入浴日の他にシャワー浴は自由というホームもあります。
 すでにソーラシステム等を給湯に取り入れているホームや、温泉のあるホームでは毎日の入浴も可能というホームもあります。また今後の課題としての夜間入浴については、昼間(午後)の入浴は要介護者、夜間は完全自立者というように全てが夜の入浴という状態ではありません。夜間の寮母の勤務形態の問題もあり実現に向けては慎重な検討が積み重ねられる必要がありますが、生活の場所と老人の過去の生活習慣に出来るだけ近づける努力は評価されます。また温泉地等で常にお湯が使える等の物理的条件も夜間入浴の実施に影響を与えます。利用者の意見を十分に取り入れながら検討していかなければなりません。

第四節 食事と栄養

一、食事

 盲老人ホームにおける食生活は、楽しくてそして食べやすいように工夫されたものでなければなりません。また利用者に対して周囲に不潔感や不快感を与えないような、食事動作の指導が必要になってきます。ホーム利用開始の段階から、食事動作の観察を通し、助言していくようにします。

一、献立説明

 食事は献立説明により、食器の位置、食事内容を知る訳ですが、献立の説明については、現在全盲老連では時計の文字板にそって説明する方法を奨励しています。「一時にお茶」「五時にワカメと豆腐の味噌汁」「七時にご飯」「十一時におひたし」「十二時に焼魚」といった具合に設明します。
 また、説明は、単に位置を知らせるだけではなく、料理に関した一言も加え、例えば、サンマ一本に対しても「今年初めてのサンマですよ」とか、「油がのった最もおいしい季節です」「昔は皆、七輪でやいて食べましたね」等の食欲をそそる説明の仕方を工夫したいものです。

二、食事動作

 食事の動作指導で必要なこともいくつかあります。食事や衣類を汚さず上手に食べられるような工夫が望まれてきます。

(1) 手洗いは、食堂の入口、あるいは中に設備している施設が多いようですが、床面に水がとび散らないような設備工夫が望まれます。すべり止めマットを敷く等転倒による事故防止に気を配ります。

(2) 食堂の出入口は非常に混雑し、衝突等が起こりやすい状況にあります。寮母の誘導は無論のこと、次のような点についても方法を講じる必要があります。

  • ○棟毎(部屋毎)に食事案内をする
  • ○病弱者並びに歩行不安のある利用者については時間をずらして食堂に入る等の配慮
  • ○誘導ロープを使用する
  • ○病弱者、歩行に不安のある者に対しては、手洗いをやめオシボリを配布します

(3) 配膳された食事内容については献立説明で理解することができますが、器の中の位置、料理された物の大きさ、形等は指先で触れて確認することが多いので、必ずオシボリをつけることが必要になってきます。

(4) 正油やソースの調味料を料理にかける時には、料理を箸で押さえながら箸を伝わらせてかける方法や、盲人用の一定量しか出ない定量ポットの使用や、一押しにどれ位の量がでるのかを教え、自分で使用出来る位置に常に置いておくとよいでしょう。

(5) 椅子に腰かけている事が不安定な者に対してはひじかけ椅子にマジックバンド等で安定をはかります。

三、行事食

 食事は利用者にとって最大の関心事であり楽しみです。日々の献立の中でも季節感のある食品選択を心掛けていますが、季節の行事毎に昔ながらの食習慣を取り入れた献立を作成することも大切なことです。
 行事食の実施にあたっては、時間にゆとりを持ち楽しく語らいながら一時を過ごせるよう配慮します。音楽や職員の話しかけ等を工夫しより効果を高める努力も必要になってきます。行事食の内容としては、

(1) 昔ながらの伝統的な献立を中心としたもの

(2) 模擬店、お好み食、バイキング形式のもの等が各ホームで実施されています。

(3) 郷土料理

四、嗜好調査、残食調査、個別栄養カルテ

 十人十色の嗜好を持つ集団給食の中で少しでも多くの利用者が満足を得られるようにさまざまな方法が取り入れられています。基本的には、過去の食習慣や嗜好を個別に聞きとり、献立に反映しようとするものですが、調査の方法により信憑性が異なってきますので、調査を実施する前に質問内容を十分に検討しておくことが必要です。

