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第6節 スウェーデンにおける障害者雇用施策

朝日 雅也(埼玉県立大学 保健医療福祉学部)

1.障害者施策の概要

(1)障害者施策の概要

スウェーデンにおける障害者施策の理念は、「他の人々と同様に、障害者も市民としての権利を行使し、同時に義務も果たす機会を有する」とされる。この理念は福祉サービスのみならず、すべての分野において障害者をスウェーデン社会の主流に位置づけることでもある。福祉施策は租税の拠出を中心とし、平等志向によりすべての国民を対象としている。

2000年に策定された、障害者に関する国の行動計画「患者から市民へ」では、とかく社会福祉の問題と位置づけられてきた障害の分野を、民主主義と人権の問題という包括的な視点を取り込む施策へ転換することを目標としている。この行動計画は、2010年までであるが、スウェーデンの障害者施策は、完全参加と平等のための障壁の認識とその除去、差別の禁止と予防、障害のある者とそうでない者との平等の促進に焦点をあてている。そのため、政府機関には、その物理的環境も、活動も、情報もアクセシブルな状態にしておくことが求めている。

(2)新差別禁止法の発効

2009年1月から新差別禁止法が発効した。2008年5月に従来の差別禁止法を廃止し、性差、民族・人種、宗教・信仰、障害に、年齢差別と性同一障害差別の禁止を加えた統合的な差別禁止法となった。同法は、6章から構成され、第1章が目的や定義等を含む導入規定、第2章が差別や報復の禁止、第3章が積極的対応策、第4章が差別禁止オンブズマンを中心とする監視制度、第5章が補償と無効措置、第6章が訴訟手続について、それぞれ規定している。障害者雇用の差別を含む具体的な差別禁止規定は第2、3章で取り扱われている。

従来の障害者オンブズマン法(1994年)は障害者の権利と利益に関する事項を監視するオンブズマン(Handikappombusmannen)について規定してきた。いかなる行政当局も障害者オンブズマンによる情報提供の要請を拒否することはできない。また、国連の定めた障害者の機会均等に関する標準規則に基づき、障害者の権利と利益についての監視を行う役割を担っている。発足当時、1000件以上の案件を取り扱ったが、雇用に関する問題が約1割を占めたという。

なお、前述のとおり、障害者オンブズマンは2009年1月発効の新差別禁止法に基づく差別禁止オンブズマンに統合されることになった。

(3)国連障害者の権利条約

国連が2006年に採択した障害者の権利条約について、スウェーデン議会は、障害者の権利に関する国連条約を承認し、翌年に署名した。さらに、2008年12月15日には、同条約並びにプロトコルについて批准を行った。

2.障害者雇用施策の概要

(1)一般労働施策としての障害者雇用対策

「すべての者に仕事を」がスウェーデンの雇用政策の目標であり、障害者雇用対策は一般の労働市場施策の一部として実施されている。障害者雇用率に代表される割当雇用といった特別な方法をとらずに、一市民としての労働権の保障という観点からの施策が展開されている。

一般の労働市場で職を見つけるためのプログラムを通じてもなお、それが実現できない障害者については、その代わりとなる雇用機会を創出することになる。かつて1970年代頃までには、一般の労働市場で就業できない場合には保護雇用か、それが難しい場合にはデイ・センターを利用して一部有給の仕事を行うというのが一般的であった。現在では「賃金補助」を受けながら一般の事業所での就業を行うか、かつての国有会社で,現在は有限会社となっている保護雇用グループSamhall(サムハル)での就業という選択肢が準備されている。

リハビリテーションもまた、障害者をできるだけ早く雇用されうる状態にすることを目標にして、比較的短期間の内に集中的に実施されるべきであるという考え方に基づいている。

(2)障害者雇用対策に関する主要な法律

障害者雇用に関する主要な法律として、「雇用促進法」「雇用安定法」「労働環境法」等があげられる。

イ.雇用促進法(雇用促進対策に関する法律、1974年)

