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ニュージーランドのメンタルヘルスサービス計画 ニーズ対応方法について

9.インフラの整備

9.1 調整の必要性

重篤な精神疾患罹患者に必要な医療・社会支援サービスは、さまざまなコミュニティ機関によってばらつきがあることが多い。このため、サービスの連続性を維持するうえで重複・格差・困難が生じるリスクがある。こういったリスクや困難は1993年の医療保険制度改革に伴う変化により目立ってきており、その例として、病院からコミュニティへのサービス実施環境の移転、サービス提供者数の急増、サービスユーザーのニーズに対しより多様な方法で応えるサービス、連携体制の整っていない環境などが挙げられる。ごく最近になって政府の政策が変更されたことからサービス間のさらなる協力・連携が促進され、メンタルヘルスサービス間でよりよい調整を行う道筋が開かれよう。

保険局は制度やインセンティブを確実に整備し、サービス間でよりよい調整が実現されるようにしなければならない。そのような制度の策定には時間も費用もかかる可能性があり、別途財政支援が必要になる場合がある。

調整を行う必要があるのは、以下の3つのレベルである。

  • 個々のサービスユーザーへのサービス提供において
  • メンタルヘルスサービス提供者間
  • セクター間

9.2 個人に対する調整

『前進』(Moving Forward)には以下の国家目標が定められている。
支援ニーズの高い人々を優先して、一人ひとりに対応した介護を調整する責任を担う個人や機関を明確にすること

この点に関し、個人が複数の機関のサービスを利用する際に問題が生じる。このため個人との連携により策定される計画では、個人のニーズそれぞれを満たすことに責任を有する者について、また、個人に代わって機関が仲介する方法について明確にしなければならない。

どういった責務をどの仲介者で手配できるかという方法についてはいく通りもあるが、どのように実施するかは、これが実施されるという事実に比べれば重要なことではない。たとえば、複数の機関がある個人の介護や支援に関与する場合、サービスのユーザー一人ひとりに対して「主導的提供者」が任命される。この主導的提供者はその個人のためのサービスの調整担当者になる。

そのような調整には提供者間での緊密な協働関係が求められる。提供者間での了解事項覚書またはプロトコールの策定が必要であり、それによって各地域における臨床サービスや支援サービスの調整内容を網羅しておく。契約書ではこういった連携を確認し、提供者が相互に望むことについて明示すべきである。

覚書やプロトコールでは機関同士でのコミュニケーションについても明確にするほか、各機関が個人について把握する必要のある情報の範囲、および、適切な情報共有のあり方についての制限に関する明確なガイドラインを定めなければならない。対象になる個人はどのような情報を教えるかについて判断しなければならない。

ひとつの提供組織の種々の部署から個人向けに提供するサービスを調整することもまた問題になりうる。これは一般に内部管理問題であるが、綿密に監視する必要がある。

9.3 サービス提供機関同士の調整

『前進』 (Moving Forward)には以下の国家目標が定められている。
メンタルヘルスサービスにかかわるすべての機関同士での調整を推進し、各責任範囲が明確にされているようにすること

サービスの開発においては協働・連携が必要であり、地域と地方のサービス提供者が協力して回復ならびにベストプラクティスと品質改善に関する情報共有に寄与する。一般にさまざまな地方のメンタルヘルス機関のサービスや強みは互いに補完し合っており、このことによる便益が確実に実現されるよう機関同士が協力し合う必要がある。

各機関は、機関同士での調整を推進し、監督する責任を担う職員を任命すべきである。さらに、機関同士での調整を主導する責任を担う提供者を一機関決める必要がある。すべてのメンタルヘルスサービス提供者が会合を開き、サービス開発についての協議や他の問題について情報を共有することができるようなメカニズムを各地方に確実に整備する責任を有するのは保険金局である。

9.4 セクター間の調整

セクター間の調整およびメンタルヘルス関連問題についての責務の明確化を実現するのは困難だが、必ずやらなければならないことである。良好なメンタルヘルスはメンタルヘルスサービスのみでは達成できない。他のセクター(特に、社会福祉、住宅、雇用)のサービスや方針が、メンタルヘルスサービスから利益を享受できるかどうかという個人の能力全般に影響を与える。保険金局は国の機関としてこういった問題に取り組む主導的な役割を担うことができる。

子どもや青少年への提供の場合、重度のメンタルヘルスの問題を抱える子どもや青少年が複数のセクターの対象になる可能性が高いことから、特有の問題が生じる。そういったセクターには、教育、児童青少年家族局(CYPFS)、少年司法、または警察などがある。精神障害を抱える人々に対する支援付き雇用や職業サービスの財政支援および購買もセクター内の問題となる。