(1) 嗜好調査、個別栄養カルテ
 殆どのホームでアンケート調査を主体に実施しています。このアンケート調査票を、寮母あるいは栄養士が聞きとり調査を行っていますが、盲老人にとっては献立の名前や調理方法等聞いても理解できない内容も含まれている事があります。晴眼者であれば写真や材料を見て判断することが可能なことでも盲老人にとっては、料理と料理名が一致しない等の場面が生じてくる訳です。調査項目を一回に五問位に決め実施回数を多くしたり、毎日の食生活の観察から判断したり出来るだけ日常会話の中で、理解するようにします。また個別の栄養カルテ等も栄養士だけが管理、記入するというのではなく、寮母が日常の話題の中で出てきた内容を記入していける方法も考えていくとよいでしょう。

(2) 残念調査
 残食調査も嗜好調査同様施設の給食改善に必要な事項として取り上げられます。
残食調査は、まず個々の配食量を計算しておき、

  • ○下膳する際に残菜入れをそれぞれの料理献立毎に用意して集める
  • ○主食と副食のみに分けて集める
  • ○残菜を一括して計量し摂取量を算出する

 等の方法があります。この残食調査を献立に反映していくにはまず平均残食量を早くつかむことです。分量や調理方法、材料等が嗜好・残食とどのような関わりがあるかを考え、利用者の声も聞きながら献立作成に生かしていくよう努力します。

五、その他

 老人の健康管理ということで考えるとその他解決すべき種々の課題が山積みしています。治療食、終末食、飲み込みの悪い病人への対応、肥満への配慮等です。
 食事と健康管理は利用者の日常生活に大きな影響を与えていることを理解し、処遇会議、ケース会議等で十分検討され各職種一致した方向で援助にあたります。

■ 埼玉県・ひとみ園(行事食)

行事名 献立
一月 新年会、誕生会 赤飯・刺身盛り合わせ・茶碗蒸し・煮物・かす汁・漬物・飲み物・和菓子
二月 節分 御飯・いわしの丸干し・煮物・けんちん汁・漬物
誕生会 生寿司・肉じゃが・漬物・清汁・あんみつ・飲み物
三月 ひな祭り 散らし寿司・串カツ・煮物・はまぐり吸物・漬物・甘酒・飲み物
春の彼岸会 御飯・精進揚げ・筑前煮・かき玉汁・漬物・おはぎ・飲み物
誕生会 小豆御飯・サワラの三色焼き・煮物・清汁・一夜漬け・いちご・飲み物
四月 花まつり 盛りそば・鶏のから揚げ・甘茶・漬物・おしるこ・飲み物
創立五周年民謡大会 生寿司・清汁・フルーツポンチ・紅白もち・飲み物
誕生会 きのこ御飯・天ぷら・白いんげんの甘煮・かぶの一夜漬け・清汁・いちご・飲み物
五月 節句 御飯・とび魚のしそ揚げ・五目豆・清汁・漬物・かしわ餅・飲み物
誕生会 たけのこ御飯・カツオの刺身・新じゃがの煮物・清汁・ぬか漬・飲み物
六月 誕生会 赤飯・アジのシソ入れみそフライ・いんげんソテー・かぼちゃの甘煮・清汁・メロン・飲み物
明光園との交流会 のり、いなり寿司・清汁・あんみつ
七月 盆供養 御飯・精進揚げ・ぬか漬・清汁・おはぎ
誕生会 赤飯・刺身・なすの揚げ浸し・卵豆腐・ぬか漬・清汁・水ようかん・飲み物
土用の丑 うな丼・いんげんの白和え・清汁・ぬか漬
八月 法人認可記念日 店屋もの希望昼食会・飲み物
誕生会 赤飯・串カツ・いんげんの土佐煮・清汁・あんみつ・飲み物
納涼祭 おにぎり・みそおでん・ぬか漬・焼とり・大判焼・飲み物
九月 敬老の日 赤飯・鯛の塩焼・マグロ山かけ・煮〆・ほうれん草のごま浸し・フルーツポンチ・飲み物
誕生会 生寿司・かぼちゃの甘煮・卵豆腐・ぬか漬・清汁・マスカット・飲み物
秋の彼岸会 御飯・精進揚げ・ほうれん草のお浸し・たくあん・味噌汁・おはぎ・飲み物
十月 誕生会 赤飯・マグロ刺身・妙り鶏・白菜の香り漬け・きのこの吸い物・飲み物
十一月 ひとみ園祭 (昼)のり、いなり寿司・牛乳・紅白まんじゅう
ひとみ園祭 (夜)カツ丼・マグロ山かけ・清汁・飲み物
誕生会 赤飯・天ぷら・こんにゃくのゆずみそ田楽・いんげんのお浸し・清汁・飲み物
十二月 クリスマス会 生寿司・骨付き鶏肉の照焼・里芋の含め煮・エビのオーロラソースかけ・ほう
誕生会 れん草のごま浸し・清汁・シャンパン・飲み物・ケーキ

