音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

>

イギリスにおける認知症高齢者ケアマネジメント


第2章:ケアプログラムアプローチ(Care Programme Approach) ~精神障害者が地域で暮らすためのケアマネジメント~



1.はじめに


イギリスでケアマネジメントというと、社会サービス部のケアマネジャー(ソーシャルワーカーも含む)が行うケースマネジメントをさすことが多い。精神障害を抱える人のために展開されているケアマネジメントは、ケアプログラムアプローチ(Care Programme Approach)と呼ばれ、社会サービス部が提供するケアマネジメントと区別されている。また、ここで提供されるサービスは精神保健トラストの「セカンドケア」、しかも、医療の中に位置づけられているため、ケアマネジメントも含めてすべて無料である。

この章では、ケアプログラムアプローチの概要と、社会サービス部が提供しているケアマネジメントや日本で展開されているケアマネジメントと比べて特徴的と思われる点について紹介する。

2.ケアプログラムアプローチが開始された背景

ケアプログラムアプローチが開発された背景には、精神障害を抱えた人の脱施設化を図り、地域ケアを推進することが狙いにあった。そして、1991年に初めてケアプログラムアプローチが紹介された。主な狙いは以下4点であった。①精神障害を抱える人に対する医療・福祉ケアニーズの総合的かつ体系的に評価すること、②様々なサービス機関から提供される医療・福祉サービスに関するケアプランを作成すること、③キーワーカー(現在のケアコーディネーター)は、サービス利用者と密接な関係を保ち、ケアについてモニタリングおよび調整を行うこと、④ケアプランの定期的な見直しおよび必要に応じて臨機応変に変更すること、の4点である。そして、1999年に内容が一部改正され、その後全国的に取り組まれるようになった。精神保健トラストに「セカンドケア」として設置され、PCTの身体疾患とは区分されている。イギリスでは医療・保健・福祉サービスは異なる部門(社会サービスは地方自治体、医療はPCT、その中でも精神保健に関しては精神保健トラスト)から別々に提供されているが、ケアプログラムアプローチではこれらの統合したサービスパッケージとして利用者に届けることを原則としている。地域精神専門看護師(Community psychiatric nurse、 以下CPNと記す)、作業療法士などのセラピー、ソーシャルワーカー、精神科医(コンサルタント)など、携わる職種は全て有資格者で、学際的チームを形成し専門的に関わることを原則としている。ここケンブリッジシャーでは、2002年4月に「Cambridge and Peterborough mental Health partnership NHS Trust」が設立され、 ケンブリッジシャーの4地域のうち、始めにケンブリッジでパイロット事業としてケアプログラムアプローチを開始した。なお、全面的な展開は昨年からであり、開始の遅れた地方(ハンチンドンなど)は、ケアマネジメント業務への理解不足、膨大に増えたペーパーワークに混乱を示しており、今なお暗中模索を続けている。なお、現在展開されているケアプログラムアプローチは、1999年に改正された、効率的なケア調整(ケアプログラムアプローチの現代化)に基づいている。ケアプログラムアプローチの対象は、精神保健法第117条に規定された、16歳以上の精神障害を抱える全ての人(入院患者、外来患者、そして地域でなんらかのサポートを必要とする人)である。

3.ケアプログラムアプローチ Care Programme Approach(通称CPA)とは

1)ケンブリッジシャーにおける精神保健トラストのサービス提供対象
~Cambridgeshire and Peterborough Mental Health Partnership NHS Trust~

精神保健トラストは、精神に障害のある全ての人(子供と青年、成人、高齢者、ドラッグ中毒者、犯罪者、障害者人)を対象としている。ケンブリッシャー(ピーターボロウの一部が加わった地域)には、精神保健トラストから何らかのサービスを必要とする人が149,370人と報告されている(2004年)。そのうち、ケアプログラムアプローチの対象は、精神障害が抱える16歳以上と定められている。ケアプログラムアプローチはさらに対象の年齢を、64歳以下のアダルトチームと、65歳以上(65歳以下の認知症を含む)の高齢者チームの2つに分かれている。さらに、4地域(4チーム)に分けている(便宜上、プライマリーケアトラスト(以下、PCTと記す)と同じ境界線をとっている)。基本方針、用いる書式などは各地域とも統一されているが、地域によって自治体が提供するサービスが異なること、地域性の違いなどを理由に、スタッフ配置や役割やサービス種類や内容等は若干異なっている。

精神保健トラスト(MHT)の対象

2)ケンブリッジにおける精神障害を抱える高齢者のためのチーム構造

ケアプログラムアプローチの対象は入院患者も外来患者も含まれる。(社会サービス部で展開するケアマネジメントは入院患者を含まない)そのため、どの地域でも入院部門と在宅部門に大別してチームが編成されている。さらに在宅部門は、地域ケア部門とデイサービス部門に分かれている。また、在宅部門の中には、認知症薬リサーチチーム、若年認知症高齢者サポートチーム、病院との連携チームといった専門的な介入を行うチームが設置されている(これは、ケンブリッジ市のみで、ハンチンドンなど他の地域では設置されていない)。

以下、各部門別に提供されているサービスの概要および特徴について紹介する。

【ケンブリッジシャー精神保健トラストの高齢者部門 チーム構造】

ケンブリッジシャー精神保健トラストの高齢者部門 チーム構造

3)入院部門(4病棟)

精神障害を抱える高齢者のための病棟は4つに分かれている。躁鬱専門病棟が1つ(ジェームス病棟、22床)、認知症専門病棟が2つ(デンビー病棟 18床、スプリング病棟 20床)、長期間(数年にわたる)入院治療とリハビリ目的の病棟が1つ(デビットクラーク病棟 22床)である。ジェームス病棟はケンブリッジ市で一番大きい救急専門病院に併設されており、残りの3つはケンブリッジ市から車で20分ほど東に位置した田園風景の広がるフルボーン病院の中にある。認知症専門ベッドは、国の主方針ともいえる地域ケアの推進に従い、この10年間で72床が閉鎖され、現在は38床のみとなった。また2~3年のうちにスプリング病棟(20床)も閉鎖される予定である。その準備段階として、すでにPCTで行われている中間ケア(Intermediate care:24時間365日の在宅ケア)をケンブリッジ市が最初にパイロット事業として行うことになっており、今年度の予算に90,950ポンド(18,200,000円)が計上された。その背景には、退院遅延に対する罰金システム(第1章で紹介した自治体に課せられる罰金システムのこと)は、近い将来NHSが提供する全てのベッドに導入されることになっている。また社会的入院の多くが認知症高齢者であり、精神保健トラストがスクリーニングしきれていないことに社会サービス部が困惑しているとも言われている。一方で、2004年度スプリング病棟(認知症専門病棟)の退院患者数は53名のみとベッドの回転率が非常に悪いといった状況があり、病院でのケアから地域でのケアにその比重をシフトするため、近年中に閉鎖する計画が立てられている。しかし、この病棟にいる認知症高齢者は家族の受け入れが悪く、1人では暮らせないといった共通の問題点があり、閉鎖にあたって彼らの生活の場をどこに移すのか、地域精神保健チームが支えきれるのかが課題となっているようだ。

なお入院部門は、在宅生活に適応するための「中間的ケア」としても機能している。例をあげると、新しい薬を導入する際、投薬量や副作用の有無といった医療的アセスメントや管理方法についてアセスメントをするために入院することがある。また、行動障害が著明になり感情コントロールが難しい場合など24時間のモニターやアセスメントが必要と判断された場合にも入院することがある。期間は2週間程度が基準となっている*)。この場合、在宅部門のケアコーディネーターが継続的に関わり、入院中から病棟スタッフと合同でケアプランを作成する。