9.5 メンタルヘルス分野での労働力

メンタルヘルス分野での労働力の技能・価値観・士気・態度がメンタルヘルスサービスのコスト・品質・効力に大きな影響を及ぼす。過去10年にわたるメンタルヘルスサービスの継続的な再構築により、労働力の士気や有効性が低下してきている。このようなことから、各自の業務においてのみならず、セクター全体についての各々の理解において士気を向上させ、有効性を拡大するような方法により、本計画で示されるサービスの顕著な成長を達成しなければならない。

こういったサービスの成長も効果的な採用・雇用維持戦略により現在の労働力の規模および能力の成長に合わせたものにする必要があり、その戦略には精神疾患を経験した人たちの採用も含まれる。メンタルヘルス分野は 高い能力を有する労働力を開発し、引き付け、維持するという課題に積極的に取り組まなければならない。その場合、全関係者が教育セクターと協力しその責任を分担することになる。

近年の戦略策定では主に、セクターの分裂を最小限にとどめる国家的体制を作り上げ、セクター全体での労働力開発の役割と責務を明確化することに主眼が置かれている。

9.5.1 メンタルヘルス分野での労働力の開発

1998年初頭に全国メンタルヘルス労働力開発調整委員会(National Mental Health Workforce Development Co-ordinating Committee)が設立されており、その目的はセクター全体の労働力開発を調整し、メンタルヘルス労働力開発に関する国家規則およびそのための資源配分を確立するための基礎となる決定的な枠組みを開発・実施することである。同委員会は提供者が主導し、セクター内の重要な関係者を代表する。同委員会の目的は、能力に基づく柔軟なアプローチによりメンタルヘルス労働力の将来的ニーズを満たす戦略的枠組みを作り上げることである。効果的な組織やベストプラクティスの属性、および子どもと青少年、マオリの人々、太平洋地域の人々の労働力開発ニーズを判断することに特に重点が置かれている。そういった人たちに特有のニーズを満たすのに適切なサービスを提供するうえで、経験を積んだ適格性のある職員の採用・雇用維持を増加させることが必要である。

同委員会は高等教育セクターの提供者を統合・調整する役割を担うことになっている。研修カリキュラムには制度的介護からコミュニティやプライマリーケアへの重点の移行を反映させる必要がある。

メンタルヘルス労働力開発戦略は、労働力要件についての理解共有を推進し、その要件が確実に達成されるよう戦略を整備することを目指してデザインされる。この戦略により、医療分野の労働力についての情報の収集・共有、政策についての討議、ガイドラインの策定、実施の監視、結果の評価を可能にするために必要な構造とプロセスが得られることになろう。

9.5.2 メンタル・ヘルスにおける認定制度(支援業務)

この認定は1998年以降行われており、ニュージーランド国家資格構成に含まれる。同認定は非臨床分野労働力のための主要な労働力開発機会となる。同認定は支援ワーカーが基礎的な能力を取得する一助となる。支援ワーカー数を増やし、その技能を向上させることで医療従事者が臨床分野の業務に集中できるようになる。このプログラムでは具体的に、マオリの人々や太平洋地域の人々など優先的労働力領域を対象としている。

事前研修プログラムとしてのこの認定プログラムにより、精神疾患を経験した人たちなど、メンタルヘルス分野での広範な人々の雇用を促進することになると思われる。

9.5.3 資金提供者の役割

メンタルヘルス分野の労働力の誰もが5年以内に必要な能力を身につけて資格を得られるようにするという目標を達成するには、臨床・支援スタッフのニーズに対する研修に対し保険金局が十分な援助を提供する必要がある。

とりわけ欠かせないのが、手ごろな費用でメンタルヘルス分野の労働力向け研修へのアクセスを可能にすることである。今後数年にわたりメンタル・ヘルスにおける認定制度(支援業務)で認定を受けるスタッフを送り出す小規模なまたは新規の非政府組織への資金援助や支援が増えれば、保険金局の投資に対する見返りが最大になると思われる。技能や能力を構築するために十分な数の労働者を確実に送り出せるようにするレベルでの資金援助を行うことが重要であり、組織が研修を受けていないスタッフを相当数抱えている場合は特にそうである。

臨床研修局は、過去2年間にわたってメンタルヘルス従事者の臨床研修に向けた資金援助を着実に増やしてきている。重要なことは、こういった資金援助を増し続け、介護、アルコールと薬物(「二重診断」を含む)、子どもと青少年、マオリの人々、認知療法、小児精神医学といった領域での労働力の専門知識を向上させることを目指すことである。

9.5.4 健康に関するサービス提供者

提供者は、スタッフの採用および雇用維持のための教育や戦略計画によりメンタルヘルス分野での労働力を開発する責任を受容すべきである。これが機能するのは、学生がしかるべき研修を受け実地経験を持つことおよび資格が健康に関するサービス提供者のニーズに適切なものであることを確実にするために、健康に関するサービス提供者が高等教育提供者と協働する場合である。メンタルヘルス分野での労働力のあらゆる側面を開発するうえでこのことが極めて重要であり、特にマオリの人々と太平洋地域の人々両者にとってそうである。また、新たな精神疾患経験者の労働力の開発ニーズにも対処する必要がある。