第五節 居室と廊下

一、居室について

 ホームにおける居室は、集団生活を余儀なくされる利用者にとって、プライバシーを保障されたものであることが望ましい姿です。ホームが、いかに老人の人格を尊重し、プライバシーの確保を目標に定めたとしても、他人の出入りにノックはなし、また、見学者や慰問者に対し、居室の住人に事前の断りなく”○○さん、すみません。見学の方にお部屋を見せて下さい”とガラリと戸を開くことなどがあっては何のための目標設定か、分からなくなります。特に費用負担が実施され、利用者の意識が変わりつつある現在、ホームの対応も基本的な実践段階で十分に検討されなければなりません。
 居室はプライベートなところでありたいとする老人の気持ちは、四人部屋よりも気の合った同志の二人部屋、さらに空きがあれば殺到する個室、なおかつ部屋を空ける時はカギをかける等の様子によく表われています。しかし、この点においてはあまりにも無神経な部分があります。どうしても集団の一部という観念が職員の対応に表われてしまいます。共同で使用する場所と個人のプライバシーの空間の区別をきちんとしなければなりません。

一、居室の設備

 プライバシーと共に居室は視覚障害者にとって生活しやすい配慮が成されたものでなければなりません。相部屋の場合は互いの荷物で居住空間が狭くなり、布団を敷くのがやっと、という状態等が生じて夜間トイレに行くのも不自由になります。
 現在各ホームが居室内の備品として備え付けているものには次のようなものがあります。
○下駄箱 ○ゴミ箱 ○掃除用具 ○扇風機 ○コタツ ○テーブル ○ラジオ(含有線) ○茶ダンス

 その他設備面では洗面所、トイレ、ナースコール等を設置している施設もあります。
 収納棚は押入れだけでは足りず個々に整理ダンスの持ち込みを許可している施設が多いようです。押入れについてもさまざまな工夫が見られます。

  1. 押入れを三段にし、真ん中の段に布団を入れ、出し入れをしやすいようにしている。
  2. 押入れ、洋服入れは壁にうめこみ式になっており、居室のスペースを広くとっている。
  3. 押入れの仕切を大きな物を入れるスペースと小物入れ専門にいくつものボックス型に仕切ったものとに分け盲人が判別しやすいよう配慮している。
  4. 押入れの上に天袋をつり、空間を上手に利用している。
  5. 開閉はドア式は危ないため、引き戸またはカーテンにしている。
  6. 棚を各自に合った高さに調整できるようにしている。
  7. 押入れの中に引き出し型の整理箱を備え使用している。

