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約束を達成するために
アメリカにおけるメンタルヘルスケアの変革
(要旨)

理想とする未来像

我々は、全ての精神病患者が回復し、精神病の予防や治療が可能となり、精神病が早期に発見され、また全ての精神病患者がどのようなライフステージにおいても、生活、労働、学習及び地域社会への完全参加に不可欠な効果的な治療と支援を受けられる未来を理想とする。

2001年2月、ジョージ W. ブッシュ大統領は、障害者の教育及び雇用の機会の増加を推進するニュー・フリーダム・イニシアティブを発表した。このイニシアティブは、支援技術及びユニバーサルデザインの利用を増やし、障害者の地域社会への完全参加を推進することも唱えている。このように精神障害者を含む全ての障害者に対し、地域社会への完全参加を約束し、その機会を提供しようとする動きは、障害者を差別から保護する画期的な法律である障害を持つアメリカ人法(ADA)の制定と、障害者が地域社会の中で生きることを確認した最高裁判所のオルムステッド判決以来のことであった。

2002年4月29日ブッシュ大統領は、精神病を抱えるアメリカ国民が必要なケアを十分に受けられずにいることについて、以下の3つの問題点を明らかにした。

  • 精神病に対するスティグマ
  • 個人医療保険制度において、精神病患者に対する給付金の支給に、不当な治療制限と経済負担が課せられていること
  • メンタルヘルスケアサービスの提供システムが統一されていないこと

大統領直属の、メンタルヘルスに関わる問題を担当するニュー・フリーダム・コミッション(本報告書では以後「コミッション」と称する)は、ニュー・フリーダム・イニシアティブにおいて重要な役割を果たしている。大統領は、現在のメンタルヘルスサービス提供システムにわずかな欠陥があるために、サービスを受けられないアメリカ国民がいることから、このシステムの問題点に取り組むためにコミッションを設けた。

コミッションの委員に対し、大統領はメンタルヘルスシステムにおける問題点と欠陥を調査し、公共及び民間のヘルスケア提供者だけでなく、連邦政府、州政府、地方機関が、即実行できる改善案の具体的な勧告をするよう指示した。大統領命令13263にコミッションに対する指示の詳細が記載されている。(付録参照)

コミッションの調査結果から、満たされていないニーズがあることと、精神病患者に対するケアを阻む多くの障壁があることが確認された。精神病は驚くほどありふれた疾患で、ほとんどすべてのアメリカの家庭に影響を及ぼしている。それは自分の子供にも 注釈a、兄弟にも、祖父母或いは職場の同僚にも起こりうることであり、またアフリカ系アメリカ人でも、アラスカ原住民でも、アジア系アメリカ人でも、スペイン系アメリカ人でも、アメリカ原住民でも、太平洋諸島出身者でも、白人でも、その生い立ちに関わらず、誰にでも起こりうる。また、子供時代から老年まで、どのようなライフステージにおいても起こりうるので、精神病から影響を受けないコミュニティーはなく、いかなる学校或いは職場もこれと無関係ではないのである。

ある年に実施された複数の全国調査によれば、成人の約5%から7%は重度の精神病を抱えているとの結果が出ている参考文献1-3。同様に、児童についても約5%から9%が重度の情緒障害を抱えているとの報告があり、これらの数字は、毎年数百万人の成人及び児童が、精神病により障害を持つようになっていることを意味している参考文献1-4

ブッシュ大統領は次のように語った。

「精神障害はスキャンダルではなく、病気です。それは体の病気と同じように、特に早い段階で治療が受けられれば、治療によって回復することができるのです。アメリカ国民はこのことを理解し、伝えていかなければなりません。」

長年にわたる科学の発達によってメンタルヘルス及び精神病に関する知識は広がり、メンタルヘルスケアの提供方法を改善できる可能性も見えてきた。合衆国保健社会福祉省(HHS)は『メンタルヘルス:公衆衛生局長官の報告参考文献5』を発表したが、これはメンタルヘルス及び精神病に関する知識の科学的な進歩を再検討したものである。しかし、科学的な知識基盤を大きく増強し、多数の効果的な治療法の開発をもたらす多大な投資が行われてきたにも関わらず、多くのアメリカ国民はこれらの投資から未だに利益を得られずにいるのである参考文献6-7

緻密な臨床研究に基づいて開発された治療法やサービスが、早期治療に効果的に活用されることなく、むしろ何年間もだらだらと続けられることがあまりに頻繁に起こっている。たとえば、医学研究所(IOM)の報告書、『質の差を越えて:21世紀の新たな保健システム』によれば、効果的な治療形態の発見とそれを定期的に患者の治療に取り入れるようになるまでの時間的な隔たりが必要以上に長く、およそ15年から20年もかかっているとのことである参考文献8

同じレポートの中でIOMは、今後10年におけるヘルスケアの質向上のための戦略を、改善すべき優先領域を含めて記している参考文献9。これらの文書では、最近出版された他の文献や研究結果と同様、特に健康全体に関わるメンタルヘルスの重要性に対する洞察が述べられている。

この最終報告書では、
重度の精神病を抱える成人とは、現在或いは過去のある時点において、十分な期間にわたり、DSM-III-R(精神疾患の分類と診断の手引き第3版)参考文献10に明記されている診断基準に即して精神障害、行動障害或いは情緒障害があると診断されたことがあり、その結果、一つまたはそれ以上の主要な生活活動を著しく妨げ、もしくは制限する機能障害注釈bが生じるに至った、18歳以上の者をいう。

重度の情緒障害とは、DSM-III-Rに明記されている診断基準に即して、18歳以下の者に対して下された、十分な期間にわたって認められる精神障害、行動障害或いは情緒障害で、その結果、一つまたはそれ以上の主要な生活活動を著しく妨げ、もしくは制限する機能障害が生じた場合と定義される。教育活動に悪影響を与える機能障害の例としては、知能、感覚、或いは健康状態という要因からは説明不可能な学習障害、同年代の友人や教師と十分な人間関係を築いたり維持したりすることができないこと、通常の状況において不適切な行動や感情を示すこと、不幸感もしくはうつの気分が常に続いていること、個人的な問題や学校の問題に関連して身体に病気の兆候が出たり恐怖感が芽生えたりする傾向にあること参考文献11などがあげられる。

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