*)精神障害者の入院に関する法律が別途あり、セクションごとに期間と内容が規定されている。

4)地域精神保健チーム(Community Mental Health Team 通称CMHT)

地域精神保健チームは在宅部門の一つで、在宅にいる精神障害を抱える高齢者のケアプランはここで作成される。ケンブリッジでは、ケンブリッジ市中心街(シティーチーム)とその周囲(南ケンブリッジチーム)に分かれており、いずれも病院とは離れた街の中に事務所を構えている。

ここの職員は精神保健トラストに所属する、地域精神専門看護師(Community Psychiatric Nurse 通称CPNと呼ばれている。以下、CPNと記す)心理学者、作業療法士、精神科医、ソーシャルワーカーといった、あらゆる専門職が一つのチームを形成している。

ケンブリッジの地域精神保健チームが対象とする利用者の疾患別割合は、認知症50.0%、鬱病43.2%、統合失調症3.4%、その他3.4%である(2004年度)。

4-1) ケアコーディネーターとは

イギリスでは、地域精神保健チームによるケアマネジメントをケアコーディネート、これを専門に行う職種(日本で言うケアマネジャー)をケアコーディネーターと呼び、地方自治体の社会サービス部が提供するケアマネジャーと区別している。両者とも「ケアマネジメント業務」をその職務としているが、精神保健トラストでケアコーディネーターとして働いているのは、地域精神保健チームに所属している「資格のある職種」であるが、社会サービス部のケアマネジャーの半数近くは「無資格者」である。ここで言う資格とはバックグランドを指し、地域精神専門看護師(CPN)、心理学者、作業療法士、精神科医、ソーシャルワーカーが該当する。ケアプログラムアプローチ法には、「ケアコーディネーターとは、職歴あるいは出身専門機関の如何に関わらず、ケアプラン実行に向けての調整権限を有する者」と記されている。

実際には、ソーシャルワーカー、心理学者、作業療法士の配置人員は少なく、2~3つの事務所を1人が掛け持つことが多い。そのため、ケアコーディネーターと働いている多くがCPNである。なお、ケアプログラムアプローチが開始されるにあたり、日本で実施されたケアマネジャーになるための試験・研修は公式には行われていない。そのため、ソーシャルワーカー以外はケアマネジメント業務に携わることは初めての経験であり、個々人の努力に任されているのが現状である。そのため、自治体が提供する社会サービスの概要(特に、収入に応じた自己負担額)、介護者支援、特にケアマネジメントに対する理解が乏しいケアコーディネーターもまだまだいる。

4-2) ケアコーディネーターの業務内容

ケアコーディネーターの責務については、ケアプログラムアプローチ法に「サービス利用者と連絡を密に取り、チームの他メンバーにサービス利用者の状況を報告し、臨機応変にケアプランの見直しと変更を行う」と記されている。担当ケース数は地域によってばらつきがある。ケンブリッジ市内を例にあげると、1人のケアコーディネーターは平均20~30ケースを担当するが、ハンチンドンでは、50~60ケース担当している人もいる。ケアプログラムアプローチ(ケアマネジメント業務)を業務として行う傍ら、各々の職種ごとの直接的サービスも提供している。日本では、ケアマネジャーが「中立」「公正」の理由から、原則的にはケアマネジャーとして訪問する場合、直接的サービスを提供しないことになっている。イギリスでも地方自治体のケアマネジャーは同じである。しかし、ケアプログラムアプローチのケアコーディネーター達は、モニタリングの為の訪問時に、直接サービスとして注射をしてくることもある。このことについて「一度にすませることは効率的」とCPNは述べており、同行訪問をしていて、ケアコーディネーターとしての訪問か、CPNとしての訪問かの区別がつかないことが多かった。その理由の一つが、精神保健トラストが提供するサービスが全額無料ということも深く関連していると思われた。

5) 3種類の専門的介入チーム

在宅部門には、上記のチームとは別に、認知症薬リサーチチーム(Anti-dementia drugs)、若年認知症高齢者サポートチーム(Young on set dementia)、病院との連携チーム(Liaison Psychiatric Nurse)といった、専門的な介入を行うチームが3種類ある。この取り組みはケンブリッジのみであり、他の3地域については地域精神保健チームのCPNが個々の担当地域に該当者がいれば直接サービスとして展開している。以下は、ケンブリッジでの取り組み例を紹介する。

5-1) 抗認知症薬リサーチチーム

抗認知症薬適用者の内服状況および副作用のモニターなどを専門に行うチームで、現場のスタッフの間では、「認知症を専門に扱うチーム」と認識されている。常勤CPN1名、非常勤CPN1名、ケアスタッフ1名でチームを形成している。具体的活動内内容は、第1章.2.2)に示してある。

5-2) 若年認知症高齢者サポートチーム

65歳以下の認知症高齢者を支援するチームである。ケンブリッジ市内とその周辺地域(現在は35名)を1人のCPNがカバーしている。なお、支援内容は65歳以上チームとほぼ同様であり、ケアプログラムアプローチを展開することになっている。ただ65歳以上の高齢者と異なるのは、メモリークリニック(コンサルタントが病院の一室で開設している認知症のための外来で、認知症の診断および内服治療の方針を決定している)で確定診断を受けることが必須な点、自治体社会サービス部のサービスが利用できない点である(65歳未満であるため)。

5-3) 病院との連携チーム

精神障害(多くは認知症)を早期に発見し、いち早く地域精神保健チームにつなぐためのスクリーニングの役割とスクリーニング方法やケア方法を病院スタッフに教育する役割を担っている。

具体的には、このチームのCPNが、身体的理由で入院している救急病院(アーデンブルック病院)の高齢者病棟に定期的に通い、入院患者の精神状態について病棟側の退院支援看護師との会議(フォーマルではない)や看護師の記録などから、対象者をスクリーニングする。そして、精神保健トラストのコンサルタント*)とミーティングを開き、特別な介入が必要かを決定する。その後、担当コンサルタントは今後の治療方針と提供すべきサービス案を、在宅部門の地域精神保健チームに紹介状(referral)として提出する。なお、この時点でGPへも連絡することになっている。

もう一つの役割である病棟スタッフへの教育とは、病棟に出向いてそこで働くスタッフに認知症に関する講義を行ったり、大学で実施されている現任者向け継続教育のコースで認知症の講義を行っている。なお、このチームは博士課程を経たCPNが1人で担当している。

*)ケンブリッジでは、病院との連携チーム専任のコンサルタントが1人設置されている。

6)デイサービス部門

ケンブリッジには、精神保健トラストが精神障害を抱える高齢者のために提供する通所サービスが3種類ある。①医療的要素の強いダイトンデイホスピタル、②認知症以外の精神疾患の通所サービス(ファンクションと呼ばれている)、③認知症専門の通所サービス(オーガニックと呼ばれている)に分類されている。ダイトンデイホスピタル以外は地域の中の、老人ホームや公民館などの1室で提供されている。また、その他にはケンブリッジ市の地域精神保健チームが独自に行っているミニデイサービスもある。

6-1) ダイトンデイホスピタル

ダイトンデイホスピタルには、通所機能と短期入所(レスパイトケア)機能がある。またここを利用するためには、コンサルタントによる診断とケアプログラムアプローチの介入(ケアプランの作成)が必須である。つまりGPや病院からダイレクトに申し込みを受けることも、管理者の判断で利用の有無を決定することもできない。利用者の多くは認知症(中でも行動障害を伴うアルツハイマー)か鬱病で、統合失調症も数人利用している。

