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約束を達成するために
アメリカにおけるメンタルヘルスケアの変革
(要旨)

目標2 メンタルヘルスケアは利用者及びその家族本位とする

変革後のメンタルヘルスシステムにおいては、重度の精神病もしくは深刻な情緒障害の診断が下されると、一つのケアプランの中で綿密に計画され、調整された一連のサービス及び治療が開始される。このあたかも詳細な道路地図のごとく、高度に個別化された健康管理プログラムが、回復と回復力の育成に向けた適切な治療と支援への道しるべとして役立てられる。そして利用者はサービス提供者とともに、自分たちが関わるケアシステムの設計と開発に積極的に参加する。

個別化されたケアプランにより、利用者や、重度の情緒障害を抱える児童の家族、医者、その他のサービス提供者は、有意義で生産的な、そして癒しをもたらす関係を築き、維持する機会を確保できる。ただし、ライフステージに応じたニーズの変化や、定期的に治療計画を検討する必要性を考慮し、個別計画を更新する機会を持つことは、このようなアプローチにおいて不可欠である。ケアプランは、利用者中心の、回復志向のメンタルヘルスシステムの中核をなす。ケアプランには治療、支援及びその他の利用者の地域社会への統合を可能にする支援が含まれる。そしてこれによって利用者はメンタルへルスと生活の質の向上を実現できるようになる。

更に利用者とその家族は、担当のヘルスケアサービス提供者と協力しながら、サービスや治療及び支援を受けるために必要な資金をやりくりすることに、これまで以上に大きく関わる。利用者やその家族の管理下におかれる財政支援を増やしていけば、サービス・治療・支援の選択の余地が広がる。そして利用者のニーズに即した財政支援を行うことにより、利用者自らが学習し、自己監視し、責任を持つシステムに奨励金を支給する方向へと移行していく。また、この様なプログラムの設計により、利用者は回復とその維持のために賢く支援を利用することに経済的な利益を見出すようになる。

変革後のシステムでは、利用者とその家族が必要な支援を確実に利用できるようにする。ケアの調整という負担は、既に深刻な疾病のために苦しんでいる家族や利用者ではなく、システムの側が担うこととする。その際、利用者のニーズや選択に従って、利用者の性別や年齢、言語、発達過程、文化を考慮しつつ、提供されるサービスのタイプ、もしくはサービスの組み合わせが決められる。

ケアプランは、利用者中心の、回復志向のメンタルヘルスシステムの中核をなす。

変革後のシステムにおいて、利用者とその家族が必要な支援を確実に利用できるようにするには、各州でプログラムの調整と統合に関わる責任の所在を明らかにした総合的なメンタルヘルスプランを開発しなければならない。このようなプランには、利用者とその家族に加え、連邦政府、州政府及び地域の行政との間の新たな連携も盛り込まれる。そしてメンタルヘルスケアサービスの利用者とその家族が必要としている全ての分野に渡る治療及び支援サービスへの取り組みもプランに採り入れられる。

このような責任を担うことと引き換えに、州政府は、ヘルスケア、雇用支援、住宅及び刑事裁判制度の間にある官僚主義的な境界線を克服しながら、連邦政府、州政府及び地域による支援を、創造的、革新的、更により効果的な方法で柔軟に結び付けていく。

更に、このような柔軟性と責任の強化によって、望ましい成果を得るために利用できる一連のサービス及び支援の選択の幅が広まる。その結果、個別化されたケアプランに見られるように、利用者とその家族のニーズと選択に対応した創造的なプログラムが開発される。

利用者に、地域社会に完全参加する能力を身につけさせるには、以下の点が不可欠である。

  • ヘルスケアサービスへのアクセス
  • 有給雇用の機会
  • 適切かつ手ごろな価格の住宅
  • 不当な理由で施設に収容されないという保証
  • 効果的にサービスを提供するため、既存のプログラムを調整すること
  • 雇用の妨げとなっている制度(財政手当の喪失、或いは雇用かヘルスケアかを選択しなければならないことなど)を撤廃すること
  • 安全な生活の場を提供すること

この変革後のシステムでは、利用者の権利が保護され、強化される。全州における1999年のオルムステッド判決の実施により、可能な限り差別を撤廃した、全ての人々にとって平等な環境の下で、ヘルスケアサービスが提供されることになった。つまり、施設ではなく、地域社会の中でサービスが提供されるわけである。そして、利用者は失業したりホームレスになったり、或いは未治療の精神病を理由に施設に収容されたりすること無く、いつでもサービスを利用できるようになる。

親たちは、もはや子供たちが心底必要としているメンタルヘルスサービスを受けさせずに済ませるようなことはしないであろう。また、愛と責任に満ち溢れたアメリカの親たちは、もはやケアを受けるために子供の養育権を手放さなければならないというジレンマに直面する必要は無くなるであろう。家族の絆は維持され、養育権の問題はケアの問題とは切り離して考えられる。

この変革後のシステムにおいては、精神病患者に対するスティグマと差別が、ヘルスケアや有給雇用、安全な住宅の確保に影響を与えることは無い。雇用の場における重度の精神病患者に対する差別は、公共部門、民間部門を問わず、社会では認められない。

精神障害者の施設への隔離や拘禁に関しては、ヘルスケアサービス利用者の権利は保護される。隔離や拘禁は、安全のための最後の手段としてのみ利用され、治療のためには行われない。そして隔離や拘禁を行う場合のヘルスケアサービス利用者の安全と、重要な医学上及び行動上の危険を査定し、監視するための特別な研修を受け、資格を得た専門医だけが、このような介入を命じることができる。

再び生活管理ができるようになるという希望を持ち、そのような機会を得ることは、回復にとって極めて重要であることが多いが、それが変革後のシステムにおいては、利用者とその家族にとって現実のものとなる。利用者は、現在のシステムを回復志向のシステムへと移行する際に、その設計、評価、調査、研修及びサービスの提供に参加することによって重要な役割を果たす

メンタルヘルスシステムの変革を支援するために、コミッションは以下の5点を勧告する。

2.1 全ての成人の重度精神病患者と、重度の情緒障害を抱える児童を対象にした個別のケアプランを開発する。
2.2 利用者とその家族を、回復を志向したメンタルヘルスシステムへの移行に全面的に参加させる。
2.3 メンタルヘルスサービスの利用を促進し、また同サービスの責任の所在を明らかにするため、連邦政府の関連プログラムを調整する。
2.4 総合的なメンタルヘルスプランを各州が作成する。
2.5 精神病患者の権利を保護し、促進する。

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