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幼児の集団指導-新しい療育の実践-

3 運動発達指導の実践

 1) 運動発達と遊具の役割 *)

 遊具を使用することで、その子どもの運動が誘われ、それを扱うために必要な力や技能が育てられる。また、いろいろな遊具との経験が、物を創造的に用い、さらに、それらを媒介にして、人間関係を深めていくなど、遊具は、その子どもの成長、発達を考えて指導を行っていく上で見のがすことのできない大きな役割を果たすものである。しかし、指導の場面で遊具を数多く、無差別に与えればよいというのではない。むしろ大切なことは、子どもがいまの発達の段階において、日常生活から受け止める印象や生活体験とどのように関連させながら遊具を与えていくか、また、運動発達を促進する上で、それをどのように生かして使用するかということであろう。ここでは筆者の経験から、特に乳児の運動発達指導における遊具の役割に限って述べることにする。

 (1) 遊具の選び方

遊具を遊ぶ際の外見上の留意点として、形、大きさ、色などがある。
形:握りやすいもの、へりやかどに丸味のあるものが好ましい。人物や動物などの姿、形を表しているものは、すぐにそれとわかるものであることがのぞましい。また、必要以上に飾りつけのないものがよい。
大きさ:安全性から(誤飲の危険性)極端に小さなものでなく、操作の容易性という点から適度の大きさが必要である。
色:明るくはっきりした単色のものが望ましい。安全な塗料または色おちしないもの。

 (2) 遊具の性質

どの遊具にもそれぞれ固有の性質が備わっている。その性質と、指導目的を考え合わせて遊具を用意することは、乳児の発達指導において大切なことである。
松村康平の遊具のもつ性質の研究**)の中で乳児指導に役だつこととして次のようなものがある。
① 固有性-固有の使用法を備えているもの(例:ボール)
② 変容性(同時性)-固有の形を保ちつつ変化するもの(例:ダックボール、ガラガラ)
③ 連結性(構築性)-重ねる、つなげるなど形が変化することで楽しめるもの(例:積木、ブロック)
④ 動作性-それを使うことによって動作が誘われるもの(例:ボール)
⑤ 誘導性-そのものが動いて、使っている子どもの動きが誘われるもの(例:おきあがりこぼし、ダックボール)
⑥ 含有性-そのものに意味があって、見て聞いて楽しむもの(例:絵本〉

 (3) 遊具の性質を生かした指導

乳児の運動発達指導において、目的とする運動機能は、①肢位の保持(例:坐位)、②移動(例:四つばい)の2つに大きく分けられ、その目的と遊具のもつ固有の性質との関連をとらえて指導が行えることがのぞましい。
① 肢位の保持
音がしたり、形が変わるなど、働きかけた結果がとらえやすいもの(おきあがりこぼし、ゴムねんど、ガラガラなど)、構成的に扱うもの(積木、ブロックなど)、内容を楽しむもの(絵本など)等が使われることが多い。それらは、どちらかといえばじっくり操作し、その物へのかかわり方が深められるものである(技能性、深化の方向)。
② 移動
働きかけによって容易に動き始め、誘導性、連続性を有するもの(ダックボール、ボール、自動車)が使われる。遊具のもつ固有の性質と、それに働きかける時の運動との間に共通する性質が見い出せる。これらの遊具は体全体の大きな動きを誘いやすいものである(運動性、拡大の方向)。
なお、日常生活においても、上記に述べたような配慮は当然必要であり、たとえば、適当な高さの机や台などの用具を利用することにより、遊具の位置が変化し、それに誘われて平面的な活動から、立体活動へと指導のねらいとする多様な動きが導かれる、など、遊具を含めた物理的な場面設定に留意することも指導のひとつのポイントである。

 *) 今井典子、大村道子、佐野信子「運動発達における遊具の役割」第21回全国肢体不自由児療育研究大会発表
**) 松村廉平「子どものおもちゃと遊びの指導」フレーベル館、1970

