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愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所年報26号

No.1

愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所

項目 内容
発行年月 1998年9月

平成9年度

序文

 発達障害研究所は26年前、関係各位の先見、県民の方々の強い支持を基盤にして、愛知県心身障害者コロニーのなかに設立されました。心身障害の成因の解明と予防、心身障害児(者)の治療と教育、心身障害児(者)の福祉の研究を行なうとする三本柱のもとに今日に至っております。
 平成4年度の研究所創立20周年記念の行事以来、恒例となった発達障害研究所シンポジウムは今年度も「公開シンポジウム'98」として平成10(1998)年2月20日に愛知芸術文化センターで開かれました。今回は「蛋白質リン酸化と細胞機能」のテーマのもと、遠来の講師に稲垣昌樹、成宮周、西田栄介、宮園浩平の四氏を迎え、所内の浅野富子、加藤兼房も講演しました。当地方の大学、研究所からの多数の参加もあり、極めて有益な討論が展開されました。来年度は平成11(1999)年の春に鈴木信太郎の主宰で遺伝子ノックアウトに関するシンポジウムを企画しています。この冊子がお手許に届く頃には詳細も分かっている筈です。
 平成9年4月、加藤利久、堀尾富美恵、立松千鶴が着任し、長瀬二郎、大橋佳代子が転出しました。7月には平野伸二を、平成10年1月には岸川正大を形態学部長として迎えました。年度末の平成10年3月には望月昭が転出しました。
 コロニー内外の御理解で懸案のインターネットも平成10年3月に開設されました。研究活動に、迅速な情報収集が不可欠の時代です。大きな弾みになりました。倍旧のご指導をお願い申し上げます。
 今年も前年度(平成9年度)の活動を振り返り、記録広報委員会が研究成果を年報26号としてまとめました。ご批判を賜りまして、今年度の励みとしたいと存じます。

 平成10年4月

発達障害研究所

所長 伊藤宗之

目次

1 組織構成

A 研究所の組織

所長―副所長

  • 遺伝学部
    • 遺伝学第一研究室 (細胞遺伝)
    • 遺伝学第二研究室 (生化遺伝)
    • 遺伝学第三研究室 (臨床遺伝学・遺伝疫学)
  • 発生学部
    • 発生学第一研究室 (発生第1)
    • 発生学第二研究室 (発生第2)
  • 周生期学部
    • 周生期学第一研究室 (周生第1)
    • 周生期学第二研究室 (周生第2)
  • 生化学部
    • 生化学第一研究室 (神経化学)
    • 生化学第二研究室 (先天性代謝異常)
    • 生化学第三研究室 (酵素異常)
  • 生理学部
    • 生理学第一研究室 (中枢生理)
    • 生理学第二研究室 (筋生理)
    • 生理学第三研究室 (情報処理)
  • 形態学部
    • 形態学第一研究室 (微細構造・細胞化学)
    • 形態学第二研究室 (神経病理)
    • 形態学第三研究室 (臨床病理)
  • 治療学部
    • 治療学第一研究室 (人間工学)
    • 治療学第二研究室 (臨床運動学)
    • 治療学第三研究室 (精神病理)
  • 能力開発部
    • 能力開発学第一研究室 (治療教育)
    • 能力開発学第二研究室 (精神発達)
  • 社会福祉学部
    • 社会福祉学第一研究室 (地域福祉)
    • 社会福祉学第二研究室 (家族福祉)
  • 共同研究科
    • 企画担当 (研究所固有の事務の処理)
    • 図書担当 (図書室の管理運営)
    • 共同実験担当 (共同備品の管理および試料の検査)
    • 実験動物管理担当 (動物舎の管理運営)

B 所員構成

所長 伊藤宗之

副所長 加藤兼房

研究室 部長 室長 研究員 研究助手
遺伝学部 第一研究室 孫田信一 小野教夫 川本隆之
第二研究室 武藤宣博
山田憲一郎
中川千玲
第三研究室 山田裕一
鬼頭浩史
野村紀子
発生学部 鈴木信太郎
第一研究室 竹内郁夫 平野伸二 青木英子
第二研究室 米澤 敏 松田素子 木村礼子
周生期学部 大平敦彦
第一研究室 仙波りつ子 青野幸子 松井ふみ子
第二研究室 慶野宏臣 時田義人 尾関順子
生化学部 加藤兼房
第一研究室 浅野富子 上田 浩 森下理香
第二研究室 稲熊 裕 伊東秀記
第三研究室 滝澤剛則 正木茂夫 立松千鶴
生理学部 伊藤宗之
第一研究室 浦本 勲 渡部眞三 犬養尚子
第二研究室 戸塚 武 佐久間邦弘 渡辺貴美
第三研究室 橘 敏明 中西圭子 岡 博子
形態学部 岸川正大
第一研究室 谷口雅彦 慶野裕美
第二研究室 佐野 護 大島章子 北島哲子
第三研究室 長浜真人 佐藤 衛 柏井明子
治療学部 三田勝己
第一研究室 青木 久 塚原玲子 久野裕子
第二研究室 渡壁 誠
赤滝久美
伊藤晋彦
第三研究室 西村辨作 中村みほ 原 幸一
能力開発部 (兼)小野 宏
第一研究室 望月 昭
渡部匡隆
野崎和子
第二研究室 綿巻徹 幸 順子 西野知子
社会福祉学部 渡辺勧持
第一研究室 島田博祐
三田優子
堀尾富美恵
第二研究室 大島正彦
研究科  担当 科長 課長補佐 研究員 研究助手
共同研究科 (兼)加藤兼房
企画担当 加藤利久 伊藤文子
図書担当 青葉寿美子 武藤裕子
共同実験担当 川端優男
河村則子
亀井慶子
加藤美幸
続木雅子
実験動物管理担当 花井敦子
青井隆行
倉知邦臣
嘱託 平野志奈子
谷口寛子(産休代替)
岩本郁子

平成10年3月31日現在

2 研究活動

A 部門別研究

1.遺伝学部

研究の概況

孫田信一

 出生時にすでに現われる先天異常や発達障害には、その原因が遺伝子あるいはその集合体(染色体)の異常によるものがかなりの頻度で含まれている。また、その原因がまだ不明のものも少なくない。遺伝学部では発達障害や疾患に関わる遺伝子・染色体の構造、これら異常の発生原因と発生機序、さらには遺伝子の働きを調節する機構などについて研究している。
 第一研究室では、このうち主に遺伝子の集合体である染色体の異常に着目して研究を進めている。染色体異常は出生児の約160人に1人の割合で見られる。孫田、小野、川本らは各種の染色体構造異常を有する実験動物を開発して、異常染色体の減数分裂における分離、不均衡配偶子形成と受精への関わり、不均衡胚の成立と構造異常染色体の子孫への伝達に関して解析を進めた。また、片親由来の染色体しか持たない異常(片親性ダイソミー)を有する胚を実験的に作製し、発生過程におけるその影響を明らかにした。孫田と小野は、他の研究機関と共同で、常染色体性優性遺伝の家族性心房中隔欠損(ASD)の家系について、マイクロサテライト多型による連鎖解析を行った。また、四肢中間部異形成(MD)の大家系を対象にして連鎖解析を継続し、その遺伝子座位を2q24-q32と決定した。これら領域をさらに特定し、原因遺伝子の解明につながることを期待している。小野と孫田は実験動物の遺伝子の単離、解析にとって不可欠なゲノムライブラリーを作製し、そのコスミドクローンの染色体地図作製に取り組んだ。また、他部門および名古屋市立大学医学部の研究者と共同で、それぞれで単離した遺伝子 のマッピングを進めた。今回は、細胞増殖の調節機構などへの関与が予測されるヒトTP53BP2や神経特異的に発現する膜タンパクのマウスニューログリカンC遺伝子など、ヒトおよび実験動物の7種類の遺伝子について、それぞれ染色体上の座位を決定した。遺伝子マッピングはゲノム解析にとって重要である。
 酸素は多くの生物にとって必須の元素であるが、反応性が高く、特に活性酸素は細胞内においてタンパク質や核酸のような生体分子と反応し、細胞に障害を与える。このような細胞の障害は癌など多くの疾患の原因となっていると考えられている。第二研究室では、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeをモデル細胞として、活性酸素に対する細胞の防御機構に関する研究を行っている。分裂酵母を低レベルの活性酸素をはじめとする種々のストレスに曝すと、哺乳類細胞と同様にMAP kinaseの活性化とそれによる転写因子の活性化が起こり、いくつかのタンパク質の合成が誘導される。その中で、特に過酸化水素(活性酸素の一種)分解酵素カタラーゼに焦点を当てて研究を進めた。カタラーゼは活性酸素をはじめとする種々のストレスによりその活性が誘導される。中川はこれについて、既知のAtf1転写因子の他に、ストレスに応じてカタラーゼ遺伝子上流にあるいくつかのエレメントが関与していることを明らかにした。また、カタラーゼの誘導にはMAP kinaseが関与しているが、MAP kinaseの変異による温度感受性を抑制するhxk2遺伝子が、高温においてカドミウムに対する耐性を与えることを見いだした。山田(憲)は、過酸化水素を分解するカタラーゼ以外の酵素として、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の遺伝子に関する解析を行い、この遺伝子の発現もカタラーゼと同様にAtf1転写因子の制御を受けていることを明らかにした。また、川端は分裂酵母の培養液中に含まれる、成長促進因子様物質について研究を行っている。
 第三研究室では、遺伝病の原因遺伝子に関する解析、特に遺伝子変異の同定や遺伝子診断について研究を行っている。山田(裕)は、野村や谷口らとともにDNAやRNAを構成するプリン体の代謝異常に関わる遺伝子を中心に解析を進めた。プリン再生系酵素HPRTの完全欠損は重篤な心身障害や特徴ある自咬症を示すレッシュ・ナイハン症候群の原因となり、その部分欠損では高尿酸血症から重症の痛風や腎不全を呈する。本年度も他施設からこの遺伝子の変異解析や遺伝子診断の依頼を受け、レッシュ・ナイハン症候群2例と部分欠損症1例に関して遺伝子変異を同定し、レッシュ・ナイハン1家系では出生前遺伝子診断を行った。無症状であるが高い頻度で存在する赤血球型AMPデアミナーゼ欠損の遺伝子変異に関しては、この研究グループが世界で最初に完全欠損を発見したが、日本人とポーランド人でこれまでに同定された変異が酵素活性に及ぼす影響について検討を進めた。また各大学の研究者と共同で、家系の連鎖解析による痛風発症に関与する遺伝子解明に向けて基礎研究を開始した。鬼頭らは、四肢短縮型小人症の軟骨無形成症(ACH)や軟骨低形成症(HCH)の原因遺伝子である線維芽細胞成長因子の 受容体のFGFR3の遺伝子解析を行っている。Cedars‐Sinai Medical Center(米国)における共同研究で、致死性骨異形成症(TD)やその類似疾患におけるFGFR3遺伝子変異について明らかにした。共同研究者の山田晴生(愛知医大)らは、活性酸素の消去に関与するスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)群の遺伝子解析に取り組んだ。

 なお、第三研究室の鬼頭浩史主任研究員は平成10年3月に米国における1年間の出張から帰国した。今年度は文部省科学研究費補助金基盤研究(A)および(C)(3件)、厚生省精神・神経疾患研究委託費(1件)、厚生省小児医療研究委託費(1件)のほか4件の研究助成金を受けた。

