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盲老人の豊かな生活を求めて 援助の手引

第七節 行事実施について

一、 行事についての考え方

 行事の計画作成や実施については、利用者が自ら参加できるような配慮が大切です。押しつけの計画であってはいけません。利用者は、計画作成―実施という過程に参加することを通して、自主性や協調性を経験していきます。また、行事は、単に楽しむためだけでなく、コミュニケーションが十分図られるよう配慮することが大切です。
 このほか、視聴障害老人という特殊性を考慮し、次の諸点について留意することを忘れてはなりません。

一、視力障害の程度により、活動範囲が異なるので、全体的に誰れもが関心をもち、皆で楽しめる行事プログラムとすること。

二、比較的ADLの高い利用者に対して園外行事を実施するようなときは、参加できない利用者に対してこれに代わる行事を実施するなど、平等・公平な処遇を行うこと。

三、視覚障害者という意識から利用者はとかく消極的になりがちですが、この意識を取り除き積極的に楽しく行事に臨むことができるような、心理的援助をすること。

四、地域の人々との合同行事は、利用者にとって社会性を保つ上で大変重要なことです。利用者の中には、地域の人達と交わることに拒否的な老人もいますが、あらかじめ地域の人達にお願いして、一人か二人についていただき、ともに行動するようにすると参加の楽しみがわいてくることもあります。

二、 行事内容

 行事内容はバラエティにとんでいます。中には地域の特性を十分に取り入れた行事もあり、各施設毎に、どのような行事が利用者に喜ばれるか、工夫していることが良くわかります。
 内容を詳しく紹介できないのが、残念ですが、ここでは盲老人ホームで現在行なわれている行事を紹介します。

四月 園遊会、潮干狩り、花見会、花まつり、草もちつき、幸せ講座、模擬店、家族会、ハイキングと会食(家族の招待)、遠足、貝ほり、歌謡ショー、市内名所見学、神社祭礼、クラブ活動一学期始業式
五月 野点、温泉旅行、いちご狩り、歩こう会、新緑をたずねて、ミニ喫茶、端午の節句会、母の日(カーネーションプレゼント)、野外お茶会、お好み駅弁賞味会、運動会、バス旅行(1泊)、つつじ見学、藤の花見、しょうぶ湯、屋外パーティ、春の演芸、模擬店、家族会、車椅子遠足、お花見、老人大学、クロッケー大会、観音まつり、ゲートボール大会、釣大会、観躅会、まんじゅう作り、外食会
六月 囲碁将棋大会、日帰り湯入り、吟行会、屋内レクリエーション、父の日(カーネーションプレゼント)、室内ゲーム大会、老人福祉大会参加、クラブ活動発表会、他園との交流会、日帰りレクリエーション、いも掘り、潮干狩り、家族会、雑巾寄贈活動、日帰り旅行、供養会、点字競技会、映画会、陶芸教室、春のバラ展、芸能発表会、新緑散歩、観あやめ会、釣大会、山菜狩り、スポーツ大会
七月 七夕祭り、小唄温習会、納涼民謡踊大会、墓参、ソーメン流し、ビヤガーデン、海水浴、盆供養、お寺参り、セブンセブンコンサート(他老人ホームとの交歓会)、運動会、地曵網、波あそび、古寺参詣、納涼演芸会、奉仕クラブ感謝祭、花火大会、家族との交流会、盆踊り大会、潮干狩り、ゲートボール大会、クラブ活動一学期終業式
八月 ぶどう狩り、盆踊り大会、盆供養、ソーメン流し、納涼大会(演芸会)、バーベキュー、供養踊、一時帰省、健康表彰、海遊び、体験農場
九月 一泊旅行、クラブ発表会、老人作品展、敬老の日の集い、彼岸法要、ハイキング、十五夜お月見、お好み寿司賞味会、日帰り旅行、運動会、家族会、社会奉仕(雑巾贈与)、彼岸のお寺参り、老人ホーム交歓会、地元老人クラブ交歓会、ぶどう狩り、一日園長、いも煮会
十月 運動会、会同以霊祭、いも掘り、やきいもパーティ、十三夜お月見、バザー、紅葉狩り、秋の旅行、ふれあいひろば(クラブ発表他)、りんご狩り、杖供養、梨狩り、邦楽鑑賞会、ぶどう狩り、芸能大会、家族会、名所見学、寺社迎り、屋外レクリエーション、収穫祭、
十一月 作品展示会、サークル発表会、展覧会見学、演芸大会、紅葉狩り、日帰り湯入り、文化祭、お寺参り、お好み駅弁賞味会、菊人形見学、町民祭参加、いも掘り、観菊会、家族会、みかん狩り、白い杖福祉の集い(視覚障害者の福祉の向上をうたって白い杖行進等をする)、一泊旅行、ゲートボール大会、収穫祭、地元婦人会との交歓会、野外散策
十二月 年忘れ芸能大会、クリスマス大会、もちつき大会、針供養、忘年会、冬至(ゆず湯)、詩吟交歓会、年末飾付、奉仕クラブ感謝会、食べ歩き忘年会、パチンコ競技大会、除夜の鐘をきく会、クラブ活動二学期終業式、謝恩法要、作品展示会、ホーム内七大ニュース選定
一月 正月ゲーム大会、家族懇談会、初日の出参拝、カラオケ大会、初笑い大会、新年挨拶会、新春お茶会、初詣、鏡びらき、だるま市見学、マラソン大会、室内ゲーム、浪曲会、まゆだまつくり、クラブ活動三学期始業式、かくし芸大会、書き初め、凧上げ会、民謡大学修、卒業式、すきやき会、どんどんやき
二月 バザー、節分会、模擬店、針供養、駅弁賞味会、クラブ発表会、文化祭、老人作品展、ボーリング大会、茶会、湯治、室内ゲーム大会、映画会
三月 ひな祭り、墓参、彼岸法要、ねはん会、お寺参り、観梅、演芸会、温泉旅行、人形展、合同慰霊祭

三、 行事の企画・立案

 行事の企画・立案について実際にどのように行われ
ることが望ましいのか考えてみます。

図3-7 企画手順を現した図

 この際、利用者の意見をどのように反映させるかが問題です。企画上、利用者の参加のポイントが全体的な流れよりも具体的な場面が置かれています。
 例えば、日帰り温泉旅行を例にてれば、日程、輸送方法、ボランティア関係等は職員サイドの分野でしょう。これに対して利用者と協議する内容は、場所、昼食の内容、余興等ということになります。
 また、一つの行事が終了した時には、次回の同じ行事に向けて反省会を持つようにしたいものです。

四、 行事のプログラム

 行事を実施に当たっては、次のような諸問題について事前に検討しておくことが必要になります。

  1. 参加しようとしない利用者に対する働きかけ。
  2. 利用者と職員とのかかわりについて、内容説明の方法、個々の状態にあった援助
  3. 寝たきり盲老人の行事参加
  4. マンネリ化する行事をどのように改めていくか。
  5. 行事は老人の生活にどのような価値をもっているか。

 参加したがらない老人については、クラブ活動の節で錯べたことと基本的に変わりはありませんが、行事はクラブ活動にはない楽しさがあることを理解してもらいます。同時にクラブ活動は個別に十分配慮の届く人数・内容で、しかも同じ趣味等が根底にあるのに対し、行事はどうしても総体的なもの、しかも、元気な人が中心になってくる傾向があります。このような事が、参加したがらない老人の心の負担にならないような企画内容が求められます。
 企画の段階制、普段参加しない人の意見を個別に聞き、その意見をプログラムの中に組み入れることにより参加するようになった例もあります。また、たまに参加した人に対し、余り“珍しいですね”とか“よく来ましたね”と口々に職員が話しかけることも考えねばなりません。その言葉がけで“こんなに皆が気にかけてくれるのならこの次も是非参加しよう”という場合もありますし、逆にうつ病等の傾向がある人にとっては、負担が増大するということもあるからです。うつ病的傾向のある人は、午前と午後とで、気持の持ち方が変わってくることもよく知られています。
 このように個々の理解が相当に幅広い判断をもってなされなければ単に参加する、しないということの結論は簡単に出すことはできません。
 利用者と職員とのかかわりという点から考えると、職員は、個々に対応できれば理想的といえるでしょうが、職員の数から考えると実現は困難です。
 行事を行う際には、自立の状態によって、参加の内容とグループ分けをする方法が良くとられています。職員が同じ自立程度のグループを援助していく方が、よく目がいき届き、利用者にも負担が少なくなるからです。
 視覚障害を持った盲老人に対して次に配慮することは、行事の流れや進行をどのように説明したら良く理解してもらえるかということです。
 例えば運動会等で次から次へと流れが変わり途中に笑いや、心暖まる場面も、職員の笑い声だけがそこに残るのでは意味がありません。職員はこの点に関して得手、不得手にかかわらず、十分に訓練される必要があるし、一人一人の寮母、指導員が、本当に大切だと思わなければ盲老人を満足させる説明はできません。一つの訓練方法ですが、運動会を例にとりますと、一つの競技ごとに司会者を次から次へと交代していきます。交代した職員は次の司会者の分担を担当していく訳です。まかせきりで司会進行するのではなく、皆が説明の仕方について学んで、競いあうことも処遇の向上に役立ちます。あるいは、職員の一人にアイマスクを使用してもらい説明の仕方について、どの点がわかりやすかったのか、また、物足りなかった等というデーターを作成し、会議等で討論の資料にすることも効果的です。各章に共通することの繰返しになりますが、やはり同一体験の共通理解への努力なくして処遇向上や、専門性を身につけることはできません。
 最後に行事のマンネリ化の問題があります。特に毎月の誕生会や定例行事等に多く表われてきます。寮母、指導員の研修等でも必ずこのテーマが出されてきます。そこで、行事内容の見直しになる訳です。

(1) 職員がマンネリと判断する材料

  • ○参加人数の減少あるいは固定化
  • ○利用者の反応
  • ○同じようなプログラムの繰り返し

(2) 盲老人ということでプログラムが限定され、新しい企画にいきづまりを感じた。

(3) 利用者について

  • ○行事のプログラムがいつも同じで、大体の予測がついてしまい興味がわかない。
  • ○自分にあったプログラムが用意されていない。等がマンネリ化の要素となってきます。

各盲老人ホームの行事内容を分類してみると、

  1. 自然に親しむことを主としたもの
    潮干狩り、花見会、苺狩り、つつじ見学
  2. 会食
    バイキング、模擬店、駅弁賞味、外食会
  3. ゲーム的要素
    運動会、クロッケー大会、ゲーム大会
  4. 歌等音楽的要素
    歌謡ショー、のど自慢大会
  5. 健康保持
    遠足、歩こう会、車椅子遠足
  6. 教養、娯楽的要素
    名所見学、老人大学、映画会
  7. 地域との交流
    盆踊り、地曵網引き、花火大会、ボランティア祭り、老人クラブ交換会
  8. 利用者の趣味
    クラブ発表、釣大会、作品展示
  9. 盲老人にとって心の支えとなるような内容を
    神社祭礼、古寺参詣
  10. 昔の体験を主としたもの
    草餅つき、凧上げ大会
  11. 旅行等を主としたもの
    温泉旅行、バス旅行