高齢者及び障害者に対する雇用の確保と職業の安定を図ることを目的としており、後述の「職業的障害」を有するすべての者を対象としている。職場で「差別行為」を受けたと感じたとき、例えば、事業主に対する報告命令(従業員規模、年齢構成、国籍、職務、障害者数等)を規定したり、雇用機会の提供等に関して、事業主は県の労働委員会と協議しなければならないことなどが定められている。

最終的には労働市場庁に付託され、罰金を科したり、雇用事務所で従業員の募集を禁ずる措置を行うことができる。

ロ.雇用安定法(1974年)

すべての労働者についてその雇用の確保を目的とし、障害者については特別の保護資格を与えることになっている。例えば、客観的理由がなければ障害者に対して解雇通知をしてはならない、すなわち疾病や職業能力の減退は、解雇の客観的理由にならないということが定められているし、解雇通知やレイオフを行う場合の優先順位が定められている。すなわち、当該企業への勤続年数がほぼ同程度なら、職業的障害を有する者は職場に残ることが優先されることになる。ただし、この規定は保護雇用には適用されないことになっている。保護雇用にある者は、一般の労働市場で職につくことが提案された時には、そのようにすることを期待されていることが前提になっているからである。

なお、保護雇用されている障害者(サムハル2万人、その他5,000人)は、労働者とみなされ、一般労働者と同様、労働保護法が適用される。雇用安定法の不適用の理由は、一般労働市場で適当な就職先が紹介された場合、保護雇用障害者は、そこに移行しなければならないことと、サムハルは、市場の需要が減っても、障害従業員を解雇あるいはレイオフはしないという意味で、実質的に雇用保障がされているためである。(本研究における質問紙調査結果による)。

訓練期間中のものを除き、保護雇用障害者には、すべて労働法が適用される。スウェーデンには最低賃金法はないが、労働協定には最低賃金が含まれることが多いとされる。

ハ.労働環境法(1997年)

労働環境法は、事業主は作業環境を障害者の身体的・精神的状況に合わせて改善することを義務づけている。例えば、作業環境、仕事の構成(職務内容、報酬の形態、労働時間等)を障害者のニーズに見合うように改善することが求められる。

(3)障害者雇用対策に関連する法律

この他、スウェーデンにおける障害者雇用対策に関連した法律として、「建築法」、「特定の機能障害者に対する支援・サービス法」、従来の「障害者オンブズマン法」があげられる。建築法(1987年)では、住居、職場及び公共的に利用される可能性のある建築物は障害者が利用できるように計画しなければならないと規定し、職場についての規定が盛り込まれている。

また、従来の「知的障害者特別ケア法」「肢体不自由児童・青少年・生徒ホーム法」が発展解消され、スウェーデンにおける障害者施策の改革の中心として登場した「特定の機能障害者に対する支援・サービス法(LSS)」(1994年)は、職場におけるパーソナルアシスタントを障害者自身が選び配置することができることについての規定があり、障害者雇用対策とも関連が深い。対象となる障害者は下表のとおりで、同法の対象者は約10万人と推計されている。

表 特定の機能障害者に対する支援・サービス法(LSS)の対象者

  • ①知的障害、自閉症または自閉的症状を有する者。
  • ②成人に達した後、外傷または身体疾患に起因する脳障害によって明らかに通常の高齢化によるものではない、その他の継続的な身体的・精神的機能障害を有し、障害が日常生活の営みに著しい困難をもたらすために、かなりの援助サービスニーズを有する者、相当程度の恒久的な知的障害をこうむった者。

(4)障害者雇用対策の概要

スウェーデンには、障害者雇用率制度や納付金制度はない。原則的には、一般労働市場での雇用の確保に努力が向けられている。基本的な対策の目標は、職業的障害者が一般の労働市場において職を得て、それを維持することである。以下、事業主のための施策と、障害者本人のための施策に分けて紹介する。

