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ニュージーランドのメンタルヘルスサービス計画 ニーズ対応方法について

7.太平洋地域の人々へのサービス

7.1 理念

太平洋地域の人々は、心の健康は人生のあらゆる面が調和のとれたものであるかどうかに左右されると考えている。精神面・体力面・感情面の健康および家族の健康を一体として扱うことが、メンタルヘルスに関するニーズに対処する心身一体的なやり方といえる。太平洋地域の人々は、太平洋地域のコミュニティに提供されるメンタルヘルスサービスが自分たちの信念体系で受け継がれている心の健康に対するこのような心身一体的アプローチを反映したものになるようすべての機関が確認し、責任を持って取り組むことを期待している。

メンタルヘルス委員会は、こういった心身一体的アプローチを用いたサービスのほか、ニュージーランドに居住するメンタルヘルスサービスの太平洋地域のユーザーやその家族のQuality of Life(生活の質)を高める最善の方策として、太平洋地域の人々が自ら指定し、自ら提供するサービスの実施・提供の拡大を支援している。しかしながら、同委員会は、個別のサービス提供がすべての地域で実現可能ではないことも認識している。

主流のメンタルヘルスサービスにおいても、太平洋地域の人々に適切なサービスの提供を図ることが必要である。

7.2 太平洋地域の人々に対する最優先事項

太平洋地域の人口が多い地域でのメンタルヘルス提供者は、太平洋地域の人々のメンタルヘルスに関するニーズをより効果的に満たすことにこれまで以上に取り組まなければならない。ナショナル・メンタルヘルス・スタンダードの公表により、太平洋地域コミュニティに対するメンタルヘルスサービス提供者の責任範囲を保証する仕組みが出来上がる。直ちにこの基準を施行しなければならない。太平洋地域コミュニティは介護基準を継続的に自ら再定義する必要があるものの、以下に述べる最優先事項に取り組むことが、太平洋地域の人々にメンタルヘルスサービスを提供するうえで現在ある格差をなくすためのひとつの方法になると思われる。

7.2.1 労働力の開発

適切に技能を身につけた労働力を開発することが、太平洋地域のサービスのユーザーとその家族に対しより良いサービスをより多く提供するための前提条件となる。提供者はその雇用方針により、言語、文化、習慣における技能を身につけた太平洋地域の人々の採用を促進しなければならない。太平洋地域のメンタルヘルス従事者はきわめて数が少ないため、その数を増やすことは明らかに最優先事項のひとつである。

この問題に対処する最も効果的な手段として以下のような積極的な対策が挙げられる。

  • このセクターで意義のある職業に就けるよう太平洋地域の精神疾患経験者に研修を施すことに真剣に取り組む。
  • 太平洋地域メンタルヘルス支援ワーカーの研修を優先する。裏付けに欠けるエビデンスではあるが、太平洋地域の支援ワーカーに接することによる直接的な成果として、太平洋地域のサービスのユーザーに高い満足度およびメンタルヘルスの面でのメリットがあることが示されている。
  • メンタルヘルス教育提供者と太平洋地域の提供者や同コミュニティとの間で積極的に協力し合い、太平洋地域の人々が公平に研修を受けられるようにする。
  • 太平洋地域の大学生がメンタルヘルスに関する職業を選ぶ目的で保険科学を専攻するよう積極的に応援し、資金援助を行う。
  • 太平洋地域の人々が主流のサービスおよび民族独自のサービスで管理者としての役割を果たせるようマネジメント研修を行う。
  • 信頼されている伝統的な神霊治療家を認め、資金援助を行うこと。

メンタルヘルスサービスにおいてより多くの太平洋地域の人々を継続的に教育・訓練し、雇用することにより、太平洋地域の文化についてより良く理解し、知識を深めることを促進しなければならない。

7.2.2 太平洋地域の人々にとって有効なサービス・デリバリー・モデル

熟練した労働力が必要であるだけでなく、新しいサービス・デリバリー・モデルも太平洋地域の人々と協力して開発しなければならない。太平洋地域のコミュニティは、同地域の人々特有のサービスニーズについて他の誰よりもよく認識している。

主流のサービスにおける太平洋地域ワーカーは現在、彼らがサービスのユーザー独自のニーズを満たすことができない、柔軟さのない労働慣行や職務内容について証言している。より対応しやすく、柔軟な雇用モデルおよびサービス・デリバリー・モデルは、太平洋地域の人々にとってより効果的な帰結をもたらすと思われる。セクター全体で現行の太平洋地域のベストプラクティス手法についてパイロットおよび監査を行い、成功した方法についての情報を広めることがこのような問題に対する解決策となる。