胚発生におけるゲノム不均衡および染色体・遺伝子の不活性化の影響に関する研究

孫田信一、川本隆之、小野教夫

 何らかの原因で個体を構成する染色体・遺伝子に量的な過不足、一方の親由来の染色体の重複(片親性ダイソミー)、不活性化の異常などが起こることがある。しかし、発生過程におけるこれらの実態はまだ明らかになっていない。そこで、実験動物(チャイニーズハムスター)を用いてこのような異常の影響について検討した。
 相互転座ヘテロシステムを用いて特定の不均衡胚を作製し、2細胞期から発生の各段階で観察した。その結果、分割停止、分割異常、胚形成異常などは染色体1、2、3、5、7などのモノソミー胚で特に顕著であったが、同じ染色体のトリソミー胚の多くは同様の異常を示さなかった。それぞれの発生異常や、脳を含む各器官の形成異常に関与する染色体領域について、種々の転座系統を用いてさらに狭い領域に特定した。各異常に関与する責任遺伝子の解析を目指して、この動物のゲノムライブラリー作製を行っている(他の報告を参照)。
 片親性ダイソミー胚は同一の相互転座に対してヘテロ接合の雌雄の交配で作製した。これらの胚には、初期発生で異常を示すものがあり、異常の程度および発現時期は父親性と母親性ダイソミーで異なるものも見られた。また、Xの不活性化やゲノムインプリントなどで知られているように、染色体・遺伝子の不活性化は発生・分化における遺伝子発現調節の重要な手段の一つであるが、不活性化の失敗や予定外の不活性化は発生異常を誘発する可能性がある。我々はそのようなモデルを作製し、染色体・遺伝子不活性化の発生分化に及ぼす影響とその父性母性効果の役割解明を目指している。

 本研究は厚生省小児医療研究委託費「成育医療からみた発生分化の基盤的研究」班、および厚生省精神・神経疾患研究委託費「脳形成異常の発生機序に関する臨床的・基礎的研究」班の分担研究として援助を受けた。

相互転座における正常と均衡型転座の分離比に関する検討

孫田信一、川本隆之

 相互転座を有していても臨床上の異常はないが、転座の種類によっては染色体不均衡による異常児の出生、あるいは流産の原因となる。均衡型転座染色体は、親から子、孫へと世代を越えてしばしば受け継がれる。このような転座保因者の遺伝相談では、交互分離(あるいは乗換えを伴う隣接1型分離)由来による正常核型児と均衡型転座保有児の出生割合は1:1であると説明されている。また、臨床遺伝学のテキストにもそのような記載が多い。
 ところが、実験動物を用いた我々の実験では、この予想値と必ずしも一致しない。種々の相互転座を有するチャイニーズハムスター系統を用いて、転座ヘテロ接合雄または雌と正常核型動物との交配で得られる仔獣の染色体構成を調べたところ、正常:均衡型転座=1:2.1のように転座の種類によって偏りがあった(調査した7系統中の3系統)。このような偏りが生じる可能性として、(1)減数分裂の非相同間乗換えの関与、(2)分離異常、(3)配偶子形成段階、受精および発生過程における均衡型相互転座の優勢などが考えられる。そこで、発生の各段階で胚の染色体構成比を調査したところ、受精卵の段階で既に偏りが見られ、減数分裂から配偶子形成段階に原因があると考えられた。偏りを示すT(1;3)108Idr転座ヘテロ接合体の調査では、減数第二分裂で通常見られない染色体塊をもつ細胞が存在した。この染色体塊は減数第一分裂で正常な核型となるべき分離に異常な乗換えが伴って生じるが、これらの細胞から配偶子が形成されず、均衡型転座の配偶子の割合が高くなると考えられる。FISH法などを用いてこの染色体塊の起源について確認を急いでいる。

 ヒト症例における情報はまだ乏しいが、ヒトの場合も『相互転座ヘテロ接合体から生じる正常と均衡型転座の子の割合はいつも1:1である』という説明は必ずしも正しくないと思われる。
 本研究は土川記念哺乳動物研究助成基金の援助を受けた。

マイクロサテライト多型解析による疾患遺伝子の連鎖解析)

孫田信一、小野教夫、川本隆之、藤本正博1、三好 修1、新川詔夫1、池川志郎2、中村祐輔2、石田貴文3、福嶋義光4、松尾雅文5、P.N.Kantaputra6、三浦清邦7、熊谷俊幸7

 ヒトゲノムに膨大な数のマイクロサテライトが存在し、これらの多型は各染色体内のDNA構造の位置を細かく特定する指標として有用である。これらを用いて染色体起源、成熟分裂乗換えや体細胞分裂における組換えについて詳細に調査できる。我々はマイクロサテライト多型を利用して、各種疾患の原因遺伝子の座位、異常染色体の起源、微細欠失、loss of heterozygosityおよび片親性ダイソミーについて解析している。
 本年度は主に、常染色体性優性遺伝の家族性心房中隔欠損(ASD)、四肢中間部異形成(MD)の一型、およびRett症候群(RS)に関して他の研究者と共同で連鎖解析を実施した。ASDの一家系については、ヒトの全染色体をカバーする約400のマイクロサテライトに対応するプライマーを合成し、PCRによる多型解析を実施した。現在この結果をコンピューターで解析中である。また、タイのMDの大家系による連鎖解析では、その遺伝子座位を2q24‐q32と決定し、原因遺伝子の解明を目指している。RSについては6家系の患児および両親由来のリンパ芽球細胞からDNAを抽出し、マイクロサテライト多型解析により特にX染色体のpseudoautosomal regionを含む領域の関与について調査した。今後、X染色体の他の領域および常染色体の関与についてさらに解析を進める予定である。

 本研究は文部省科学研究費基盤研究(A)「単一遺伝子病家系の連鎖解析」の分担研究、同基盤研究(C)および愛知県がん研究助成基金の援助を受けた。
 1長崎大・医、2東京大・医科研、2東京大・院理、4信州大・医、5神戸大・医、6Chiang Mai Univ.,Thailand、7中央病院

FISH法によるヒトおよび実験動物の遺伝子マッピング

小野教夫、孫田信一

 遺伝子地図の作製はゲノム解析において重要かつ基本的な研究課題のひとつである。ヒトと実験動物の比較マッピングの情報は、遺伝子異常と疾患との関連やその発症機構の解明、またそのための発生工学的研究に有用である。今年度、我々の研究室では以下の遺伝子をdirect R-banding FISH法によりマップした。
 細胞の分裂や増殖の調節に関与するp53 binding protein(TP53BP2)、およびmap/micro-tubule affinity-regulatingkinase(MARK3)のヒト遺伝子をクローニングし(名古屋市大:河邊、岡本ら)、それぞれを1q42.1、14q32.3にマップした。また、TGF-βのシグナル伝達に関与し、がん抑制遺伝子と考えられるSmad2、Smad4遺伝子(長崎大:尾崎ら)が、ラット染色体18q12.3部位において近接していることを示した。ヒトにおいてもSmad2とSmad4遺伝子は数Mbpの範囲内で近接して存在することが知られており、染色体上での近接はSmadファミリー遺伝子の進化や、その生物学的機能と何らかの関連があることが推測される。
 脳特異的コンドロイチン硫酸プロテオグリカンであるニューログリカンC(NGC)遺伝子(周生期学部:青野、大平ら)をマウス染色体9F1領域にマップした。この領域はすでに我々が決定したヒトNGC遺伝子座3p21.3と相同性のある染色体領域(syntenic region)であった。カテプシンEはアスパルティックプロテアーゼに属し、タンパク質のプロセッシングに関与することが示唆されている。この遺伝子のゲノミックプローブ(発生学部:米澤ら)を用いて、遺伝子座をマウス染色体1Fに決定した。この領域はヒト染色体1番とsyntenyを示す領域である。ミオシンは十数種からなるスーパーファミリーを形成しており、内耳機能障害の原因となるものも知られている。このうちマウスミオシンX型遺伝子のcDNAをクローニングし(発生学部:米澤ら)、その遺伝子座を15Cに決定した。マウス15A領域とヒト5番短腕(5p)との相同性は以前から知られているが、今回の結果はマウス15Aから15Cまでを含む広領域がsyntenic regionである可能性を示す。

コスミドベクターを用いたチャイニーズハムスターの染色体地図作製(2)

小野教夫、川本隆之、孫田信一

 当研究室で系統保存している各種の染色体異常を有するチャイニーズハムスターには、様々な発生異常や器官形成異常が見い出されている。これらの異常の原因遺伝子の検索や、染色体構造変化の分子生物学的解析を行うため、昨年度からコスミドベクターによるゲノムライブラリーおよびその染色体地図の作製に取り組んでいる。
 現在、ゲノムライブラリーから得たコスミドクローン約400個を、FISH法により順次マッピングを行っている。これまでの結果、反復配列DNAを抑制することにより、約60%のクローンを部位特異的にマッピングすることができた。これらはチャイニーズハムスター染色体の特定部位を示す良いマーカーとして使用できる。これらのうちの幾つかは、近縁種であるトリトンハムスターにもハイブリダイズすることから、染色体相同性の解析にも利用できる。また、約15%のクローンでは複数の染色体部位または領域(主としてヘテロクロマチン領域)が同時にペイント状に染め出され、これらのクローンには高頻度に存在する反復配列がそれぞれ含まれていることが示された。しかもヘテロクロマチン領域は複数のクローンでペインティングシグナルが観察されたが、その組み合わせは幾つかのパターンに分類された。これは、チャイニーズハムスターのヘテロクロマチンは数種類の反復配列を含み、それぞれのヘテロクロマチン領域ではその組み合わせや頻度が異なることを示唆する。特に性染色体(XおよびY染色体)のヘテロクロマチン領域には、共通する数種類の反復配列が存在することが示唆された。一 方、シグナルがG‐バンドやR‐バンドに一致して染色体全体に観察されるクローン(全体の約6%)も見いだされ、それぞれの散在性反復配列に富む領域の存在が示唆された。
 今後、今回作製した染色体地図をもとに、染色体異常の分子レベルでの解析や、発生・器官形成異常および疾患の原因遺伝子解析を進めていきたいと考えている。また、反復配列からみたチャイニーズハムスター染色体の成り立ちも検討する予定である。

哺乳類染色体における非末端染色体領域テロメア配列の構造

小野教夫、藤本和則1,2、織田銑一2、黒尾正樹3、小原良孝3、孫田信一

 真核生物の染色体末端はテロメアと呼ばれ、染色体の構造維持に関与している。最近では、テロメアの長さが老化に関連し、その調節機構の破綻が発がんに関与することが知られている。通常、脊椎動物のテロメアは(TTAGGG)の繰返し構造を持ち、染色体末端のみに存在するが、幾つかの動物では染色体末端以外にもテロメア配列が存在する。この非末端テロメア配列の生物学的意義はまだよく分かっていない。
 まず、我々はFISH法により安定してテロメアを検出するプローブを作製した。テロメア配列のプライマーどうしのアニーリングによるPCR産物をプラスミドベクターに組み込み、約400bpのインサートを持つクローンを単離した。このインサートはテロメア配列のみを含み、FISHではオリゴ(TTAGGG)プローブよりも感度よくテロメア配列を検出できた。これらはテロメアの研究に有用である。
 チャイニーズハムスターは大きな非末端テロメア配列領域を持つことが知られている。しかしながら、近縁種であるトリトンハムスターには非末端テロメア配列は観察されなかった。両者の核型はヘテロクロマチン領域以外はバンドパターンは過不足無く対応することから、チャイニーズハムスターの核型が形成された後に非末端テロメア配列が出現したことが分かった。また、チャイニーズハムスターでの非末端テロメア配列はセントロメア近傍のヘテロクロマチン領域に含まれるか、もしくは近接し、他の高頻度反復配列とも一致して染色体上に分布しており、非末端テロメア配列の出現と反復配列との関連が示唆された。さらに、他の動物での非末端テロメア配列についてもその起源や構造を解析中であり、哺乳類染色体における非末端テロメア配列形成機構や生物学的意義について今後検討していく。
 ハンチントン舞踏病、脆弱X症候群などの神経疾患の発現に3塩基反復配列の延伸が大きく影響している。これら反復配列の構造変化のメカニズムやそれによる遺伝子発現の影響などはまだ不明であり、この研究の今後の成果はこの点でも多くの示唆を与える可能性がある。