1)事業主のための施策

イ.作業にかかる人的介助者のための補助(根拠:職業的障害者(特別対策)規則(SFS2000:630)

職業的障害者が事業所で就業する際に、職場で人的介助者を配置するのにかかる経費を補助する制度である。対象は、障害者を雇用する事業主だが、障害者が自営やフリーランサーとして働く場合も対象となる。補助額は1年につき最高50,000クローネである。重度のコミュニケーション障害を持つ障害者が自営を行う場合には例外的に100,000クローネまで補助される。補助を受けようとする事業主は、雇用事務所に人的介助を必要とする理由等を記した申請書を、人的介助者の配置の前に提出しなければならない。

補助の期間や額は雇用事務所が決定する。

ロ.職場における作業支援機器への補助(根拠:職業的障害者(特別対策)規則(SFS2000:630)

職業的障害者自身が使用する作業支援機器と、事業所が職業的障害者のために特別に配置する機器に対して補助される。雇用されてはじめの12ヶ月以内に発生した作業支援機器の必要性がその対象となる。

事業主も障害者自身もそれぞれ50,000クローネを限度に補助される。コンピュータ制御の作業支援機器は比較的高い金額を補助される。補助割合は、その支援機器がもっぱらそれを使用する障害者に限られるときはかかった費用の全額、そうでない場合にはかかった費用の半額の補助となる。雇用されて12ヶ月が経過した後は、専ら事業所及び、または社会保険事務所が支援機器の補助を行う。

ハ.賃金補助(根拠:職業的障害者(特別対策)規則(SFS2000:630)

障害者の低い労働能力を賃金補助の形で補てんする、スウェーデンの障害者雇用対策中でも重要な制度である。1980年に開始された。雇用事務所の紹介によって職業的障害者を採用した事業主が対象となる。労働能力が一般の労働者と比較して低下している障害者であっても一般の事業所に雇用され、それが維持されることを目的としている。労働協約に従って雇用された障害者であることが条件である。

賃金補助にあたって、事業主は、雇用事務所、費用者及び労働組合と共同して、個別の実施計画を策定しなければならない。この個別実施計画では、障害者の労働能力は向上することを前提とするので、賃金補助は長期にわたるものではないことになっている。追加的な訓練や、労働者間の協力、作業支援機器の導入等を検討しなければならない。原則として、賃金補助の期間は4年間を限度としている。毎年、実施状況に基づき計画を見直すことになっている。

賃金補助は、被用者にかかる賃金費用と費用者の労働能力を主要な要素としている。賃金費用は、有給休暇や社会保険等の支払いに関する部分を含む総賃金費用である。補助の対象となる賃金額は上限が13,700クローネ(フルタイムの場合)である。労働の能力がどれ位低下しているかについては、事業主、被用者、雇用事務所が協議して決定する。雇用事務所は、賃金補助が実施されている限り、定期的に個別実施計画の進捗状況をフォローすることになっている。

従来、補助率は100%が設定されていたが、現在ではそれは例外的になっている。また、公的な機関についてもこの賃金補助の制度が適応されるが、かつて100%だった補助率も原則最高80%まで引き下げられた。さらに、従来は賃金補助の見直しは4年毎であったが、前述のとおり毎年に変更され厳格な運用が求められるようになっている。次第に補助率を減らしていき一般の雇用に移行させていくことを意図しているが、現実には多くの職業的障害者が恒久的な賃金補助を受けている。

なお、1994年から1995年のデータであるが、賃金補助を受けて就業している障害者のうち20%以上が一般労働市場で補助を受けない雇用に移行している。

賃金補填は、事業主に対して行われる。現在、全体で約5万7,000人が賃金補助による支援で雇用されている。補助額は雇用サービスと事業主との交渉で決められる。

後述のサムハルの賃金は、一般企業と同様、労働協定による。サムハルは、スウェーデン労働組合連合(LO)に加盟する7つの労働組合と労使協定を結んでいる。ホワイトカラー労働者については、別に協定。サムハルの平均賃金は、一般労働者の約90%。平均基本額(月額)は、約1万6,600クローネ(2008年5月から)。この基本額に、①どの程度仕事がこなせるか、②経験年数(雇用期間)などを考慮して、手当が加算される。(5)慢性疾患または障害により追加的支援や経費が必要な場合、障害手当が受給できる。障害手当の額は、支援の必要度や追加的経費の大きさに基づき、物価基本額の36、53または69%。現在の物価基本額は、約4万クローネで、この手当は、本人の稼働収入や家族の収入とはリンクされていない。

