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第1章 本研究事業の目的と仮説

第2節 自立訓練(生活訓練)事業の概要

(1)障害者自立支援法に定められた内容

障害者自立支援法によれば、自立訓練(生活訓練)事業は、地域生活を営む上で、生活能力の維持・向上等のため、一定期間の訓練が必要な知的・精神障害者を対象とするとされている。具体的には次のような例が対象となるとされている1(図表1-1)。

図表1-1 自立訓練(生活訓練)事業の利用者像
  • ①入所施設・病院を退所・退院した者であって、地域生活への移行を図る上で、生活能力の維持・向上などを目的とした訓練が必要な者
  • ②特別支援学校を卒業した者、継続した通院により症状が安定している者等であって、地域生活を営む上で、生活能力の維持・向上などを目的とした訓練が必要な者 等

自立訓練(生活訓練)事業は通所による事業(以下、通所型)と宿泊による事業(以下、宿泊型)とに分類されており、通所による支援は日中活動を通じて、当該の生活能力の維持・向上等を実施することとなる。宿泊による事業は、日中、一般就労や外部の障害福祉サービス並びに同一敷地内の日中活動サービスを利用している者等を対象としており、対象者に一定期間、夜間の居住の場を提供し、帰宅後に生活能力等の維持・向上のための訓練を実施、または、昼夜を通じた訓練を実施するとともに、地域移行に向けた関係機関との連絡調整を行い、積極的な地域移行の促進を図ることを目的とするものである2

すなわち、入所施設や病院、学校などを中心に生活している者が、地域で生活するための生活能力を維持向上するための訓練を行う事業であるということができる。これらのサービス内容を整理すると次のようになる(図表1-2)3

また、法律に定められた事業の趣旨と照らし合わせれば、サービス管理責任者を中心として、個別支援計画を作成し、ケアマネジメントの概念のもと、利用者の地域生活への定着を目的とした事業であるといえる。したがって、利用期限を設け、サービス利用終了後は、地域の社会資源に引き継いでいくというプロセスが自立訓練(生活訓練)事業を活用する主要な目的であると考えられる。

図表1-2 自立訓練(生活訓練)事業のサービス内容
  通所型 宿泊型
支援内容 食事や家事等の日常生活能力を向上するための支援や、日常生活上の相談支援等を実施
個別支援計画との関係 通所による訓練を原則としつつ、個別支援計画の進捗状況に応じ、訪問による訓練を組み合わせる4 個別支援計画の進捗状況に応じ、昼夜を通じた訓練を組み合わせる。
利用期限 利用者ごとに、標準期間(24ヶ月、長期入所者の場合は36ヶ月)内で利用期間を設定 利用者ごとに、標準利用期間は原則2年間とし、市町村はサービスの利用開始から1年ごとに利用継続の必要性について確認し、支給決定の更新を実施

(2)自立訓練(生活訓練)事業における支援プロセス

以上のような法律の趣旨を踏まえて、自立訓練(生活訓練)事業における支援プロセスを整理すると以下のようになる(図表1-3)。本研究事業の目的は、先進的な事例を調査し、以下のプロセスの詳細を明らかにすることにあるといえる。

図表1-3 自立訓練(生活訓練)事業の支援プロセス

図表1-3 自立訓練(生活訓練)事業の支援プロセス

① 利用の必要性判断

障害者自立支援法では、自立訓練(生活訓練)事業の利用者として、入所施設、病院、特別支援学校等が想定されている。これらの施設等で生活している利用者は、社会生活体験の制約や制限のために、社会生活を送るための能力(スキル)が十分ではないことが多い。そのため、自立訓練(生活訓練)事業では、施設等で長く生活することで失われた(減らされた)生活能力を、維持向上させることが目的の一つとなっている。

どのような利用者を対象とするか、いいかえるとどのような生活能力をどのようにして維持向上させることができるかがポイントであるといえる。また、たとえ、自事業所だけで維持向上が難しい場合でも、他支援機関と連携した支援体制を組むことができるかがポイントとなるといえる。