7.2.3 文化的に適切な監査方法

適切な全国的監査方法の開発は、このセクターで働く太平洋地域の人々の文化的に適切で安全なプラクティスにとって大切なことである。監査方法の開発により、各自の責任範囲が示され、各自のプラクティスの根拠となりうる明確な分析とガイドラインが提供される。またこれにより、保険金局、サービスのユーザー、支援者および家族が、医療従事者の職務遂行を判断する方法や開業医での対応内容を理解することができるようになると思われる。

7.2.4 調査

太平洋地域の人々は、精神疾患に対し、他の文化の人々とは異なるイメージや定義を有している。太平洋地域の人々のメンタルヘルス問題に関する特異性を理解するための最善のアプローチは、太平洋地域出身の調査担当者を支援し育成することに資源をつぎ込み、それによって太平洋地域の人々のメンタルヘルスの実状を明らかにすることである。

さまざまな理由から、太平洋地域コミュニティにおいてメンタルヘルスに問題を抱える人々の多くは主流のサービスにアクセスすることはまずない。したがって、サービスの場に現れる人を記録するだけの統計では現状について真の全体像を把握することができない。

太平洋地域の人々は、太平洋地域の人々同士で精神疾患についてその程度および特性を自ら定義する必要がある。このプロセスの第一歩となるのは健全で文化的に安全な疫学的調査である。衛生研究委員会および保険金局がこの研究を実施する責任機関となっている。この調査を上手く実施できるよう太平洋地域の人々に研修を施し、太平洋地域の人々に直に接して行うあらゆる調査においてその研修を受けた人たちの協力や関与を確実にするためには、これを機能させるメカニズムの整備が欠かせない。

疫学的調査と平行してサービス・デリバリー・モデルを評価する調査を行う必要があり、同モデルは太平洋地域のサービスのユーザーやその家族に対し適切かつ安全なメンタルヘルスサービスを提供するうえでの既知の障害物を取り除くために最適のものである。このために、メンタルヘルスセクターのリーダーたちは太平洋地域のベストプラクティス施策を促進および支援する必要がある。

7.2.5 差別と回復

メンタルヘルス委員会は差別に対するゼロ・トレランスを提唱している。サービス提供における平等は差別を低減する出発点でなければならない。同委員会のMap of the Journey計画では実施すべき変革の種類が具体的に示されている。同計画には7つの目標が設定され、それぞれに道筋が示されている。太平洋地域の人々を対象とした道筋には以下のことが含まれる。

  • メンタルヘルスサービスのユーザーに対する、健康に関するセクター内での差別に太平洋地域の人々が対処するのを支援する。
  • 太平洋地域の精神疾患罹患者に対する差別に太平洋地域の人々が対処するのを支援し、積極的に援助を行う。
  • 太平洋地域の精神疾患罹患者に対する二重の差別を認識し、それに立ち向かう。

精神疾患に対する太平洋地域の人々の見方はその回復アプローチと一致しており、太平洋地域の人々に提供されるあらゆるサービスにこのことを反映させる必要がある。精神疾患を発症する太平洋地域の人々は太平洋地域出身者としての差別だけでなく、サービスのユーザーとしての差別にも直面する。太平洋地域の人々に対するサービスが回復アプローチで上手く行くのなら、サービスにより2つの種類の差別の影響をともに低減させる必要がある。なぜなら、差別が回復への大きな障害となっているからである。

7.2.6 サービスの提供

主流のサービスでは効果的に太平洋地域の人々に必要なものを与え、彼らの健康に関するニーズを尊重してそれを満たし、適切な文化的アセスメント方法が活用されるようにしなければならない。

太平洋地域の人々のサービスは、太平洋地域の人々によって、その文化・言語・精神性・家族のニーズを満たす方法で太平洋地域の人々に提供される。さまざまな治療サービスや支援サービスがあるが、そういったサービスには常に文化的アセスメント、文化の独自性の理解、太平洋地域の伝統・文化・言語・価値観の権利拡大、マトゥア(Matua:長老)や伝統的な神霊治療家へのアクセス、太平洋地域の人々による自分たちのための研修、フォノ(fono:集落会議)への参加が含まれる。太平洋地域の人々のためにサービスは別個の太平洋地域の組織によって、あるいは他の組織(例:病院でのサービス内で)の一部として運営される場合がある。そのような組織はサービスのユーザーに他の提供者を利用できるよう選択肢を与えるべきである。