19歳から29歳までで、労働能力が恒久的または一定期間(1年以上)少なくとも4分の1低下している場合、活動補償(従来の障害年金)を受給できる。30歳から64歳までで、労働能力が恒久的に少なくとも4分の1低下している場合、疾病補償が受給できる。

労働能力の低下は、疾病、あるいは身体または精神機能の障害によるものでなければならない。労働能力や労働を通して自らの生活を維持する機会がどの程度低下しているかにより、全額、4分の3、半分、または4分の1の活動補償を受給できる。

疾病または活動補償を受給している場合、補償への権利を失うことなく、働ける可能性がある。これは休止疾病または活動補償といわれる。少なくとも1年間疾病または活動補償を受給してきた者が、労働に対処することができるかどうか試してみたい場合、補償と賃金を同時にもらえる。それは、この試験雇用期間と休止補償期間をあわせ24か月までか、または補償を認められた残りの期間継続しうる。(6)保護雇用は、労働市場プログラム内の他のすべてのサービスやプログラムと同様、国の予算でまかなわれる。障害者は、これらのサービスやプログラムの費用のいかなる部分も負担する必要はない。(以上、本研究会が実施した質問紙調査の結果による)

2)公的保護雇用

主としてアルコールや薬物依存といった社会的、医療的障害を持つ者に保護雇用の機会を提供するもので、地方行政当局、県議会などで雇用される。政府が雇用経費の最高75%までを補助する。知的障害者や精神障害者にも拡大している。

3)障害者のためのプログラム

イ.SIUプログラム(Special introductory and follow-up support ,SIUS

(根拠:職業的障害者(特別対策)規則(SFS2000:630)及び職業的障害のための特別プログラム実施にかかる労働市場庁行政規則)

就職前の職業的障害者に、職業導入について経験のあるSIUSコンサルタントが職場において支援を行うプログラムである。いわゆるジョブコーチによるサービスと考えて良い。個別の実施計画に基づき、職場への導入に必要な支援を行い、一定期間、障害者とともに働くこともある。支援は、障害者が支援なしに作業を行えるまで続けられるが、6ヶ月以内を目安にしている。また、必要に応じて採用後も1年間、フォローアップが実施される。

職業導入の期間中は、雇用関係はなく、職場実習のようなものであるが、職場環境法の適用を受け、事業主は安全の確保に努めなければならないし、必要に応じ障害者に適切な機器を提供しなければならない。

このプログラムの対象は、雇用事務所によってSiUSコンサルタントによる支援を受けることが必要であると判断された職業的障害者である。

実際の支援にあたっては、障害者は作業支援という形で日々の支給を受ける。また、支援を受けている間の労働災害について補償される。さらに、プログラム実施中の障害者によって損害が生じた際に国が補償することになっている。

職業体験プログラムは、求職者の職業意識を高めるためのものであり実際の職場において、職業オリエンテーション、職業実践または体験という形で進められる。

このプログラムは民間企業、公的機関あるいはその他の非営利組織などで実施され、6ヶ月以内をその期間としている。職業体験は原則的にフルタイムで行われ、雇用事務所は参加者のフォローアップを行うとともに、面接やカウンセリングを実施する。このプログラムは、20歳以上の求職者を対象にしているが障害者の場合には20歳未満からのプログラム参加が可能で、少なくとも1日につき240クローネの訓練手当が給付される。

