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第8章 自立訓練(生活訓練)事業のあり方

第4節 リハビリテーションと社会リハビリテーション

「自立訓練事業」の本来の目的をさらに明らかにするために、リハビリテーションと社会リハビリテーションについて、以下にまとめたい。

(1)リハビリテーションの諸分野と総合リハビリテーション

1960年代にWHOが発表したリハビリテーションの定義によっても、また、リハビリテーションの世界的な機関である「国際リハビリテーション協会(Rehabilitation International ; RI)」において、1960年代に医学委員会、職業委員会、社会委員会、教育委員会が常置委員会として設置されていたことからも、リハビリテーションの主要分野として、①医学的リハビリテーション、②職業リハビリテーション、③教育リハビリテーション、④社会リハビリテーションの4分野が、1960年代に確立していたことが理解できる。最近では、リハビリテーション工学も重要な分野として認識されている。これらの分野は以下の通りである。

①医学的リハビリテーション

1969年(昭和44年)にWHOが発表した医学的リハビリテーションの定義は、「個人の身体的機能と心理的能力、また必要な場合には補償的な機能を伸ばすことを目的にし、自立を獲得し、積極的な人生を営めるようにする医学的ケアのプロセスである」とされている。

自立訓練事業のおける「機能訓練」という用語は本来、医学的リハビリテーションの一部である。

②職業リハビリテーション

1955年(昭和35年)に世界労働機関(ILO)はILO勧告第99号「障害者の職業リハビリテーションに関する勧告」を採択し、その中で、職業リハビリテーションを「障害者が適切な職業に就きそれを維持することができるように計画された職業的なサービス(例えば、職業指導、職業訓練及び選択方式による職業紹介)の提供を含む、継続的で調整されたリハビリテーションプロセスの一部である」と定義した。一方、前述の1969年(昭和44年)に、WHOによって開催された「医学的リハビリテーション専門家委員会」においてまとめられた職業リハビリテーションの定義は「職業指導、訓練、適職への就職など、障害者がふさわしい雇用を獲得し、又は職場に復帰することができるように計画された職業的サービスの提供である」であった。

障害者自立支援法の訓練等給付における「就労移行支援」や「就労継続支援」は職業リハビリテーションにおけるサービスの一つである。

③教育リハビリテーション

教育リハビリテーションは障害のある児童や人の能力を向上させ潜在能力を開発し、自己実現を図れるように支援することを目的にしている。1979年(昭和54年)にユネスコによって開催された「特殊教育に関する専門家会議」において、特殊教育に関する政策、計画、機構、職員の訓練等がまとめられ、障害児の教育権の保障、障害児の義務教育の法制化、特殊教育プログラムの策定、障害児が普通の学校に行けるようにするための施策の必要性などが指摘された。

わが国においては、「特殊教育」や「障害児教育」の用語も使われてきたが、平成15年(2003年)3月に特別支援教育のあり方に関する調査研究協力者会議から出された「今後の特別支援教育のあり方について(最終報告)」において、「特別支援教育とは、従来の特殊教育の対象の障害だけでなく、LD、ADHD、高機能自閉症を含めて障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、その一人一人の教育的ニーズを把握して、持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものである」と定義された。

以上のように、障害児教育、特殊教育、特別支援教育などの用語があるが、これらの用語と「教育リハビリテーション」の違いは、教育リハビリテーションは、学齢前教育、学齢期教育、大学・大学院などの高等教育、社会人を対象とする社会教育や生涯教育なども含む、ライフサイクルを包含する幅広い教育活動である。

④リハビリテーション工学

リハビリテーションのための工学的アプローチをリハビリテーション工学という。リハビリテーション工学という用語は、アメリカ連邦政府がカリフォルニア州にあるランチョ・ロスアミゴス医療センターに「リハビリテーション工学センター」を設置し、リハビリテーションサービスの中に工学的アプローチを積極的に取り入れようとしたことに始まる。リハビリテーション工学が対象とする具体的内容は、義肢・装具などの開発、車いす・環境制御装置・コミュニケーション機器などの開発、住宅改造、交通機関のバリアフリー化、障害者や高齢者に住みやすいまちづくりなどである。

このような広範囲にわたる「リハビリテーション」は、利用者の立場に立って、総合的に提供されることが重要であり、そのためにもリハビリテーションの連携が必要とされる。

(2)社会リハビリテーション

RI社会委員会は1980年代初頭から「社会リハビリテーション」の定義の検討に取り組み、1986年(昭和61年)に「社会リハビリテーションとは、社会生活力(Social Functioning Ability,SFA)を高めることを目的としたプロセスである。社会生活力とは、様々な社会的な状況の中で、自分のニーズを満たし、一人ひとりに可能な最も豊かな社会参加を実現する権利を行使する力(ちから)を意味する」と定義された。

社会リハビリテーションのキー概念である「社会生活力」を分かりやすくまとめると、以下の通りである。

「社会生活力」とは
「社会生活力」とは
①障害のある方が、自分の障害を正しく理解する。
②自分でできることを増やす。(リハビリテーション)
③リハビリテーションによって、自分の能力を高めるが、残された障害については、様々なサービスを権利として活用する。
④足りないサービスの整備・拡充を要求する。
⑤支援(ボランティアなど)を依頼できる。
⑥地域の人たち、職場の人たちと良い人間関係を築ける。
⑦主体的、自主的に、楽しく、充実した生活ができる。
⑧障害について、一般市民の理解を高める。