 1三共・安全性研、2名古屋大・農、3弘前大・農生命

染色体異常モデルの開発とその特性解析(2):特にマーカー染色体の起源、分離および妊性について

川本隆之、小野教夫、孫田信一、青井隆行1、川端優男1、谷田啓一郎2、織田銑一2

 ヒトには種々の染色体異常が見られるが、それらの発生機序、成熟分裂における分離、受精への関与、染色体異常児出生の可能性などについて直接明らかにすることは困難な場合が多い。ヒトで見られる染色体異常と同様の異常を有する動物でこれらの情報を得ることは、ヒトの場合を考える上で重要である。我々は種々の染色体異常を有する実験動物を開発し、ヒトの染色体異常のモデルとして配偶子形成段階、受精、初期発生から器官形成段階までの種々の問題について解析を試みている。
 今年度は染色体を過剰にもつ系統などについて主に調査してきた。Mar105ldrは染色体を1個過剰に持ち生存可能なチャイニーズハムスター系統であるが、ほとんどの雄は不妊である。この過剰染色体は中型の端部動原体型であるが、染色体バンドおよびFISH法でそれはX染色体長腕由来であることを明らかにした。また、これを有する雌から種々の染色体構成の仔が生まれることが判明"した。例えば、正常(22,XXまたは22,XY)、マーカー染色体を有するもの(23,XX,+marなど)、性染色体を過剰に持つもの(23,XXX、23,XXYなど)、性染色体の欠失(21,X)などが含まれる。性染色体の一部を過剰に持つ異常はヒトでも見られるが、今回の分析結果は、過剰染色体の保有個体では減数分裂の分離異常により次世代に染色体不均衡の児を得る可能性が高くなることを示唆する。このほかに、Xの逆位を有する1系統や、X染色体と常染色体の相互転座を有する系統などについて、減数分裂、派生染色体などをもつ不均衡配偶子の形成、不均衡胚の発生異常に関して調査を行った。

 本研究は文部省科学研究費基盤研究(A)「汎用性(動物用)染色体画像解析システムの開発」の援助を受けた。
 1共同研究科、2名古屋大・農

分裂酵母カタラーゼ遺伝子の上流に存在するストレスに応答するDNA配列の解析

中川千玲、山田憲一郎、武藤宣博

 分裂酵母のカタラーゼは、過酸化水素、ビタミンK3等の酸化的ストレスや、UV、高浸透圧、ヒートショック等の各種ストレスで活性が上昇し、ストレスに対して防御的に働く酵素の代表的なものである。UV、高浸透圧でのストレス応答機構においては、Wis1(MAP kinasekinase)-Spc1(MAP kinase)-Atf1(転写調節因子)のカスケードが関与していることが知られている。分裂酵母染色体上のカタラーゼ遺伝子の上流を欠損した株とそれらのatf1欠損株を作成し、酸化的ストレス条件下でのカタラーゼ遺伝子の発現を調べた結果、MAPKK-MAPK-Atf1の系のみならず別の調節経路も存在することを昨年報告した。MAPKK-MAPK-Atf1の系が広範囲のストレスで活性化されると考えるとき、このもう一つの転写調節の系は過酸化水素ストレスに特異的に応答し、その両方のバランスで発現調節をしていると考えられる。今回さらにUV、ビタミンK3、ヒートショック等のストレスについて上記の欠損株での発現を調べたところ、ストレスによって欠損株の応答が異なっていた。これは各ストレスに応答するのはMAPKK-MAPK-Atf1の系のみでなく、それぞれのストレスに個々に対応する結合配列も存在することを示唆している。これらの結合配列の同定と個々に関係する因子の同定を現在行っている。ビタミンK3の応答では転写因子Pap1の結合配列が関係する結果を得たので、その部分のDNA配列20merを用いたゲルシフトアッセイを行ったところ、特異的に結合 するバンドが確認できた。Pap1の破壊株でさらに検討する予定である。

Schizosaccharomyces pomdeの過酸化水素耐性におけるカタラーゼの役割

武藤宣博、中川千玲、山田憲一郎

 分裂酵母Schizoxaccharomyces pombe (S.pombe)を低濃度の過酸化水素や高浸透圧といった低レベルのストレスにさらすと高濃度の過酸化水素処理に対する耐性を獲得する。このとき、カタラーゼをはじめとして多くのタンパク質の合成が誘導される。カタラーゼは過酸化水素分解酵素であるので過酸化水素耐性に重要な働きをしていると予想される。しかし、カタラーゼはその酵素学的性質から、細胞内における過酸化水素の分解にはほとんど関わっていないとの説もある。そこでS.pombeの過酸化水素耐性におけるカタラーゼの役割を明らかにするために、S.pombeのカタラーゼ遺伝子破壊株およびカタラーゼ過剰生産株を作成して、それらの過酸化水素感受性を調べた。カタラーゼ遺伝子破壊株はカタラーゼ活性を全く示さず、過酸化水素に対する感受性が野性株よりも10倍以上高くなっていた。カタラーゼ活性を誘導するストレスとして高浸透圧処理をとりあげ、高浸透圧処理細胞の過酸化水素耐性を調べた。野生株では高浸透圧処理を行うと過酸化水素耐性を獲得するのに対して、カタラーゼ破壊株は無処理細胞と同程度の過酸化水素に対する感受性を示した。また、カタラーゼ遺伝子を多コピーベ クター上に組み込んでS.pombe細胞内で発現させたところ、そのような細胞は野生株の20倍以上のカタラーゼ活性を示すようになった。このような高いカタラーゼ活性を持つS.pombeは無処理の細胞であっても高濃度の過酸化水素に対して耐性を示した。このことは、ストレス条件下における高濃度過酸化水素耐性の獲得にはカタラーゼが大きな役割を果たしていることを示唆している。

Schizosaccharomyces pombeに多コピーでカドミウム耐性を与える遺伝子の検索

武藤宣博、川端優男1、中川千玲、山田憲一郎

 分裂酵母Schizosaccharomyces pombe (S.pombe)はカドミウムを含む培地中で培養すると、カディスティンと呼ばれる重金属結合ペプチドを合成し、カドミウムをキレートすることによって高濃度(5mM)のカドミウムに対する耐性を獲得する。しかし、37℃で培養すると、カディスティンを合成するにもかかわらずカドミウムに対する耐性を獲得せず0.2mMのカドミウムを含む培地中で生育することができなくなる。この高温におけるカドミウム感受性の機構を知るために、多コピーベクターpLBDbletにつくられたS.pombeのゲノムDNAライブラリーを用い、37℃でもカドミウムを含む培地中で生育することを可能にするような遺伝子の検索を行った。その結果"2つのクローン(pCDR5,pCDR24)を得た。それらの塩基配列を決定したところ、pCDR5は6.8kbのS. pombeDNAを持っており、そのなかにヘキソキナーゼの遺伝子hxk2が含まれていた。プラスミド上のhxk2遺伝子に変異を起こさせると37℃においてS.pombeにカドミウム耐性を与えることができないため、hxk2遺伝子がカドミウム耐性に関係する遺伝子であることがわかった。hxk2はS.pombeのストレス応答に重要な役割を果たしているMAP kinase系の遺伝子spc1,wis1の欠損変異株における温度感受性を多コピーで抑制する遺伝子として知られている。Wis1-Spc1 MAP kinaseにより調節されている転写因子Atf1を欠く変異株は温度感受性にならないが、atf1変異株にhxk2変異を導入すると温度感受性になることもわかった。これらのことから、hxk2遺伝子は解糖系の律速酵素の遺伝子として糖代謝において重要な機能を持つだけでなく、細胞の高温耐性にも重要な働きをしていることが示唆された。

 1共同研究科

分裂酵母のglutathione peroxidase遺伝子のクローニングとストレス応答

山田憲一郎、中川千玲、中川善之1、武藤宣博

 我々は生命の活性酸素に対する防御機構を分裂酵母Schizosaccharomyces pombeを用いて解析している。活性酸素の一つである過酸化水素は外部環境の酸化ストレスだけでなく、ミトコンドリアにおける電子伝達系のリレーミスからも発生する。生命は細胞内で発生する、または外部からの過酸化水素に対する防御系を持っている。この過酸化水素は分解する酵素系と、glutathione等の小分子群により消去される。分解する酵素の一つであるcatalaseは本研究室の中川らにより解析が進められている。もう一つの酵素であるglutathione peroxidase(GPx)は解析されていないので、まずそのクローニングを行った。
 分裂酵母の遺伝子ライブラリーからGPxに相当するものを決定した(DDBJ/EMBL/GenBank accession numberAB012395)。この遺伝子は出芽酵母のGPx、及び哺乳類のGPxと高い相同性を持っていた。しかし活性中心は哺乳類のようにセレノシステインではなく、システインであった。
 このGPxのmRNAは過酸化水素による刺激だけでなく、高浸透圧、高温などの活性酸素以外の様々なストレスによっても誘導された。分裂酵母ではストレスの情報を伝える転写因子の一つとして、ヒトなどで知られているAP‐1ファミリーの一つであるatf1が知られている。このatf1の遺伝子破壊株ではGPxは発現されなかった。GPxはatf1の制御を受けていると考えられる。このGPxのストレス応答における寄与を調べるため、遺伝子破壊株を作成中である。

 1名古屋大・医

Schizosaccharomyces pombe培養液中に含まれる生育促進因子様物質について

川端優男1、山田憲一郎、中川千玲、武藤宣博

 Schizosaccharomyces pombe(S.pombe)を培養するときに、S.pombeの培養液から細胞を遠心分離によってのぞいた上清を加えると、17時間後の細胞の濃度が上清を加えなかったものに比べて顕著に高くなることを見いだした。これは細胞の培養液中に細胞の増殖を促進するような物質が含まれているためと考えられる。同様の生育促進効果は出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの培養液中にも観察されたが、大腸菌の培養液中には見いだされなかった。この培養液中に見られた生育促進効果は120℃、20分間処理によって失活しなかった。pHによる安定性を調べたところpH3では安定であったが、pH9では失活した。また、この生育促進効果は限外ろ過膜の透過性より分子量10,000以下の低分子量の物質によるものであることが示された。生育促進活性は酢酸エチルにより抽出されることも明らかとなった。多くの真核細胞微生物において細胞培養上清に抗酸化低分子物質が含まれていることが報告されており、S.pombeにおけるこのような活性も同様の低分子物質による可能性がある。細胞が多数存在するような生育に適した条件下では細胞の生育を早くするような物質を分泌して、他の細胞の増殖を促進しているのかもしれない。すなわち、単細胞微生物細胞もこのような物質により細胞間のコミュニケーションをとっていることが考えられる。これは、進化的には多細胞生物における成長因子やホルモンの原型である可能性が考えられる。

 1共同研究科

レッシュ・ナイハン症候群におけるHPRT遺伝子解析

山田裕一、許斐博史1、保田貴美子2、清水直樹2、東浩二2、野村紀子、谷口寛子3、小笠原信明4

 ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)の完全欠損に起因するレッシュ・ナイハン症候群や、高尿酸血症から重症の痛風となるHPRT部分欠損症における遺伝子解析を行ってきたが、分析法はキットの開発等で、簡潔化、迅速化へと進歩している。本年度も新たに、レッシュ・ナイハン症候群3家系の遺伝子診断に着手し、2家系で遺伝子変異の同定に成功した。HPRT遺伝子診断は現在、全血0.2mlからゲノムDNAを抽出し、HPRT遺伝子の各エクソンをPCR増幅、また全血0.025mlからmRNAを分離し、RT-PCRによりcDNAを増幅して、ダイレクトシークエンシング法で塩基配列を決定し変異を同定している。赤血球中のHPRT活性、APRT活性の測定を含めても0.5ml以下の血液で全解析が可能である。
 埼玉県で発見された例ではイントロン1の3'末のGからCへの単塩基置換でスプライシング異常が起こり、エクソン2の5'末5-bpを欠いたmRNAとエクソン2をスキップしたmRNAの、2種類の異常mRNAが観察された。どちらも10番目のコドンからフレームシフトが起き、前者は10番目の、後者は11番目のコドンが翻訳停止コドンに変わる。変異をもつゲノムDNAではMsl I部位が新たに形成され、これを利用したPCR-RFLP法で、保因者診断および羊水細胞を用いた出生前遺伝子診断を行ったが、母親はヘテロで保因者、胎児は女性で正常と診断された。
 千葉県で発見された例は、エクソン3で151番目の塩基CがTに変わり、51番目のコドンCAGアルギニンがTAGの翻訳停止コドンに変わるナンセンス変異で、これまでに欧米、日本合わせて7例で観察されており、ほとんどがde novoの変異として見つかっており、HPRT遺伝子変異のホットスポットと考えられている。この変異ではXho 1部位が消失するので簡単にPCR-RFLPで検出可能だが、今回の家系では遺伝子診断の結果、母、姉ともにヘテロで、変異の保因者と診断された。