同様に、職業準備プログラムは、求職者の適職選択を容易にするために行われるもので、個別に組まれたガイダンスやオリエンテーションプログラムとなっている。さらには、リハビリテーション的な要素も含んでおり、他の訓練プログラムへの準備段階として利用することも可能である。具体的には、職業指導や職業訓練に関するプログラム、各市にあるコンピュータセンターでのコンピュータ教育等が行われている。このプログラムも職業体験プログラムと同様、6ヶ月以内の実施期間と、障害者の場合には20歳未満でも参加可能で、少なくとも1日につき240クローネの訓練手当が支給される。

さらに、自営を行おうとする求職者に対する自営開業支援プログラムがあるが、こちらについても前出のプログラムと同様、障害者に対してはプログラム参加の年齢条件が緩和されており、同額の手当支給がある。さらに、雇用事務所だけでなく、市の企業局等が自営開始のための相談に応じるほか、国の産業技術庁は、新規の自営業開業者に対して電話による相談サービスを提供することになっている。

6.保護雇用サムハル(SAMHALL)

(1)サムハルの使命と事業の概要

積極的な労働市場施策によっても一般雇用の不可能な障害者に対しては、保護工場サムハルにおける雇用が準備されている。政府所有の有限会社である。職業的障害をもつ人たちに意義のある雇用の場を提供するのがその目的である。世界的な企業である「エリクソン」(電話)、「イケア」(家具製造)などスウェーデンの有力企業からの下請け作業も多く、全国約250ヶ所で障害のある人々が勤務をしている。

サムハルの使命は、意味のある仕事を提供することと、工業製品とサービス関連の事業をバランス良く提供することであり、生産工場が全体の69%、清掃やレストラン等のサービス部門が26%、サポーテッド・エンプロイメントが5%程度である。サポーテッド・エンプロイメントは、5名程度で一般の事業所に入り仕事をするが、雇用主はあくまでもサムハルである。事業の概要は以下のとおりである。

①サービス部門:
清掃、不動産管理及び統合事業/人材派遣は、サービス部門で定評のあるビジネス活動である。統合事業では、サムハルは取引先に現地作業チームと従業員監督官を派遣している。市の公共事業サービスは、現在迅速に成長しつつある事業で、サムハルは現地出張サービスに関して、非常に安定した需要の増加が見込まれると信じている。
②工業ユニット:
約50の工業ユニットがある。製造部門では、サムハルは家具、機械製品、バッテリー及びエレクトロニクス等様々な生産グループによる事業を行っている。およそ50の工業ユニットの大部分は、サービス部門の労働市場が限られている都市部以外の地域に配置されている。製造業の仕事がスウェーデンから低賃金諸国へと移っているにもかかわらず、工業生産が重要な役割を果たし続けている。

従業員の賃金は、ほぼ一般労働市場の水準を保っているが、国からの補助金は45%である。

(2)サムハルでの雇用の実態

サムハルに雇用される職業的障害者は2008年で22,000人である。サムハル全従業員のうちの90%を占めている。障害の種別による給与の差はない。職業的障害の種類別では、1998年の数字で約27,000名のうち、心肺障害3%、聴覚障害2%、視覚障害1%、歩行障害35%、その他の身体障害15%、精神障害15%、知的障害16%、社会的・医学的障害10%であった。

1980年の発足当時、国からの賃金助成は173%であったが、今日では98%に減少している。サムハルに就職するためには、雇用事務所で職業的障害があると認定され、そこでの紹介を受けることが必要である。