 等々、盲老人にとって使用しやすいように多くの工夫が見られます。
 その他独自の設備、備品では次のようなものがあります。

  1. 寮母室と居室を結ぶインターホン、ナースコール
  2. 音声時計
  3. 有線放送・ラジオ用イヤホーン
  4. 白杖立付下駄箱
  5. 温風暖房機

 居室の入口には段差はなく、また入口手すりには点字による表示等が施されています。また、各居室からそのままベランダや散歩道へ出られる配慮も必要になってきます。あまり、部屋から出たがらない、また活動的でない盲老人には、活動のしやすさという面での居室の整備も必要になってきます。足や腰の不自由な盲老人のためにベッドの部屋の確保や立ち上がりにつかまる力棒の設備等にも配慮を要します。
 居室についての機能をまとめてみますと、

  1. プライバシーを確保できる生活空間
  2. 所持品の収納機能
  3. 個々の身体状況にあった設備機能
  4. 安全性を配慮した設備機能

 等が主なもので全てに援助する側の専門的配慮のもとに初めて諸機能が生かされてくることを知る必要があります。

二、廊下について

 居室を家に例えると廊下は通りにあたります。一般の盲人が道路を白杖をつきながら歩くといろいろな障害物があり、非常に危険をともないますが、盲老人ホームの廊下は物がまったくないといっていい程整理され、安全性が確保されています。しかし、その反面、利用者同志の衝突による転倒、骨折という事故の起こりうる危険な場所でもあります。いくら右側通行、歩行の際の防御姿勢、声がけを徹底しても、そのことを理解できない老人もいるのですから、利用者には常に注意をするよう話す必要があります。

一、廊下の設備

 廊下の設備には、大別すると安全性を配慮した設備
と便利さを配慮した設備があります。

(1) 安全性を配慮した設備

  • ○ 滑りにくく、弾力性のある床材
    長尺ビニールシート(ユニカラーEフロア)
  • ○ 廊下の曲り角の電子チャイム
  • ○ 開閉手摺(上下・前後)
  • ○ 横断ロープ

(2) 便利さを配慮した設備

  • ○ 点字案内板
  • ○ 位置を知らせる点字ブロック
  • ○ 音声時計
  • ○ 非常口前のバードチャイム

二、居住空間

 老人ホームを生活の場と考える時、居住性・居住条件は大事な要素の一つです。たしかに従来の雑居的イメージのある盲老人ホームを含む養護老人ホームでも四人部屋から三人部屋へ、そしてさらに二人部屋へと準個室化が進められていますが、すべての居室を個室にしてしまうとプライバシーの確保はできるが、利用者が孤立しがちになりやすいこと等を考えるといちがいに個室が良いとは言い切れない面もあります。
 盲老人ホームでは個人差はありますが、全般に部屋の中は良く整理されていますし、物をあまり置かないこともあり、居室の空間は広く、全体にすっきりしたゆとりのあるスペースがとられているようです。
 ただ居室の空間の多いだけでは居住性がいいとはいえず、職員は、衛生面にも十分配慮していくべきですし、集団生活の中で共同空間(娯楽室・ホール等)の利用も積極的に働きかけていくべきです。
 いずれにしても盲老人は自ら、必然的に居住性を高めるため工夫しています。職員はより快適にそして利用者個々の園内での生活空間を少しでも広げるよう援助していくことが大事です。

第六節 クラブ活動

一、クラブ活動の目的

  1. 盲老人のもつ閉鎖性―解放
  2. 楽しい時間を多くの仲間とすごすことの意義
  3. 体力、健康増進、感覚訓練
  4. 活動を通し地域との交流を深める
  5. 自己表現、自己実現の場としての活動
  6. 社会性の援助―集団の持つダイナミック性を取り入れた老人へのアプローチ

二、老年期における喪失

 このような内容で目標が設定される背景には老年期における種々の喪失、さらに視覚の欠損により引き起こされる諸問題が視覚障害老人にどのような影響を与えているかという理解が前提となっています。ある分類の方法によれば、老年期の喪失を次のように整理しています。