 本研究の一部は痛風研究会の研究助成によった。
 1重症心身障害者施設・中川の郷、2千葉大・医、3共同研究科、4コロニー総長
(小脳失調と下肢に強い麻痺を有するHPRT部分欠損症の家系の遺伝子変異とその表現型)

山田裕一、萩野谷和裕1、飯沼一宇1、谷口寛子2、鬼頭浩史、小笠原信明3

 ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)がほぼ完全に欠損すると、レッシュ・ナイハン症候群になり、部分欠損では高尿酸血症から、若年で発症する重症の痛風となる。患者は現在12歳で、高尿酸血症と腎石灰化が見られ、3才頃から小脳失調と下肢の強い麻痺があるが、錐体外路症状はなかった。HPRTおよびAPRT(アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)活性の測定した結果、患者はHPRT活性が検出限度(0.01nmol/min/mg Hb)以下、APRT活性(1.01nmol/min/mg Hb)が欠損症の特徴で正常(0.42±0.10)の2倍以上に上昇していた。試験管内の反応でのHPRT活性はレッシュ・ナイハン症候群なみに検出限度以下であるが、その症状等から、HPRT部分欠損症と判断した。インタクトなHPRT活性は臨床症状と相関すると言われているが、その症状からすると、正常の数%の活性が残存しているのかもしれない。
 患者のゲノムDNA,mRNA両分析で、エクソン6の440番目の塩基TがCに変わる単塩基置換が見つかり、147番目のコドンでロイシンからプロリンへの単アミノ酸置換(L147P)が生じるミスセンス変異が原因であることが明らかになった。母親のDNA分析で、母親がこの変異をヘテロでもつ保因者であることが分かった。
 これまでのレッシュ・ナイハン症候群やHPRT部分欠損例の場合、母親は普通、保因者であっても赤血球中のHPRT活性は正常値(1.76±0.10)を示し、高尿酸血症などの症状を示すことはないが、今回の母親のHPRT活性(0.86)は正常の半分に低下しており、尿酸値が高く、痛風様の症状が見られた。また、遺伝子診断は行っていないが、母親の姉も痛風の診断を受けている。通常、保因者の血液細胞のmRNA分析では、異常なmRNAの発現はほとんど見られないが、今回の母親のmRNA分析では、正常とほぼ等量の同定された変異をもつ異常mRNAの発現が見られ、これが、活性が半分に低下し、尿酸の高い原因と考えられる。

 本研究の一部は痛風研究会の研究助成によった。
 1東北大・医、2共同研究科、3コロニー総長

赤血球型AMPデアミネース欠損の遺伝子変異とその酵素活性に及ぼす影響

山田裕一、野村紀子、谷口寛子1、鬼頭浩史、小笠原信明2
 ヒトの赤血球型AMPデアミネースの遺伝子(AMPD3)が明らかになり、酵素欠損の遺伝子変異の同定も進み、日本人における11例の遺伝子変異(主たる変異R573Cとマイナーな変異600delT、N310K、A320V、M324T、R331C、R402C、Q434X、W450R、P585L、Q712P)とポーランド人変異1例(V311L)を同定し、日本人とポーランド人では、欠損の頻度は同じでも、その遺伝子変異には差異があることを明らかにしている。本年度も引き続き、日本人とポーランド人の部分欠損例で、遺伝子変異の解析を行ったが、新たな変異の発見には至らなかった。また本年度はこれまでに同定された変異の酵素活性に及ぼす影響を大腸菌で発現させて検討するため、変異を導入した発現ベクターの作成を行った。
 AMPD3 cDNAの全翻訳領域、約2.5kbを組み込んだpUCベクター(pKA14)は、大腸菌にトランスフォームすると、lac'Z-AMPD3融合蛋白を産生し、AMPデアミネース酵素活性が発現する。このpKA14に1部位だけ存在する制限酵素部位(Apa1、Not1、Dra3、Acc1、Csp451)を利用して、発見された変異をもつcDNAに置換した。変異例ゲノムDNAからのPCR、または変異を導入したプライマーを利用したPCRで変異部位を増幅し、さらにligation-PCR法を用いて、pKA14に導入可能な変異cDNAを作成した。
 以前の研究で日本人酵素欠損の約75%を占めるR573Cと1部のマイナーな変異(600delT、M324T、R331C)については、大腸菌での発現実験で、遺伝子変異による酵素活性の消失が証明されている。本年度、新たにポーランド人における主たる変異と考えられるV311Lと日本人変異N310Kを導入したベクターでの実験で、各変異による酵素活性の消失が証明された。現在さらに他の変異(A320V、R402C、Q434X、W450R、P585L、Q712P)の導入を試みており、今後、新しい変異の同定と平行して、大腸菌での発現実験を進めていく。

 本研究の一部は痛風研究会の研究助成によった。
 1共同研究科、2コロニー総長

家系を用いたリンケージ分析による痛風の遺伝要因に関する研究―その基礎検討

竹内二士夫1、板倉光夫2、鎌谷直之3、藤森新4、細谷龍男5、山中寿3、山田裕一

 痛風には産生過剰型と排泄低下型があるが、いずれの発症にも遺伝因子の関与があると推定され、家系調査から少なくとも3~5個の遺伝要因の関与が考えられる。これまでに痛風では、プリン代謝を中心に汎く研究が進められ、いくつかの酵素異常症例が報告されている。しかし、これらの異常で疾患の遺伝背景を説明できるのは、ほんの1部の患者で、大部分の患者では不可能であり、いずれの型の発症にも複数の新たな疾患感受性遺伝子が存在する可能性が多いに考えられる。
 近年、種々の遺伝要因の研究にマイクロサテライト遺伝子を用いたリンケージ分析が応用され、多くの成果を上げている。本共同研究は痛風家系例を用いてマイクロサテライト遺伝子の多型を全染色体についてスクリーニングし、リンケージ分析を行って痛風の遺伝要因を解明することを目的としている。
 具体的には、1)痛風を発症している兄弟例を用いてDNAバンクをつくる。2)全染色体をカバーするマイクロサテライト遺伝子を用いて、多型パターンを兄弟間で比較し、sib pair法で疾患感受性遺伝子の近傍にあると思われる遺伝子を選びだす。3)遺伝子情報を利用して、痛風の原因となりそうな遺伝子を推定し、疾患感受性遺伝子としての重要性を、多型性やDNA sequencingを用いて検討する。4)遺伝要因の推定から、将来の治療、検査、診断法、あるいは予防法の改良、開発の可能性を考える。
 本研究には、5年以上の研究期間の必要性が考えられるが、本年度は共同研究の方針、方向性が検討され、1)兄弟発症の痛風家系の登録とデータベースの作成、2)痛風家系サンプル、正常対照群のDNA採取、3)マイクロサテライト多型のスクリーニングなどが、開始された。

 本研究の一部は痛風研究会の研究助成によった。
 1東京大・医、2徳島大・医、3東京女医大、4帝京大・医、5慈恵医大

致死性骨異形成症におけるFGFR3の遺伝子解析)

鬼頭浩史、Steven G.Brodie1、Ralph S.Lachman1、David L.Rimoin1、William R.Wilcox1

 致死性骨異形成症(thanatophoric dysplasia:TD)は最も頻度の高い致死性の四肢短縮型小人症で、1995年以来fibroblast growth factor receptor 3 (FGFR3) 上にいくつかの遺伝子変異が同定されている。それらの変異は細胞外領域にシステインを新たに新生するもの(R248C,S249C,G370C,S371C,Y373C)、終止コドン部での変異(J807G,J807R,J807C)によりC末端に141個のアミノ酸を産生するもの、およびチロシンキナーゼ領域での変異(K650E)である。我々は120例のTD症例に対し遺伝子解析を行い、3種類の新たな点突然変異を発見し、また、表現型と遺伝子変異との関連についても詳細に検討した。
 120例のTD症例よりゲノムDNAまたはmRNAを調整し、目的とする領域をPCR法にて増幅し、制限酵素法あるいはシークエンシング法を用いて解析した。また、X線学的には頭蓋骨早期癒合、扁平椎、大腿骨の弯曲の程度につき、組織学的には成長軟骨板における軟骨細胞のcolumnの形成程度、fibrous bandの侵入、および骨幹端部の骨の性状につき検討した。
 3種類の新しい変異(K650M,J807L,J807W)を含め、120例すべてにFGFR3の遺伝子変異を同定した(R248C:57例、S249C:9例、G370C:1例、Y373C:21例、K650E:23例、K650M:2例、stop codon:7例)。頻度の高いR248C、 Y373C、およびK650Eに関して表現型と遺伝子変異との関連を検討したところ、K650Eでは他の変異と比べ、明らかに異なった表現型を呈することが確認された。すなわちK650EではX線学的には、扁平椎、大腿骨の弯曲は他の変異より軽度ではあるが、頭蓋骨の変形は重度であり、組織学的には、columnの形成、骨の性状とも比較的保存されており、fibrous bandの侵入も軽度であった。したがって、TDは扁平椎、大腿骨の弯曲、成長軟骨板の破綻が著明なI型と、それらは比較的軽度であるが頭蓋骨の変形が重度な2型とに分類される。1型はさまざまな点突然変異で生じるのに対し、2型は単一の変異(K650E)によって引き起こされる。またK650EとK650Mでは、同じ部位での変異にも関わらず明らかに異なった表現型を呈するのは興味深い。

 1Cedars-Sinai Medical Center

Platyspondylic lethal skeletal dysplasia San DiegotypeにおけるFGFR3変異の同定

鬼頭浩史、Steven G.Brodie1、Ralph S.Lachman1、David L.Rimoin1、William R.Wilcox1

 3種類のPlatyspondylic lethal skeletal dysplasias(PLSD)はThanatophoric dysplasia(TD)とは異なったX線学的、組織学的な所見によりTD variantsとして分類されてきた。両者の間の最も著明な差は、PLSDでは軟骨細胞の粗面小胞体(rER)が拡張している(inclusionbodies)のに対し、TDではそれが認められないことである。我々はPLSDに対し、FGFR3の遺伝子解析を試みた。
 PLSD-San Diego(PLSD-SD)16例、PLSD-Torrance4例、PLSD-Luton1例に対し、PCR法、制限酵素法、およびシークエンシング法にてFGFR3の遺伝子解析を行ったところ、PLSD-SD全例でTD type 1と同様のミスセンス変異を認めた(R248C:7例、S249C:2例、Y373C:6例、J807R:1例)。TorrenceおよびLutonでは変異は認められなかった。PLSD-SD14例、およびTD57例に対し、電子顕微鏡を用いてinclusion body(IB)の有無を観察したところ、PLSD-SDでは全例にIBを認めたのに対し、TDでは3例(5.3%)に認めただけであった。次いで特異抗体を用いて、免疫組織学的にFGFR3がrERにとどまっていることを証明した。X線学的、組織学的にPLSD-SD、TD:IB(+)、およびTD:IB(-)とを比較したところ、PLSD-SDでは長管骨のmetaphyseal cuppingがより著明で、成長軟骨板は比較的保存されていた。TD:IB(+)とTD:IB(-)では差はなかった。
 折りたたみ、あるいは重合に問題のあるタンパクはr-ERから輸送されずに、rER内にとどまることがある(IB)。軟骨細胞内にIBを認める軟骨形成不全症は、2型コラーゲン症(SED,achondrogenesis,hypochondrogenesis,Kniest dysplasiaなど)やCOMP(cartilage oligomericmatrix protein)症(pseudoachondroplasia)などが知られているが、いずれも病因となるタンパクは細胞外基質タンパクである。FGFR3は膜タンパクであり、膜タンパクが軟骨細胞内のrERに貯留される現象は、軟骨形成不全症では初めての発見である。また、同じ遺伝子変異にもかかわらず、あるものはIBを有し、他のものは持たないということも新しい知見である。