 2) 「かかわり方」の発展を考慮した運動発達指導の実践

ここに紹介する症例は、「かかわり方」が発展する状況において、主として運動発達を目標とした指導がなされながら、同時に、その場面において、情緒的な変化もみられ、子どもの全体的発達を促す活動が展開された事例である。
(症例) T男 年齢:1歳1か月
診断名:脳性マヒ アテトーゼ型
運動機能の状態:
腹臥位 両手を前にし、頭を上げようとすると後方にそってしまう。
坐位 畏坐位、あるいは横座り(両手を前につく)介助。
移動 寝返り介助。
ATNR(非対称性緊張性頸反射)+、Parachute(保護伸展反応)-。
指導目標:異常姿勢反射の抑制、head controlやbody rotationを主にした立ち直り反応の促通。
指導内容:
<第一段階> 外界の物が認識される段階
母に抱かれ、母と一緒で安定する。
指導者は、母子(一組)と共有できるような状況をつくる。
この段階では、人(母親、指導者)が媒介的にかかわることによって、物に気づきやすくなり、外界への働きかけの通路が開かれる。
(子どものようす)
移動の介助に、人にさわられても不安そうな顔をしている。物が手に触れると動かそうとする。人から与えられたものに気づく、見る。
(活動内容)
母の膝に抱かれている(よりかかるように)。母から他の人(指導者)に移されると泣き出す。母のところに戻ると笑い顔になる。指導者は、ダックボールを子どもの目の前にころがす。手は出さないが、指導者と母のやりとりを見ている。次に、母と一緒にダックボールを指導者の方にころがす(抱かれている、頭のコントロールが悪い)。
<第二段階> 外界の物への働きかけが活発になる段階
「自己と人」「自己と物」との関係がつきやすくなる。
指導者は、子どもと物との関係に働きかけやすくなり、関係が深められるように、母を媒介にしての活動を活発に展開する。
(子どものようす)
物との関係で、自発的に目標へ向かって手を伸ばし、もて遊ぶ。まわりを見わたす。寝返りをしようとする。背臥位で人(母、指導者)に手をさし出そうとする。腹臥位、または坐位で頭を少しあげる。人のまねをする。
(活動内容)
母の膝に抱かれていて(頭は正中位で保つように)人から働きかけられると手を出そうとする。
黄色いボール(直径20cm)を子どもの方にころがす(枕を胸部にあて両手を前に出し、腹ばいの肢位になる)。頭を上げて、片方の手を伸ばし開いてボールをとろうとする。触れると“にこにこ”して声を出す。ボールにさそわれやすい。枠積木の中をボールが通るようにころがす。自分も同じようにやろうとする。母が離れた場所から「Tちゃんおいで」と呼ぶと。指導者に介助され寝返りで母のところに移動をする(そり返りが起こらないよう注意する)。
<第三段階> 外界とのかかわり領域が拡大される段階
「人」を媒介に「自己」と「物」との関係が容易に展開する。自己がその状祝に安定して位置づいてくる。
指導者は、活動領域が広がるような場面設定をする。物の変化に気づき、自発的行為が促進されるよう働きかける。
この段階では、自発的な活動がさかんになり、外界とのかかわり領域が広がる。目的志向活動が展開されていく。物に直接触れることを多く体験し、物のもつ特性や機能をとらえて活動を発展させる。同時に人に渡す、人から受けとるなど人との関係も活発になる。
(子どものようす)
腹臥位で両手を前に出し、頭を正中位に保とうとする。寝返りは手を支え、背臥位から腹臥位にできる。
(活動内容)
指導者はT男の前で積木を積む。T男は(腹臥位)片手で積木を倒す(頭をあげるようになった)。何回も繰り返し倒すうちに、積木を持とうとする。指導者と一緒に積みあげ、得意な顔をする。積みあげては倒す活動を繰り返し行う。さかんに声を出す。枠積木の中をボールをころがす。積木を2つ、3つ、4つと二段に並べると、T男はどの穴からボールが来るかよく見ている(母が介助し、横座りで頭をあげている)。T男も好きな穴からころがし返す、活動が活発に展開される。
考察:(表4-4参照)
表4-4 「かかわり方」の発展を考慮した運動発達指導