  1. 自己像の喪失と身体的な老化(白髪、義歯、視力、聴力の衰え、機能障害等)―精神的な老化(物忘れ、計算力の低下、新たな物ごとへの興味、理解が失なわれる。無感動、共感性の減退)
  2. 感覚器の喪失―視覚、聴覚
  3. 社会的存在の喪失―社会的役割、地位を失う
  4. 家庭における喪失―一家の長としての役割や、夫の死等により主婦としての役割の喪失
  5. 人間関係の喪失―配偶者、友人等との死別、交流関係の疎遠化、子供の独立等による別離
  6. 精神的資産の喪失―長年住み慣れた家を建て替える、故郷を去る、大切にしていた物を壊して失う

 このような種々の喪失は老人に“新たな展望を持ちうる明日がない状況下に生きる。”という状態を生みだし過去の栄光や成功話、苦労話に固執していくようになると言われています。社会的役割が大きく、しかも責任ある立場にある老人にとってはこれらの喪失が、さほど精神的負荷にならず乗り越えられる例も数多くあります。つまり老化による種々の喪失という客観的事実をどのように受け入れるかということにより、生活の形態は変わっても、適応の状態を維持できる老人もいますし、また、失われた状態に対する精神的なあせりや、自己を取り戻したという強い願望が、強く表われて不適応な状態に陥いる老人もいます。いずれにしても、家庭内でも、社会的にも興味、関心がうすれ、自己のからに、とじこもりがちになる訳です。また、施設の老人の中には、ホームの行事にも参加したがらず、クラブ活動や散歩の呼びかけにも応じない老人がいます。その状態で特に欲求を出すこともなく、一人でいることの苦痛も感じていないので、老人に対し、本人がそうした状態を好むのであれば、無理に諸活動や日課に参加させる必要がないとの意見があります。一概には言えませんが、高齢でしかも、 日常生活全般に低下が表われてきている場合は要注意です。即ち、老人の喪失への自覚症状を自分で認知できなくなった時や、ホーム入所によるあきらめ等が認められた時には孤独の時間は老人の精神状況をさらに退行させる結果になる場合があるからです。
 問題はむしろ対応の仕方にあります。日常生活に対して無関心であったり全般的に喪失の著しい老人が集団での活動に抵抗を示したとしても歌や、人が嫌いとは限らない訳です。導入の段階での職員との十分な関係づくりや、友人をつくること、職員がついて、趣味活動をともにやってみる等の対応が必要になってきます。

三、 視覚の欠損による喪失

 一般の老人に訪れる客観的な喪失とともに視力障害によって引き起こされる問題もあります。
 アメリカのトーマスキャロル神父による二十の喪失に代表される諸問題です。

一、 心理的安定性

  1. 身体の完全さの喪失
  2. 残存諸感覚に対する信頼感の喪失
  3. 周囲の環境との現実的な接触の喪失
  4. 視覚的背景の喪失
  5. 光が確保される状態の喪失

二、 基礎的技能

  1. 行動力の喪失
  2. 日常生活の諸技術の喪失

三、 コミュニケーション

  1. 文書によるコミュニケーションの喪失
  2. 話し言葉によるコミュニケーションの容易さの喪失
  3. 情報の摂取による進歩の喪失

四、 鑑賞力

  1. 美に対する視覚的認識の喪失
  2. 楽しみを与えるものに対する視覚的認識力の喪失

五、 職業の保障

  1. レクリエーションの喪失
  2. 就職の機会の喪失
  3. 経済的保障の喪失

六、 全体的な人格

  1. 人間としての独立性の喪失
  2. 社会的に十分な人間としての身分の喪失
  3. 人目に目立たない状態の喪失
  4. 自己に対する敬意の喪失
  5. 幅広い人格を形成する力の喪失