 等が主ですが、他にも家族との交流を主としたものや、視覚障害者の集いへの参加も行事としては、定期的にとり上げられています。
 一つ一つの行事を企画するにはその目的をはっきりさせ、年間を通してほぼ偏りのないよう配慮します。
 また、利用者もそれぞれの行事に対し選択の自由がある訳です。この選択には、プログラム内容とともに人間関係が大きな要素となっています。
 いつも行事に参加しない利用者が、新年のゲーム大会に自分の部屋の担当が唄を歌うということで、その歌を聞くことを目的として参加する場合もあります。
 これは担当に対する信頼関係がある程度でき上がってきた段階と考えることもできます。また友人に誘われてということもあるでしょう。このように人間関係を上手に行事参加に利用することは大切です。
 マンネリはともに惰性で企画、参加していることによる相互に飽きがきた状態です。プログラムを次々と目新しいものに取替えることのみにこだわると、また行き詰まりの状態が繰返されます。進行の方法、司会者のユーモアある話し方、参加者の紹介の方法等にも工夫が必要です。
 同じプログラムでも司会者の話し方ひとつで雰囲気がガラリと変りますし、進行の仕方、道具一つでどれをとっても十分に検討された内容を考えるようにしましょう。このように周到に企画され、笑いのうちに楽しかったと心から喜びと思い出をつくり上げていくのが行事の楽しさです。

■東京都・聖明園曙荘(誕生会)

六月誕生会実施要項

-誕生者- 氏名 生年月日 年齢
△ △ △ △ 明治四十五年六月六日 七十二歳
△ △ △ △ 明治三十四年六月八日 八十三歳
× × × × 明治三十八年六月十五日 七十九歳
× × × × 明治四十三年六月十八日 七十四歳

※平均年歳八十歳

-職員誕生者-

× × × ×  六月五日

◇◇第一部◇◇

開会        誕生者入場   指導員
斉唱        「聖明園の歌」一番
誕生者の紹介
記念品の贈呈
斉唱        「誕生祝歌」
園長挨拶
来賓挨拶
乾杯
誕生者挨拶

◇◇第二部◇◇

1 詩吟     「青菜の笛」
2 琴       「ぶんぶく茶釜」
3 コーラス   「星影のワルツ」
4 ハーモニカ  「天然の美」
5 俗歌     「深川くずし」
6 職員     「もしも明日が」
7 小唄     「舟に舟頭」「アサリ取れたか」
8 詩吟     「本能寺」
9 民謡     「倖せ音頭」

◇◇第三部◇◇

斉唱       「聖明園の歌」三番
来賓退場
閉会
誕生者写真撮影  ○○指導員

第八節 結婚問題

一、利用者の結婚問題

 全国の盲老人ホームでは、ほとんどが利用者同志の結婚を認めています。結婚や恋愛そのものは個々の基本的人権として容認されなければならない訳ですが、施設によってはそのための条件整備が出来ていないためにホーム内での結婚に制約をもうける場面も生じてきます。即ち夫婦部屋(二人部屋)がない、施設の考え方が結婚に対し消極的である。家族の反対等が強く利用者の意志が尊重されない等々の場合が考えられます。同時に老人の間や私達職員間にさえ“老婚”ということに否定的な潜在意識を有している場合が多く、これが一番のネックになっているのではないかというケースがあります。処遇=生活管理という体質が老人の生活の中で自由意志や全人格的な個性を損うことのないよう配慮が必要です。
 老年心理学の立場からも老人の「孤独感」や「自由意志の尊重」、「家族に対するアプローチ」は重要な課題として取り上げられています。特に配偶者との死別や老人ホーム利用等による家族分離から生ずる「孤独感」の捉われから解放される最も有効な方法の一つは、新たな異性の友人、できたら配偶者を得ることだとしています。
 ある施設では昭和六十年十二月現在九組の園内結婚のカップルがいます。
 同じ数字が結婚者同志ですが、いずれも利用後一~二年間に相手をもとめ不安定な時期を乗り越えています。特に男性は自己主張の強く、ボス的存在になりうる老人が、結婚により安定しているのが処遇上の特徴です。年齢層もホーム全体の年齢からみると比較的若く先天性視覚障害のための過去未婚であった人も含まれています。
 視覚障害を有した盲老人がホームを利用するに至る心理的プロセスについては既に前章で述べた通りですが、全国の他の老人福祉施設に比して養護盲老人ホームに結婚希望者あるいは結婚しているカップルが多いことも注目に値します。

表3-5 園内結婚例

  性別
結婚組数
男(年齢) 女(年齢) 結婚月日 備考
1組 87 62 54.5 入籍
2組 54 56 54.5 未入籍
3組 68 68 54.5 未入籍
4組 70 63 55.4 未入籍
5組 68 62 58.6 未入籍
6組 64 63 58.6 未入籍
7組 61 56 59.8 未入籍
8組 59 65 59.9 未入籍
9組 63 61 60.6 未入籍

(年齢 結婚時)

二、園内における対応

 ホームの中で、盲人同志の交際が始まった時は、私達はどのように対応すべきか考えてみます。
 盲老人が盲老人ホームを利用していちように述べていることは同じ視覚障害者という安心感です。家庭や他の老人ホーム、あるいは病院では、自分一人が障害者という意識から、素直に心を開くことが難しいものですが、盲老人ホーム内ではそのことによる気兼ねや、不安は軽減されてきます。同じ部屋の人々や異性に対しても常に共通の問題を見せる訳です。その意味においては互に相手の状態に応じ手助けをし合ったり、行動を共にする機会が自然と多くなります。また、行動をともにするということは、ともに手を引き合う等のスキンシップも生じ、親密の度合も深くなるようです。
 園内では、このような状態から発展して、交際が深まってきた時に問題となる点が二つあります。一つは他の老人の反応であり、一つは職員の対応の仕方です。前者は、話題の少ない老人ホームにとっては大きなニュースであり、また、好奇心をあおる恰好の材料です。また、後者は職員が老人を処遇対象者としか見れない点に大きな問題がある訳です。老人が恋愛を、そして結婚するということへの意志が十分に汲みとれず、対応に苦慮しています。
 このような時には次のような点での対応が必要になってきます。

表3-6 結婚希望の有無(公私別)

    項目
公私別
いる いない 無回答
私立 実数 12 14 2 28
42.9 50.0 7.1 100
公民 実数 1 2 0 3
33.3 66.7 0.0 100.0
実数 13 16 2 31
41.9 51.6 6.5 100.0

表3-7 結婚希望の内実際に結婚した人の有無(公私別)

    項目
公私別
いる いない 無回答
私立 実数 9 7 12 28
32.1 25.0 42.8 100
公民 実数 0 2 1 3
0.0 66.7 33.3 100.0
実数 9 9 13 31
29.0 29.0 42.0 100.0

全国盲老人ホーム在所者実態調査(II)より

一、ホーム全体として恋愛、結婚は当然のこととして受け入れられる雰囲気をつくる。

二、すでに何組かの老人が結婚しているホームにおいては周囲の老人もさ程の騒ぎや関心を示しません。日常から、ホームは自由性を重んじている事を放送や、集会の度毎に呼びかけておくことも必要です。

三、社会通念上問題があると思われる行為に対しては早めに話し合いを持つことが必要です。あるホームでは二人のあえる場所を確保したり部屋にカーテンで仕切りをつけたというところもあります。本人達の意志確認を行い周囲の事情が許せるならば早期に結婚させてもよいのではないでしょうか。また、当人同志は結婚の意志があっても家族の反対や設備面で実現出来ない場合もありますが、この際も交流については職員がよく事情を理解しておくことが大切です。

四、入籍の問題には金銭上の問題もからんできます。本来は当人同志の意志が尊重されるべきですが、家族の同意を得ておくのが望ましい姿です。全国の盲老人ホームから入籍したケースは数少ないながらも報告されています。しかし財産上の問題はなく、身元引受人も視覚障害に対して十分な理解を持っています。ただ、家族間の交流はほとんどなくホーム内での老人とのつながりを通して容認し合っている程度というものです。いずれにしても入籍については慎重に検討する必要があります。

五、ホーム内の結婚はいわゆる内縁関係がほとんどですが、ともに配偶者として認め合っている訳でその点においては精神的なつながりは何ら変わりません。従って、どちらかが病気になった時や、入院あるいは死亡した際等も、相方の家族の十分な協力を頼み、納得の出来る状態にすることが必要です。

 いずれにしても「あなたがなるだろう姿が私なのです。私がかってあった姿があなたなのです」とローマ碑にあるように、職員がどれだけ現在の老人の立場を理解できるかということが、課題であることはいうまでもありません。特に盲老人ホーム内では生活上、ほとんどが保障されている中、残された個人の人間としての生き方を真剣に追求していくことが必要なのではないでしょうか。

第九節 自治会活動

 自治会活動は、盲老人が、日常生活上の諸問題や、行事の決定、親睦等を通して直接自分達の意志表示を行う、いうなれば、社会参加の縮図であるといえます。
 毎日の生活のすべての範囲ではないにしろ、自らの要求が、ホームの生活に反映されることは、生きがいを高める上にも、生活意欲を高めるためにもとても大切なことです。

一、会の内容

 会の主な事業は主に次のような内容で運営されています。

  1. 利用者担当の親睦-旅行会、懇和会
  2. 利用者同志の慶弔、入院-見舞、誕生祝、米寿祝金
  3. 園内生活向上のための協議(要望事項改善)
  4. 対外施設との交流-地域老人との交流会
  5. 行事-演芸・娯楽・慰問ボランティアに対する礼状、月間行事等の企画へ参加
  6. その他-アフリカ難民救助カンパの募金や、赤い羽根共同募金集め等その時々に応じた社会的活動を自主的に行う

 等が主な活動内容となっています。ホーム内のことにこだわらず、意識を対社会に向けた活動も見られます。このようにホームの閉鎖的要因もまだまだ社会に何らかの形で自主的に参加する喜びが、もっと考えられなければいけないでしょう。

二、運営

 構成は原則として全員参加です。役員はその中で選出されますが、役員意識が強すぎると感情的になり、民主的運営を維持していくことが難しくなります。そのため、職員は、代表者とよく話し合い、必要によってはワーカーとしての立場で運営を見守っていく必要があります。役員の選出については、