いずれにせよ、利用者が自立訓練(生活訓練)事業を活用する必要性があるかどうかを判断することが重要なステップであり、自事業所をどのような利用者が利用すると効果的かを考えることもポイントといえる。

利用者の抱える生活課題は、利用者により異なる。また、自立訓練(生活訓練)事業終了後に生活する地域社会にどのような社会資源があるのか(社会資源の集積状況)も利用者によって全く異なる。したがって、最初に利用者の現状を把握し、アセスメントする際には、利用者が生活すると想定される地域社会を見据えた支援を行うことが重要であるといえる。

② 自立訓練(生活訓練)事業での支援・訓練

その後、具体的な支援や訓練の必要性を判断した上で、自立訓練(生活訓練)事業の利用開始となる。利用の際には、個別支援計画を策定し、支援内容及び進捗管理を行っていくことが重要であるといえる。無論、計画通りにいくことがベストということではなく、モニタリングを行い、利用者の経過に沿いながら必要により軌道修正を行っていくことが必要である。

アセスメントにもとづく計画策定、支援・訓練の実行、モニタリング(進捗評価)、評価結果にもとづく支援内容の調整といったPDCAサイクル5を効果的に回していくことで、自立訓練(生活訓練)事業の目標でもある「地域生活」を開始することが重要である。加えて、地域生活が継続するように支援体制を整備していくことが重要であるといえる。

なお、目的は同じであるものの、通所型と宿泊型でその支援形態に若干の違いがある。

通所型の場合は在宅生活と並行した利用となることから、在宅生活の環境、受けている他の支援とあわせて、支援体制を構築することとなる。加えて、障害特性によっては、通所できない場合も想定されることから、住んでいる自宅を訪問しての支援・訓練も必要になってくるといえる(以下、訪問型)。場合によっては、社会との接点を保ち、地域生活の中で自立訓練(生活訓練)事業を行うために、このような訪問による支援も重要な位置づけとなっていくと考えられる。

宿泊型の場合は、日中は一般就労や外部の障害者福祉サービスならびに同一敷地内の日中活動サービスを利用している者等を対象に、一定期間、夜間の居住の場を提供し、帰宅後に生活能力等の維持向上のための訓練を実施、または、昼夜を通じた訓練を実施するとともに、地域移行に向けた関連機関との連絡調整を行い、積極的な地域移行の促進を図ることを目的として実施している6

③ 支援・訓練内容を整理する視点

支援・訓練内容を整理する視点として、奥野、佐々木他(2006)7、奥野、野中(2009)8、国立精神・神経医療研究センター研究所(2010)などがある9

これらの視点は、それぞれ特徴があり、いずれを活用するかは自立訓練(生活訓練)事業を営む事業所が利用者の現状を踏まえて、検討する必要があるといえる。また、これらの先行研究や事業所運営をしてきた中での経験を踏まえて、事業所独自にプログラムやマニュアルを作成しているところもある。いずれにせよ、利用者の現状を把握するための視点(あるいはアセスメント、モニタリングの視点)を持つことが重要になる。これらの視点を事業所が持つ意味としては、主に、次の点があげられる。(図表1-4)

図表1-4 アセスメント・モニタリングの視点
  • ①支援や訓練にあたる職員間で共通の視点で利用者をとらえることができる。
  • ②支援や訓練内容に関する振り返りを行う際に、ポイントを押さえて利用者に伝えられる。
  • ③支援や訓練の進捗状況を構造的にとらえることで連携しやすくなる。

利用者の小さな変化を敏感にとらえ、それに対応する、あるいは、地域生活を営む上で重要な課題となる事象かどうかを判断することが、支援者にとって必要なスキルとなるといえる。

④ 地域生活開始に向けた支援

並行して重要になるのが、「地域生活開始に向けた支援」である。自立訓練(生活訓練)事業の終了後に、どのような支援体制を構築していくべきかを検討することになる。「利用者の住みたい場所」「利用者のニーズ」「ニーズ実現の可能性」「支援体制の構築や調整」、必要に応じて「家族との調整」を行い、利用者が利用終了後も地域で生活し続けられるような支援を行うことが必要になる。