 このブラインドネスに指摘された二十の喪失は、視覚障害者が視覚に欠損を生じた時期その原因、年齢、生活歴、失明歴、家族関係等により、必ずしも一定ではないが、ひとしく視覚障害によって、引きおこされる問題点を如実に物語るものであり、視覚障害者の指導と訓練の上に貴重な示唆となるものです。

四、 老人ホームにおけるクラブ活動の意味について

 さらにホーム入所により失われるものもあります。特に視覚障害からの回復への期待がなくなり、あきらめの中にホーム入所に至るケースは老人の心理的背景の中でかなりのウエートを占めています。こうした状況下におかれたホームの盲老人の「心身両面に渡る意図的小グループ活動」がクラブ活動といえるのではないでしようか。
 より専門性を追求することの真の意味はこれらの状況を理解した上での援助ということです。利用者とともに行う活動の中に個々の求める内容の違いについての理解が、処遇の効果を高める主条件であるといえます。
 またその理解があり、初めて本間昭雄聖明園園長が言われる「年老いて、生きる根源は、やはり精神力の多様化であろうか、強い意志を持ち、生命の続く限り力一杯努力を続けることではないか。」
という気持ちにまで、職員との信頼と共感の上に利用者自身が、感じた時、初めて閉ざされた内面の扉が、ゆっくりと開かれるのではないでしょうか。
 クラブ活動の紹介という項目に立ちもどって考えてみますと、「クラブ活動はむろん各クラブの持つ目的活動を媒介として、グループ活動の持つ人間との関わりを通して個々の内面に働きかける意図的な活動」ということができます。

クラブ名 クラブ目標 実施内容 回数
詩吟 ・クラブ員の親睦をはかり
日々の生活をより楽しくさせる。
・独吟を主とした吟術の技能を深める。
・地域社会の吟詠大会等に見学参加
交流を行いたい。
・毎月の誕生会参加
・吟詠発表会(施設内)
・慰問交歓会等参加
・地域の吟詠会との交歓会
週一回
点字 ・頭、手指の運動によって老化を防ぐ。
・技術的向上を目指すのではなく、
初歩的な点字の読み書きが
出来るようになるまで学習する。
・クラブ員相互の親睦をはかる。
・点字の勉強だけでなく、点字新聞、
雑誌等の読み聞かせ等
バラエティーに富んだ活動
・個別に目標をたて、個別指導
・親睦を図るため茶話会を開く。
週一回
藤龍 ・物を作る楽しみを味わい、
作業を通してコミュニケーションの場とする。
・心身の老化防止を図る。
・園内の作品展示会
・材料の工夫により作品に変化を
持たせる。
・園外のバザーに出品
週一回
裁縫 ・作品製作の喜びを味わう。
・老化防止やリハビリに役立てる。
・園内美化に役立てる。
・クラブ員相互の親睦を図る。
・小物入れ、雑巾、タオル人形、肌着、
座布団、腹巻き、マフラー等製作、
園内の作品展示会
・交歓会、慰問者に作品寄贈
・地域の公共施設、学校等に作品を
寄贈する。
週一回

五、 クラブ活動の進め方について

 グループワークの原則的な部分については前述にも触れましたが、

  1. 集団活動の中で個別の問題を解決することで、生活全般に渡る向上を目指す。
  2. グループ全体の向上を目指す。
  3. 特に人間関係の改善や交流関係を作り上げることによる生活空間の拡大。

 という内容になると思います。
 実際にグループの指導に当る場合は、上記のことを、担当する職員が意識化していなければなりません。次に担当に取る側の留意すべき点についていくつか考えてみます。