  1. 総会で推薦、選挙
  2. 利用者全員の選挙
  3. 座談会等で皆の推薦(会長は最高齢者等々)
  4. 会長副会長は選挙、他の役員は各棟より互選

 等の方法が取られています。また職員が側面から援助を与える部分としては、会費等の金銭面の管理、会議記録、決定事項の伝達、会の民主的運営等が主な点です。

三、会の規約、会議録

 会の規約は老人同志の相互規制的な内容に陥らないように注意します。どのような集団であれ、集団内での各構成員同士の相互規制が多かれ少なかれ働くことを理解していないと、会が自分達の生活を自ら管理的方向にむかって進み出した時に歯止めがきかなくなってしまいます。
 老人自身の暗黙の秩序、きまり、生活習慣などがある程度保たれている状態においても、たった一人の新しい利用者の加入により均衡を保つことが出来なくなることもあります。このようなケースでは新しい利用者に対して批判的になりがちですが、援助する職員はこの批判的な周囲の声に同調してしまっては、専門施設の職員としては失格です。
 入所後間もなくは、周囲に対し、自分がどのような行動をとるかを考える期間を過ぎると、自己主張、自己を認めてもらいたい時期がきます。この時期に、我がままを言ったり他人に干渉したり、周囲とトラブルを起こしたりします。この時の老人の気持は、集団生活の中での自己防衛、あるいは自己保全という、適応への過程で生ずる自己葛藤の段階です。ですから、種々の自己中心的行動をしながらも職員や、他の老人の反応をみている訳です。(全ての老人が、同じ状態になる訳ではありませんが)この時期のホームの対応が、不適切な場合は、不適応行動がさらに助長されていくことになります。
 このような老人の気持が理解出来ないと、問題行動を作り上げるだけで意図的理解へ向かうことができません。集団の自己規制も全体として考えるとあたりまえのことのように思われますが、視力障害の程度や心身の状況の違いにより苦痛を伴う老人がいることを忘れてはなりません。それゆえに自治会活動も方向を見失わないよう職員との信頼関係の上に援助を行なう必要があるのです。

■京都府・船岡寮(自治会規約)

船岡寮 寮友会規約 昭和五十年六月二十六日結成

第一条(目的)寮友会は寮生の親睦を目的とする。

第二条(名称)会名を「船岡寮 寮友会」と称する。

第三条(構成)
寮友会は船岡寮寮生をもって構成する。すなわち入寮した者は即日会員となり、退寮した者にはその時点をもって脱会とみなす。
第四条(役員)役員は次の通り構成する。
会長 一名、副会長 一名、役員 各階二名

第五条(任期および選出方法)

  • 一、正副会長
    • イ 任期は一年間とし留任は認めない。
    • ロ 入寮後一年以上の寮生により選出する。但し現在の正副会長は一年間被選挙権がない。
    • ハ 選出方法は担当寮母による代理投票とし、各々一位の者を当選者とする。
  • 二、各階の役員
    • イ 任期は三カ月とする。
    • ロ 入寮後三カ月以上の寮生より選出する。
    • ハ 選出方法は各階の自主的決定による。
  • 三、任期が中途で退任した場合は、前任者の残りの任期を次に選出された役員がこれをつとめる。
    尚会長、副会長は残り三カ月以下、各階の役員は残り二週間以下の場合は補欠の選出はしない。
第六条(寮友会費)
寮友会会費は月額三〇〇円とする。但し諸般の事情によって額を増減することがあるものとなす。(昭和五十一年十二月三十一日、二〇〇より三〇〇円に改訂)
第七条(会費の徴収)
会費の徴収は毎月の第一水曜日とする。毎月十五日までに入寮した者は当月分を徴収する。

第八条(徴収の方法)会費は各階の役員が徴収し、会長の手許で集計する。

  • 二、徴収した会費は会長が副会長とともに、船岡寮事務所にて、寮友会名(代表者は寮友会会長名)で郵便貯金に預託する。

第九条(会費の使途)会費の使途は、寮生ならびに職員間の親睦のためのものとし次のように定める。

  • 一、入院見舞金。寮生が一カ月以上入院したとき、一律五千円。
  • 二、銭別。寮生、職員ともに五千円。但し、在寮・在職一年未満の者に対しては三千円とする。
  • 三、弔慰金。寮生および職員(本人に限る)死亡の際は供花とし、その金額はその時の事情に応じ決定するが、原則として五千~八千円の範囲とする。供花が不能の時は香料として五千円を供える。
  • 四、次の行事参加のため、金額等についてはその行事の行われる期の最初の役員会にて一括決定する。
    1. 春・秋の彼岸法要
    2. 母の日
    3. 父の日
    4. 舜山忌
    5. 盂蘭盆会
    6. 地蔵盆
    7. 喜寿祝
    8. 運動会
    9. その他親睦を図る行事など通達し、会議記録は船岡寮職員がこれを行う。
  • 五、以上の内、寮生および職員に対する金品の贈与については一切お返しなどに類するものは行わぬこと。
第十条(総会)
総会は、定期総会と臨時総会とし、定期総会は開寮記念祭に行い、併せて新旧会長の交代(信任)を行う。臨時大会は必要に応じて開催する。
第十一条(役員会)
寮友会役員会を月一回開いて、各自問題を持ち寄り寮風の改善をはかる。尚、自治会役員会を開く時は、その都度、事務所へその旨通達し、会議記録は船岡寮職員がこれを行う。
第十二条(規約改正)
寮友会規約は必要に応じ以上の他に追加、或いは改正することが出来る。

■東京都・東村山老人ホーム(座談会)

利用者座談会概要 (二課一係)

一、日時   昭和六十年六月二十五日(火)午後一時三十分~二時二十分
二、場所   桜一階食堂
三、出席者  利用者三十六名 田中所長、茂尾課長
四、内容

  • ○シャワー室と脱衣場の床との段差がないので、水等が脱衣場の方に飛び散ったり、流れ出してしまう。なんとかならないか。
  • ○目の不自由な方には段差をつけるのは困るのではないか。何んらかの方法を検討してみたい。
  • ○最近体調が悪いせいか、食事の最中、隣近所のおしゃべりがはげしく食べた気がしない。
  • ○食事中は楽しく食べたいのでおしゃべりはよいではないか。
  • ○最近料理の味つけがとても上手になったようである。
  • ○これからの暑さに向って、居室に冷房・扇風機などの設備を七、八月だけでも考えてほしい。
  • ○それほど暑くはないが、扇風機ぐらいは必要
  • ○今のところ、老人ホームの居室の冷房は、諸々の事情から計画されていない。極力共有部分の冷房を利用してほしい。
  • ○一泊旅行はとても楽しかった。
  • ○観劇(コマ)はトイレが煩わしい。音もうるさく歌詞もききとれない。行くのではなく、来てもらえないか。
  • ○集会所で委託演芸を行っているので、参加してほしい。
  • ○一流芸能人は予算的に無理だが、今後も内容のある委託演芸をつくっていきたい。
  • ○桜一階の誕生会がなくなったことは残念だが、そういう場での「かくし芸」の発表の機会を一~二カ月に一度設けてほしい。
  • ○誕生会に限らないということなので、種々の企画を立てていきたい。
  • ○居室の座卓は大きいのに交換してもらい、大変良かった。
  • ○電動マッサージ椅子の説明を行う。

第十節 利用者の預り金品の取扱い

 利用者の預り金品の管理については、遺留金の取扱いも含め、問題が起きないよう、十分な配慮が必要です。現金、預貯金、各種年金証書、印鑑等の管理方法については必ず複数で業務に当ります。お金の引き出し、預け入れ等は本人またはやむをえない事情の時は家族の確認のもとに行う必要があります。
 この節においては、入所時の持込品の許容範囲、金銭管理、受け渡しの方法、また、預り金等に関する規定等、各施設の現況を紹介していきます。

一、各種証書類の管理

 各種証書とは、年金証書、貯金通帳、健康保険者証、生命保険、障害手帳等を指します。これらの管理については、盲老人ホームは視覚障害のうえ、高齢でもあるため、紛失や置き忘れ等によるトラブル防止のため、一括して管理するというホームがほとんどでした。しかし、本人に管理能力が乏しいと判断される場合を除き、自主判断に任せるという方向に向かってきています。
 全ての盲老人が、自己管理が出来ないと判断することは適当ではありません。
 施設はむしろ視覚障害者が自立できるよう援助する機会を多く持ち、自己管理の方法について、利用者に助言を与えることが必要です。そのためには無条件で施設管理という立場をとることは避けなければなりません。本人の希望により自主管理をするか、または施設に管理を委任するか決めてもらう手順が最も多くとられています。むろん、檀失、しまい忘れ等の場面も予測されますが、これもとがめることなく一諸に探し、いよいよなければ再発行の手続きをするようにします。自主的判断のできる人に対しては「原則として自主性にまかせ本人の希望によっては施設、あるいは家族管理」としています。
 ただし入所時本人、または家族に対し、高齢でしかも視覚障害があることから紛失等の場合も考えられることを十分説明します。というのが一般的です。実際には本人の希望により施設で管理しているというのが実情ですが、事務手続上、あるいはトラブル防止という観点のみで判断しないように気をつけることが必要です。
 各施設では、職員はもとより利用者家族に各ホームの預り金についての考え方を明示するために、預り金管理規定を作成し、周知徹底理解を図っています。
 埼玉県にある社会福祉法人失明者協会「ひとみ園」の預金、現金の管理に対する考えは、非常に積極的です。

■埼玉県・ひとみ園(金益管理規程)

  • 一、預金通帳や現金の管理について
     預金通帳や現金は、出来るだけ自分で管理して下さい。
     但し、どうしてもそれ等を当園の金庫にあずけたい方がある場合は、預金通帳等保管依頼書を担当職員を通して園長に提出して下さい。
  • 二、年金証書等の管理について
     年金証書、恩給証書、保険証、身障手帳、印鑑等は出来るだけ自分で管理して下さい。
     但し、どうしてもそれ等を当園の金庫にあずけたい方がある場合は、年金証書等保険依頼書を担当職員を通して園長に提出して下さい。

■愛知県・第二尾張荘

第二尾張荘利用者預り金管理規程

 (趣旨)
第一条 この規校は、社会福祉法人愛知玉葉会第二尾張荘利用者の預り金に関して必要な事項を定めるものとする。

 (組織)
第二条 利用者預り金の管理に関し、次の職員にて管理取り扱いを行う。
  預り金管理責任者 荘長
  実務責任者     指導課長
  担当者        指導員
  立会者        寮母長
  係           各班寮母主任

 (預り金の依頼)
第三条 利用者は、利用時において、自己の所持金および預金証書等を、必要に応じ様式1「利用者預り金依頼書」により、荘長に管理を委託する。

  • 二、荘長は、利用者より管理を依頼された時は、現金にて管理せず、利用者の名義による預金通帳を、所定の銀行にて作成し管理する。

 (預り証の発行)
第四条 荘長は、預金通帳を作成したならば、速やかに様式2「預り証」を利用者に発行しなければならない。

 (預入・払い出し)
第五条 利用者が、預り金の預入、払い出しする場合は、毎週一回当該週の火曜日までに、様式2「預り証」を添えて担当寮母へ申し出なければならない。

  • 二、担当寮母は、様式3「預り金預入・払い出し伝票」に記入し、様式2を添えて、預り金担当者へ提出する。
  • 三、預り金担当者は、様式にもとづき、様式4「預り金集計表」を作成し、荘長に決裁を受け、当 該週の金曜日に、他の職員立ち合いのもと、本人に手交する。