この点に関しては、自立訓練(生活訓練)事業を実施する事業者が関与しなければいけない範囲は地域によって異なる。ある地域では、地域の中にある相談支援事業所等の機能が十分に充実しており、相談支援事業所が中心になり、定着に向けたコーディネートを行っている事業所もあると想定される。一方、そのような地域の中にある相談支援事業所等の支援機能が十分に整備されていない地域では、自立訓練(生活訓練)事業を実施する事業者が地域生活定着に向けたコーディネート機能を担わなければならないことも想定される。

また、支援体制を構築するための社会資源の集積状況による地域差も大きいと言わざるを得ない。たとえば、地域生活維持のためには、訪問看護による支援が必要であるのに、対象者の訪問看護を実施する事業者がない場合などである。このような場合は、この不足分をなんらかの方法で補わなければいけないということになる。

いずれにしても、地域生活を営む上で必要な体制を調整することが必要になるといえる。特に宿泊型の場合は、自立訓練(生活訓練)事業終了後の住まいを確定させないといけないことから、そのための支援が必要になる(例えば、不動産会社に同行してのアパート設定支援など)。また、実際に地域生活をイメージしてもらうために、グループホーム等の体験利用や外泊訓練等を行うことになる。

その他、支援終了後、自身の体調等の変化によりSOSを発信しなければいけない時のSOSの発信先を確認する(認知する)ことも重要なポイントとなっている。

これらのプロセスを経て、自立訓練(生活訓練)事業の利用が終了することになる。

⑤ 地域生活定着に向けたフォロー

事業を終了したら、そこで支援が終了するということではなく、地域生活が定着するように一定程度のフォローを行うことが重要であるといえる。

特に宿泊型の場合は、それまでの住まいから環境が大きく変わることから、生活環境の変化に伴う調整や、相談対応などが発生することも想定される。

ここで重要になるのは、地域への引き継ぎということになる。ケアマネジメントの中心となる機関が自立訓練(生活訓練)事業を利用している期間を通じて一貫して支援している場合は、この機関が地域生活定着に向けたフォローの中心となると考えられる。一方、そうでない場合は、そういった中心となる機関を構築することが必要である。

自立訓練(生活訓練)事業を実施する事業所には、フォローを行う相談支援事業所等と連携をしていくことが必要である。

⑥ 地域生活のための相談サポート

自立訓練(生活訓練)事業終了後、一定期間の地域生活定着のためのフォロー期間を経て、必要な場合に相談できる人や場があると地域生活を保持できる。その機能は本来的には相談支援事業所が担うことになると想定される。

そういった相談支援事業所の機能が充実しているところでは、支援終了後も相談支援事業所がケアマネジメントの中心となり支援を行うこととなるが、機能が充実していないところでは自立訓練(生活訓練)事業所が引き続き、相談対応をする場合もあると想定される。


1 厚生労働省資料(2010)サービス管理責任者研修テキストより

2 厚生労働省資料(2010)サービス管理責任者研修テキストより(同上)

3 厚生労働省資料(2010)サービス管理責任者研修テキストより(同上)

4 通所型の事業所において、訪問による支援を行う事業を本研究事業では便宜的に「訪問型」と表記する。

5 PDCAサイクルとはP(Plan)、D(Do)、C(Check)、A(Action)のマネジメントサイクルのこと。入念なアセスメントにもとづき、最適なプランを策定し、実行する。その上で、その進捗を評価、モニタリングした上で、次の支援、計画につなげるとする考え方である。

6 WAM-netホームページより

7 奥野英子、佐々木葉子、大場龍男他(2006)「自立生活を支援する社会生活力プログラム・マニュアル― 知的障害・発達障害・高次脳機能障害等のある人のために-」中央法規出版

8 奥野英子、野中猛編著(2009)「地域生活を支援する社会生活力プログラム・マニュアル―精神障害のある人のために」中央法規出版

9 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 吉田光爾 特定非営利活動法人ほっとハート委託(2010)「生活訓練の実態調査および生活訓練(訪問型)研修の開発」厚生労働省障害者保健福祉推進事業