① 通所機能

朝9:30-10:00に20~30人が集まり、食事やレクリエーションなどが提供され3時半頃帰宅する。一見すると、日本のデイケア・デイサービスと似ているが、日本の通所サービスと異なることが2点ある。

第1点目は、ここで提供されるサービスは治療的要素が強く、あらゆる専門セラピーが準備されていることである。職員は、常勤の看護師が継続なケアを行い、セラピーのメニューによって非常勤のセラピストが日替わりにやってきてケアに参加する。治療のメニューは実にたくさんある。具体的には、日本でも行われているような、作業療法士や理学療法士による「リハビリ」はもちろんのこと、音楽セラピー、ガーデニングセラピー、陶芸セラピー、クッキングセラピー、アートセラピー(陶芸、絵画、詩、ガーデニングなど)、ドラマセラピー、ダンシングセラピー、スヌーザンセラピー(リラクゼーション目的)など様々なプログラムが用意されている。これらはレクリエーションとしてではなく、詳細なアセスメントを経た個別プログラム(治療の一つ)として提供されている。しかし、利用者には自由な雰囲気を味わってもらうため、場の設定および参加は自由とし、オープンスペースで展開されている。しかし、音楽セラピーのように参加者人数を制限し、閉鎖された空間で継続的に介入するセラピーもある。その理由は、自己表現力を高めること、グループダイナミクスを活性化するためとのことであった。ここで出会ったセラピストの多くは大学院教育を受けた専門家たちであった。ダイトンデイホスピタルは通所サービスと位置づけられているが、後に説明するインターケディエイトケアの一環も担っている。そのため、退院してから自宅での生活に慣れるまで、集中的に、ある一定期間毎日利用する高齢者もいる。インテンシブケアの一種といえるだろう。利用期間に関する規定はないため、コンサルタントの方針を元にダイトンデイホスピタルの評価会議(レビュー)で決定する。また、その他にも家族介護者の休息目的に利用することも可能である。

ダイトンデイホスピタルには独自のケアプランがある。ケアプログラムアプローチのケアプランを元に個別のアセスメント、ケアプランが作成されている。ここで作成されるケアプランは最低8週間おきに見直され、その効果を判定することが義務づけられている。さらに提供されているセラピーの数だけ、各々の専門セラピーによるケアプランも作成される。各々のケアプランは、目標、提供サービス内容、日々の記録、そしてレビューと、ケアマネジメントプロセスに基づいて記録されるため、ケアプランは何重構造にもなっており記録物は膨大な量である。レビュー内容は、ダイトンデイホスピタルで行うものとケアプログラムアプローチとで若干異なる。利用者および家族に、定期的に「どんな効果があったか」をアンケートかインタビューを通して採点してもらうことになっている。その内容は、利用者満足度と異なり「どんな点が改善したと思うか」「何が効果的と思われるか」「どうすればもっと効果をあげられると思うか」などを利用者および介護者自身に問う質問紙であった。デイホスピタルで行われるレビュー会議には、コンサルタント、ケアコーディネーターも参加することが多い。この点が、精神保健トラストのケアプログラムアプローチではチームとして一体的に動ける最大のメリットであることと思われた。

第2点目は、提供しているサービス内容の違いである。精神保健トラストは送迎のためのバスを保有していないため、家族、地域精神保健チームのケアスタッフによる送迎か、タクシーを利用している。なお、精神保健トラストは医療に位置づけられているため、タクシーを利用しても自己負担はない(*社会サービス部が提供しているデイサービスは、サービスの中に送迎も含まれるが、収入に応じた自己負担がある)。また、入浴サービスは提供しない。これは社会サービス部でも同様である。イギリス人に聞いたところ、「外でお風呂に入ることは考えられないし、そのような要望はない」とのことであった。これは、文化の違いによるものだろう。

 
② 短期入所機能(レスパイトケア)

ダイトンデイホスピタルの中に短期入所のためのベッドが6床ある。ここでは「レスパイトケアベッド」と呼ばれている。利用目的は大きく二つに分けられ、薬の開始・変更時および、行動傷害が著名な場合等の様子観察(医学的アセスメント)と、介護者の休養である。

ショートステイ利用者は、デイホスピタルを利用する人と昼間は一緒に過ごしている。ケアプランは、上記デイホスピタルと同じ書式を用いている。

6-2) Cグループ

対象は、65歳以上の高齢者、認知症以外の長期間精神障害をかかえている人(多くは鬱病か統合失調症)、もしくは上記のデイホスピタルでの集中的な介入が終了した人である。ケンブリッジの2カ所で、週2日(月・木)に提供されている。一日の流れは、9時~10時に集まり、レクリエーション・食事などを提供し、3時半に帰宅する。デイホスピタルのように個別にプログラムされたセラピーは提供していない。自治体が提供しているデイサービスとダイトンデイホスピタルの中間的存在といえるだろう。このCグループを利用するには、GPが直接Cグループのマネジャーにreferral(申し込み)することが可能で、ダイトンデイホスピタルのように、必ずしもケアプログラムアプローチもしくはコンサルタントの診断が必要と言うわけではない。ここにはCPNが一人、後は無資格のケアスタッフとボランティアがケアにあたっている。個別のケアプランは存在するが、アセスメントを含めて2~3枚程度の簡単なものである。

6-3) ルーラルデイケアサービス(Rural Day Care Service)

対象は、認知症高齢者(65歳以下も含む)で、ケンブリッジの5カ所で月・火・水・木・土(週5日)展開されている。1箇所の定員は10名/日で基本的に利用回数は制限していない。老人ホームの中の一室を利用しているが、提供サービスは完全に独立している。二人のCPNとケアスタッフが5カ所すべてを任されている。サービス内容は社会サービス部のデイサービスに類似しており、社会性の確保、家族への休息時間の提供、CPNによる認知症状況の観察などを目的としている。

6-4) その他のサービス ~パブランチ、火曜クラブ~

ケンブリッジ市内の地域精神保健チームが独自に展開している通所型のサービスがある。パブランチ、火曜クラブとよばれるもので、日本でいうミニデイサービスに似ている。前者は毎週月曜日街の中心にあるパブ*)での昼食会である。利用者は少しばかり着飾ってここにやってきて、食事・お酒・会話を思い思いに楽しんでいる。毎回10人程度、ケアプログラムアプローチ利用者のうち比較的軽度(社会性が保てている人)がやってくる。また、後者は火曜の午後2時間程度、芸術を楽しみながら社会性を維持し、人との交流をもつことを目的に展開している。具体的には、絵画、陶芸、詩の作成などで、利用者と相談しながらメニューを決めている。両者とも実費のみ徴収、送迎の必要な人はケアスタッフによる送迎かタクシーを無料で利用できることになっている。運営は、地域精神保健チームのCPNとサポートスタッフ(CPNの仕事をサポートする人)が担当している。

*)イギリスの社交の場になっている。「居酒屋」としての存在の他、食事・お茶なども提供するため、ファミリーレストラン兼居酒屋のようなものである。


火曜クラブ

火曜クラブ

パブランチ

パブランチ
*植木鉢にペインティングしている所。毎週異なる作業を行う。*参加者は綺麗に着飾りランチに参加している。

6-5) デイサービス部門の今後の課題

現在、在宅生活の支援を強化するため、デイサービス部門のサービス量自体を増やすこととインターメディエイトケアを推進することが課題とされている。具体的には、ルーラルデイケアサービスを週5日から週7日に、レスパイトケアのベッドを現在の6床から10床に増加することが計画されており、2005年度の予算として129,750ポンド(約25,950,000円)が計上されることになった。 