かかわり方の発達段階 子どもの在り方 指導者の在り方 指導の場面
表4-4の図1
↓ ①
①目立つ物との関係が持続する。
目標を<とらえる>
①補助的にかかわる
<介助する>
表4-4の図5
表4-4の図2
↓ ②
②物や人への分化がすすむ。物を<とり込む>
目標に<向かう>
②媒介的にかかわる
<援助する>
表4-4の図6
表4-4の図3
↓ ③
③人、物との関係をとらえ<働きかける>物を扱う。
結果を楽しむ。人に渡す。
③一緒にふるまう
<共同する>
表4-4の図7
表4-4の図4 表4-4の図8

①の段階では、子どもは「不安」な気持ちを抱いてその場所にいる。母に抱かれていれば安定し、自己の周囲の状況をうかがっている。その状態を受け入れると物に気づき、わずかに体を動かそうとするがほとんど他動的に動かされていることが多い。
②の段階では、子どもは、その場所に「安定」してくると、まわりへの興味が育ち始める。子どものわずかな動きや声をとらえて働きかけると自発的な動きがみられ、それをきっかけに運動機能ものぞましい方向に指導していくことができる。物への興味は人の行為をみて“まねる”ことで広がっている。
③の段階では、自発的活動がさかんになり移動(介助ではあるが)をして、物に近づくなど活動の領域が広がる。物との関係では、“まねる”ことから“繰り返し行う”(深まり)、物の機能に即して使う(活用)などの活動が展開される。
本症例からみられるように、子どもの運動発達の指導は「かかわり方」における発展段階を考慮にいれた指導が大切であり、全体的発達の方向をめざして進められることがのぞましい。

 3) 「役割のとり方」の発展を考慮した運動発達指導の実践 *)

ここでは、さきに述べた行為の状況における5つの役割のとり方の発展に即して、実践例をあげる。

 (1) 身体の動きを活発にする活動

感覚刺激、振動など、子どもを包み込むような状況設定において、基本的な動作獲得に役立つ姿勢保持(腹臥位で頭を上げる、寝返り、坐位保持)、バランスの獲得等、豊富な感覚体験(触覚、視覚、運動覚)を伴う全身的な運動を活発にする。
<実践例> 毛布を使ってのかくれんぼ
目的:自分の身体のわずかな動きの変化が、外界からの働きかけを誘発し、自動的な活動への準備をつくる。身体全体の大きな動き、粗大な手の動きを誘うのに役立つ。
用意:布(大、小)、毛布など。
方法:不安な心理状態をつくらないように、はじめは大人や人形等に布をかぶせる配慮も必要。毛布をかぶせられると、子どもは、身体全体を動かしてあるいは手で払いのけて毛布を取り去ろうとする。取り去って友達や母親と対面する驚きや喜びは次の自発的活動を誘う。
発展:集団遊びとして活用する時は、かくれている人をあてっこしたり、やきいも屋さんなどの場面設定をして、やきいもになっている子どもを毛布の中でころがしたりする。また、毛布を船にみたて、ゆらして、座っている子どもの坐位バランスを誘発することもできる。
その他

  • ゆれるローラー:子どもがまたいで座れる位の円柱状の長い筒に、坐位または腹臥位で乗せ、乗り物などにみたて左右にゆらす。
  • 大きなボール:直径70cm位のボールに子どもを乗せる(反りやすい子どもは腹臥位で、前屈しやすい子どもはあお向けで)。同じく乗り物などにみたててゆらしながら床に手をつかせる(保護伸展反応の誘発)。この場合、子どもの腰か、大腿部を保持する。
  • 回転トンネル:蛇腹のトンネルの中に子どもを寝かせて入れ、ゆっくり動かして寝返りをさせ、体の分節的な回旋を誘発する。体をつっぱってしまう子どもの場合には、上肢や肩を補助するのがよい。
 (2) 働きかけを育てる活動