一、 担当者の役割

  1. 目標を設定する
     クラブ活動やグループ活動に当る担当者は、例えばそのクラブが陶芸クラブとしますと、陶芸の出来の良し悪しや技術的な側面で評価をしようとしてはいけません。日常の個々の生活状況や視覚の障害の程度に応じた実現の可能性が最も身近な部分に目標をおきます。
     この目標は活動記録の中で個別に整理しておきます。
  2. 担当は、一つのクラブを一年間続けるホームもあれば、また毎週担当が交代制になっているホームもあります。
     老人の側に立って考えると、同じ担当の方が安心感があります。
     ぎきるだけグループ全体に明るい雰囲気を持たせるようにします。
     例えば、各クラブにクラブのテーマソングを決めて始まりと終りに歌うとかクラブの親睦会を定期的に行う、いつもと違う場所で行う等も考えられます。これらも担当が常にクラブ全体の状態を把握して始めて効果を上げてきます。
  3. 準備は全員がクラブ活動に集まってくるまでには終了させておきます。
     個々のプログラムが違うクラブ活動では、作品等の材料を自分で管理できる者にはその日のクラブ活動が終ったら持ち帰り自分で保管させてもよいし、置く場所を決め任せてしまうことも必要です。
     器楽等道具を必要とする場合は置く場所をいつも一定にします。
  4. 点字や手芸等細かい巧緻性や訓練を必要とする活動は指導のステップを出来るだけ細分化します。
     “あの老人は勘が悪い”等とは決して言ってはいけません。むしろ指導の仕方に問題がある場合が多いのです。
     脳卒中の後遺症等で片マヒになった老人が水道の蛇口にタオルを巻きつけ上手にしぼるように一つ一つの段階で、視覚障害者であっても出来るような創意工夫が必要です。例えば藤手芸を例にとって考えてみます。
     次の図は堅芯を五本ずつに分け柔が編み芯をかける基本の部分ですが藤はクネクネとまるまったりよれたり盲人がおさえるのは大変です。
     しかし、この部分が上手に固定することができると次のステップは比較的容易に進むことができます。そこでこのステップの所で次のような工夫をしてみました。少し厚みのある板の中央をくり抜き台をつくりました。
     そしてくり抜いた板の上に藤をのせ1~4の順にガムテープで固定するよう指導しました。こうすることによって藤の扱いが容易になり編み芯も二周目までその台のくり抜いた下をくぐしながら編むことができました。
     このように視覚障害者でもちょっとした工夫で一つのステップを越えることができます。
  5. 視覚障害者がどのようにして物を認知し、楽しみを作り上げていくのかを個々の状態によって理解するように努めます。ベーチェット病で失明した宮尾正さんという方は、蘭と椿の栽培を趣味としてやっています。
     「盲人が花の美しさをどうして知るか、不思議でしょう。それは香りと花びらの開き具合で楽しむのです。蕾から中開き、満開にも三日前、二日前、一日前とその度合の変化により美しさが分かるのです。花と葉に触れるだけで花が水不足で元気がないことまでわかりますよ。」と述べています。(国際プレスセンター発行“光への挑戦”より)
     盲人が何かをつくるという動作には、指先、鼻、耳、口等失なわれた視覚の代わりに残されたあるゆる感覚を利用しますが、担当する者にそれらに対する理解や共感、同時体験の努力なくして真の援助はなしえません。
     アイマスクを使用した訓練が重視されるのもこうした意味があるからなのです。日常生活の上においても例えば歩行、食事、盲人時計の使用等、まず、視覚障害者と同じ条件でやってみましょう。そうすることによってどう数えればよいのか、分かりづらい点はどこか等が理解できるはずです。
     クラブ活動の記録には、日時、場所、担当者、指導者、参加者、活動内容、個々の状況が記入されている必要があります。ここに示した例は、個々の状況を非常に細かく観察した素晴らしい記録です。
     このように誰がみても個々の活動と全体の様子が一目で理解できる記録が望ましい訳です。

図3-6

二、 利用者間のトラブル

 クラブ活動の中での老人同志のトラブルはよくあるものです。リーダーシップをとりたい老人、自分の技術を自慢したい者、クラブには参加するがいつも不満のある者等原因はさまざまです。どのように対応したらよいのでしょうか。