なお、インターメディエイトケアを推進するにあたり、CPNによる夜間と祝日の対応(24時間365日対応)も検討されている。しかし、職員からの不満と予算的な理由と、24時間支援の必要な人がどの程度いるか調査されていないために計画は難航している。

もう一つの課題は「コスト削減」である。デイサービス部門には送迎車がないため、利用者はタクシーを利用することが多い。その代金は精神保健トラストが全て支払っているため、送迎にかかる費用が莫大で、予算にしめる割合も非常に高い。そのため、今後は送迎の必要度と優先順位も利用対象者の選定基準になるようだ。

精神保健トラストが提供するこれらのサービス(中でもデイホスピタル)は、コンサルタントが治療的ケアは必要ないと判断した時点で卒業となる。ここを卒業した認知症高齢者の多くは、社会サービス部や、民間・チャリティーが提供するデイサービスに移行することになる。(サービスのブレークダウンと呼ばれている)。しかし、デイホスピタルを卒業しても認知症が完治したわけではなく、サービスの移行をきっかけに混乱もしくは症状が悪化するとも聞かされた。これは介護者へのインタビュー時に精神保健トラストへの不満として述べられていたことでもあった。その要因は環境の変化のみではない。イギリスでは、一般のデイサービスに資格を持ったスタッフがほとんどいないため、認知症高齢者への専門的な関わり方を知らない素人がケアにあたっている。日本のように、「広くより多くの人に平等なサービスを」といった概念はないと思われる。治療レベルでは集中的に手厚く行い膨大なコストも投じる。しかし、それ以降はコストをかけることなく、民間やボランティア団体に委ねているようだ。この境界線ははっきりしている。専門家が介入する部分は確実な効果測定と詳細なアセスメントを要求するが、地域で展開するサービスには効果を追求していないように思われた。

7)ケアプログラムアプローチ(CPA)

ケアプログラムアプローチで使われている用語は、日本では耳慣れないことがいくつかある。しかし、プロセスについては、社会サービス部のケマネジャーによるケアマネジメントと、日本でも広く用いられているケアマネジメント(アセスメント~評価までの一連のプロセス)と類似している。以下、ケアプログラムアプローチのアセスメント内容とプロセスを紹介する。

7-1) アセスメントレベル

ケアプログラムアプローチのアセスメントは、ニーズの複雑さに応じて、標準(standard)と強化(Enhanced)の2つのレベルに分類される。

標準ケアプログラムアプローチとは、「危険度が低い人」つまり、比較的軽度な人を対象としている。ケアプログラムアプローチ法では、該当者の基準を、①専門職の介入は必要だが、基本的サポートのみを必要とするばあい、②どちらかといえば自身の精神状況を自己管理することが可能、③非公式なサポートネットワークを活用できる、④自己・他人に危害を加える可能性が低い、⑤提供されるサービスとの適切な関係を維持できる、と規定している。

強化ケアプログラムアプローチは、「より危険度の高い人」「複雑なニーズを抱えた人」を対象としており、該当者は、①複数のケアニーズ、身体面、住居など様々な問題をかけており、専門機関で調整する必要がある、②複数のケアニーズを有するが、専門家もしくは専門機関とのみ協力することに意欲的である、③様々な専門機関と連携が必要、④内服管理、高頻度かつ集中的な介入が必要と判断される、⑤精神障害だけでなく薬物誤飲など他の問題も有する、⑥自己、もしくは他人に危害を与える可能性がある、⑦自己虐待に陥りやすく他人に利用されやすい、⑧提供されるサービスを受け入れられないと規定している。

標準と強化のどちらを用いるかは、初回アセスメント時にケアコーディネーターが、上記に示したポリシーに従って判断することになっている。社会サービス部のニーズ判定基準(一般にクライテイリアと呼ばれている)や日本の要介護度認定といった基準はない。

7-2) アセスメント項目

アセスメントシートはシャーごとに異なるようだ。ケンブリッジシャー精神保健トラストでは、毎年ケアプログラムアプローチ法が見直されるため、このシートも毎年少しずつ変更されている。ここで紹介するのは2005年度使用予定のものである。なお、このアセスメントシートはケアプログラムアプローチの対象者全てに適応されているため、認知症高齢者に該当しない項目もある。14ページ、以下に示す11項目から構成されている。

1.ソーシャルサポートや人間関係に関する個別ニーズ
現在の問題点(利用者と介護者の各々について)、個人史(家族について、教育歴・職歴、現在の社会的環境
2. 民族性、文化の違い、スピリチュアル、価値観に関する個別ニーズ
趣味、性格、民族や文化の違い(サービスにアクセスするにあたって障害があるか)、宗教・価値観、
3. 身体的健康に関する個別ニーズ
手術歴、入院歴、家族の病歴、現在も続けている治療の有無など 
4. 精神的健康に関する個別ニーズ
睡眠パターン、体重変化、記憶力:ミニメンタルテストの得点)
5. 投薬に関する個別ニーズ
現在の投薬状況(投薬内容、副作用など注意点、薬の管理者、アレルギーの有無)
6. 嗜好品に関する問題点
ドラッグ・アルコールの常用についてのアセスメント *この項目については省略
7. 住居に関する個別ニーズ
現在および潜在的な住宅に関する問題点
8. ADLに関する個別ニーズの記述
入浴、着脱、調理、買い物、家事、地域内のサービスの利用、自宅に帰れるかなど、10項目についてyes,noでチェックし、サマリーを記述
9. 金銭面に関する心配ごと
年金が20.000ポンド以上か*)、生活保護受給の有無、他にどのような手当を受けているか等受給額の総額など *)社会サービス受けるための所得基準は2段階になっている。
10. リスクアセスメント
自殺、虐待、放置、高齢者特有のリスク:地域での危険、徘徊、セキュリティー、転倒、低体温、家の中での危険因子、運転などについてその詳細を記述することになっている。
11. 介護者アセスメント

7-3) ケアプログラムアプローチプロセス

ケアマネジメントの一連の流れは、広く一般に用いられているケアマネジメントプロセスと類似している。アセスメントからレビューまでの期間、実施すべき項目は全国一律に規定されているため、このプロセスはどこのシャーでも似ているとのことだ。以下は、ケンブリッジの地域精神保健チームが展開しているケアプログラムアプローチのプロセスである。

1.Referral:ケアプログラムアプローチへの申し込み 
矢印GP、病院、精神科医、PCTの看護師などから文章で紹介を受ける。
2.Referral meetings:受けいれ会議
 
矢印週に1回定期的に開催。ケアプログラムアプローチの対象者か、どのような課題を抱えているかを専門職間で話し合う。(地域精神保健チームに所属する職員、ケアプログラムアプローチ,ソーシャルワーカー,作業療法士,コンサルタント,チームマネジャーなど)*緊急を要する場合は、チームマネジャーの判断で決定する。
3.Allocate worker:担当ケアコーディネーターの決定
矢印チームマネジャーが、スタッフの力量・専門性を考慮して、誰を担当ケアコーディネーターにするか決定する。
4.Assessment:アセスメントおよびケアプランの作成
矢印

①ミーティング後、2日以内(土日・祝日を除く)に受け入れの有無を利用者に連絡すること、28日以内にケアプランを作成してサービスを開始することが義務づけられている。なお、ケンブリッジではサービス開始まで概ね2週間程度である。緊急を要するケースには臨機応変に対応しており、その基準およびパスウェイが別途作成されている。