働きかけると相手が容易に変化し、変化に誘われてまた働きかけたい気持ちが育つ、というように、対象への自発的積極的な働きかけを誘う。手の基本的動作、対象のもつ特性への認識を育てるのに役立つ。
<実践例> ドーフ粘土
目的:触一運動知覚体験を通して、対象の感触、大きさ、色、形等への認識を育てる。
さわる、にぎる、はなす、つまむ等、手の操作における基本的な機能を習得する。
用意:ドーフ粘土(小麦粉粘土)
普通の粘土より扱いやすく口に入れても安全。
方法:はじめは子どもの自発的な働きかけに任せ、試しにつついてみたり、においをかいだりする過程を大切にし、次第に、こねる、ちぎる、まるめる、平らに伸ばすなどいろいろな活動を引き出す。上肢が自由に使えるような姿勢に注意する。
発展:集団活動への応用は、おだんごにみたて、友だちに配ったり、粘土の車を他の子のとつなげて遊ぶなど、できたものを生かして発展させる。形ぬきや、色の変化をつけることは、型や色への認識を育てるのに役立つ。 その他

  • フィンガーペインティング、砂あそびなど:手や指の動きの軌跡が視覚的にとらえられるよう絵の具の溶き方に濃度をつけたり、和紙に写しとって残すのもおもしろい。
 (3) 人とのつながりを伸ばす活動

人への働きかけ、人からの働きかけを経験しながら、動作の多様性の方向(人の動作に気づいて取り入れる)、動作の変容性の方向(相手との力動的な相互関係により変わる)が育つ。
<実践例> フープの鏡
目的:フープ(輪)を媒介にして、相手の動作表現をとらえて、自分の運動に移しかえ(視-運動知覚)、相手の動作の変化に自分の動作を即応させる。
用意:フープ
方法:1人が輸をたててもつ。輸をはさんで2人が両側に向かい合い、一方がしてみせる動作を、一方はあたかも鏡に写らたかのようにまねる。3人の役割を交代して行う。フープをもつ人がフープの高さを変化させれば、坐位、膝立ち、立位など肢位の変化が誘われ、3者の相互の働きかけの変化が複雑な動作をひき出し、活動がいきいきする。
発展:集団活動への応用は、フープをテレビにみたて、“わたしのすることをよくみていて、何をしたかあててください”と呼びかけ、ジェスチャー遊びを交代でする。
その他

  • ジャンピングバニー(伸縮性のあるなわの両端に輸をつける)を使って:2つの輪の両端を離れてもち、ゆらして波遊びをしたり、通信機にみたてて引っぱりながら合図したり、相手の動作に即しながら自分の動作が活発になる。2本のひもを同時にもち、両手操作の練習にしてもよい。
  • フープやなわを使った電車ごっこ:数人でフープにつかまり、輸をひっぱったりゆらしたりして人との力動体験を楽しむ。なわの電車はより変動的となる。
 (4) 場面をつくり出す活動

空想的場面、生活に近い場面を設定した遊びの中で、場面に即した物の使用やふるまい方が育つ。さらに、場面を自分で構成的につくっていく経験をする中で、物を場面に生かして使用することもできてくる。
<実践例> ごっこ遊び(のりもの遊び)
目的:ひとりひとりの子どもが場面の中で役割を担い、相互に必要な動作を遂行することで交流を深める。
用意:ふみきりにする板、台、キップなど。
方法:運転手、ふみきり番、お客など、必要な役割をとりあう。役割の選択は、各々に応じた移動方法、姿勢保持を考慮に入れるが、基本的には自発的な選択を尊重し、次第に交代をしていく。
発展:駅のおべんとう屋さんを登場させたり、キップをつくるコーナーができるなど、役割や活動の内容を発展させて、場面を複雑にしていくこともできる。
その他