 (年金等の振込)
第六条 利用者の年金等が、預金通帳へ振込まれた時は、様式5「利用者年金等振込集計表」により、荘長へ報告しなければならない。

  • 二、利用者の年金等が、預金通帳へ振込まれた時は、様式2を回収し所定の金額を記入し、利用者に通知しなければならない。

 (管理)
第七条 荘長は、金融機関に対し、当該月における預金の異動報告を、様式6「利用者預り金一覧表」より、翌週十日までに、報告させなければならない。

  • 二、預り金担当者は、様式5にもとづき、当該月の集計表を作成し、翌月の二十日までに、荘長に報告しなければならない。

 (通帳の保管)
第八条 利用者の預金通帳は、荘長が保管管理する。ただし、利用者が、通帳確認のため閲覧の申し出があった場合、速やかにこれを行う。

 (緊急払い出し)
第九条 利用者が、緊急に払い出しを希望した場合は、第五条の規程にかかわらずこれを行う。

 附則
本規程は、昭和五十九年四月一日より施行する。

二、現金管理

 現金管理についても各種証書類同様、利用者または家族の希望により自主管理、または施設管理かを決定します。
 利用者の自主性にまかせることが最もトラブルが少ない訳ですが、大半の利用者については、小遣程度の金額を除きホームでの管理を希望しているのが実情であると思われます。
 最近の傾向としては、現金は自主管理、通帳は施設管理を希望する利用者も増えてきています。自分で管理することの大切さは理解できても、視覚障害があるということで職員は、つい不安になりがちですが、自己管理できるような方法を講じることが専門的処遇だと思います。しかしながら、現実にはさまざまなトラブルが発生してきます。
 視覚を喪失した老人にとっては、一度記憶したことを、自分の勘違いだったと悟るには非常な困難を伴います。
 “話をしても相手が見えないので納得させるのは大変”という場合がよくあります。特に精神的に問題がある利用者や、施設利用後、期間が浅く不安定な時期の利用者などにトラブルが発生する傾向は多いようです。
 一度起きたトラブルは簡単に元に戻ることはなく、むしろ他の生活面においても影響をおよぼしてくることがあります。このようなことのないよう事前に慎重な配慮が必要な訳です。

  1. 現金の受渡しについては必ず複数の職員で行う。
  2. 出納を明確にするため通帳および、控えを同時に作成し、控えだけ本人に渡す。
  3. 妄想のある老人については、金銭管理のみならず日常全般の行動をよく観察し、状態を把握しておくこと。
  4. 希望者には点字で記録した通帳を作成する。また通帳の月毎に点字シールをはる。
  5. 利用者間の貸借のないよう注意する。
  6. 日常からトラブル発生が予想される者には、あらかじめ、家族、福祉事務所に事情を説明し協力を得る。

 金銭受け渡しの確認方法としては

  1. 金額を伝え、自分の希望した払出し金額と一致していることを確認してもらう。
  2. 金種ごとに納得させながら渡す。(一枚一枚手に触れさせる)
  3. 必ず確認印をもらっておく。
    (現金引渡し帳を個別に作成し、利用者、引渡し者、立会者に確認印を受け、会計責任者の決裁を受ける)
  4. 金種の確認については、疋々に確認の方法を講じている場合があり、それらについて知っておく必要がある。また、金種を確認する紙幣、コイン判別器等の利用も考える。

三、管理能力のない利用者への援助

 しかし、本人に管理能力がないと判断された場合においては事情が異ってきます。このような場合の対応はどのようにしたらよいのでしょうか。

  1. 入所の際、家族に十分ホーム内での、金銭管理の方法を説明し、家族で管理するか、ホームで管理するかの判断をしてもらう。
  2. ホーム管理を希望する場合は、家族、福祉事務所立会いのもとに、預り証、委任状を作成する。
  3. 家族が管理を希望する場合においても、福祉事務所の了解のもとに行い、常時手続きが必要な年金証書、健康保険者証等については、施設管理にしてもらうよう協力依頼を行う。
  4. 身寄りのない利用者については、福祉事務所の指導のもとにホームで管理を行う。
     このようにして、ホームが単独で判断をしないように注意することが必要です。また、現金の出納については複数の職員が内部で相互干渉のもとに行うようにします。

 名施設の実例を上げてみます。

  1. 一人につき五、〇〇〇円位の現金を個々の財布に入れ事務所で預り、必要に応じ担当が事務職員の確認を得て出し入れする。
  2. 預金通帳等は施設で、現金は担当寮母が寮母室にて管理。
  3. 指導員が金庫に保管し、必要に応じ寮母が引き出す。引き出し後は全て受領書を添付する。
  4. 預金通帳は、事務所で管理しており通帳と控えをつくり、出金時に複数の職員で手渡す。
  5. 印鑑は事務所、各種証書類は指導員、小口の現金を寮母室というように保管をそれぞれのパートで分担する。
     それぞれに必要なことは、前述にもある通り、複数の職員による取扱いおよび、その場での確認、決済という手順が必要ということです。

第IV章 盲老人ホームの社会化

一、老人ホームと社会化

一、老人ホームの閉鎖性がもたらしたもの

 老人ホームの歴史をみると、その多くは長い間、地域社会から隔離されたかたちで存在しました。老人ホームが、利用者を一般社会から守る防波堤となって、その中だけで自己完結的な生活がなされていたわけです。そこにおいては、利用者の生きつづけることだけは保証されましたが、同時に人間にとってかけがえのないものが失われていたのです。
 老人ホームは、地域社会の人から見るとき、一般社会とは異なる特殊な世界であり、そこに暮らす人は、同じ地域社会に住む仲間ではなくなっていたのです。ですから、時に交流がなされる場合には慰問であって、普通の人が惨めでかわいそうな人を慰め励まし、物をめぐんでやるというかたちでした。言ってみれば、老人ホームは「閉鎖的」であることによって、利用者の人権を一般社会の人のそれよりも下げてしまっていたのです。

二、ともに生きる人間としての交流

 老人ホームの利用者もその地域の一員です。老人の問題、障害の問題が地域全体のこととしてとらえられ、地域全体に支えられた老人ホームにならないかぎり、老人ホーム利用者の真の安心はありえません。ともに生きる者として、対等の時間を過ごす交流がごく自然のこととしてなされていなければなりません。

二、盲老人ホームの社会化

一、盲老人ホームの社会化

 老人ホームの社会化は地域社会からのニーズを充足・発展させるばかりでなく、利用者の生活圏を拡げ、幅広い社会性を身につけるうえにも、今後重要な意義を持っています。
 盲老人ホームの社会化は地域交流を一つとっても、盲老人がゆえの閉鎖性から交流の場を作ってもなかなか馴じめなかったり、施設の持つ機能や地域からのニーズも限られている現状から難しい面があるようです。
 そのような状況の中で、「社会化」を考え、関連する諸活動を実施するには、地域住民の福祉意識やニーズ、在宅盲老人の実態やその数などを正確に把握することは勿論、まず、地域から盲老人が正しく理解されるよう地域住民と交流する場をできるだけ多く持ち、意図的・計画的に進めることが重要です。けっして地域社会にばかりに目をむけた施設先行の社会化とならないようにしなければなりません。また、利用者にも施設の社会化について良く説明し、理解を深めておく必要がありますし、地域社会の一員という意識と自覚を高めることも必要です。
 社会化の内容としては、施設の地域開放・利用者の地域化としての社会活動・施設運営の地域化や家族とのつながり・ボランティア活動などありますが、特に利用者の社会活動やボランティア活動は積極的に進めていくことが必要です。ボランティアの育成は容易ではありませんが、盲老人ホームの専門性を十分理解していただき、そのうえで歩行介助などの専門的知識を習得してもらうボランティアスクールなどの開催も必要だと考えます。

〈社会化の具体例〉

  1. 建物・設備の提供
     集会室・中庭・リハビリテーション設備
  2. 教育的活動
     福祉講座・介護技術講習・寿大学
  3. 相談・助言・指導活動
     福祉相談・介護相談・健康相談
  4. 専門的サービスの提供
     入浴サービス・ショートステイ・デイケアー・給食サービス・リハビリテーションの通所訓練・電話サービス
  5. 広報活動
     広報紙(施設だより)・パンフレット・文集(俳句・短歌等)

 盲老人ホームは、今後地域社会からは貴重な資源としての役割をもち、在宅盲老人にとってセンター的な役割をもちながら、その施設の持つ機能や立地条件などあらゆる角度から研究し、進めていくべきです。そして、前に述べた通り、第一に交流の場を多く作ることを念頭におき、利用者が主体となり、利用者のための社会化とするべきでしょう。

二、盲老人の社会活動

 盲老人は失明というハンディキャップから家庭内の役割・存在を失い盲老人ホームを利用するケースが少なくないようです。
 盲老人の社会活動にはそのような疎外感を取り除き、地域社会の一員としての意識を高めるばかりでなく、地域社会から盲老人が正しく理解されるためにも積極的に進めていく必要があります。

(一)、奉仕活動
 盲老人ホームの利用者は奉仕活動も限られていますが、鐵・マッサージや点訳等社会に還元できる特殊な技能を収得している人もいます。

〈奉仕活動例〉

  1. 園内奉仕活動
     おしぼりたたみ 園内(居室・廊下・食堂等)の掃除 ゴミの集収 灰皿の後始末 朝夕のカーテンの開閉 手摺拭き(園内・遊歩道) 庭の草抜き トイレットペーパーの取り替え
  2. 園外奉仕活動
     鐵・灸・マッサージ 点訳 公園・道路の清掃 交通安全マスコット人形作り・配布 バーゲン用品の作成 雑巾作り・寄贈 民謡・器楽クラブの老人クラブ等への慰問 小中学校との交流会
     その他にも「都会っ子へ秋田の自然を贈る運動」として、都会の小学校へ小動物や植物を送るというユニークな取り組みをされている施設もあります。

(二)、地域交流(行事を通して)
 施設の中での生活が大半を占める盲老人にとって、地域の人達と接する良い機会が行事です。地域行事・催し物に参加、見学や園内行事の人達を招待し、一緒に楽しむことはお互いのコミュニケーションにつながりますし、何よりも利用者自身が地域の一員としての自覚を高め、地域の中に溶け込める良いチャンスだと思われます。
 ただ注意しなければならないことは、施設の職員が地域の人達ばかりに目をむけすぎて、利用者不在の行事となることです。やはり第一に交流する場をなるべく多く作り、一体となって楽しめる雰囲気作りを考えるべきでしょう。

〈地域交流行事例〉

 盆踊り 作品展示会 誕生会 バザー 敬老の日の行事 模擬店 運動会 寿大学

(三)、社会資源の活用
 利用者の中には「一度でいいから汽車に乗りたい」「喫茶店でコーヒーを飲みたい」と言う人がいます。利用者一人一人は社会資源活用のあらゆるニーズを持っているのですが、それに答えるべく職員は実際のところ職員数の少なさからの付添の関係で、個人的なニーズは後回しになることが多いようです。
 いろいろな所に行ってみたい、見てみたいという欲求は誰でもあるのですから、施設はボランティアの活用や家族の協力を得ながら進めていくべきでしょう。
 どうしても施設内の生活にとどまりがちな利用者に対し、一般生活の感覚をとり戻しより生活圏を広げるための社会資源の活用は、盲老人にとってより一層生活に幅やゆとりを持たせます。