サムハル年次報告2006年版によると、実態の詳細は、以下のとおりとなっている。

  • ○ 2006年末の雇用人数は、23,359(22,408)人であり、その中の21,219人が障害を持っている。なお、男女比では、女性の障害者の割合が46%を占めている。
  • ○ 知的障害者及び精神障害者は、新規の雇用者として優先されることになっており、新規雇用者の44%を占める。2006年の新規雇用者の人数は3000人である。
  • ○ サムハルから他の企業に雇用移行した人数は1044人に達し、約5.2%にあたる。
  • ○ 2006年の純取引高は72億1800万スウェーデンクローネ(SEK)に達する。営業利益は7100万SEKに達し、利益の内、純財政項目が、9600万SEKに増えている。
  • ○ 障害をもつ従業員のための労働時間の数は、合計247、100万になった
  • ○ 雇用障害者の病気による不在は、雇用されていた全体年間の15.1%である。
  • ○ サムハルの活動は、スウェーデンの250のコミューンに及ぶ。
  • ○ 半数以上のサムハル従業員は、依頼企業の労働場所で仕事を行っている。依頼企業での現場任務は、もっとも成長する活動の部分である。

ところで、サムハルと雇用事務所はともに、従業員の一般労働市場への移行について責任を持って対応しなければならないことになっている。毎年、移行のための目標を定め、そのための動機付けや具体的な働きかけを行う。サムハルは、またリハビリテーションの場でもある。一般企業への移行率は2008年で5.39%となっている。前述の2006年のデータ5.2%に比べてさらに改善されていることになる。

従来、身体障害者の従業員が多かったが、知的障害や精神障害の人たちを優先的に採用するよう政府からは指示されている。サムハルの雇用の約40%は、優先順位の高いグループからであるように求められており、2008年には50%と目標を上回る結果となっている。また、一般労働市場への移行もサムハルの重要な活動のひとつである。移行した事業所では、大半が「賃金補助」を受けての雇用となる。さらに一般企業へ移行した者は、1年以内であれば、再びサムハルに戻ることも可能である。移行した者のうち20~40%はサムハルに再雇用されている。再雇用は、決してネガティブなものではなく、むしろ積極的に一般企業への移行を進めるための方策として位置づけられている。なお、移行後1年を過ぎて、再びサムハルに雇用されようとする者は雇用事務所で職業的障害の認定を受け、サムハルへの紹介を受けなければならない。

サムハルは雇用を通じて障害者に発展の機会を提供しているといえるが、前述の目標を含め、サムハルの活動は毎年政府によって作成される4つの目標に基づいている。

すなわち、

  1. ①障害者に一定数の仕事を提供する。
  2. ②知的障害者、精神障害者、或いは重複障害者など優先順位の高い人々から順に採用する。
  3. ③従業員がサムハルから他の雇用機関へ移ることを支援する。
  4. ④収支のバランスをとる。

実際、現在のサムハルは、原料購入から完成品の製造・流通まで幅広い下請業を展開しており、スウェーデン最大の下請業者にまでなっている。

サムハルの任務は、仕事を通しての自己啓発を基盤としている。連続的な自己啓発の過程は、3つの構成からなる。新規雇用、発展、そして移行である。それぞれの雇用者によってそのプロセスは違う。しかし、プロセスの狙いは常に、個人の自身・やる気を起こす・社会的スキル・職業スキルを強化する事である。

その狙いとは、少なくとも2400万の労働時間に値する労働を障害者に提供するということであり、雇用障害者の5%が、他の労働市場に移行する。新規雇用者の少なくとも40%は、知的障害や精神障害、またはその他の障害を持つ方を雇用する。自己資本利益率7%を成し遂げ、少なくとも30%の資産を維持する。地域方針は、可能な限り考慮をされる。ちなみに、賃金は一般の労働市場と同等で、月15,000スウェーデンクローネである。サムハルの従業員は障害年金を受け取っていない。給与並びにその他の雇用条件は、スウェーデン雇用主連合会と通常の各種労働組合との合意に基づくものとなっている。従って、サムハルは他の民間会社と同様に、雇用主連合会のメンバーとなっている。サムハルでの賃金は、従業員が自活できるような水準となっている。実際問題としては、それは経済の中の他の場所で同様の仕事をした場合の賃金の85~90%に相当している。