 1Cedars-Sinai Medical Center

非定型的軟骨無形成症における新奇のFGFR3変異の同定

鬼頭浩史、伊藤弘紀、William R.Wilcox2、谷口寛子3、山田裕一

 軟骨無形成症は最も頻度の高い四肢短縮型小人症で、FGFR3の膜貫通領域における3種類の点突然変異(G380R(1138 G→A,1138 G→C),G375C (1125G→T))が報告されているが、その95%以上は同一の単塩基置換(1138 G→A)である。我々は非定型的軟骨無形成症において、細胞外領域に新たな点突然変異を同定した。
 末梢血リンパ球よりゲノムDNAを調整し、PCR法とシー"クエンス法を用いてFGFR3のエクソン7,9,10,15,19の遺伝子解析を行ったところ、エクソン7においてヘテロの変異872 A→G,Y278Cを認めた。次いで、制限酵素BsrG Iにてダイジェストしたところ、PCR産物の約半量においてこの部位の消失を認めた。両親に対してもエクソン7の遺伝子解析を行ったが、同様の変異を認めなかったので、遺伝子多型の可能性は否定された。この症例は四肢短縮型小人症を呈するものの、軟骨無形成症に特異な頭蓋、顔面の変化はなく、また胸腰椎移行部の後弯変形も定型的な軟骨無形成症より重度であった。
 FGFR3の細胞外領域に新たにシステインを新生する変異は致死性骨異形成症において認められ(R248C,S249C,G371C,S371C,Y373C)、変異受容体間における disulfide bonded dimer形成による持続的な活性化状態が生じるといわれている。今回我々が変異を同定した症例は、致死性骨異形成症とは明らかに異なっており、顔貌および脊椎の変化を除けば軟骨無形成症に類似していた。
 今後、International Skeletal Dysplasia Registryおよび国内諸機関の協力を得て、胸腰椎移行部に同様の後弯変形を認める軟骨無形成症を検索し、この変異の有無を調べる予定である。

 1中央病院、2Cedars-Sinai Medical Center、3共同研究科

ヒト細胞外スーパーオキサイドディスムターゼ(EC-SOD)の遺伝子変異の血液透析患者での予後に及ぼす影響

山田晴生1、山田裕一、足立哲夫2、佐久間正人1、深津敦司1、普天間新生1、各務伸一1

 酸素は好気生物の最終電子受容体として重要であるが、酸素が1電子還元されて生じるスーパーオキサイドラジカルは生体にさまざまな影響を及ぼしている。これらの防御系の1つとして細胞はスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)を持っている。SODの細胞外アイソザイムであるEC-SODは、血管内では内皮細胞表面のヘパラン硫酸に結合し、活性化された好中球より由来する活性酸素種より血管壁を防御している。我々は以前に、このEC-SODの血清濃度が平均値の10~20倍の高値を取る集団が存在することを確認し、これがEC-SODのC末端近傍のヘパリン結合部位での変異760C→GによるArgからGlyへのアミノ酸置換に起因することを明らかにした。そこで、透析患者でその変異頻度が高いことに注目し、透析患者の臨床的背景と変異頻度との関連について分析を行った。
 血液透析患者804名について、透析歴と変異頻度との関連を糖尿病の有無に分けて検討した。平均透析期間は非糖尿病患者では8.5年であるのに対し、糖尿病患者では4.2年と短く、血液透析における糖尿病患者の予後の不良が明らかである。変異頻度と透析歴の関連では、非糖尿病群では透析歴が10年を超えた患者で変異頻度の低下を認め、糖尿病患者では3年を越えた患者で変異頻度の低下を認めた。このことは、EC-SODの変異が患者の血液透析の予後に影響を及ぼし、透析の長期化に伴い、変異のない症例が選択された結果、透析歴の長い患者で変異頻度の低下が観察されたと想像される。また、423名について5年間観察し、変異の有無による死亡率への影響を検討した結果、糖尿病群で変異を有する症例の死亡率が、変異の無い症例に比べ有意に高いことが判明した。非糖尿病群では有意差を認めず、糖尿病を合併する透析患者は予後が不良なため死亡率の増加が5年間の観察で確認できたものの、非糖尿病群ではさらに長期の観察が必要と考える。

 1愛知医大、2岐阜薬大

ヒトMn-スーパーオキサイドディスムターゼ(Mn-SOD)のシグナルペプチド多型の血液透析患者の病態に及ぼす影響

山田晴生1、三浦直人1、深津敦司1、普天間新生1、各務伸一1、山田裕一

 酸素はミトコンドリアにおける最終電子受容体として重要であり、ミトコンドリアでは活発な酸素消費に伴い、スーパーオキサイドラジカルが亘常的に産生されている。これに対する消去酵素として、ミトコンドリアに特異的に存在するMn-スーパーオキサイドディスムターゼ(Mn-SOD)が存在し、細胞を酸素ストレスより防御している。Mn-SODは細胞核のDNAより合成された後、その標的アミノ酸配列の認識よりミトコンドリアに移行する。Mn-SODでは、そのミトコンドリアへの移行に重要な役割を果たす標的配列の47番目の塩基においてCとTの多型が認められ、9番目のアミノ酸がアラニン型とバリン型の2種類が存在する。このバリン型のMn-SODはアラニン型に比べてミトコンドリアへの移行が容易であることが示唆されており、従来、このバリン型の遺伝子対の頻度は87.9%であり、アラニン型の遺伝子対の頻度は12.1%であると報告されている。
 血液透析患者では、腎不全とそれに対する透析療法による影響で、体内が酸化的状態にあると考えられている。これに対し、細胞内ではSODの産生量が増大し、細胞を酸化的ストレスから防御している。また、Mn-SODは実験腎炎、培養細胞への酸素負荷で細胞の酸素ストレスの増大に伴いその発現が増加する。このことから、Mn-SODの発現はその部位での酸素ラジカルへの防御効果を果たすとともに、局所の酸素ストレスの指標ともなっている。
 われわれは、透析患者でのMn-SODのミトコンドリアへの移行に関するシグナルペプチドの標的配列を解析することが、細胞の酸素ストレスに対する防御能の指標の一つとして考え、透析患者での遺伝子多型を検索した。その結果、透析患者全体でのアラニン型の遺伝子対の頻度は13.5%で、対照群とは有意な変化はなかった。現在、この遺伝子多型の頻度と臨床上の合併症の関連を検討中である。

 1愛知医大

研究業績

著書・総説

著者 総説
孫田信一 染色体異常の発生機構.常染色体の数の異常、常染色体の構造異常.南江堂(東京),pp.5-11,16,1997.
山田裕一,後藤治子,小笠原信明 ヒト赤血球型AMPデアミナーゼ-その生理的意義と欠損の遺伝子解析-.プリン・ピリミジン代謝 21:156-159,1997.
山田晴生1,北野 充1,深津敦司1,普天間新生1,各務伸一1,山田裕一,足立哲夫2,平野和行21愛知医大,2岐阜薬大) 血清Extracellular superoxide dismutase(EC-SOD)値の遺伝的背景と慢性腎不全患者での頻度.腎とフリーラジカル(第3集),加藤克己,長瀬光昌(監修),東京医学社(東京),pp.138-141,1997.
足立哲夫1,平野和行1,山田晴生2,普天間新生2,各務伸一2,山田裕一(1岐阜薬大,2愛知医大) Extracellular superoxide dismutase 遺伝子の変異とそれに起因するヘパリン親和性の変化.腎とフリーラジカル(第3集),加藤克己,長瀬光昌(監修),東京医学社(東京),pp.142-145,1997
鬼頭浩史,野上宏11中央病院) 骨系統疾患のFGFR(fibroblast growth factor receptor)の変異.小児内科 30:398-402,1998.

原著論文

原著者 総説
Fujimoto, K.1, Oda, S.1, Koyasu, K.2, Harada, M.3, Sonta, S.(1Nagoya Univ., 2Aichi-Gakuin Univ., 3Osaka City Univ.) Comparative analysis of thekaryotypes of the greater long-tailed hamster and the Chinese hamster.Cytologia 62: 315-321,1997.
Ono, T., Kawabe, T.1, Sonta, S., Okamoto, T.11Nagoya City Univ.) Assignment of MARK3 alias KP78 gene to human chromosome band 14q32.3 by in situ hybridization. Cytogenet. Cell Genet. 79: 101-102, 1997.
Yang, J.-P.1, Ono, T., Sonta, S., Kawabe, T.1,Okamoto, T.11Nagoya City Univ.) Assignment of p53 binding protein (TP53BP2) to human chromosome band 1q42.1 by in situ hybridization. Cytogenet. Cell Genet. 78: 61-62, 1997.
Ono, T., Yoshida, M.C.11Hokkaido Univ.) Differences in the chromosomal distribution of telomeric(TTAGGG)n sequences in two species of the vespertilionid bats. Chrom. Res. 5: 203-212, 1997.
Yamada, H.1, Yamada, Y., Adachi, T.2,Goto, H.,Ogasawara, N., Futenma, A.1, Kitano, M.1, Miyai, H.1, Fukatsu, A.1, Hirano, K.2, Kakumu, S.11Aichi Med. Univ., 2Gifu Pharmc. Univ.) DNA polymorphism on extracellular superoxide dismutase (EC-SOD)gene: in relation to the mutation responsible for high EC-SOD level in serum.Jpn. J. Hum. Genet. 42: 353-356, 1997.
Kim, K. J.1, Yamada, Y., Suzumori, K.2, Choi, Y.1, Yang, S. W.1, Cheong, H.I.1, Hwang, Y. S.1, Goto, H., Ogasawara, N(1Seoul Natl. Univ.,2Nagoya City Univ.) Molecular analysis of hypoxanthine guanine phosphoribosyltransferase(HPRT) gene in five Korean families with Lesch‐Nyhan syndrome. J. Korean Med. Sci. 12:332-339, 1997.
丸田恭子1,大井長和2,山田裕一,後藤治子,小笠原信明,松倉茂21日南病院,2宮崎医大) 本邦で新たなHPRT遺伝子の一塩基置換を同定したLesch‐Nyhan症候群の1家系. 脳と神経 49: 1009-1013,1997.
Kitoh, H., Nogami, H.1, Hattori, T.11Central Hosp.) Congenital anterolateral bowing of the tibia with ipsilateral polydactyly of the great toe. Am. J.Med. Genet. 73: 404-407, 1997.
Fujimoto, M.1, Kantaputra, P. N.2, Ikegawa, S.3, Fukushima, Y.4, Sonta, S., Matuo, M.5,Ishida,T.3, Matsumoto, T.1, Kondo,S.1, Tomita, H.1, Deng, H.-X.5, D'urso, M.5, Renardi, M.M.5, Ventruto, V.5,Takagi, T.3, Nakamura, Y.3, Niikawa, N.11Nagasaki Univ., 2Chang Mai Univ., Thailand, 3Tokyo Univ., 4Shinshu Univ., 5Other Univ. or Inst.) The gene for mesomelic dysplasia Kantaputra type is mapped to chromosome 2q24-q32. J. Hum. Genet. 43: 32-36, 1998.
Sumiyama, K.1, Washio-Watanabe, K.1, Ono, T.,Yoshida, M.C.2, Hayakawa, T.1, Ueda, S.11Tokyo Univ., 2Hokkaido Univ.) Human class 3 POU genes, POU3F1 and POU3F3, map to chromo some 1p34.1 and 3p14.2. Mammalian Genome 9:180-181, 1998.

その他の印刷物

著者 総説
孫田信一 胚発生におけるゲノム不均衡と不活性化の影響に関する検討. 平成8年度厚生省小児医療研究委託費研究報告集,p. 93, 1997.
孫田信一 脳形成異常に関与する染色体異常の発生機構と分離に関する研究. 平成8年度厚生省精神・神経疾患研究委託費による研究報告集,p. 500, 1997.
孫田信一 各種染色体異常の生成機構. 臨床細胞遺伝学セミナーテキスト(臨床細胞遺伝学セミナー実行委員会編)善光堂, pp. 11-17, 1997.
小野教夫 ポジショナルクローニング (positional cloning). 生化学 69: 1209, 1997.
山田晴生1,深津敦司1,普天間新生1,足立哲夫2,山田裕一(1愛知医大,2岐阜薬大) 血清および線維芽細胞産生extracellular superoxide dismutaseのヘパリン親和性.J. Gastroinstestinal Res. 5: 622, 1997.
山田裕一,後藤治子,小笠原信明,Choi, Y.1, Kim, K. J.1, Koo, J.W.1, Ha, I.S.11ソウル国立大) 韓国人のLesch-Nyhan症候群5家系におけるHPRT遺伝子変異. 痛風研究会平成8年度研究助成に対する概要報告書(12), pp. 16-17, 1998.