〈社会資源活用例〉

 病院 文化ホール 老人福祉センター 運動グランド 老人保養所 温泉場 公園 神社 体育館 寺院美容室 デパート 商店 食堂 喫茶店 視覚障害センター 点字図書館 地区社協のボランティアコーナー

三、奉仕活動事例

 青い鳥老人ホームを運営している山梨ライトハウスには、盲人福祉センターが併設されていますが、山梨青い鳥奉仕団はそこを拠点として集り、研修し、活動している視覚障害のためのボランティアグループです。昭和四十一年の結成以来、二十年の歴史を持ち、現在は次のような活動が行われています。

  1. 点訳奉仕(七十七名 昭和六十年四月一日現在、以下同じ)
     活字の本を点字の本に点訳する奉仕で、これまでに五千百九十冊の点字本が造られ、広く貸し出されています。毎年二十名の奉仕員が養成され、テレビ、ラジオ、広報紙等を通して募集し、通信教育を受けながら、四カ月間、毎週一回ずつ、合計二十回の講習があります。
  2. 録音奉仕(八十五名)
     活字の図書を朗読録音して声の図書を造る奉仕で、これまでに八千八百九十二時間のテープが作成されています。毎年二十名の奉仕員が養成され、地元放送局のアナウンサーを講師として、三カ月間、毎週一回ずつ、合計十五回の講習を受けます。
  3. 写本奉仕(十三名)
     一般の活字の本を一センチメートルから二センチメートル角の大きさの字に書き変えて弱視者用図書を造る奉仕で、これまでに千九百八十七冊作成されています。講習は特にありません。
  4. リーディング奉仕(十九名)
     個人的に希望のある図書や資料を録音テープにして希望者の手元へ届けたり、直接対面して朗読する奉仕で、これまで二千三百四十五時間の活動があります。講習は特にありません。
  5. 新聞リーディング奉仕(二十五名)
     電話を通して視覚障害者から依頼のあった新聞記事を読む奉仕で、これまでに五千九百二十七回の利用があります。利用時間は午前十時から十二時半までで、他の時間は主な記事を五分間のエンドレステープに入れておき、それが聴けるようになっています。講習は募集時に一回、地元放送局のアナウンサーを講師として行われます。
  6. ガイドヘルパー(二十名)
     視覚障害者が外出する際、付き添いや案内をする奉仕で、これまでに五千百二十二回の派遣があります。毎年二十名が募集され、視覚障害者への接し方、ガイドの仕方、点字などについての基本的な講習を受けます。
  7. ふれあいボランティア(二十名)
     視覚障害者の催し者、レクリエーション、趣味活動などにいっしょに参加し、協力する奉仕活動です。
  8. カナタイプ指導(二名)
     視覚障害者にカナタイプの技術指導をする奉仕で、これまでに百二十八回の活動があります。カナタイプの取り扱い方の基本についての講習があります。
  9. 点字指導(三名)
     中途失明者の家庭を訪れて点字の指導をするボランティアで、これまで二十一回実施されています。
  10. 墨字指導(一名)
     弱視で盲学校時代に点字の教育しか受けなかった人に墨字を教える奉仕です。これまでに二百四十二回の活動があります。

四、在宅盲老人との交流

 盲老人ホームの社会化の中で、最近積極的に行われつつあるのが、在宅盲老人との交流です。地域の中では多くいるとはいえませんが、盲老人ホームが一県一施設に近い状況から県内全域を対象とした広域的社会化として、徐々に在宅盲老人やその家族からニーズも高まっています。

一、在宅盲老人体験入園とショートステイ
 在宅盲老人を介護している家族が入院などで介護できない一週間から十日前後の期間、ホームで預かり、利用者とともに生活してもらうものです。その間、日課やクラブ活動・行事などホームの生活を経験することにより、盲老人ホームへの理解や認識が深まります。
 今後は在宅盲老人や家族のためにも、もっと積極的に進めるべきですし、受け入れについても簡単なオリエンテーションや日常生活で困っていることの相談を受け、アドバイスするなど、何度でも利用できる、また利用し易い体制づくりが必要です。

二、在宅盲老人との交流
 主に地域の在宅盲老人を対象にし、行事に招待したり、ホームのクラブ活動との交流を催すことにより、利用者との交流を主とした、楽しんでもらうことを目的とした交流です。
 日頃、外出することが少ない在宅盲老人にとって、行事や交流会に参加することはとても喜びに感じると思います。また行事や交流会だけでなく、趣味を生かして、ホームのクラブ活動に定期的に参加することはより利用者とのコミュニケーションを深め、良い交流となるでしょう。

■青森県・津軽ひかり荘(盲老人ホームの社会化)

〈在宅盲老人との交流事例〉
 岩木町在宅盲老人との交流

○目 的

  1. 在宅盲老人と利用者のコミュニケーションを深める。
  2. 在宅盲老人に一日楽しんでいただく。

○内 容

 今回は点字クラブとの交流で、岩木旅館のまたぎ飯を食べながら、歌とゲームで楽しむ。

○参加者

岩木町在宅盲老人(四名)
津軽ひかり荘利用者(六名)
特別参加
 ○○村在宅盲老人
 身体障害者療護施設「○○館」利用者
岩木町ヘルパー(一名)
津軽ひかり荘(点字クラブ講師一名と職員四名)
 職員 ○○、○○、○○、○○

○日 程

十時三十分   在宅盲老人迎え(役場前) 〔岩木旅館バス使用〕
十時四十分   津軽ひかり荘
十一時      岩木旅館着
十一時三十分  食事
十二時  十分  ゲーム・カラオケ
※ゲーム内容

  1. カラーソングゲーム
  2. 物あてゲーム
  3. ゲームソング

十四時      岩木旅館発
十四時二十分  津軽ひかり荘着
十四時四十分  岩木町役場着

○参加費 一人二千円
    またぎ飯 千円
    部屋代 七百五十円
    お菓子 二百五十円

○感 想

 楽しい雰囲気の中で、とても良い交流ができ、在宅の皆さんも喜んで、“ぜひまたお願いします”という声があった。今後は点字競技会なども考えていきたい。 (津軽ひかり荘点字クラブ)

三、在宅盲老人の生き甲斐

一、盲老人ホームに課せられた課題として

 現在、全国の盲老人ホームにおいて、様々な形で在宅の盲老人に対する援助活動を実施していますが、実際に利用している盲老人は極限られています。

  1. 生活状況―自家、借家、アパート
  2. 同居状況―単身、老夫婦、家族と同居
  3. 収入状況―年金、家族の扶養、生活保護
  4. 障害状況―弱視、全盲、合併症として(難聴、肢体不自由等)

 等々により在宅での個々人の生活状況も大きく異なってきます。つまり、サービスを受ける内容に相違が生じてくる訳です。これらの在宅の盲老人が日常生活において、種々の援助を受けることにより、より健康的で豊かな生活を過ごすことが出来ると判断される場合に、速やかにしかも個別に援助を与えていくことが盲老人ホームの今後の課題になってくるでしょう。この課題の解決の為には、施設の持つ機能の再点検(人的問題も含め)が必要です。同時に在宅での盲老人の生活状況を正確に把握しどのような援助を求めているかの理解が必要になってきます。

二、援助を待つ心

 社会復帰の可能性のある視覚障害者にとっては、各種の盲人用設備、制度などを主体的に活用することが可能であっても、盲老人にとっては困難な場合が多いものです。特に、高齢の中途失明者の場合はなおさらです。買い物、散歩、老人クラブ等への参加、旅行等の機会を持とうとすると常に、誰かの手助けが必要になってきます。この手助けが配偶者や、家族、友人、ボランティアなどにより積極的に行われることが望ましいすがたです。しかし、現実には必要な時に必要な援助を受けることが出来ず施設利用に至っているケースも多いと推定されています。また、これらの援助は時期を過ぎると全く無意味になってしまうこともあります。従って、在宅の盲老人からの各種の相談に対しては盲老人を取り巻く周囲の状況の理解に始まり協力体制を作り上げることにあると思われます。
 ○さんは現在八十九歳の男性ですが、四十数年前自分の経営する自動車工場で修理作業をしているさいちゅうに事故で失明。以来、就労を断念し、生き甲斐を菊造りに求めました。数々の菊造り品評会に出品し、現在では二十余名のサークルのリーダーとして菊造りに生き甲斐を燃やしています。肥料、苗、花台造り等全て、自分でしなければ気が済まないと言う○さんですが、視力障害で困ることは、枝ぶりや葉の出具合を確認している際に新芽を間違えて傷つけたり、花色の出来具合が確認出来ないことだそうです。しかし、この点についても友人や妻が十分にカバーしてくれており不自由さはさほど感じていないとの事です。
 この○さんの他にも失明前に従事していた牧畜(乳牛)の世話を家族の協力のもと続けているというケースや、自ら点訳奉仕をしているケース等、数多くの盲老人がいきがいとしての社会参加を積極的に行っています。これらのケース全てに共通していえることは、視覚の喪失後、どうしても補いきれない部分に対する手助け(含精神的支え)があれば、何らかの生き甲斐を持つことは可能だということです。

第V章 利用者と家族

〈利用者と家族〉

一、利用者と家族との関係

 利用者と家族との関係は、ホームの日常処遇の場ではいつも表面に出てくるという問題ではありません。しかし利用者の心の中は常に家族の事で一杯です。
 施設の利用理由の中でも見られましたが、家族に迷惑をかけたくないと願い、ホーム利用に至る老人もいます。視力を失い、自分の役割がなくただただ家族の負担を少くしたいという一心から出る“自分はどうなっても”という自己犠牲の思いです。家族のその時の対応の仕方が、本人の意志決定に大きく関与する訳ですが、老人のホームに行くという背景を汲み取る事が必要です。特に高齢失明者の家族は永年家族の一員として過ごしてきた習慣から、失明した老人に対し、急にその対応をかえる時に、大きな戸惑いを感じます。老人が何かを探して家族に尋ねても、“目の前にあるよ!”等の言葉が出てしまいます。視力を失った老人自身の心の持ち方にも問題がありますが、“私が見えないのを知っていて”等という心の不満が、互いに相手の心に気付かずに進行していく事があります。この不満の蓄積が、“私は皆のお荷物になっている”という気持にさせていくのです。老人ホームに入りたいという意志表示は家族にとって、何が不満なのかという驚きと怒りを覚え、逆に家族から老人ホームへ入るよう頼まれた老人は、悲しみと諦めが心に広がります。このような複雑な気持を心に秘めてホームを 利用してくる老人に対して、私達は日常生活の援助を与え続けるだけのものであってはならないはずです。やはり老人の気持を理解し、受容するという基本姿勢が最も大切になってきます。特に利用後の家族との関係は、“家庭に勝るホームはない”という言葉通り、本当に老人の痛み、悲しみを理解でき、励ましてくれるのは、家族以外にいないと言っても過言ではありません。特に具合が悪くなった時はなおさらです。心細い気持や孤独を感じる時、家族を求めるのは当然です。ホームに入った理由がどうであれ、家族との関係維持は、処遇上の大きな課題です。

“成人の孫の訪れ嬉しさに
   背丈さすりつ生きる喜び”
“遠方の娘の送りし綿入れよ
   初雪凌ぎ心暖か”

