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はじめに

現在わが国には一般雇用が困難な障害者を対象とした授産施設や小規模作業所などで20万人近くの障害者がいわゆる福祉的就労に従事している。これらの施設の多くは、最終的には一般就労を目標とした支援サービスを提供していながら、現状では一般就労に移行できる障害者はごく限られており、大部分の障害者はそれらの施設が長期にわたる就労の場となっているのが実態である。

2006年4月に施行された障害者自立支援法では、これらの授産施設や小規模作業所などを、一般就労への移行を支援する就労移行支援事業と一般就労への移行が困難な障害者を対象とした就労継続支援事業(雇用型と非雇用型。雇用契約があり、労働法が適用される雇用型利用者は、約3千人で、福祉的就労者全体のごく一部を占めるにすぎない。)などに再編整備することが意図されている。

厚生労働省が2006年度実施した実態調査では、就労継続支援事業(非雇用型)の利用者の平均工賃(月額)は約1万2千円ときわめて低額にとどまっている。そうした実態を踏まえ、2007年12月25日に障害者施策推進本部で決定された障害者基本計画の重点施策実施5か年計画(2008~2012年度)において、2011年度を目標年度に工賃倍増計画が示されるなど、これまで以上に福祉分野における就労対策の強化が図られようとしている。現在のところ就労継続支援事業(非雇用型)利用者には、基本的には最低賃金を含め、労働法は適用されていないが、就労対策の強化に関連して、福祉分野における労働保護規制のあり方に対する検討ニーズが高まっている。さらに、国連・障害者権利条約の批准に向けて障害者雇用・就労にかかる関係法制度の見直しが求められているところである。

本研究は、こうした福祉的就労分野、とくに障害者自立支援法に基づく就労継続支援事業(非雇用型)の利用者の就労実態の把握を通じて、福祉的就労の現状の問題点を明らかにするとともに、労働法適用の可能性、またはそれにかわる法的保護のあり方について、この研究の一環として行う欧米諸国における関連法制度などの調査結果も参考にしながら、国内法制度整備に向けた提言としてとりまとめることを目的に、実施したもので、研究会は、2008年9月から2009年7月まで9回にわたり開催された。

本報告書は、研究の成果をとりまとめたもので、第1章福祉的就労における労働保護上の問題点、第2章諸外国における「福祉的就労」分野における労働保護法の現状と動向、第3章今後の課題と方向、及び付属資料から構成される。

本来であれば、第3章で研究会としての結論を統一見解として提示すべきところであるが、1年間という限られた研究期間のなかで、それをまとめるまでにはいたらなかった。その意味では、本報告書は、中間のまとめとして位置づけられるよう。本報告書を参考に、さらに深く掘り下げた研究が引き続いて行われ、その成果をベースに、わが国における福祉的就労問題の解決に向けて、実効性のある政策提言ができるだけ早期にとりまとめられることを期待したい。

最後に、本研究をご助成いただいた財団法人労働問題リサーチセンター、および研究会の事務局を担当するなど、研究会の開催についてご支援いただいた財団法人日本障害者リハビリテーション協会にこころからお礼申し上げる次第である。

  • 2009年11月30日
  • 福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会
  • 代表 法政大学現代福祉学部教授 松井 亮輔