  • 動物園づくり:ついたてや壁を利用して、そこに大きな紙で動物園の領域をつくり、子どもが書いたり、切ったりした動物を貼っていき、集団で場面の内容を構成していく。つくる人、届ける人、貼る人と役割が分化し、だれもが場面づくりの一端を担う体験ができる。ほかに果物屋さんづくり、おかし星さんづくりなど、対象への細かい認識(類同性、相違性)を深めていく活動も展開できる。ぬいぐるみの動物や人形を使って、積木の家を構成していく遊びも、場面づくりの性質をもつ活動として役立つ。このように物の高さを有効に生かすと、坐位~膝立ち~立位と高さに応じた機能が引き出されやすい。
  • 買い物ごっこ:売る人、買う人の役割を明確にしながら、“やおやさん”“魚屋さん”などの店で売る物を、ブロックなどでつくり、みたてて物を組み合わせたり、場面に生かして使うことを経験していく。
 (5) 生活のきまりを体験する活動

生活の中でのきまり、生活習慣-食べること、衣服の着脱等-を身につける過程で、実際の場に近い生活縮図的場面を設定すると、物の目的的な操作方法や目的動作の獲得に役立ち、実用化されやすくなる。
<実践例> ままごと遊び
目的:生活縮図的場面において、現実生活に必要な生活習慣や、現実に即した物を扱う態度を身につける。
用意:ままごと遊具、机など
方法:家領域の設定、空想的時間設定“朝です。顔を洗って……”は、単なるままごと遊びとは異なる現実感を生み、実際に洋服を着たり、脱いだり、たたんだり、友達と一緒に楽しく体験することができて、現実場面との結びつきも容易になる。
発展:会社や学校、幼稚園という社会的場面を設定すると、役割のとり方や、生活のルールもより目的的になる。

  • 集団活動において、名前よび、ノート配りなど当番の役割体験も同様の意味で効果的である。

(佐野 信子・大村 道子)

参考文献
(1)五味重審「脳性まひ児のリハビリテーション」医学書院、1976
(2)津村真、磯部景子「乳幼児精神発達診断法0~3歳まで」大日本図書、1971
(3)ヘルッカ、ピデヅワンガー著「障害児の発達を考える」「豊かな遊びをつくるおもちゃ」Br.ジョルダン社、1977
(4)日本肢体不自由児協会、「幼児集団指導」Vol.1~8、1970~1978

 *) 佐野信子・武藤安子・大村道子「役割のとり方からみたあそび」療育の窓 No.8、全国心身障害児福祉財団、1974

〔付〕 日常生活における介助者の留意点

障害児も発育途上の子どもとしてとらえる時、正常発達を促し、異常な肢位・姿勢や発達の妨げとなる運動パターンを抑えること(その子どもの生活金体における役割・意味を教えること)が、運動発達指導の課題となる。また子どもの遊びの発展している状況において、それぞれの子どもの機能的側面に留意し、指導者の適切な接し方、遊具の用い方により、機能面での改菩、進歩がみられ、遊びの発展をさらに促進するという相互関連性をみいだしながら指導をすすめることが課題となる。
ここでは、さまざまな要因により、運動発達上異常な姿勢や運動バターンをとる障害児の特徴と、それらへの日常的な接し方について、典型的な例をあげながら述べることにより、子どもの全体的な発達あるいは遊びの発展を促すものとなること(発展を促す起動点の自覚となること)が期待される。