二、家族と施設との関係

 ホームが処遇上の課題として、家族とのつながりを、家族の協力という形で求めるのは、具体的には次のような場面です。

  1. 利用後、環境の急変に順応しきれなくて、ホームシックな状態に陥ったり、利用に際しての精神的衝撃から心理的に不安定な行動や行為が現れた時。
     このような状態の時は、家族を交え、十分に話し合いをします。場合によっては、外泊を依頼する事もあります。
  2. 本人の疾病に関連して、自分の希望する病院への通院や入院に関する介護引率。また、疾病時における不安や家族に会いたいという願いによる面会の依頼。
  3. 家族が常に利用者に連絡をとれるような、あるいは、交流の機会を持てるような働きかけ。
    • イ 家族会への参加呼びかけ
    • ロ 諸行事への参加呼びかけ
    • ハ 電話、文通による交流の依頼(点字、テープ等)
    • ニ 機関誌の発送
  4. 老人ホームを、終生収容の場ではないとの積極的立場から、家族と利用者との良好な関係づくりを目指すために、意図的な家族との訪問面接を行ったり、ボランティアとして援助の方法についての体験をしてもらう。

 ホームの立場から考えると以上のような内容が、家族とのかかわりのある部分といえます。さらに、家族と利用者との関わりを考える時、家族が視覚障害を持つ老人に対しての無理解が与えた影響の大きさも見逃す事が出来ません。盲老人ホームの機能の中には在宅で盲老人をかかえる家族に対する専門的援助(介護・自立へ向けて、家族・本人の悩みを受けとめ、正常な家族関係を持続、あるいは再生する等)内容も必要となって来るのではないかと思います。家族の状況にもよりますが、一番の問題は障害が、家庭内の人間関係に大きく関与し、精神的絆が崩壊してしまう点にあります。ホームを利用したとしても、この心の傷はなかなかぬぐい去る事が出来ないようです。利用前からの家族との関わりの時点からこの点に十分に配慮をもって、機会あるごとに家族の人に理解を求めます。

三、家族との関わりがスムーズに行かないケース

一、家族が県外とか遠方より利用している為、面会の回数が少ない。

 回数を問題とするよりも、家族と事前に面会の日程を決め、ともに外出の機会を持つとか、宿泊をお願いする。また、子供達の声をテープに吹き込んで貰い、当日持参する等、面会の日に向けて楽しみを作る。

二、利用者との関係が良好でなく、何年も面会がない。

 有家族の利用者の場合は、出身世帯のみの関係ではなく、他の家族とも連絡を取ってみます。また、利用者は、ホーム利用時より徐々に、家族に対する感情が変化してきている場合には、その気持を家族に伝えられるような方法を講じます。特に、家族の反対を押し切って利用したケース等で、感情的になっている場合にはなおさらです。

四、家庭復帰について

 盲老人ホームの家族との交流の状況を実態調査(一九八三・九月実施全盲老連)の中でみてみると次のような状況です。

  1. 外出
    年に一~三回 二六・四%、四~六回 六・三%となっており全くないと答えた者 六一・九%
  2. 外泊
    年に一~三回 三五・七%、四~六回 五・六% 七~九回 一・二%、全くない 五四・八%
  3. 面会
    年に一~三回 三七・六%、四~六回 二〇・一% 十~十四回 八・〇%、七~九回 六・六% 全くない 二二・二%
  4. 電話
    年に一~三回 二五・六%、 四~六回 一五・八% 十~十四回 八・七%、全くない 三七・一%
  5. 手紙
    年に一~三回 二三・四%、四~六回 六・九% 全くない 六二・四%

(1) 外出は年何回位しますか。

  男女別

項目
合計
1~3回 186 26.1 415 26.6 601 26.4
4~6回 38 5.3 106 6.8 144 6.3
7~9回 6 0.8 23 1.5 29 1.3
10~14回 6 0.8 24 1.5 30 1.3
15~19回 3 0.4 4 0.3 7 0.3
20回以上 11 1.6 11 0.7 22 1.0
ない 451 63.3 956 61.2 1,407 61.9
無回答 12 1.7 22 1.4 34 1.5
合計 713 100.0 1,561 100.0 2,274 100.0

(2) 外泊は年何回位しますか。

  男女別

項目
合計
1~3回 255 35.7 556 35.6 811 35.7
4~6回 30 4.2 96 6.1 126 5.6
7~9回 5 0.7 23 1.5 28 1.2
10~14回 4 0.6 14 0.9 18 0.8
15~19回 2 0.3 5 0.3 7 0.3
20回以上 4 0.6 3 0.2 7 0.3
ない 403 56.5 844 54.1 1,247 54.8
無回答 10 1.4 20 1.3 30 1.3
合計 713 100.0 1,561 100.0 2,247 100.0

 盲老人ホームにおいての家族交流の実情は非常に希薄なものであるとの結果が出された訳です。その原因として考えられるのは、前述の如く

  1. ホームと家族との距離的な問題
  2. 視覚障害が起因して、外出が自由にできない。家族の負担が大きい。
  3. 配偶者や実子のいる割合が少なく、老人にとってキーパーソンとなり得る家族がいない。

 等が実態調査の中から伺い知ることができます。ホームで生活する盲老人が家庭に復帰するということを、一つの処遇上の課題とすることにはこれらの状況からも、いかにむずかしいことかが伺い知れます。
 ホーム利用はいかに家族が「いつ帰ってきてもいいんだよ」と言葉をかけても、盲老人が一度家庭を離れた生活内容への変化は家族を次第に消極的な方向へと向かわせる。むろん家族が毎日の生活の中でそのことを意識している訳ではありません。「脳卒中等で入院している老人をかかえる家族が、きとく状態を脱し、ある程度生命の失われることがないことを確認し安定期に入ってくると、本当はその老人にとって復帰への心の支えが最も必要な時期にもかかわらず、次第に足が遠のきさらに日常の生活の中でほとんど意識されないことが多くなる。」という状況に類似しています。

(3) 面会は年何回位ありますか。

  男女別

項目
合計
1~3回 277 38.8 578 37.0 855 37.6
4~6回 130 18.3 327 20.9 457 20.1
7~9回 44 6.2 105 6.7 149 6.6
10~14回 39 5.5 143 9.2 182 8.0
15~19回 5 0.7 29 1.9 34 1.5
20回以上 18 2.5 55 3.5 73 3.2
ない 192 26.9 313 20.1 505 22.2
無回答 8 1.1 11 0.7 19 0.8
合計 713 100.0 1,561 100.0 2,274 100.0

(4) 電話は年何回位ありますか。

  男女別

項目
合計
1~3回 188 26.4 394 25.2 582 25.6
4~6回 96 13.5 265 17.0 361 15.8
7~9回 29 4.1 82 5.3 111 4.9
10~14回 51 7.2 146 9.4 197 8.7
15~19回 12 1.7 25 1.6 37 1.6
20~29会 11 1.5 32 2.0 43 1.9
30~39会 6 0.8 28 1.8 34 1.5
40~49会 1 0.1 8 0.5 9 0.4
50回以上 6 0.8 19 1.2 25 1.1
ない 297 41.7 546 35.0 843 37.1
無回答 16 2.2 16 1.0 32 1.4
合計 713 100.0 1,561 100.0 2,274 100.0

(5) 手紙は年何回位きますか。

  男女別

項目
合計
1~3回 165 23.2 367 23.5 532 23.4
4~6回 40 5.6 117 7.5 157 6.9
7~9回 10 1.4 34 2.2 44 1.9
10~14回 10 1.4 40 2.6 50 2.2
15~19回 3 0.4 6 0.4 9 0.4
20~29会 0 0.0 7 0.4 7 0.3
30~39会 0 0.0 6 0.4 6 0.3
40~49会 1 0.1 3 0.2 4 0.2
50回以上 1 0.1 2 0.1 3 0.1
ない 468 65.7 951 60.9 1,419 62.4
無回答 15 2.1 28 1.8 43 1.9
合計 713 100.0 1,561 100.0 2,274 100.0

(6) 家族に対して外出泊を年何回位望みますか。

  男女別

項目
合計
1~3回 262 36.7 536 34.3 798 35.1
4~6回 52 7.3 114 7.3 166 7.3
7~9回 4 0.6 15 1.0 19 0.8
10~14回 12 1.7 28 1.8 40 1.8
15~19回 1 0.1 2 0.1 3 0.1
20回以上 10 1.4 17 1.0 27 1.2
望まない 348 48.8 814 52.1 1,162 51.1
無回答 24 3.4 35 2.2 59 2.6
合計 713 100.0 1,561 100.0 2,274 100.0

(7) 家族に対して面会は年何回位望みますか。

  男女別

項目
合計
1~3回 240 33.7 455 29.2 695 30.6
4~6回 102 14.3 271 17.4 373 16.4
7~9回 20 2.8 64 4.1 84 3.7
10~14回 74 10.4 188 12.0 262 11.5
15~19回 3 0.4 16 1.0 19 0.8
20回以上 26 3.7 64 4.1 90 4.0
望まない 227 31.8 470 30.1 697 30.6
無回答 21 2.9 33 2.1 54 2.4
合計 713 100.0 1,561 100.0 2,274 100.0

 大分にある「任運荘」という老人ホームはこの家庭復帰という困難事に対し、正面から取り組んでいる数少ないホームです。(園長吉田嗣義著 老人ホームはいま)その実態記録の中で、家庭復帰への志向がいかに多くの問題を含んでいるかについて寮母の手記を引用し、次のように報告をしています。

 Aさん(八十九歳)はこの村に後妻として嫁ぎ一男を儲けた。七十歳で夫に死別。先妻の子である長男も死亡。Aさんは老後を嫁に託し、孫夫婦とともに暮らしていた。実子は家を出て北九州で生業を営んでいる。
 昭和五十年、家庭介護ができなくなったという理由で利用してきた。仏壇を祭り、朝夕のお詣りを欠かさない。一応身の回りのことは自分でできるが、部屋にこもりきり。
 ある夜半、彼女は心臓の発作を越こした。この日から、口ぐせのように「帰りたい」というようになり、二、三カ月間は無理に食べさせなければならないほど衰弱してしまった。家のことは頭から離れず、「帰りたい」「増築したわが家を一目見たい」と、荷物をまとめ寮母室に訴えに来る日が続いた。涙を浮かべて哀願する彼女に私たちは居たたまれず、家族に幾度も連絡する。
 しかし、歩いて十分もない近くの家族の返事は極めて暖昧で連れ返ろうとしない。盆正月の帰省運動の呼びかけにも応じない。丸一年たってようやく、Aさんにとって初めての帰省が実現した。
 孫に負ぶわれて帰っていくAさんの、丸い小さな背中を見送りながら、祈らずにはおられなかった。「よい帰省でありますように……」。
 帰荘予定日の朝、家族に付き添われて帰荘したAさんの顔色は冴えなかった。「おばあさんがどうしても決めた日に帰らんならんというもんですから」といいわけする嫁。「今日は盆踊りや小松明(こだい)があった、うちからとてん美しゅう見ゆるき、楽しみにしちょったのに」と独り言のAさん。そそくさと帰って行った家族たち。嫁は民生委員である。
 しかし、そんな帰省でも彼女にとってプラスに働いたようで、精神的に安定したAさんは、おむつたたみや朝の勤行などのリハビリにも参加するようになった。Aさんの部屋にSさんが入居してきた。めったに笑うこともないうつろな眼をした人である。老人の共通の寂さしを感じたのか、Aさんはそれから何くれと力づけ、世話をやくようになった。Sさんがおふろに行けば着替えを持って行き、「私のリンゴをすってあげちょくれ」と寮母室に来るのだった。Sさんの世話をやくことに生きがいを見出していたようである。
 しかし、病気は徐々に身体を蝕んでいった。五十二年秋、医師は首をかしげてつぶやいた。「ふしぎだ。もう心臓はめちゃめちゃなのに……」。命の灯を燃やし続けた。音もなく戸を開けて、廊下を行く小さな姿。
 視力も弱まってしまったので、トイレの横の部屋に移ることになった。たまたま嫁が来会わせて、部屋替えを手伝ったことを、仏様のおひきあわせと喜び、Aさんは手を合わせるのだった。
 それから二日たった。夜勤者が朝のおしぼりを持って行くと、床に寝たまま手を伸して受け取り、続いてホーサン水を浸した脱脂綿で両眼を拭いた。いつもと変らないAさんだった。そのすぐ後に隣りのMさんの知らせで駆けつけると、一人で起きようとしてふらついたAさんが、ベッドに伏したままだった。 (『にんうん荘』十八号・五十三・四)