②ニーズの複雑さ、利用するサービス量など、各々のおかれている状況に応じて、標準(Standard)と強化(Enhanced)のどちらのアセスメント用紙を用いるかはケアコーディネーターが決定する。

5.Agree care plane:ケアプランの同意
矢印 ケアコーディネーターは作成したケアプランのコピーを、利用者・GP・各関係機関に配布する。また、利用者からケアプランへの同意書にサインをもらう。
6.Provide treatment and services:サービスの開始
矢印利用するサービスに申し込み(Referral)を行い、サービスをパッケージする。 自治体が提供する社会サービスを利用するためには、地域精神保健チームのソーシャルワーカーと相談しながらサービスをパッケージする。なお、社会サービスを利用するためには、社会サービス部が用いているアセスメントシートの記述も必要である。
7.Monitoring :定期的なケアプランの見直し
矢印ケアコーディネーターは、訪問か電話でサービス提供事業者や利用者と定期的に連絡をとって状況を確認する。
8.Review :評価
矢印評価会議を開催する(ケアコーディネーター・コンサルタント・利用しているサービス機関の責任者・利用者・介護者・GPなどが参加)。初回のケアプランは3ヶ月目に、その後は最低1年おきにレビューを行うことが原則。込み入ったケースは臨機応変に対応。
(例:強化CPAは半年毎に評価する。精神保健法に大きな変更があったとき、入院やリスクが考えられる場合は適宜行うなど)
9-1.Discharge:終結
矢印ケアプログラムアプローチを終了する場合は、利用者・GP・各関係機関に書面でその旨を通知する。また、利用者には再開方法も通知することになっている。
9-2.Continue: ケアプログラムアプローチの継続
矢印終結」しない場合、再アセスメント→ケアプランの変更等を行い、上記プロセスをリサイクルする。
「  

なお、ケアプログラムアプローチに関わる全ての文書は、毎年監査されその結果は地方自治体とプライマリーケアトラスト(以下、PCTと示す)に報告されることになっている。

4.ケアプログラムアプローチの特徴
~自治体社会サービス部および日本のケアマネジメントと比較して~

日本で一般に用いられているケアマネジメントと比較した場合、以下の5点がケアプログラムアプローチの特徴として挙げられる。それは、①紹介システムの徹底(referral)、②モニタリングとレビューの徹底、③学際的な専門職による関わり、④入院と在宅を結ぶ工夫、⑤進んでいる専門分化である。また、上記のうち、③と④については、自治体の社会サービス部で展開されているケアマネジメントとも異なる特徴として挙げられる。ここでは、これらの特徴について具体的な例を用いて解説する。

1) 紹介システムの徹底

イギリスの地域ケアでは「referral」という言葉をよく耳にする。これはケアマネジメントのプロセスでいうと、紹介~受理に相当し、機関間、職種間で交わされる申し込みや紹介状に該当する。基本的に文書を通じて行われるため、日本のように電話やファックスで済ませることはほとんどない。そして、referralでは、各々の部署もしくは、個々の専門職ごとに存在するアセスメントシートも添付される(*職種によってアセスメントは異なるが、どの職種も5~6ページと量は多い。しかし、医師には規定されたアセスメント用紙はないようだ)。これは、たとえ同じ職場であっても、異なる職種に何か依頼する場合は必須となる。しかも上司のサインも必要となる。このシステムのメリットは、どのようなプロセスを経て誰が担当するかがわかりやすく、しかも記録物として残るため、責任の所在が極めて明確となる。一方、膨大なペーパーワークが伴い「ちょっとお願い」といった融通が利かない点がデメリットと思われた。

ここでは、ケンブリッジにおける福祉用具の支給までのプロセスを例にその複雑さを紹介する。ケンブリッジで福祉用具を供給する場合、Integrated Community Equipmentという福祉用具配給機関にreferralしなければならない。これは子供~老人、メンタルもフィジカルも全てのケースが該当する。まず、申し込み用紙と、専用アセスメント(referral assessment seat)を提出し、それを受けた福祉用具配給機関が配給の有無を決定する。アセスメント用紙には、利用対象者・目的・必要性・使命の他、福祉用具給付による効果判定(レビュー)も明記することが義務づけられており、効果判定日については、初回アセスメント時にアセスメントした者が設定することになっている。なお、配給する福祉用具によってアセスメントすべき項目は異なり、福祉用具の種類によってもアセスメントできる職種が異なる。これらのことは福祉用具配給に関するガイドラインに従うことになっている。このガイドラインは一見すると、日本でもよく目にする福祉用具のカタログではあるが、事細かに「誰がどのように何をアセスメントすべきか」といったことが規定されており、広辞苑なみの厚さである。たとえば、自宅で療養している人の状況が悪化したとする。ケアコーディネーターがベッドおよびその周辺機器が必要と判断した場合、ベッドおよびエアマットはPCTの看護師に、ベッド柵と手すりは作業療法士に別々に「referral」を提出する必要がある。そして、看護師と作業療法士は別個に(もしくは同行)訪問してアセスメントを行ない福祉用具配給機関に「referral」する。ちなみに、ケンブリッジでは作業療法士のアセスメントを受けるために平均は30日待たなくてはならないそうだ。

2) モニタリングとレビューの徹底

日本では、モニタリングとレビューが混同して用いられていることが多いが、イギリスでは明確に分けられており、その取り組みも徹底している。

モニタリングは、日々の状況変化やケアプランをモニターすることを指し、ケアコーディネーターの判断でモニター方法や頻度が決められる。これは精神保健トラストに限らず自治体の社会サービス部(ケアマネジャー)でも同様である。一方、レビューは期日や内容が法律で規定されており、基本的には関係するスタッフと利用者が参加することになっている。また監査の対象にもなる。つまり、公式にチーム全体でケアプランを見直すことがレビューである。最初のレビューは3ヶ月目に行い、その後は最低6ヶ月おきに行うことになっている(標準ケアプログラムアプローチは、最初の3ヶ月のレビュー以降1年おきでよい)。

筆者が参加したレビューの多くが、利用者本人・コンサルタント・CPN・提供サービスのマネジャーというパターンであった。時に、介護者・GP・本人の権利擁護のための代弁者(権利擁護を専門としたチャリティー団体)も同席する。場所は、本人の自宅や病院、デイセンターなど様々である。以下は、レビュー場面の流れである。

本人にインタビューする前に、まずスタッフ間で最近の状況についての情報交換が行われる。その後本人が部屋に呼ばれ、レビューの意図、目的、利用者の権利が説明される。そして、お茶を飲みならがら、世間話も交えてゆったりとした雰囲気で話を進めていく。なお、お茶を飲みながら話しをすることはイギリスの文化である。利用者への主な質問内容は、サービス提供内容の評価と満足度、今の精神状態、生活状況、幸せと感じるか、不幸と思う時はどんな場面か、コーピングできていると思うか、どこをどのように変えればより満足できると思うか、自分の病気はよくなっていると思うか、専門家たちに何を望むか、と単刀直入に聞いていく。

そして、インタビュー終了後、本人が立ち去ってからコンサルタント(精神科医)が主軸となって今後の方針と次の6ヶ月間のケアプランをチームで確認する。そして、ケアコーディネーターがケアプログラムアプローチレビューサマリーをまとめる。このサマリーは3枚で構成されており、参加者、今後のサービス変更の必要性およびその内容、医療的ニーズや社会生活に関するニーズの再アセスメント、次の6ヶ月のケアプランなどで構成されている。このサマリーは関係機関およびGPにコピーが配られる。