学会発表

発表者 内容
丸田恭子1,大井長和2,松倉茂2,山田裕一,後藤治子,小笠原信明(1日南病院,2宮崎医大) 本邦で新たなHPRT遺伝子の一塩基置換(G70E)を同定したLesch‐Nyhan症候群の1例.日本神経学会(横浜)1997.5.15.
山田晴生1,三浦直人1,青木隆成1,中山香織1,田中芳徳1,楊朝隆1,佐久間正人1,原努1,宮井宏暢1,深津敦司1,普天間新生1,山田裕一,足立哲夫21愛知医大、2岐阜薬大) 血清および繊維芽細胞産生Extracellular-Superoxide Dismutaseのヘパリン親和性.消化管とフリーラジカル研究会(京都)1997.5.24.
山中 勗1,早川知恵美1,新見教弘1,長屋昌宏1,北山巌生1,長浜真人,孫田信一,片平智行2,鈴置洋三21中央病院,2国立名古屋病院) 多発奇形を持ち新生児期に死亡した不均衡型転座例での診断と遺伝相談における問題.日本臨床遺伝学会(奈良)1997.5.29.
成瀬一郎1,石切山敏2,慶野裕美,山田裕一(1京都大,2千葉県こども病院) 遺伝性多指症/無嗅脳症マウス(Pdn/Pdn)とヒトGreig cephalopolysyndactyly syndromeは相同疾患.日本発生生物学会(つくば)1997.5.29.
Yamada, Y., Goto, H., Suzumori, K.1, Ogasawara, N. (1Nagoya City Univ.) Prenatal diagnosis of HPRT mutant genes in Lesch-Nyhan syndrome.IXth International  Symposium on Purine and Pyrimidine Metabolism in Man (Gmunden, Austria)1997.6.2.
Yamada, Y., Makarewicz, W.1, Goto, H., Kitoh, H., Ogasawara, N.(1Univ.Gdansk,Poland) Genemutations responsible for human erythrocyte AMP deaminase deficiency in Poles. IXth International Symposium on Purine and Pyrimidine Metabolism in Man (Gmunden,Austria)1997.6.3.
藤本正博1,近藤新二1,富田博秋1,新川詔夫1,松本正1,福島義光2,涌井敬子2,孫田信一,松尾雅文3,石田貴文4,池川志郎4,中村祐輔4,Kantaputra,P.N.51長崎大,2信州大,3神戸大,4東京大,5Chang Mai Univ.,Thailand) Piranit 型 mesomelic dysplasia 大家系における連鎖解析. Medical Genetics研究会(東京)1997.7.5.
孫田信一,野村紀子 X-A相互転座を有するチャイニーズハムスターにおける成熟分裂分離. 日本先天異常学会(京都)1997.7.14.
成瀬一郎1,石切山敏2,慶野裕美,山田裕一(1京都大,2千葉県こども病院) 遺伝性多指症/無嗅脳症(Pdn/Pdn)はヒトGPCS(Greig cephalopolysyndactyly syndrome)の相同疾患マウス.日本先天異常学会(京都)1997.7.14.
山田晴生1,三浦直人1,青木隆成1,中山香織1,田中芳徳1,楊朝隆1,佐久間正人1,原努1,宮井宏暢1,深津敦司1,普天間新生1,足立哲夫2,平野和行2,山田裕一(1愛知医大,2岐阜薬大) 透析患者の血清Extracellular-Superoxide Dismutaseの遺伝子変異.日本透析医学会学術集会(札幌)1997.7.18.
武藤宣博,中川千玲,山田憲一郎 Schizosaccharomyces pombeのカタラーゼ欠損変異株の性質. 酵母遺伝学フォーラム研究会(千葉)1997.7.31.
Kitoh, H., Lachman, R. S.1, Rimoin, D. R.1, Wilcox, W. R.11Cedars-Sinai Medical Center) Platyspondylic lethal skeletal dysplasia with secondary pelvic ossification centers : A subtype of the San Diego variant or a distinct entity ? The 3rd Internatinal Skeletal Dysplasia Meeting(Los Angeles,U.S.A.)1997.8.7.
Yasuda, Y.1,Tokita, Y., Aono,S., Ono, T., Sonta, S., Nakanishi, Y.1, Watanabe, E.2, Oohira,A.(1Osaka Univ., 2Natl.Inst. Basic Biol.) Molecular biological and immunohistochemical studies of NGC(Neuroglycan C), a novel brain-specific proteoglycan. XIVth International Symposium on Glycoconjugates(Zurich,Switzerland),1997.9.7.
山田晴生1,三浦直人1,青木隆成1,中山香織1,田中芳徳1,楊朝隆1,佐久間正人1,原努1,宮井宏暢1,深津敦司1,普天間新生1,足立哲夫2,山田裕一(1愛知医大,2岐阜薬大) 血液透析患者血清Extracellular-Superoxide Dismutase値とそのヘパリン親和性の多様性.腎とフリーラジカル研究会(福井)1997.9.13.
孫田信一,川本隆之 チャイニーズハムスターの相互転座へテロ接合体における分離、乗換えおよび染色体間効果に関する検討.染色体学会(札幌)1997.9.21.
小野教夫,孫田信一 コスミドベクターを用いたチャイニーズハムスターゲノムライブラリーと染色体地図作成.染色体学会(札幌)1997.9.21.
川本隆之,小野教夫,孫田信一 マーカー染色体を過剰に有するチャイニーズハムスターの妊性と減数分裂における分離. 染色体学会(札幌)1997.9.21.
藤本和則1,織田銑一2,小野教夫,孫田信一(1三共,2名古屋大) Cricetulus属2種の核型比較.染色体学会(札幌)1997.9.21.
安田陽子1,時田義人,青野幸子,松井ふみ子,小野教夫,孫田信一,渡辺英治2,中西康夫1,大平敦彦(1大阪大,2基生研) ヒトニューログリカンC(NGC)の遺伝子クローニングと染色体座位の決定.日本生化学会(金沢)1997.9.24.
中川千玲,山田憲一郎,武藤宣博 Schizosaccharomyces pombeのカタラーゼ遺伝子プロモーター領域の解析.日本生化学会(金沢)1997.9.24.
武藤宣博,中川千玲,山田憲一郎 Schizosaccharomyces pombeの過酸化水素耐性におけるカタラーゼの役割.日本生化学会(金沢)1997.9.24.
山田裕一,Makarewicz,W.1,後藤治子,野村紀子,鬼頭浩史,小笠原信明(1グダニスク医大) ヒト赤血球型AMP deaminase欠損の遺伝子変異-日本人変異とポーランド人変異の差異-.日本生化学会(金沢)1997.9.24.
藤本正博1,近藤新二1,富田博秋1,新川詔夫1,松本正1,池川志郎2,中村祐輔2,高木利久2,石田貴文2,福島義光3,松尾雅文4,孫田信一,Kantaputra,P.N.51長崎大,2東京大,3信州大,4神戸大,5Chiang Mai Univ.,Thailand) Linkage analysis of mesomelic dysplasia,Kantaputra type.日本人類遺伝学会(神戸)1998.10.15.
山田裕一,Makarewicz,W.1,後藤治子,野村治子,鬼頭浩史,小笠原信明(1グダニスク医大) ポーランド人における赤血球型AMP deaminase欠損の遺伝子変異.日本人類遺伝学会(神戸)1997.10.15.
孫田信一,野村紀子,川本隆行 相互転座の分離:正常と均衡転座は必ずしも1:1ではない. 日本人類遺伝学会(神戸)1997.10.16.
片平智行1,都築知代1,内田雄治1,柴田金光1,三輪是1,戸谷良造1,鈴置洋三1,孫田信一(1国立名古屋病院) 検出しにくい均衡型相互転座を有する症例の出生前診断.国立病院療養所総合医学会(高松)1997.11.14.
Naruse, I.1, Ishikiriyama, S.2, Keino, H., Yamada, Y.(1Kyoto Univ.,2Chiba Children's Hosp.) Pdn/Pdn (genetic polydactyly/arhinencephaly mouse)is a homolog of Greig cephalopoly-syndactyly syndrome.International Federation of Teratology Society (IFTS) (Sydney,Australia)1997.11.18."
山田晴生1,三浦直人1,佐久間正人1,原努1,田中芳徳1,楊朝隆1,中山香織1,宮井宏暢1,深津敦司1,普天間新生1,各務伸一1,足立哲夫2,山田裕一(1愛知医大,2岐阜薬大) 腎不全でのヒト血清Extracellular-Superoxide Dismutaseの増加とそのヘパリン結合性の変化.日本炎症学会(東京)1997.11.20.
山田晴生1,普天間新生1,各務伸一1,足立哲夫2,山田裕一(1愛知医大,2岐阜薬大) Extracellular-Superoxide Dismutase(EC-SOD)の変異とその生化学的特性.消化器とフリーラジカル研究会(京都)1998.2.21.
山田裕一,谷口寛子,渡辺宏雄1,許斐博史2,小笠原信明(1豊橋東病院,2重症心身障害者施設・中川の郷) Lesch-Nyhan症候群(LNS)におけるHPRT遺伝子診断.日本プリン・ピリミジン代謝学会(徳島)1998.2.27.
Nakagawa, C. W., Yamada, K., Mutoh, N. Two distinct upstream regions are involved in expression of the catalase gene in Schizosacharomyces pombe in response to oxidative stress. International Conference on Dynamics and Regulation of the Stress Response (Kyoto) 1998.3.11.

講演など

講演者 内容
Yamada, Y. Molecular basis of human erythrocyte AMP deaminase deficiency.Seminar at Inst.Med.Chem.&Biochem.,Fac.Med,Univ.Innsbruck(Innsbruck,Austria)1997.6.9.
孫田信一 各種染色体異常の生成機構.第4回臨床細胞遺伝学セミナー(千葉)1997.8.23.
孫田信一 脳形成異常に関与する染色体領域解析および遺伝子マッピング.平成9年度厚生省精神・神経疾患研究委託費「脳形成異常の発生機序に関する臨床的・基礎的研究」班会議(東京)1997.12.3.
孫田信一 チャイニーズハムスター・ゲノムライブラリーによるFISHと分離解析への応用.日本環境変異原学会FISH懇話会(秦野)1997.12.5.
孫田信一 胚発生におけるゲノム不均衡と不活性化の影響に関する検討. 平成9年度厚生省小児医療研究委託費「成育医療からみた発生分化の基盤的研究」班会議(東京)1997.12.6.

その他の研究活動

学術集会企画

企画者 内容
孫田信一,鈴森 薫(名古屋市大) 第1回遺伝性疾患の生殖・遺伝学研究会(名古屋)1998.3.14.

海外活動

活動者 内容
山田裕一 第9回国際プリン・ピリミジン代謝シンポジウムに出席、研究発表、ならびにインスブルック大学にて講演(オーストリア)1997.5.31.~6.12.
鬼頭浩史 Cedars-Sinai Medical Centerにて、線維芽細胞成長因子受容体3(FGFR3)遺伝子に関する共同研究(アメリカ合衆国)1997.3.1.~1998.2.28.

教育活動

活動者 内容
孫田信一 分子生物学(名古屋市立大学医学部),大学院特別講義(分子遺伝学)1997.4.1.~1998.3.31.
孫田信一 人間の性と生殖(国立名古屋病院附属看護助産学校)1997.4.1.~1998.3.31.
孫田信一 病理学(愛知医科大学)1997.9.1.~1998.3.31.