 ここに流れる哀歓はホームに住む人たちすべてのものであろう。非情な嫁に対してさえ老婆は仏の引き合わせと喜んでいる。老人は何よりも家族を本当に頼りとしている。それが見抜けないと私たちが老人を「施設老人」にしたてあげる過ちを犯すことになろう。
 「老人ホームにおける老人と家族に関する調査」(五十三・十二・全社協)で、家族のある老人は特養と軽費ホームでは八五%もいるのである。福祉事務所を中心にして、ホーム側と家族とが、老人の幸せの本当のあり方を求めて、協力する態勢が確立されていかねばならない。「帰省運動」も、老人の帰郷の念を和らげるだけが目的ではなく、家族が老人を受け入れることにも役立つものでなければならない。
 家族が老人を受け入れる事への働きかけ、これは老人ホームが、ある面で家族の無理解により本人の、真の自由意志による部分が少ないという性格がある以上、相当に根気強く専門的活動を伴わなければ出来ないものだと思われます。家族の協力があれば外出、外泊を含め、関係が強化されるという場面、あるいは臨終の場面においてさえ拒否的な家族がいる事を、思い合わせると、老人ホームで生活する老人が、”ありがたい””安心だ”という言葉も聞き逃すことの出来ない悲しい現実であるという事が出来ます。『老年期の臨床心理(井上勝也著)』の中で、筆者は老人ホーム等への利用は、「老人自身が変化する」ことを期待したものだとしています。続けて、「老人自身が変化する事、むろんそれはそれで重要な事であるかもしれない。しかしながらここで、このようなタイプの臨床的アプローチがなされる際に、しばしばそれを気付かずに周囲の陥いる危険なワナがあることに留意しなければならない。それは、老人の周囲がいわば勝手に設定した勝手な”あるべき姿”に無理にでも老人を押し込めようとする態度である。相手の自由意志による自由な選択を尊重しようとしない態度である。むろ んこれは老人臨床に限らずすべての臨床場面に共通する問題でもあるが、現実の臨床場面を見る時、ことに老人が自身の”自由な意志による”自由な選択をなしうる事が顧慮される事なく、周囲の都合に従って、いわゆる”処遇”される事がきわめて多いのである。」と述べています。
 これらの事を考え合わせると、盲老人ホームが家庭復帰という処遇課題に取り組んでいく為には、

  1. ホームは全ての老人にとって終生滞在の性格を有したものでないとの立場を明確にする事。
  2. 利用直後から家庭に視覚障害老人に対する理解を図る事。(利用前の状況、家族が本人をどのように思っていたか、日常生活で困った事は何か等の家族の立場の理解とともに)
  3. ホームの職員は盲老人に対して、全てを与える事だけが、仕事でない事を理解する(家族に対し、どのような気持を持っているか、ホーム利用に至った心の動き等の理解)
  4. 家族が視覚障害老人を受け入れるのにネックになっている部分は何か。また、家庭内の人間関係はどのようになっているか。
  5. 個々の老人にとってその家庭が本当に家庭復帰に値するものであるかどうかの価値判断を誰がどのように決定するのか。

 というような命題を明らかにする必要があります。在宅福祉の重要性が叫ばれる今、この問題は視覚障害老人に対する専門的援助施設として、老人の状況に応じ各種のディサービス事業への取り組みの必要を感ずるとともに、制度政策は変っても、愛情を求める老人の心の願望を正面から取り組む姿勢が、実践者としての立場であると思います。

■岡山県・鶴海荘(家族会規約)

家族会規約

 (名称)
第一条 この会は鶴海荘家族会と称す。

 (会員)
第二条 鶴海荘家族会は鶴海荘入荘者の家族およびこの会に賛同するものをもって構成する。

 (事務局)
第三条 鶴海荘家族会の事務局は鶴海荘内におく。

 (目的)
第四条 鶴海荘家族会は荘および家族相互の連けいと協力により入荘者の豊かな生き方のために援助
するとともに、入荘者の福祉の向上をはかることを目的とする。

 (事業)
第五条 鶴海荘家族会は次の事業を行う

  • (一) 家族会の開催
  • (二) 荘の行事への協力
  • (三) その他必要な事項

 (役員および役員会)
第六条

  • (一) 鶴海荘家族会に委員三名をおき、その中の一人を会長とする。
  • (二) 役員会は、会長が必要に応じて招集する。
  • (三) 役員の任期は一年とする。

 (総会)
第七条 総会は、会長が招集し毎年一回開催し必要に応じて開催し、次の事項を審議する。

  • (一) 役員の選出
  • (二) 規約の改正
  • (三) 事業計画の承認
  • (四) その他必要な事項

 (会計)
第八条 この会の経費は、会費および寄付金をもって充てる。(ただし当分の間は会費は徴収しない)

 (会計年度)
第九条 鶴海荘家族会の会計年度は四月一日に始まり、欲年の三月三十一日に終わるものとする。

 (附則)
第十条 この規約は昭和五十七年六月六日から実施する。

第VI章 盲老人ホームにおけるリハビリテーション

一、盲老人ホームにおけるリハビリテーションに対する考え方

 昭和三十六年に盲老人ホームが誕生して以来二十五年が経過し、徐々に地域に浸透しつつあり、現在、全国で四十二施設を数えるに至りました。各地の盲老人ホーム設置に対する要望が非常に強いということの証明ともいえ、「各県に少なくとも一施設を」という声が実現されつつある、ということでもあります。今や、盲老人ホームの必要性に対する考え方は、全国的に定着した、といえるでしょう。
 こうした認識が社会的に定着した現在、ホームが抱える当面の課題は、利用者処遇を再検討し、より適切なものにすることです。また、身寄りのない困窮する盲老人を、単に施設に収容すればこと足りたというような開園当初の段階を早急に脱却し、利用者にとってホームを心豊かな生きがいのある生活の場にしていくことも課題であるし、老齢、視覚障害という特殊なハンディを背負った利用者に専門の知識と技術に基づいたきめ細かいサービスを提供することもそうです。
 こうした課題へのアプローチのひとつとして、失明者リハビリテーション、とくに生活訓練の実施が考えられます。
 第四回全国盲老人ホーム実態調査によると、利用者の年齢は七十歳以上の者が六二・九%で半数以上を占め、また、五十歳を過ぎて失明した者が四七・五%となっています。
 このように、年齢が高くしかも年をとってからの失明が多い盲老人ホームの利用者は、盲人としての生活に適応することが極めて困難であるため、日常生活のあらゆる面で絶えず目が見えないための不自由さを経験しているのです。
 しかし、こうした高齢の利用者であっても、失明者リハビリテーションとして、身辺処理の訓練、歩行訓練、感覚訓練などを受けることによって、失明で失った日常生活を営むのに必要な、さまざまな能力を回復し、ホームでの生活上の不自由さを緩和することができるのです。
 したがって、これら訓練は盲老人ホーム利用者には大切なことであり、今後、盲老人を対象としたリハビリテーションのあり方、その具体的な内容等について、さらに堀り下げた調査研究が必要といえます。このことは、利用者に対して専門的知識と技術の裏づけのある、きめ細かな行き届いたサービスを提供することにもつながるのです。
 ただ、現在、わが国には盲老人のためのリハビリテーション・センターは皆無ですし、訓練に当る職員はもとより、その職員を養成する機関もないのです。
 そのため、盲老人ホームにおいては、リハビリテーションの必要を感じながらも、正面から取り組むことが遅れてきた訳です。同時にホームのもつ性格にもリハビリテーションを必要とする要素が少ないと言うことが言えます。高齢でしかも失明、加えて家庭内にいた時の役割期待が全くなく、むしろ援助する事即ち支えることがホームの役割との認識です。一方で自立を期待しながらも、実践的にはほとんど具体的援助に至っていないことがそれを裏付けています。ある特養において次のような事例があります。

 入所時常時臥床状態で、意識もはっきりしない状態で(物忘れ、見当識障害等々)軽度の痴呆として受け入れたHさん(女性)、診察の結果歩行については外科的障害はなく、長期臥床による低運動性のものであることが分かり、リハビリテーションを開始、ベット上の座位保持(食事時間を利用)―筋力増強R.O.M.(関接可動域拡大)訓練―車椅子での散歩―起立訓練―車椅子自力訓練―平行棒内歩行訓練―杖歩行訓練までを指導員の指導のもと約一年で消化しました。幸いにして当初予想したリスクもほとんど無く、順調な回復でした。意識障害は車椅子での散歩の段階でほぼ消滅、意識がはっきりして来た段階で、自分が入所して来た時のことは覚えていない。「病院かな」と少しずつ感じて来たこと、等を口にするようになりました。起立訓練を始めてまもなくオムツからポータブルトイレの使用へ移行しました。(排尿便の失敗は最後まで残りました)このことは彼女にとって、非常な喜びとなりました。毎週必ず訪れる家族との楽しい語らいも(多少発語に不自由さが残っているものの)自己主張が加わり、家庭復帰への希望が出始めたのです。杖歩行の段階では、トイレに自力 で行ける実用段階まで回復し、何度かの外泊をくり返した後家庭復帰を果たしました。
 このケースは、家族の協力があったにせよ、八十二歳という高齢であっても条件によっては、自立への方向が可能であることを示したものです。このケースの場合の自立とは「基本的身辺処理が何とか、あるいは少しの介助があれば出来る」という部分に最終目標を置いていましたので一応目標は達成したということができます。このように、リハビリテーションの持つ目標は個人差により違いますが、よく”現状維持が施設にできるリハビリテーションの考え方だ”という言葉が聞かれます。しかし、これではリハビリテーションをやっているとは言えません。失なわれたものに対する回復、失なわれた機能を補う他の諸器管の開発を目指すのがリハビリテーションなのです。そして失われたものの程度、年齢、精神の状況、他の疾病との関連等において個別の目標が設定されるのです。
 ホームで生活する盲老人にとって、ホームは最後の生活の場としての受けとめ方があります。だからこそホームは、安心して生活できるよう心のこもった援助で、少しでもより幸せに、豊かな日々を過ごしてゆけるよう最大の努力を傾注する訳です。しかし、盲老人の依存については、常に問題になるところですが、依存を無気力と受けとめるのではなく、そうしなければ淋しく、不安な心理を理解したうえで、ホームの生活に必要な部分、あるいは、個々のニードを充足していくためにリハビリテーションは必要なのです。