利用者へのインタビューの取り方(とても和やかな雰囲気での進行、説明と同意を必ず実施)、チームでケアプランを見直すこと、家族介護者から話を聞くのではなく、認知症高齢者自身に質問を投げかけ、本人からきちんと聞くというインタビューのスタイルの徹底には感心した。

3) 学際的な専門職による関わり

そもそも、ケアプログラムアプローチは学際的な専門職による介入を意図して作られている。上記2)モニタリングとレビューの徹底で、レビュー場面を紹介したように、あらゆる職種がチームとして介入することが特徴である。その利点は、ケアマネジメントプロセスの最初(ケースとしての受理)と最後(評価および終了)の場面で、各々の専門的視点から評価することにより、漏れと重複が避けられる点と思われる。

以下、ケンブリッジにおいて学際的な専門家達がチームとして関われる場面(3場面)について、その内容と利点を紹介する。

3-1) 受け入れミーティング(Referral meeting)

受け入れミーティングの参加者は、CPN(精神専門ナース)、Dr(精神科)、作業療法士、心理学者、ケアスタッフ、チームマネジャー等で、時に紹介者やGPも参加する。ケンブリッジ市の地域精神保健チーム(C精神保健トラスト)では、毎週月曜日に1時間ほど開催している。最初に、紹介状(Referral letter)が読み上げられ、アセスメントの緊急度*)、ケアコーディネーターに適した職種、提供サービスメニュー、留意点などについて、各々の専門的視点から話し合う。

ケアプログラムアプローチの必要な人か、どんな支援が必要か、について各々の専門的視点から徹底的にアセスメントすることは、適切なサービス提供につながると思われた。

*)サービス提供までの時間については、緊急度に応じて24H以内、1週間、1ヶ月などケンブリッジ独自の基準が存在する。これは、NSF(国のサービス基準)に従い作成されたものである。

3-2) 評価会議(review meeting)

2)モニタリングとレビューの徹底で、その具体例を述べたので省略する。開催日は、受け入れミーティングのように定期的ではなく、利用者ごとにあらかじめ設定された評価日に行うことになっている。開催のための調整はケアコーディネーターが行っている。

3-3) 治療に関する会議(clinical meeting)

治療やケア内容について意見交換し、治療方針を確認するために開催される会議である。筆者が参加した会議では、精神科医に今後の方針を仰ぐ場面が多く見られた。なお、ケンブリッジではこの会議は独立して週1回開催しているが、ハンチンドンでは受け入れミーティングの開催時に、同時に行われていた。

3-4) チームで関わる利点

イギリスは、どこにいっても「アセスメント」の大合唱で、職種別にアセスメントシート(一つ一つが膨大な量である)を持っている。また、各々の専門家の仕事の領域が明確にライン引きされているため、相互理解が困難と思われていた。しかし、ケアプログラムアプローチでは上記のような会議があるため、相互の職種の専門性を理解し、情報交換がスムーズに行われていた。地域精神保健チームのマネジャーは、上記3つの会議の意味について「どんなに詳細にアセスメントしても、会議で行われるアセスメントの方が内容が濃いことを経験から知っている。だから、どんなに忙しくてもこれらの3つの会議をとても大切にしている」と述べられていた。効果については、利用者だけでなくスタッフにも現れていることが分かった。スタッフへのインタビューでは、「互いの専門性を理解した上で、チーム内で一致した目標をもって介入できる」と述べていた。これは、あらゆる専門職種が同じ職場にいるといった物理的条件が整っていることで、お互いの専門性を生かしたチームアプローチが可能になっていると思われた。

4) 入院と在宅との連携状況と工夫

4-1) 在宅→入院→在宅の一貫した関わり

ケアプログラムアプローチは、在宅だけでなく、入院や入所(ナーシングホーム・老人ホーム等)も適応としており、一貫した介入を行っている。具体的には、在宅から入院、入院から在宅と場所が変わっても、同じケアコーディネーターとコンサルタントが継続的に介入する。ケアコーディネーターは、自分の担当ケースが入院した場合は、病棟のカンファレンスに参加し退院に向けての準備も行う。そのため、病棟の患者記録には、在宅でのケアプログラムアプローチ記録、担当ケアコーディネーターの名前も記されており、病棟のスタッフルームの掲示板にも担当ケアコーディネーターの名前・連絡先が記されている。またケアコーディネーターも病棟に出かけていき、担当ケースの記録を自由にみることができる。

逆に、病棟スタッフが退院に向けて自宅訪問を行う場合もある。具体的には、住宅改修や福祉用具の配置が必要と判断された場合には、病棟の作業療法士がアセスメントのために自宅を訪問し退院前に準備しておくこともある。

4-2)新しい取り組み

入院している認知症高齢者が、地域(家)にスムーズに移行していくための新しい取り組みが2点ある。

一つ目は、2003年から、試験的に精神保健トラストの病棟で取り組みが始まった「アウトリーチ」と呼ばれる、病棟スタッフによる退院後の訪問活動である。具体的には、退院後の支援が必要と判断された認知症高齢者に対して、病棟スタッフが退院後2週間に限って訪問や電話で在宅での生活適応のための指導・支援を行っている。また、昼間だけ病棟に通うサービスも提供しており、その内容はデイサービスに似ている。朝病棟にやってきてセラピーやレクリエーションに参加するなど入院中と同じ生活を送り夕方に帰宅する。退院しても関わるスタッフが同じで、昼間は慣れている病棟で過ごせるため、全ての環境が一度に変わることなく少しずつ在宅生活に慣れていけるという点で有効な取り組みと思われた。しかし、スタッフにかかる負担が大きく、現在の人員体制での継続は困難であり、今後のあり方を模索しているとのことであった。

もう一つは、2004年12月から退院支援専門ソーシャルワーカーを設置したことである。ケアコーディネーターの多くが社会サービスの準備を苦手としていること、罰金システムがいずれ精神保健トラストのベッドにも適応されることが、設置した主な理由とのことであった。

なお、上記に示した2つの取り組みは、認知症高齢者の為だけではなく、精神保健トラスト高齢者部門の全ての人を対象にしている。

5) 進んでいる専門分化の「光と陰」

イギリスでは、各々の職種の責務と役割およびその職種が遂行すべき仕事の範囲が、法律や基準によって明確に示されている。また職種も多様で、看護師を例にあげると「ナース」と名のつく職種は、有資格から無資格まで色々あり、グレードも9段階に分かれている。そしてグレードによって職務内容が異なる。そのため、各々の役割の範囲を明確にする必要があるのは当然なのかもしれないが、スタッフから「そのことは私に聞かれてもわからない」「それは私の業務ではない」「ここまでしか責任をとる必要がない」いったコメントをよく耳にした。これは精神保健トラストに限ったことではないだろう。

専門分化が進むことのメリットは、誰にどの程度責任があるか、どの職種および誰の介入が適切かなど明確になる点である。何よりお互いの職種が切磋琢磨される中でより専門性が研ぎ澄まされていくことを実感した。また、正式な文書を通じての紹介システム、定期的なチーム会議の開催、そしてこれらは全て記録され、関係機関に配布されることになっている。そのため、チーム内としてのまとまりはよく、情報の共有は比較的スムーズにいっていると思われた。また、認知症高齢者への専門的ケアを日本と比較した場合、CPN、抗認知症薬専門チーム等、認知症の専門家が地域ケアに深く携わっている点でイギリスの方が進んでいる。抗認知症薬専門チームの介入することで、認知症の進行を遅らせることに効果を上げていることは証明されている。