  1. クラブ活動を始める前に必ずその日の活動内容を話し合う時間を持ちましょう。また、雰囲気をやわらげる努力も必要です。
  2. トラブルは職員の分からないところで起こることがあります。廊下を歩いていてぶつかったのが原因で仲が悪くなったとか、陰口を言われた等が尾を引てい“あの人のいるクラブには出ない”と発展していくこともあります。放置せず、すぐに話し合いをして互いに理解させます。
  3. リーダーを決める必要がある時は期間を区切って決めます。
  4. 全体としては技術よりもクラブ活動の主眼を個々の満足の度合におきます。往々にして職員が全体を技術的なもので評価しがちですので注意します。
  5. 皆自分のことについて認めてもらいたいという気持ちがあります。この気持ちをちょっとした言葉で傷つけてしまうとグループ参加の意欲がうすれていきます。一人ひとりに声をかけ、励まし全体の中では間違い等を指摘することのないよう気をつけます。

三、 グループ内の人間関係

 クラブ活動に参加する動機は自分の趣味の他に同じ部屋の友人が参加しているとか、何となく性格にあって楽しそうだ等があげられています。ホーム全体は無意図的集団であるのに対し、クラブ活動はその中での目的集団です。それだけに人間関係も発展しやすくなります。ホームの内での単調な生活の中で老人同志、あるいは職員やボランティア、地域の指導者と気軽に、新鮮な会話を楽しむことも出来ます。
 ホームのクラブ活動は、ここに大きな意義があるのです。なごやかに、誰でも受け入れられる雰囲気のクラブを目指します。そのためには前述の担当者の問題や、老人同志のトラブルの解消に最大の注意を向け、グループ活動が人間関係をつくりあげる手段として活用されていく必要があります。

四、 参加しようとしない盲老人への働きかけ

 一人でいることが何にも苦痛でないと思われる利用者についての考え方は前に述べました。クラブ活動だけに参加したくないという訳ではないと思います。
 本当に必要な部分(トイレ、食事、入浴、買い物)しか活動しなくなるのも一つの退行現象です。人前に出るわずらわしさやどうせできないというあきらめ、面倒くさい等の状態は要注意です。しかし、クラブや集会に参加しなくても十分に趣味もあり、友人もおり、自主的生活を送っている利用者は違います。ここで考えるのは、一日をただぼんやりと座って過ごすとか、友人もほとんどいない盲老人のことです。
 このような利用者に対しては、やはり、個別の援助が必要です。
 職員とのかかわりの中で信頼関係をつくりあげ、参加を呼びかけ、本人にあった活動に徐々に誘うことが必要です。「いくら誘っても、あの人は一人でいるのがいいと言っている」という職員もいますが、私達はその言葉のあてはまる老人とそうでない老人を画一的に考えてはいけません。例えば、寝たきりで、長い間オムツをあてがわれていた老人が「今日からオムツをはずし便器でできるように頑張りましょう。」と言われると大きな抵抗が返ってきます。むろん職員はその老人が膀胱の病気もなく、尿意も正常に分かり、言語による意志表示も可能で十分、便器、尿器で対応できると判断した上でのことです。この老人の抵抗は長い間のオムツに自立の心が喪失されてしまったことによるものです。
 このようなケースではよく、リハビリ訓練を並行して行います。「今まで、自立による座位保持もできなかった」のが徒手矯正やギャッジベッドを利用し、座位保持が可能になったとたん、オムツから尿・便器への移行も自分でやる意欲がわいてきて、はずすことができた、等という事例があります。
 「閉ざされた心」は糸口をどうつかむかが大切です。特に高齢の中途失明者に対しては、健康管理面からの配慮が大切になってきます。クラブ活動に無理に参加というよりも、余暇を考え、歩くことや歌等を小グループで行う方がよいでしょう。


主題:
盲老人の豊かな生活を求めて No.3
45頁~110頁

発行者:
全国盲老人福祉施設連絡協議会

発行年月:
1986年6月1日

文献に関する問い合わせ先:
全国盲老人福祉施設連絡協議会
〒198 東京都青梅市根ヶ布2-722
TEL(0428)24-5700