サムハルにおける作業の実態については、業種としては、製造とサービスでの多様な作業が展開している。サムハルは同社が雇用の対象とする人々全てに合う、バラエティに富んだ適切な仕事を提供するビジネスを確保し、選択されなければならないことをミッションにしている。当然これは全ての仕事が誰にでも合うわけではないことを考慮してのことである。しかし仕事全体としては、やはり従業員の大多数がこなせる仕事でなければならない。ビジネスを選択する際には、サムハルはそれぞれの仕事が従業員の能力開発にどう貢献できるかどうかを査定することになっている。

更にそのビジネスによって、長期的に見て従業員が別の雇用機関に転職することが見込まれるということも確認しなければならない。

(3)サムハルの課題

通常の労働市場では雇用を見出すことが不可能であったり、そのような雇用に向けて準備が必要とされるような職業的障害者に対して作業を提供することとなっている。労働市場の状況に関係なく、職業的障害者は常に不利な状況に置かれてきている。従って、スウェーデンの職業的障害者にとっては、サムハルで仕事を入手することへの大きなニーズが存在している。それらの障害者が職業生活に参加することは、公正だけの問題ではない。多様性と人間としての尊厳を提供することによって実際の生活を一層豊かにするために役立つ。

その他の主な課題としては、職業的障害者が労働市場での足場を獲得・維持できるようにすることも挙げられる。このことは、サムハルが労働と職業機会の価値を保護し、また職業生活のアクセシビリティーを拡大するという固有の役割を持っていることを意味している。このためサムハルは、その最も戦略的に重要な課題は、障害者を職業生活から除外する動きに対抗することである。

サムハルの事業は、他に同様の事業が行われている場所に立地し、様々な形式のパートナーシップを通じて、他の事業組織と協力していくことが模索されている。

4.今後の展望(まとめとして)

市場原理を基盤とする新自由主義的施策がグローバルに展開する中で、高負担・高福祉の社会政策を堅持するスウェーデンは、人口的に見ればわずか900万人に過ぎない社会ながら、今後も障害者雇用を含む障害者施策分野でその取り組みを注目すべき国のひとつと言える。スウェーデンの社会政策は、EUの他諸国との共同歩調をとりながら、スウェーデン独自の障害者雇用・就労施策を展開できる基盤になっているといえる。スウェーデンの障害者雇用施策は、所得保障をはじめとした高い福祉水準によって支えられているといっても過言ではない。一般企業で就業しても、賃金補助によって企業で働いても、サムハルで雇用されても、あるいは障害年金を受給してデイサービスセンターでの活動に従事しても、経済的な側面ではさほど大きな違いはない。しかしながら、基本的権利としての労働を保障していくための積極的な労働市場施策がその特徴といえる。

障害者雇用施策は、完全雇用をめざす一般労働市場施策を前提として、その中で、労働能力が具体的に減退している者への配慮として確立してきた。公務労働者が多いものの、そのうち障害者が多い労働市場の特徴を有するが、国全体として完全雇用をめざす施策に国民の合意が形成されていると見ることができる。

同時に、障害者の能力開発や関連サービスの効率化を求める動きについてはスウェーデンも例外ではなく、例えば、保護雇用についての世界的実践例ともいうべきSamhallでも、障害のある従業員の一般企業への移行を計画的に実施することが求められている。公的支援の抑制傾向はその意味でスウェーデンも例外でなく、賃金補助、サムハルへの補助に対するチェックは今後さらに厳しさを増すであろう。

さらに、EU統合のなかで他の諸国との障害者雇用施策面での共同歩調もとらなければならず、スウェーデンの特徴を堅持しつつ、より普遍的な方法論の確立が迫られるものと考えられよう。

障害者権利条約を批准しつつ、障害による差別禁止を含めた新しい差別禁止法制へと転換を図っているが、障害者雇用については一般施策と保護雇用の枠組みの中で展開をしてきたスウェーデンが今後、差別禁止を軸にどのような方向で、障害者、特に職業的に十度の障害のある人々の就労の権利を保障していくのか、今後の進展が期待される。

【参考資料・サイト】

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