〈例〉老人ホームに自炊設備は不必要か?
 この設問もホームの考え方により答えが変わってきます。必要なしと考える背景には、(1)盲老人にとって火気は危険 (2)希望もないので必要性を感じない (3)不衛生になる (4)必要な物は給食で十分補える等があげられ、必要だとの答えには、(1)生活性をより家庭に近づけるためには、職員の援助や介護は必要ながら自炊という経験は欠かせない (2)危険への対応は、介護上の問題で管理的であってはいけない (3)過去の経験の再現が盲老人の自信につながる等の意見が出されました。この設問に関してある施設で「たまには自分で何かつくって食べたいですか?」とのアンケートでは、少数ながらもつくりたいとの解答がありました。家事を楽しみの一部、過去の体験の再現ということから考えると、やはり、必要なリハビリテーションと言えます。ただし、生活要件の中での必要というよりも、精神的な部分での影響を考えてのことです。

二、日常生活動作の自立に向けての援助

 家庭ではまだ、社会的に自立していかなければ生活できない盲人、また家事、育児等の仕事がありながら失明した人にとっては、どのような方法をとってでも生活していかなければいけない訳ですから各種の課題も非常な精神力を持って乗り越えていくことができるのだと思います。しかし、老人にとって、日常生活を自立に向けてさらに努力していかなければいけないということにはどのような意味があるのでしょうか。
 前述の依頼心、依存心が強くなるということの意味は、一つには視覚障害による精神的な問題と、身体的に退歩して行動への欲求(意志の発動=自発性)に結びつかない場合の二通り考えられます。いずれも放置しておくと心理的にそこから抜けだすことが困難になり老化を促進することになります。このことから盲老人にとっての自立は非常に重大なポイントになる訳です。”介護するのはやさしく、見守るのは難しい”との言葉も、自立がいかにその老人の”生”と深くかかわっているかを示すものです。

一、日常生活訓練上の諸問題

 自立が「生」とのかかわりの中で深い意味合いを持っていることは既に述べた通りですが視覚障害を持つ老人が、日常生活の自立に向けて新たな習慣を身につけていく際に、どのような問題があるかを考えてみます。関宏之は著書「中途視覚障害者と社会参加」の中で次のように述べています。

(1) 技能の回復について……中途失明者は、実際の生活を視覚的に行ってきた人々である。視覚を喪失したことの意味や、その重さについてはよく理解されていようが、視覚的関与なしの行動については、不安感や恐怖心をもっており、これらの除去を、極めて具体的に解決できるような配慮をしておくこと。

(2) 可能なことと不可能なことについての認識を持たせること……日常生活訓練は、多くの残存感覚や個人がこれまで培ってきた経験の上に、いくつかの配慮がなされることによって成立する。そしていくつかの諸動作は、失明前と同じ結果をもたらすように訓練される。しかし視覚の関与なしに行うことには制限がある。買物の場合が特にそうであろう。個人の努力や、創意工夫によって解決されることと、適切な援助をうける必要があることについては、明確な了解を作り上げていくことが大切である。

(3) 見えないために容認されることとされないことの認識を持たせること……見えない人がお茶を出してくれた、指をコップの中に入れて、お茶のはいったことを確認してから出してくれた。これはいわば、創意工夫の一つの例であろうが、必ずしも相手にいい感情を与えるものではない。見えないがために出来ないことについて、多くの人達は余りにもその数を増やし過ぎ、容認してきた。家族や周囲の人々が余りにもこれに迎合しすぎてはいないだろうか。トーマス・キャロルは、視覚障害者を一時的にでも家族から離すことを主張したが、このようなことを配慮をしてのことであった。失明者自身の問題意識が必要であると同時に、指導に際して忘れてはならない大事なポイントである。これらについて鈴木(一九七八)は、「洗面・整髪に際して、周囲や衣服を水や抜け毛で汚すことや、不潔感を与えるような飲食のしかた」をあげている。この外には、電話がかけられない人、硬貨の識別ができない人、トイレを汚す人など、すべてこの中にはいる。習慣化の努力がなされれば、何ら問題のないことだが、日常的なこれらの諸動作が出来ないことで、視覚障害に対する偏見を生む原因となる場合もあ ろう。

(4) 失明前の行動が失明後も継続される……「従来日常生活の中で、無意識に行っていた動作や、視覚的に修正処理されていた事柄は、失明後もそのまま配慮されずに行われやすい」(鈴木、一九七八)という。かつての生活動作は容易に改めることはできない。しかし、これが時には非常に危険な場合がある。よく整理整頓された場所での動作には危険性は少なく、しかも、何かを探す場合にも時間的なロスが少ない。
 これらの訓練上の諸問題は盲老人ホーム利用者にもそのままあてはまる内容と言えるでしょう。しかし盲老人ホームは生活施設という立場から寮母を中心とした職員との交流の中で人間性を追求している訳ですから、盲老人にとって苦痛を伴う援助の方法はとるべきではありません。家庭、あるいは社会復帰する可能性の殆んどない盲老人の”心”を支持しながら、職員共々努力していくことが盲老人にとって最も必要とされることではないでしょうか。次に日常生活場面での援助の具体的方法についていくつかの説明をします。

二、 身辺処理

 身辺処理に関する殆んどは長年の生活習慣や経験から自然と会得している場合が多いものです。しかし、盲老人の日常生活の中で多く見られる点についていくつかの解決すべき事があります。
○自力で可能な事も、行動(移動)を伴ったり、器具等を使用しなければならない場面においては意欲的に取り組もうとしない。
○記憶力の低下からしまい忘れ、置き忘れ等が多くなる。
○衣類の汚れ、清潔保持等への関心が低くなる。
○視覚以外の感覚にも機能低下が見られ行動に危険を伴う場面が生ずる。
 これらは、老年期前の視覚障害者にとっては生活訓練の対象として自立への方向へ導くことが可能です。しかし盲老人にとっては、むしろ個々の状況に合わせた介護上の工夫といった観点の方が大きい場面もあることを念頭におきます。

(1) 私物の整理、収納
 盲老人ホームでは個々に利用者が整理ダンスの持ち込むことを許容しているところが多くあります。押し入れそのものが盲人にとって利用しずらいという事が原因のようです。盲老人にとっては衣類等の他に日常使用する細々とした生活用具を分類して収納出来る収納場所が適しています。必要に応じ取りはずしが可能な棚や仕切りのついた収納棚を工夫したいものです。常時使用する小物については、仕切りの多くついた小物入れを用意します。衣類、下着類等は重ねずにきちんとたたんで立てて入れると区別し易いものです。

(2) 掃除
 掃除は居室だけは利用者が主として行います。その際たたみや床面に物が落ちていないか確認してから行うよう助言を与えます。
 はき掃除はいつも同じ方向から行い、ゴミを集める場所も大体決めておくとよいでしょう。また拭き掃除も同様に一定方向から始め縦次に横というように二度拭きをすると拭き忘れ等がなくなります。はたきの使用については、置き物や掛け物等に十分気をつけさせますが出来れば寮母が定期的に掃除機等をかけてあげたいものです。

(3) 整容動作
 整容動作も徐々に関心の薄れていく項目のひとつです。
○洗面―特に入れ歯等は毎日洗浄、消毒の習慣をつけます。
○整髪―毎日のブラッシングは頭皮に刺激を与え抜け毛等を防ぐ効果があるとされています。又抜け毛が衣類等につくと不潔感を与えるので毎日行うよう指導します。その際ブラシにガーゼを差し込んでおくとブラシを清潔に保つことができ後始末も容易に行えます。
○爪切り―爪がとび散らない爪切を使用します。ハサミを使用している老人も多く見受けられますが、いずれを使用するにしても深爪をしないよう少しずつ切り進むよう指導します。

三、 生活動作の中で

(1) 電話
 電話について自分でかけることが出来ない、番号を覚えることが困難とのことで、寮母に依頼するケースが多いようです。また盲老人は電話をかけるということに何となく抵抗を感じているように思われます。最も身近な家族の電話番号はくり返し教え、ダイヤルを回す訓練は受話器を上げない状態で反復指導します。公衆電話が設置されているホームでは、盲人用ダイヤル板等の補助具を使用します。いずれにしても自分でかけることの楽しさ、喜びは大きいものですから、盲老人だからといってあきらめず、時間をかけ訓練にあたります。

(2) 液体のつぎ方
 湯(茶)のつぎ方
 熱湯の取扱いは、安全性に重点をおいて行います。これは反復訓練により容易に習得できます。量的感覚の把握、確認には、当初水を用いて行い、次に熱湯を使用するとよいでしょう。訓練は1から3の順に従って行います。

1 やかんから急須、ティーポットへ
 やかんから直接急須やティーポットに注入する場合は、急須やティーポットは台の端におき、やかんの位置は台より下げて行うほうが、作業が容易です。また、卓の角を利用して行うほうが、卓の正面から行うより行いやすく安全です。
 適量の判断は注ぎ口かでた湯の加減と、急須・ティーポットの重量で判断するが音も多少は利用できる。反復訓練により適量の把握をさせるが、湯のみ茶椀やカップに適量の水を入れ、その一人分、二人分等を急須やティーポットにあけて重量を覚えさせるとよいでしょう。初期は水で行い、その後湯にかえて行うこともよいでしょう。

2 急須、ティーポットから茶椀、カップへ
 湯のみ茶椀、カップは下図のように一方の手で持ちます。手指は茶椀の縁より一・五~二センチ下げます。急須ポットの注ぎ口で茶椀の縁を確認した後、注ぎ口を少し前方へ出し静かに注ぎます。
 適量の判断は、茶椀を持った指に熱感が伝わるので、手指が熱く感じたとき注入を止めれば適量が得られます。また湯の注ぎ加減、湯のみを持ち上げた時の重量感も併わせて泰量判断を行うとよいでしょう。

3 魔法びんから急須、カップへ
 1、2と同様の方法、注意をして行います。魔法びんは型式、大きさにより湯の注入に難易があるので、あにかじめ水などで行うとよいでしょう。魔法びんを傾けず押ボタンを押す型式もメーカーにより取扱いに難易があり、湯の注入口の形、急須やカップの大きさによっては必ずしも使用が容易ではない。訓練には、訓練生の家庭のものと同程度の大きさや型式のものが望ましいでしょう。


主題:
盲老人の豊かな生活を求めて No.3
111頁~202頁

発行者:
全国盲老人福祉施設連絡協議会 

発行年月:
1986年6月1日

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