他方でデメリットもある。あまりに専門分化することで、隙間から漏れる人(ガイドラインからはずれる人)が存在し隙間を埋める支援策がない。これは、細分化された専門性とあまりに多くの職種が存在すること、ガイドラインなどで規定された範囲のみ責任をもって仕事をする「イギリス流の仕事の仕方」と深く関連していると思われる。調査期間中、「利用者のためなら何でもやります」「残業は当たり前」というケアコーディネーターには出会わなかった。また、認知症高齢者のケアにおいては、専門分化がマイナスに働く場面も遭遇した。その詳細は第3章で述べる。 

5.ケアプログラムアプローチの今後の課題とチャレンジ

2004年の精神保健トラスト高齢者部門の評価を見ると、介護者に対する支援が弱いため、支援の強化が今後の優先課題として掲げられていた。この背景には、介護者支援が法律で義務付けられたこともある。ここでは、現在精神保健トラストの介護者支援状況を報告する。

また、新たなチャレンジとして、チャリティーセクターと斬新的なサービスを共同開発しているので、その内容も紹介する。

1)介護者支援の課題

1-1) 介護者支援を義務付けた法律

介護者の生活を権利として守るだけでなく、介護を続けながら生活の質も高められるよう支援することを目的に「介護者(機会均等)法 Carers (equal opportunities) Act」が2004年7月に制定された。この法律は、1995年と2000年の介護者関連法を強化したもので、利用者本人だけでなく介護者のニーズもアセスメントすること、生活の質を考慮したサービスを提供することを義務付けている。「介護者は生活の質を維持向上する権利がある」と法律の中で唄われていることから、社会サービス部門では、介護者自身によるセルフアセスメントとケアマネジャーによるアセスメントの2種類準備している。いずれもアセスメント項目は膨大で、合計すると数十ページにわたる。

一方、自治体社会サービス部に比べて精神保健トラストでは介護者アセスメントへの取り組みが遅れていた。2004年度まで用いられていたケアプログラムアプローチ介護者アセスメントは数行であった。そのため、介護者(機会均等)法 制定直後(2004年)にケアプログラムアプローチシートの改定プロジェクトチームが組まれ、介護者に関するアセスメント項目が大幅に変更された。具体的には、これまで介護者に関するアセスメント項目は、利用者アセスメントの一部でしかなかったが、介護者アセスメントシートとして独立した。そして介護者への支援策もケアプランの中に明記されることになった。

1-2) 介護者に配布されるサービス情報

イギリスの図書館・公民館・役所といった公共機関に行くと「介護に関するパンフレット」をたくさん目にする。その内容はサービスの紹介(民間・ボランティア・自治体が提供するあらゆるサービスについて紹介したもの)から、介護者の権利を守る方法や苦情を言う方法などを紹介したリーフレットまで多種多様である。

精神保健トラストでも、介護者向け案内セット(Carers Information Pack)を作っており、介護者に郵送している。セット内容は、①介護者支援プロジェクトの案内(自治体が介護者向けに企画したサービス紹介)、②介護者のためのアセスメントの案内(介護者を守る法律の紹介、介護者アセスメントの説明が書かれているリーフレット)、③どこに連絡をすればよいかの案内、④介護者向けに毎月発行されているニュースレター、⑤介護者用緊急カード、⑥ケンブリッジ市内で提供されている医療・福祉・介護者サポートグループなどの紹介(89ぺージの冊子で、イエローページ「介護版」といってよいほど自治体・民間・ボランティアが提供するありとあらゆるサービスが掲載されている)、の6種類である。ただ、あまりに多くの情報が一度に手元に届くこと、全て細かい文字で書かれていること、具体的な値段や利用方法の提示はなく「詳細は○○に連絡をしてください」といった案内であることなどから、活用度はあまり高くないように思われた。老々介護の介護者宅に訪問した時に、「まったく役に立たない」とため息をつかれたことを述べておく必要がある。

現在ケンブリッジPCTのjoint workの中に「いかにして分かりやすいパンフレットをつくるか?」というプロジェクトがある。文章は極力減らし、パスウェイや絵を多く挿入する案が取り入れられ、一部のパンフレットは変更されてきている。これは精神保健トラストの取り組みではないものの、少しずつ変更されていくことが予想される。

1-3) 介護者教室

ケンブリッジでは、認知症高齢者の介護者向けに介護者教室を実施している。ケンブリッジシャーでも地域ごとに開催内容や回数が異なるため、ここでは筆者が参加したケンブリッジにおける介護者教室の取り組み内容を紹介する。年2回、1回のプログラムは3日間で構成し、一回あたり最大12人の介護者を対象に実施している。対象の選定はCPN、GPなどが介護者支援を必要と判断した場合に声をかけているとのことであった。今回のプログラム内容は、前回開催時に実施した参加者アンケートに記されていた希望内容や役にたったことを元に企画された。筆者が参加した3日間のプログラムは、各々の介護経験の共感および共有をするための利用者同士の談話、CPNによる「認知症に現れやすい行動特性」の講義と、利用できるサービスの説明。弁護士からの「権利擁護と財産保護について」の講義でであった。日本でも良く見る風景である。ここでの取り組みで工夫していると思われたことが3点あった。

第1点目が、開催場所が静かな田園風景の広がる高級ホテルで、昼食とお茶が無料でついていた。その理由をスタッフに聞いたところ、24時間介護している人ばかりのため、現実の生活から切り離すこと、リラクゼーション効果を狙っているとのことであった。第2点目は、車のない介護者には送り迎えをしていること、認知症を抱えている人本人はデイサービスに行くかケアスタッフが自宅で介護者に代わって介護していることであった。第3点目が介護者のグループダイナミクスを生かし、自主グループ作りへと発展させるため、参加者の地域性を考慮していることであった。

介護者教室の風景


介護者教室の風景

1-4) 介護者参加によるサービス開発

介護者支援を強化する一つの取り組みとして、利用者本人だけでなく介護者の視点も取り入れ、新たなサービスを開発することになった。そのため、定期的に介護者と地域精神保健チームのマネジャーが集まってサービス開発の為の話し合いがもたれるようになった。どのようなサービスが開発されることになるかは、調査時点ではまだ明確にはなっていなかった。

2) チャリティー団体とのサービス開発ジョイントプロジェクト

現在、精神保健トラストではチャリティーセクターと認知症高齢者に「効果的なサービス」を開発するためのプロジェクトがある。そのプロジェクトに実際に参加することができたので、概要および効果(まだ証明されていないため筆者の考察でしかない)について報告する。

ここで紹介するジョイントプロジェクトに関わっているチャリティーは、1986年開設された「Cross Border Arts」という団体で、本物の芸術がもつ治療的効果を確信していることから、子供や学習障害者に、日常生活の中で芸術を手軽に楽しんでもらうことを活動の方針にしている。スタッフは、芸術家(プロのダンサーとして世界中で活躍していた女性)の他、ボランティアで構成しており、絵画、詩などにおいて著名な芸術家たちを招いてサービスを提供している。