提供者はより効果的にスタッフを活用する必要がある。協力を促進するスタッフ配置方針、チームの効果的活用、セクター全体でのサービス統合を行えば、サービスの提供において最大の有効性が得られる。

9.5.5 加速するマオリの人々の労働力の開発

マオリの人々が労働力のすべての部分でより大きな役割を担うことについて差し迫った必要性がある。マオリの人々の労働力開発問題については6.2.5節で詳述する。

9.5.6 太平洋地域の人々の労働力

太平洋地域のサービスユーザーの文化的ニーズに対してすべての主流のサービスがより良く提供されるようにする必要がある。太平洋地域の労働力開発問題については7.2.1節で詳述する。

9.5.7 精神疾患を経験した人たちの労働力

精神疾患を経験した人たちがメンタルヘルス分野の労働力としての役割を担う機会を拡大する必要がある。研修プログラムおよび採用戦略により、精神疾患を経験した人たちが研修や職業に申し込むよう明示的に促す必要がある。そういった人々は精神疾患経験者アドバイザーとして臨床的な役割で、あるいは支援的な役割で雇用されうる。

9.5.8 労働力、回復、偏見

現在、労働力が自分の仕事で回復アプローチを活用して、ただ疾患を治療するだけでなく、健康になることに力を入れることが期待されている。労働力は、差別が精神疾患自体の脅威と同じくらい回復に対する大きな脅威となりうることを理解する必要があり、精神疾患罹患者に対する自らの差別意識に対処しなければならない。それと同時に労働力である人々は、サービスのユーザーの内なる差別意識を低減するよう支援することにますます積極的になり、その技能を身につけることが必要になろう。

こういった進展により、研修基準、研修プログラム、労働者の採用・雇用維持について大幅な変更が必要となると思われる。変更を行う際、サービス品質やサービスのユーザー、特に労働力の一部としてのユーザーを関与させる新たな方法について、新しい見方が必要となろう。

9.6 サービスの効果に対する評価、モニタリング

良好なサービス業務が上手く機能する特定の要因を明確にするために、サービス(特に新しいサービス)の効果に対する一貫性のある徹底した評価を行うことが急務となっている。過去2年間、衛生研究委員会は、以下の内容を含み、メンタルヘルスサービスについてのいくつかの調査に資金援助を行ってきた。

  • ケースミックス:さまざまなニーズを持つ人々のためにサービスを提供するコストの調査
  • 成果:サービス介入の成果の測定
  • 疫病学:ニュージーランドでの精神疾患の測定

さらにメンタルヘルス委員会は現在、メンタルヘルスサービスでのベストプラクティスを明確にし、それを共有するためのプロジェクトを実施している。

サービスの提供のための契約には明示的な要求事項としてサービスの評価が含まれることが推奨される。評価および成果測定の研修も提供する必要がある。

9.7 メンタルヘルスに関する情報

現在、いかなるサービスが、どこで、どの診断の場合に、どういった患者に提供されているのかについてきちんとした情報がない。この問題は改善されつつある。保健省およびニュージーランド保険情報局(NZHIS)は、新しい全国メンタルヘルス関連データ収集システムのパイロットを成功裏に終了させており、保健省は全国での完全実施をすでに承認し、1999年末までに完了する予定である。この実施についてはNZHISが主体となっている。

新しいシステムにより人々が利用するサービスに関する情報が収集され、全国健康指数(National Health Index:NHI)の数にリンクされる。病院・医療サービス(HHS)とNGOのメンタルヘルスサービス提供者すべてが以下についてのデータを提供することになっている。

  • サービスのユーザーグループについての詳細な情報(年齢、民族、住居コード、性別)
  • メンタルヘルスサービスが対処している問題のより明確な全体像を把握するための診断
  • 全国メンタルヘルス共通基本定義(National Mental Health Common Base Definitions)を基にして提供されるサービス
  • 紹介先
  • サービスが提供されている場所

収集される情報は、一連の標準報告書を通じて、データを提供するすべての関係者、保健省、メンタルヘルス委員会、保険局が利用できる予定である。サービスのユーザーが自らの権利、および、どんなデータが収集され、それがどのように利用されるのかについてきちんとした情報を確実に得られるよう、プライバシーの問題がプロジェクトの一環として取り上げられている。

この新しいメンタルヘルス情報サービスは全国メンタルヘルス戦略における目標の達成に向けて、サービスプランニングおよび進捗状況測定への大きな支援になるものと予想される。データ収集の実現から十分な利益を得るには、提供者たちが可能な限り正確なデータを提供することが欠かせない。