 1) 姿勢について

 (1)背臥位(あおむけ)と腹臥位(腹ばい位)
頭や体幹のコントロールが未熟で、坐位をとることの困難な子どもは、特に背臥位でいることが多い。緊張性迷路反射(TLR)や非対称性緊張性頸反射(ATNR)は生後6か月ごろには共に消失していなければならないが、障害児にはそれが存続し、背臥位をとると、全身の体を伸ばす筋肉の力が支配的になり、反りかえりの姿勢になったり、首を一方向へ向けるとATNR姿勢の出現がみられる。背臥位から頭の上の方を見たり、足で床をけるようにして頭上の方へ移動することがあるが、これは、ますます、全身の伸筋の緊張を高めることになる。
緊張性反射の支配的姿勢では、手を体の前に出すことが難しく、自己の身体が一つの点として視覚的に上方への広がりのみに向けられ、比較的手が自由に使える時でも、自己から外界への働きかけが難しいといえる。この場合、両手を胸の前に組ませ両足を屈曲させ、体をボールのように丸くし、筋の緊張を除いてから、腹臥位または横臥位をとるとよい。腹臥位の場合は、胸部に枕、ローラー等を当て、両手は前に伸ばし、肘または手で体を支持できるようにすると、頭を上げやすくなる。横臥位でも両手は前方に出し、両手が視覚的にとらえられるようにする。この時上方の下肢を軽く曲げておくと安定しやすい。
腹臥位または横臥位をとると、自己の手の動きを容易にするだけでなく、平面を利用してのボール遊びなど、まわりの動きを継続して追うことがより可能となる。
 (2)坐位(おすわり)
障害児に最も多くみられる坐位姿勢に割り座(とんび座り)がある。支持面が大きく、重心も低いことから、最も安定したお座り位であるが、この肢位は、股・膝関節の拘縮(関節が固まってしまう)の原因となり、特に痙直型の子どもでは極力さけるべきである。
長坐位(えんこ)は股関節が屈曲し、脊柱の弯曲が見られなければ良い肢位である。
あぐら座りは割り座同様支持面が広く比較的安定した肢位であるが、移動へ移りにくい。
横座りは、移動しやすく、しかも下肢の変形、拘縮を起こしにくく、最ものぞましいおすわりである。
坐位の不安定な子どもには、くりぬきテーブルのくりぬき部分に体を入れたたり、三角いすや、前方、側方への支えをしたり、介助者のあぐらの中に座らせたりするとよい。
 (3) 坐位・(いす)
いすは、子どもの坐位バランスに応じた支持部分が必要であるが、余計な支持はかえって活動の妨げとなる。
座った時には、股・膝・足関節が十分余裕をもって直角になり、足底部は床についていることが大切である。いすの幅が広すぎたり、前方への支持がないと不安を示す場合がある。その時は側方へ座ぶとんを入れたり、前方へ机や補助者の手を置くことで子どもは安心を得られやすい。
頭や体幹のコントロールの不十分な場合は背もたれを長くしたり、座席を後方へ斜めにしたり、前方にすり落ちないようにひもを取りつけたりする。またハンモック様の特別ないすを使用することもある。この場合は前述の留意点のほかに、脊柱が弯曲しないよういすの背の部分を硬くすることが大切である。前述したくりぬきテーブルを用いると、側方への安定性を得ることもできる。
机はアテトーゼ型の子どもの場合は低めに痙直型の子どもには高めにするとよい。

 2) 移動について

ここでは移動の補助の仕方について述べる。
介助者は、子どもの能力をよく知った上で、子どもが動きやすいように、適度な(多過きず)補助を最小限(少な過ぎず)にすることで、子どもの自立性を高め、子ども自身のできる動作についてはっきり自覚させ、励ますことが大切である。
 (1) 腹ばい・四つばい
痙直型の子どもは、上・下肢の協調性、下肢の交互性が悪く、下肢を引きずるように腕の力だけで腹ばいをすることが多い。補助者は、子どもの骨盤を左右交互に挙げ、股、膝関節の屈曲を促したり、上肢の支持性がよい場合には、腰部を保持し四つばい位をとらせ、交互の足に体重をのせるように支持しながら移動させる。下肢は交互に出るが床面をける力の弱い子どもには、股・膝・足関節を曲げた時に足(足底)を固定すると前方へけり出すことができる。
アテトーゼの子どもはいざりや坐位から、飛ぶようにして移動することが多い。これは、坐位保持が可能な場合で上肢に重い障害を残す子どもにみられる。肩は後方へ引かれ、上肢を前方へ出すことが困難だったり、また、首の動きで上肢の動きが影響を受けやすいためで、四つばい位をとることをいやがることが多い。この場合は、いざりばいを認め、両手を前に出すような状態をつくる。
 (2) 膝歩き・歩行
膝歩きや歩行を始めた子どもには、子どもが体重をかけると動く程度の重さのいすや、おもちゃなどを乗せて重みのついたワゴンを押させる。補助者は、子どもがその支えにたよりきってしまないように注意する。
 (3) 抱っこ
両腕を屈曲し、両足が交差してしまう痙直型の子どもを抱く時は、子どもの両足を広げて介助者の腰の部分にまたがせ、上肢は介助者の首または肩へ置かせる。
背臥位から抱きあげる時は、子どもの両手を前で組ませ、肩甲帯を持って引きあげ、すわらせてから抱きあげる。または、介助者の手(指)を片手で握らせ(またはもって)、もう一方の手は床につかせて、介助者は子どもの体を斜めに引き起こしてから抱きあげる。反りかえったまま、無雑作に抱きあげないよう注意する。