2.発生学部

研究の概況

鈴木信太郎

 9年度は当部門の新体制発足2年目となり、新しく平野研究員が南カリフォルニヤ大学より着任し、研究室の整備もかなり進んだ。基本的な研究環境が整ってきて、少しずつではあるがよりよい方向へ進みだした年と位置付けることができよう。今後は研究をより活性化し、業績のよりいっそうの向上に努めることが大きな課題といえる。
 第一研究室の竹内は前年度に続き、groggyラットを用いて、抗リン酸化タウ抗体および抗ユビキチン抗体に陽性の小粒状構造の生後発達における増減を解析した。その結果、リン酸化タウの分解にはリソゾーム系とユビキチン-プロテアソーム両系が関与しており、groggyラットではこれらの分解過程の異常によりGallyas-Braak染色に染まる顆粒の増加が見られることが示唆された。
 第二研究室の米澤らは3種のプロジェクトを進めた。第一は内耳機能異常マウスの原因遺伝子busの染色体マッピングを行い、この遺伝子が第10染色体のマーカーD10Mit59とD10Mit48の間にあることを明らかにした。最近似た表現形を示すAlbany waltzerがwalzerの対立遺伝子としてbys遺伝子と似通った位置にマップされ、busがwalzerの対立遺伝子である可能性が明らかとなった。第二のプロジェクトとしてミオシンXの構造の決定を行い、翻訳領域のほぼ全域の構造を明らかにした。また、この分子のmRNAの大きさは約8.7kbで、広い範囲で発現していることが判明した。第三のプロジェクトとしてカテプシンEのマウスジェノミッククローンを得、そのexon-intron構造を明らかにした。その結果、マウスの遺伝子構造は基本的にヒトの遺伝子構造と同じであることが判明した。今後ノックアウトマウスの作製を検討中である。
また第二研究室の松田はラット胚の培養系を用いて、リチウムによる眼形成不全の作用機構の検討を行った。リチウムで阻害されるイノシトールホスファターゼの阻害剤であるL-690,330は眼形成不全を起こさなかった。これに対し、リチウムはグリコーゲンシンターゼキナーゼ3βを阻害し、この分子の関与するウィントシグナル伝達系一員であるβ-カテニンもリチウムにより正常胚とは異なる挙動を示すことから、リチウムの作用はウィントシグナル伝達系を介して起こっていることが示唆された。
 部長研究グループの平野は新しくプロトカドヘリン、PC-Q PC-Xをクローニングし、その性質を検討した。これらのプロトカドヘリンは他のプロトカドヘリンとよく似た構造を示し、その接着活性も似通った性質を示した。PC-Xは発現が弱かったが、成体で最も強い発現が見られた。これに対し、PC-Qの発現は胚発生期から見られ、嗅覚に関連した神経核や扁桃体、視床、小脳などに発現が見られた。これらの結果はPC-Qが嗅覚などの機能的に関連した神経系の形成や維持に関与していることを示唆している。
 一方、青木は今後のプロトカドヘリン研究に不可欠である各種抗体の作製をめざして、カドヘリン-11に対する抗体を作製することにより、モノクローナル抗体の作製法を習得し、現在はプロトカドヘリン-2に対する特異抗体作りを行っている。
 また、鈴木はカドヘリンと相互作用をしている新しい蛋白質の同定を行う中で、E-カドヘリンが細胞-基質間の接着を増強することを抗体や、各種阻害剤を用いた実験により明らかにした。この作用機序には不明の点が多いが、アクチンファイバーの関与していることが示唆されている。これらの結果は組織構築過程における細胞-細胞間接着と細胞-基質間接着の共同作用という面から非常に重要な示唆を与えるものがある。

 本年度は文部省科学研究費基盤研究C3件(松田、米澤、鈴木)の援助を得た。

Slc:Wistarラットとgroggyラットの顔面神経核神経細胞における抗リン酸化タウ抗体と抗ユビキチン抗体に陽性の小粒状構造の生後発達における増減

竹内郁夫

 2年以上生存したgroggy突然変異ラットの一部の神経細胞では、リン酸化タウが代謝される過程でGallyas-Braak染色に反応するようなmodificationが起きていることが示唆されている。今回は、生後発達過程におけるリン酸化タウの量的変動に両群のラットで差があるかどうかを免疫電顕法で調べた。生後20、30、60、90、180、360日の両群のラットを各日齢で4匹ずつ灌流固定して脳の横断vibratome切片を作製した。Groggyラットで嗜銀性神経細胞が多数みられる顔面神経核を含む切片を選び、ヒトPHF-tau,clone AT8抗体で免疫染色を行った。AT8陽性リン酸化タウは細胞質では微細な小粒状構造として観察されるので、電顕観察下で200μm2以上の細胞質面積を有する神経細胞についてこの小粒を数え、その後、神経細胞の電顕写真を撮影してその細胞質面積を算出し、単位面積当たりの小粒数を求めた。AT8陽性の小粒は20日齢の両群のラットではほとんどみられなかったが、30日齢では細胞質と核に多数分布した。その数はSlc:Wistarラットの方がgroggyラットより有意に多かった。限界膜に囲まれた小顆粒の一部にもその内部にAT8陽性反応が見られた。60~90日齢のSlc:WistarラットではAT8陽性小粒は激減したが、groggyラットではSlc:Wistarラットより有意に多い数が残っていた。Slc:Wistarラットでは180日齢から再び小粒の数が増加し、groggyラットととの有意差はなくなった。酸性フォスファターゼの酵素細胞化学を行った結果、限界膜で囲まれた小顆粒はリソゾームと判明した。また、ユビキチンの免疫細胞化学を行ったところ、AT8の場合と酷似した結果が得られた。すなわち、ユビキチン陽性反応は微細な小粒状構造として細胞質と核にみられ、AT8陽性小粒の多い神経細胞ではユビキチン陽性小粒も多 く、その逆も同様であった。これらの結果から、リン酸化タウの分解にはリソゾーム系とユビキチン-プロテアソーム系の双方が関与していることと、groggyラットではこの分解過程に異常があることが示唆された。

行動異常・内耳機能障害マウス(BUS/ldr)の原因遺伝子の染色体マッピング

吉木 淳1、花井敦子2、米澤 敏、日下部守昭1

 遺伝性多動マウス(BUS/Idr)は当研究所で見い出され確立・維持されている行動異常・内耳機能障害ミュータントである。我々はこの原因遺伝子の特定を目指し、遺伝子busのリンケージ解析をすすめてきた。これまでの調査から、bus遺伝子が第10染色体マーカーD10Mit59とD10Mit149との間に位置していると考えられていた(平成8年度年報)が、さらに実験サンプル数を増やし、また、全個体の内耳組織を検索することによりspottingタイプの行動異常個体のデータを排除して詳細なリンケージ解析を行なった。その結果、遺伝子busは第10染色体上のMITマーカーと次のような位置関係で存在することが明らかとなった:D10Mit110 -- 0.1cM -- D10Mit127,D10Mit59 -- 1.09+/-0.62cM -- bus -- 0.72+/-0.51cM -- D10Mit48,D10Mit112,D10Mit258 -- 0.3cM -- D10Mit149 -- 0.3cM -- D10Mit111.
 近年、聴覚障害マウスAlbany waltzerの原因遺伝子(υAlb)が、古くから知られている聴覚障害waltzerマウスの原因遺伝子(υ)の対立遺伝子(allele)として第10染色体上にマップされた(1997年)。υAlb遺伝子の染色体上の位置は、D10Mit60 -- 1.1+/-0.2 cM -- υAlb -- 0.2+/-0.2cM -- D10Mit172,D10Mit112,D10Mit48, D10Mit196 -- 0.6+/-0.3 cM -- D10Mit149であると報告されており、D10Mit60は我々が用いたD10Mit127,D10Mit59と同じリンケージグループに属するマーカーであることから、busがυ、υAlbとalleleの関係にある可能性が極めて高い。この点をアレーリズムテストにより確かめるため、waltzerマウス、Albany waltzerマウスの入手を手配中である。また、マウスのこの領域と相同関係にあるヒト第10染色体q21-22領域には遺伝性非症候群性聴覚障害遺伝子の一つ(DFNB12)がマップされており、今後、BUSマウスがヒト聴覚障害DFNB12のマウスモデルとなり得る可能性も指摘される。

 1理化学研究所、2共同研究科

マウスミオシンXの構造

米澤 敏、花井敦子1、森山昭彦2

 ミオシンは生物界に広く分布する生物分子モーターであり、現在、構造の上から14のクラス(I-XIV)に分類されており、哺乳類ではそのうちの7つのクラス(1,2,5,6,7,9,10)に属するミオシン分子種が発現している。ミオシンは構造上、ATP結合ドメイン、アクチン結合ドメインを含む頭部、ミオシン軽鎖、カルモジュリンとの結合モチーフをもつ頚部、そしてクラス特異的な構造を示す尾部に分けられる。我々はdegenerate primersを用いたRT-PCR、TAクローニング法を適用して、BALB/cマウス内耳膜迷路組織中にミオシンX様の分子の発現を捉え、この分子のcDNA構造を解析するとともに、その機能の解析・遺伝病との関連の解明を目指している。
 degenerate primersを用いて得られたX様のPCR産物のデータと、1997年にジーンバンクに登録されたウシミオシンXの構造のデータをもとに、RT-PCRとTAクローニング、さらに、BALB/c精巣cDNAライブラリーのスクリーニング、クローン解析を通して、当初得られたミオシンX様のPCR産物がミオシンXに他ならないことを確認するとともに、マウスミオシンXcDNA約6kb(翻訳領域のほぼ全域)の構造をこれまでに明らかにした。これまでのデータから、マウスXはウシXとアミノ酸レベルで88%のホモロジーを示し、特に尾部に両者間でホモロジーの高い領域と低い領域が存在することがわかった。ノーザン解析により、精巣、腎臓組織中に8.7kbの転写産物の存在が確認され、また、頭部、尾部に特異的なプライマーを設定してRT-PCRで組織分布を調べたところ、調査したどの組織にもミオシンXの発現が確認された。このことから、ミオシンXはどの細胞種にも共通する、細胞の生存にとって必須な機能を営んでいる可能性が考えられ、その機能解析のために抗体の作製をすすめている。すでに頭部のPCR産物についてのデータをもとにペプチド抗体の作製を試みたが不調に終ったため、現在、尾部の構造をもとに 抗体作製を試みている。

 1共同研究科、2名古屋市大・自然科学研究セ

マウスの細胞内酸性プロテアーゼカテプシンEの遺伝子構造

米澤 敏、花井敦子1、木村礼子、景山 節2

 カテプシンEは、ペプシノーゲン、レニン、カテプシンDなどとともにアスパルティックプロテアーゼに属する酵素である。この酵素は細胞内のERに局在しており、カテプシンDと同様非分泌性である。この酵素の生理機能に関してはこれまで多くの仮説が提出されているが、それらを裏付ける決定的なデータはない。我々は遺伝子ターゲティングを含む実験系を用いてカテプシンEの生物学的役割を断定的に論じたいと考え、その第一段階としてマウスカテプシンE遺伝子のクローニングを行なった。
 ウサギカテプシンE cDNAをプローブとしてStratagene社の129/SvjマウスλFix2ゲノミックライブラリーをスクリーニング(3x105ファージ)して3個の陽性クローンを得た。そのうちの最長のインサートを含むクローン(λMSCEY3,17kb)について制限酵素地図を作製し、exon部分およびexon-intron連接部について構造を決定した。その結果、λMSCEY3クローンはマウスカテプシンE遺伝子の9個のexon全てに加えて2.8kbの5′側非翻訳領域、0.5kbの3′側非翻訳領域を含んでいた。マウスカテプシンEのcDNAレベルでのホモロジーは、ラットと93%、ウサギと86%,モルモットと85%,ヒトと83%であった。また、マウスの遺伝子構造(exon-intronprganization)はすでに報告されているヒトのカテプシンE遺伝子の構造と極めてよく似ていたが、マウスのexon1はヒトより3bp長く、マウスの酵素のシグナル配列においてロイシンが1残基多いことが示された。5′側非翻訳領域0.6kb内にはマウスとヒトでよく保存された領域が存在し、この領域にはGATA転写因子、MZF-1転写因子の結合モチーフが識別された。