他に何ら情報がない中、メンタルヘルス委員会では太平洋地域の人々における精神疾患の有病率が太平洋地域以外の人々と同程度であると推定している。したがって、太平洋地域の人々へのサービスの提供は全人口に占める太平洋地域の人口の割合に比例して行うべきである。たとえば、オークランド地域では、全人口の12.5%が太平洋地域の人々であり、同委員会は、太平洋地域の人々のサービスや主流のサービスが、彼らのニーズを満たすよう文化を基盤とした効果的なサービスを提供する能力を備えるよう期待している。

太平洋地域系の人口は急速に増加しており、人口全体の割合からするとかなり若年層が多い。ポリルアやオークランドの一部では、子どもと青少年全体の半数が太平洋地域の人々であり、ウェリントン地域やワイカト南部では子どもと青少年の約4分の1が太平洋地域の人々である。太平洋地域の子どもと青少年やその家族のために適切な専用メンタルヘルスサービスを提供して、この事実が認識されなければならない。

メンタルヘルス委員会の太平洋地域の人々へのアドバイザリーグループは、太平洋地域の人々を相当数抱える地域での以下の付加的サービスを勧告している。

  • 回復サービスについての太平洋地域の人々に対する支援および教育
  • 支援ニーズの高い人々に対する太平洋地域の人々向け収容サービス
  • 太平洋地域の子どもと青少年向けのアセスメント・治療・入院および「危険性のある」青少年収容サービスを含むコミュニティ収容サービス
  • 太平洋地域の人々向けのアルコール乱用者および薬物乱用者収容治療サービス(「二重診断」を含む)、生活支援サービス、コミュニティ収容サービス
  • 以下の技能のある太平洋地域の人々の雇用:言語・文化・習慣に関する技能、危機アセスメント、治療介入、二重診断、早期介入、アルコール乱用者・薬物乱用者のアセスメントと治療、回復に関する技能、知的障害、子どもと青少年のメンタルヘルス、すべてのメンタルヘルスサービス内での心身一体的メンタルヘルスといった領域での専門的技術
  • 主流のサービスにおける全スタッフに向けた、太平洋地域のメンタルヘルス従事者(精神疾患経験者を含む)によるサービス課題や文化的な安全性についての教育・訓練
  • 太平洋地域コミュニティ支援ワーカーの提供および太平洋地域の精神疾患経験者によるサービスへの支援
  • 代替的治療オプションの提供となる伝統的な健康に関するサービスへの支援

こういった太平洋地域の人々のサービスニーズを満たすために必要とされる熟練したスタッフの増員数は大きく、太平洋地域の労働力を構築してこの部門が必要な熟練した太平洋地域の人々を受け入れることを保証する戦略の策定が急務となっている。

実現可能で、なおかつその地方の太平洋地域の人口数からみてその必要がある場合、主流のサービスにおいて上記のすべてを組み入れたサービスの範囲内で太平洋地域の人々のチームの創設も行うべきである。

7.2.7 評価とモニタリング

太平洋地域の人々に対するメンタルヘルスサービスの提供において歴史的に不適切な事項がこれまで存在してきており、それらはごく最近修正され始めたところである。このため、サービス提供の評価およびメンタルヘルスセクターのモニタリングは太平洋地域の人々にとってきわめて重大なことであり、これらには太平洋地域の人々に対する文化面での有効性についての対策を含めなければならない。

保険金局は、太平洋地域の人々に対するサービスの対応力を評価し、2000年までに第二次ナショナル・メンタルヘルス・スタンダードが確実に満たされるようする必要がある。同基準では、「メンタルヘルスサービスが、精神疾患経験者によって指名される太平洋地域の精神疾患罹患者、その家族、介護者その他のニーズを満たす適切なサービスを提供・促進する」よう求めている。このためには、太平洋地域の人々に対するサービスの文化的な安全性を評価するための監査方法を開発する必要がある。この監査方法は主流のサービスおよび太平洋地域の人々向けサービスの両方で、文化的に安全なサービスを太平洋地域の人々に対しいかに提供するべきかについてのガイドラインとなろう。このような監査方法は太平洋地域コミュニティにとって優先事項のひとつである。すなわち、同監査方法はベストプラクティス施策の一環として開発されると考えられ、個々のおよび制度上の文化的プラクティスを評価する能力を備えていなければならないのである。

太平洋地域の人々(サービスのユーザーを含む)がすべての政策立案プロセスのほか、サービスの資金援助や提供に関する意思決定に参加しなければならない。