認知症高齢者へのプロジェクトは、2ヶ月間(計8回)・6人と限定している。そして効果測定も行うことになっている。内容は、絵画・詩の作成・音楽といった芸術を週1回(一回2時間程度)提供することが企画されていた。予算は、PCT・自治体・他のチャリティー団体(寄付金)からでており、ランニングコスト・送迎・芸術家への謝金(一回100ポンド)にあてられている。このプロジェクトに参加したのは1日のみなので、認知症高齢者に対して何が「効果的なサービス」であるのか報告することはできないが、マネジャーおよび介護者へのインタビューから以下3点の効果が期待できると思われた。第1点目が、本物の芸術に触れる喜びを知り、芸術を通して自己表現が可能になること。第2点目が、与えられる喜びではなく、自ら創造する喜びを実感できること。第3点目が、治療的「アートセラピー」は、あくまでも個々人の問題に着目しているため、「問題がなくなる」「気持ちが落ち着く」が目標となるが、ここでは「芸術」は自己を表現する媒体でしかなく、いかにして社会生活を営めるようになるかが目標であり、感情表現は自由にしかも制限されることがないのが特徴であった。

なお、このプロジェクトの参加者は、アルツハイマーの行動障害が著明で介護者が疲れ切っていると聞いていたが、第7回目のこの日に参加してみると、利用者・介護者とも実に穏やかな表情をしており、芸術を心から楽しんでいることが手に取るようにわかった。なお、このプロジェクトの評価は6月にはトラストに報告されることになっている。

ケンブリッジ精神保健トラストでは、芸術を治療に取り組むことに積極的である。これは、認知症の高齢者だけでなく精神に障害を抱える人全てに対する療法として芸術療法(アートセラピー)の有効性に着目し、フルボーン病院の中に専用ユニットを作り様々な種類のアートセラピーを提供している。ケンブリッジ以外の自治体にも3カ所見学に行ったが、ケンブリッジほど積極的に認知症高齢者に対してアートセラピーを取り入れている地域はなかったように思う。


スタッフと作品

スタッフと作品

アートセラピーでの作品

アートセラピーでの作品

6. 精神保健トラストの取り組み
~エビデンスに基づいた戦略~

1)調査概要(2003年度)

ここでは、ケンブリッジシャー精神保健トラストが、トラスト全体の課題を見つけ次年度戦略をたてることを目的に実施した調査(Developing Integrated Community Teams 2004)を紹介する。

イギリスでは、中央政府の法律や基準に従いつつ、地域ニーズに対応した効果的なサービスを提供することが要求されている。そのため、いかにしてNSF(国のサービス基準、第1章で紹介)に従いながら、地域ニーズのエビデンスをとり、よりよいサービスを提供するかを模索している。ケンブリッジでも「エビデンスに基づいたサービス開発」という言葉を何度も耳にした。

Developing Integrated Community Teams 2004の調査概要は以下のとおりである。ケンブリッジシャーのケアプログラムアプローチ対象の9チーム(アダルトチームも含む)のチームマネジャーに面接法を用いて、以下の20項目(30の問い)について質問している。質問項目は、NSFに提示されている内容からプロジェクトチームで抜粋して作成されている。主な内容は、統合的・かつ学際的なチームアプローチができているか、紹介システム、シングルパスウェイは明確になっているか、チームマネジャーはスタッフのために十分に時間をさいているか、マネジャーとしての責任・責務は明確になっているか、専門職としてよりよいスーパービジョンを受けられているか、チームの意味づけをはっきり述べることができるか、ケースカンファレンスはできているか、チームとしてのスーパービジョンを受けているか、チームメンバーはコンピューターを駆使できているか、チームメンバーに情報が行き届いているか、NHSと自治体のスタッフが共同(joint work)できているか、エビデンスを利用者にフィードバックできているか、などである。評価は、各項目4点(standard fully = 3 ~ Standard not met = 0)で採点し合計点を算出している。

2) 調査結果

結果は、評価の高い項目が4つ、今後の改善項目が5つ抽出されていた。評価が高い項目とは、①専門的なスーパービジョン、②統合的かつ学際的チームによる介入、③対象を明確にする、④方針の明確化であった。今後の改善項目は、①チーム全体のスーパービジョン、 ②介護者のフィードバックを活用すること、 ③利用者本人からのフィードバックを活用すること、④インターネットの標準化と活用、⑤常に情報をフィードバックし活用してもらうこと。そして、これらの結果を元に、精神保健トラストの今後の戦略の柱として以下の3点が掲げられた。①介護者および利用者の主体的参加を促す、②ITの浸透と活用、③チームとしての機能の強化である。

現場では、これらの戦略を受ける形で以下のような取り組みが行われていた。①については、デイサービスの一種である「Cグループ」のサービスを改訂するために利用者全員へのインタビューを行い、介護者と共にサービスを開発するためのミーティングが開催された。また、先に紹介したように、ケアプログラムアプローチの介護者アセスメント表も改訂された。②については、パスウェイの作成と、コンピューターの普及(全事務所、一人一台普及を目標)に取り組んでいる。

3) 評価の高い4項目 ~ケンブリッジで実施していること~

評価の高かった項目はこれまでの報告内容に記述してきた部分と重複することが多い。しかし、日本に参考になることが多くあるため、どのような取り組みがなされているかについて、ここでも簡単に紹介する。

3-1) 各々の専門職への専門的なスーパービジョンの実施

精神保健トラストで働くスタッフは平均して2種類のスーパービジョンを定期的に受けられる。大きく分けると、専門職としてのスキルを向上するためと、業務に関する相談・アドバイスを受けるためである。このスーパービジョンを徹底して取り組むことにより、スタッフ個々の能力に応じてスキルアップが図れるという点で効果が高いと思われた。詳細については第4章2.スーパービジョンで紹介する。

3-2) 統合的かつ学際的チームによる介入

ケアプログラムアプローチの「学際的なアプローチ」の利点と特徴は、本章4、3)学際的な専門職による関わりで述べたとおりである。

3-3) 対象の明確化

紹介システム(Referral)を徹底することにより、サービス提供対象者が明確になっている。

3-4) 方針の明確化

この調査結果も「方針を明確」にするために実施されたことである。各地域のチームマネジャーは定期的に「チーム全体」および「疾患別」に業務全体を評価し方針を立てることになっている。「認知症ケアにおける評価」は毎月チームマネジャーによって更新されている。このようなレビューは、デイケア部門、入院部門、地域精神保健チーム部門と部門別にも行われており、毎月会議で報告されている。そのため各々の部門別の方針は極めて明確に示されチーム間で共有されている。

7.おわりに

学んだことは実にたくさんあった。それは、認知症高齢者への専門家によるチームアプローチの有効性、アセスメントと評価の徹底、ニーズに基づきサービスを開発するために新たな取り組みをどんどん行っていく姿勢、といったことである。しかし、ケアプログラムアプローチは多彩な専門職(一般スタッフより高収入)から成るスタッフで構成されており、提供サービスは全て無料であるため、コストや提供主体の面から言って日本に全面的に導入することは不可能だろう。また、認知症高齢者の多くが社会サービス部のケアマネジャーからケアマネジメントしてもらっている現状もある。自治体社会サービス部やチャリティー団体でインタビューを行った時、認知症高齢者の半分以上は精神保健トラスト以外でカバーしていることが問題点に挙げられていた。その背景には、「精神保健トラストが関わると病人扱いされてしまう。そして精神保健トラストが介入したからといって認知症がよくなることはごくわずか。」といった理由が述べられていた。また、「多くの人は認知症と身体障害の両方を同時に抱えているのに、なぜ区別しなくてはならないのかわからない。精神保健トラストだけが特別扱いされる理由がわからない」といった不満の声も聞かれた。これは、NHSと自治体との垣根、NHSの中でもPCTとの垣根が大きいことも影響しているようだ。また、精神保健トラストに対する住民のスティグマがまだまだ根強いことも理由にあるようだ。

老人ホームのリビングルームでくつろぐ認知症高齢者

老人ホームのリビングルームでくつろぐ認知症高齢者