 3) 手指動作について

アテトーゼ型は、緊張性頸反射の影響で、首の向いた方向で手の動きが左右されたり、肩が後方へ引かれ、両手を体の前で合わせることがむずかしい。補助者は、子どもの前に遊具を置き両手を前に出させたり、使用していない手は体重を支えるように床につけさせているように心がける。子どもが遊具を取ったり離したりするときは、よく見るように指導する。この型の子どもで、肩のコントロールは比較的よいが、つかむ、はなすが困難な場合には、コックアップスプリント(手首をそらせた肢位に保持する装具)にクレヨンを付けるようにし、手指を握る動作を補って、肩のコントロールで絵などを描くこともできる。
幼児の場合、障害児の手指動作について、特に装具や、自助具をつけさせることは少ないが、場合によって介助なしに自分の力だけでやりとげる喜びの体験を増やすために、適用を考えることもある。
痙直型の子どもは、ゆっくりではあるが細かい動作は可能なことが多い。しかし粗大な動作や、視覚-操作的な動作が困難な場合がある。その場合、遊具を体から少し離れて置いたり、フィンガーペインティングや、絵画などに大きな紙を使用すると粗大動作が得られやすい。視覚-運動の発達を促すには、手指動作だけの問題ではなく、床にかかれた犬きな円や線路にそって移動したり、パズルやゲームを集団で楽しみながら行うなど遊びの工夫も必要である。
片マヒの子とが健側だけを長時間使用していて、患側の上肢の使用が困難になる場合には、患側手に体重をかけて座らせたり、机の上に必ず出しているようにしたり、手とつなぐ時に患側手とつなぐなどして刺激を多くすることが必要である。肘を曲げている、回内位をとっているなど伸展への肢位がとりにくい場合は、肩関節を伸展、外旋位にすると、肘が伸びやすくなったり、回外位をとりやすくなる。

 4) 日常生活動作

3~4歳になれば、緊張の強い子どもでも食事の楽しさを経験させる意味でも、スプーンをもたせて介助をしながら飲べさせるようにしたい。食事はいすに腰かけた姿勢で安定していることが望ましい。姿勢についての留意点は姿勢の項にふれた。
首のコントロールの不十分な子どもや、つっぱりの強い咀しゃくの下手な子どもにスプーンを使って介助するとき、首がそると、飲み込むことがむずかしくなり、上手に食べることができない。頭を中間位に保ち、スプーンですくった食べ物を奥歯の上に置くように介助すると舌で押し出してくる重が少ない。
食器は固定をよくするため吸盤をつけたり重い陶器の子ども用食器などを使用するとよい。
スプーンやフォークは先の丸い、浅いものを選び、握りやすい太さのものを用いる。
衣服の着脱で重要なことは、床に背臥位で寝た姿勢で着脱(特におしめやパンツ、ズボン)を行うことを少なくする。介助者の膝の上に腹ばいにさせて行う(上衣の着脱も)か、介助者によりかからせるようにして坐位をとらせたり、膝にまたがせて自分の足が見える肢位で、更衣する。着衣の時は、悪い方の手または足から着せ、脱衣はその逆にして行う。また、衣服の素材やデザインも着脱しやすい物を選ぶ配慮が大切であろう。

(真因まり子)

参考文献
(1)ナンシー・R・フィニー「脳性マヒ児の家産療育」第2版医歯薬出版
(2)古川宏「幼少脳性マヒ児の作業療法の実際」「理学療法と作業療法」vol.6 No.7、医学書院


主題・副題:幼児の集団指導-新しい療育の実践- 139頁~152頁