 1共同研究科、2京都大霊長研

ラットの眼胞形成はL-690,330で阻害されない

松田素子、木村礼子

 リチウムにより、ゼノパス、ゼブラフィッシュ、ラットで眼の形成不全が誘導される。眼の形態形成には、リチウムで阻害される機構が関わっていると考えられる。リチウムはイノシトールモノホスホターゼ(IMP)を阻害する。本研究では、IMPの強力な阻害剤であるL-690,330が、ラット胚に眼の形成不全を誘発するか、検討した。
 胎生9.5日ラット胚を、種々の濃度のL-690,330を添加したラット血清中で、48時間培養した。高濃度のL-690,330を添加した場合(0.3mM)、胚全体の発生は遅れ、体節数は対照胚より少なく、頭でん長も対照胚の65%程度であった。外見的には、終脳と尾の発育不全が観察されたが、眼胞形成は対照胚と同様に認められた。これらの結果は、眼胞の形態形成にはホスホイノシトール伝達系は関与していないことを示唆している。
 一方、リチウムはグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)に直接結合し、その機能を阻害する。GSK-3βはウイント(Wnt)シグナル伝達経路の分子である。Wntは細胞膜のレセプターを介しGSK-3β活性を阻害させ、β-カテニンを誘導する。β-カテニンはE-カドヘリン、アクチンと結合し細胞接着に関わるとともに、アデノーマポリポーシスコリ(APC)、チューブリンを介して、細胞移動、細胞形態変化に関わっている。
 正常な眼胞形成過程では、眼胞其部の脳室面からのβ-カテニンとアクチンの消失が認められ、不規則なチューブリン分布が観察された。その部域には、細胞間物質の充満と細胞分裂像が認められた。眼胞形成不全では、このような現象は観察されなかった。これらの結果は、眼胞は、ホスホイノシトール伝達系でなくWntシグナル伝達系により、細胞増殖の調節とともに、アクチンとチューブリンを介した細胞移動、細胞形態変化が調節され、形成されることを示唆している。

マウス神経系に発現する新しいプロトカドヘリンの同定

平野伸二、Qiong Yan1、鈴木信太郎

 プロトカドヘリンは、神経系に特異的に発現する一連のカドヘリンファミリーに属する分子である。われわれは、神経系におけるプロトカドヘリンの細胞間相互作用の役割を明らかにするために、マウスのプロトカドヘリンの同定を試みた。ヒトのプロトカドヘリン2の細胞外領域に対応する部分のDNAをプローブとしてマウス脳のcDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、プロトカドヘリン2以外に2つの新規なプロトカドヘリンのcDNAを得た。いずれも5回のカドヘリンリピートを細胞外にもっており、プロトカドヘリンX(pcX)と名付けたものは、全長にわたりプロトカドヘリン4と高い相同性を示し、細胞内領域もプロトカドヘリン2ファミリーを定義づける配列が完全に保存されていた。一方プロトカドヘリンQ(pcQ)は、細胞外領域はプロトカドヘリン2と相同性を示すが、細胞内領域はまったく相同性がなく、新しいプロトカドヘリンのグループであることが明らかになった。プロトカドヘリンQのcDNAをL細胞に導入したところ(QL細胞)、分子量は120kDと110kDを示し、古典的カドヘリンと同様に細胞接着面に濃縮された。しかし、旋回培養をすると接着活性は非常に弱いものであった。このQL細 胞を他のプロトカドヘリン(PC2と3)あるいは古典的カドヘリン(NカドヘリンとC8)と混合培養したところ、異種細胞間ではpcQの濃縮はおこらないことから、pcQはホモフィリックな相互作用をしていることが示唆された。pcQとpcXの脳のおける発現をノザンブロット解析で調べると、pcQは胚発生期から比較的強い発現がみられるのに対し、pcXでが全体に発現が弱く成体でもっとも強い発現がみられることが明らかになった。in istuハイブリダイゼーションを行ったところ、生後2日目脳では、pcQは嗅球、嗅結節、など嗅覚に関連した神経核の他、扁桃体、視床のいくつかの核、海馬、小脳の皮質や下オリーブ核などに発現がみられた。これらの領域の多くは胚発生から成体になるまで発現がつづいていた。pcXの発現パターンはpcQのそれと非常に似ていたが、発現のタイミングや強度が異なっていた。これらの発現パターンはプロトカドヘリンが嗅覚系など機能的に関連した神経系の形成や維持に関与している可能性があることを示している。

 1南カリフォルニア大・ドヒニ眼研究所

カドヘリン細胞外ドメインEC1の機能に関する遺伝子工学的研究

村瀬佐知子1、平野 伸二、鈴木信太郎

 昨年度はカドヘリン-4の細胞外ドメインにおけるカドヘリンリピートの削除、重複実験により、細胞接着部位が予想通りEC1にあることを明らかにした。そこで本年度はこの結果を元にいろいろなカドヘリンのアミノ酸配列を比較することにより、予想されている細胞接着部位を構成するC,F,Gストランドを中心に非常によく保存されているアミノ酸残基および比較的変化に富むアミノ酸残基を選びだし、これらの変異株を作製してその細胞接着活性および活性の特異性に対する効果を解析した。ただし、Ca2+結合部位に関しては既によくわかっているので、本研究では実験対象からはずした。
 Fストランドに存在するHAV配列を変化させると細胞接着に弱い影響を示すことが見いだされたが、現在のところその他のアミノ酸残基を変化させても大きな変化を示す変異株は得られていない。ジッパーモデルによるとカドヘリンの細胞接着活性は本来非常に弱いものであり、カドヘリン分子がクラスタリングをおこすことによりはじめて強い接着活性を示すようになることが予想されている。したがって、今回の結果は単一のアミノ酸残基を変化させただけでは接着活性を大きく変化させることができる可能性は少ないことを示唆しているものと考えられる。現在さらにまだ検討を加えていないアミノ酸残基の検討を進めているところである。

 1南カリフォルニア大・ドヒニ眼研究所

プロトカドヘリンに対する特異的モノクローナル抗体の作製

青木 英子、平野 伸二、鈴木信太郎

 現在の生物科学において抗体は研究を進めていく上で必要不可欠の試薬となっている。しかしながら、プロトカドヘリンの場合は研究の歴史が新しいこともあり、よい抗体が手に入りにくい状況にある。そこで本研究ではこの問題を解決する目的で、いろいろな抗体の作製を行っている。抗体の作製法としては一度よいクローンを得ることができれば安定して半永久的に同じ抗体が使えるという利点があることから、モノクローナル抗体の作製に力を入れた。
 本研究ではまず名大の尾張部先生のご指導によりヒトのカドヘリン-11のcDNAから合成したfusion proteinを抗原としてモノクローナル抗体を作製し、この技術を習得した。得られた抗体はヒト繊維芽細胞IMR90の固定標本を染色し、Western blotでも反応した。現在は、プロトカドヘリン-2に対する特異的で固定標本にも使える抗体を作製中である。また、プロトカドヘリン-2ファミリー全般に反応する抗体を得る目的でよく保存されている細胞内ドメインに対する抗体の作製も試みている。

研究業績

著書・総説

著者 総説
鈴木信太郎 カドヘリンの接着複合体とカドヘリンの機能.生化学69:1269-1271,1997.
鈴木信太郎 カドヘリンスーパーファミリーカドヘリンの構造的機能的性質と生理的役割.蛋白質核酸酵素42:1669-1673,1997.
平野伸二 ラミニン/フィブロネクチン,テネシン.実験医学別冊用語ライブラリー脳神経 pp.179-180,p.185,1997.

原著論文

原著者 総説
Katoh-Semba, R., Takeuchi, I .K.,Semba, R1., Kato, K. (1Mie Univ.) Distribution of brain-derived neurotrophic factor in rats and its changes with development in the brain.J. Neurochem. 69: 34-42,1997.
Aoki, E.,Takeuchi, I. K. Immunohistochemical localization of arginine and citrulline in rat renal tissue.J. Histochem. Cytochem. 45(6):875-881,1997.
Ichinose, M.1, Yahagi, N.1, Matsubara, Y.1, Tsukada, S.1, Oka, M.1, Shimizu, Y.1, Yonezawa, S., Kageyama, T.2, Miki, K.1, Fukamachi, H.11Tokyo Univ.,2Kyoto Univ.) Substratum-dependent and region-specific control of attachment and proliferation of gastrointestinal epithelial cells in primary serum-free culture. Biochem. Biophys.Res. Commun. 230: 537-541,1997.
Nagata, Y.1, Shoji, R., Yonezawa, S., Oda, S.21Himeji Inst. Tech.,2Nagoya Univ.) Brain D‐serine and tyrosine levels in ataxic mutant mice.Amino Acids 12: 95-100,1997.
Ichinose, M.1, Tsukada, S.1, Fujimitsu, Y.2, Tatematsu, M.2, Matsubara, Y.1, Yahagi,N.1, Oka, M.1,Suzuki, T.1,Shimizu,Y.1,Yonezawa,S., Kageyama,T.3,Miki,K.1,Fukamachi,H.11Tokyo Univ.,2Aichi Cancer Ctr.,3Kyoto Univ.) Proliferation, differentiation and morphogenesis offetal rat glandular stomach transplanted under the kidney capsule of syngeneic hosts. Dev. Growth Differ. 39: 635-642, 1997.
Iwai, Y.1, Usui, T.1, Hirano, S., Steward, R.2, Takeichi, M.1, Uemura, T.11Kyoto Univ.,2Rutgers Univ.) Axon patterning requires DN-cadherin,a novel neural adhesion receptor,in the Drosophila embryonic CNS. Neuron 1977-89,1997.
Kido, M.1, Obata, S.1, Tanihara, H.2, Rochelle, J.M.3, Seldin, J.M.4, Taketani, S.5, Suzuki, S. (1Doheny Eye Inst.,2Kyoto Univ.,3Duke Univ.,4Univ.California Davis,5Kansai Med. Univ.,Rutgers Univ.) Molecular Properties and Chromosomal Localization of Cadherin-8. Genomic 48: 186-194,1998.

学会発表

発表者 内容
竹内郁夫,竹内よし子11岐阜医技短大) 老齢groggyラットの神経細胞におけるタウの蓄積.-超微形態学的観察- 日本神経病理学会(東京)1997.5.28.
花井敦子,米澤 敏,吉木 淳1,日下部守昭11理化学研筑波) 遺伝性内耳機能障害マウス(BUS/Idr)の原因遺伝子の染色体マッピング. 日本先天異常学会(京都)1997.7.14.
米澤 敏,河合洋子1,森山昭彦21名古屋市大看護短,2名古屋市大) マウス内耳組織に発現するミオシン分子種. 日本生化学会(金沢)1997.9.23.
村瀬佐知子1,平野伸二,鈴木信太郎(1南カリフォルニア大) カドヘリンの細胞外ドメインのくり返し構造の削除、重複が細胞接着活性に与える影響. 日本生化学会 (金沢)1997.9.24.
景山 節1,平井啓久1,一瀬雅夫2,三木一正2、花井敦子,正木茂夫,米澤敏(1京都大霊長研,2東京大) マウスカテプシンE遺伝子の構造と染色体局在.日本生化学会(金沢)1997.9.25.
北川道弘1,青木英子,竹谷 茂1,鈴木信太郎(1国立大蔵病院) 血管内皮細胞におけるカドヘリン-5の接着複合体. 日本細胞生物学会 (横浜)1997.9.30.
景山 節1,平井啓久1,一瀬雅夫2,三木一正2,花井敦子,正木茂夫,米澤敏(1京都大霊長研,2東京大) マウスカテプシンE遺伝子の構造. 日本動物学会(奈良)1997.10.3.
吉崎範夫1,米澤 敏(1岐阜大) ツメガエル・カテプシンLの精製とその性質. 日本動物学会(奈良)1997.10.3.
Yoshiki, A.1, Yonezawa, S., Hanai, A., Matsuzaki, T.1, Hiraiwa, N.1, Ike, F.1, Kusakabe, M.1,(1Inst.Phys.Chem.Res.) Refinement of linkage map in the chromosomal region around the bus locus on mouse Chr 10.Mouse Genome Con.(St.Petersburg,USA)1997.10.14.
仙波りつ子,竹内郁夫,伊藤秀記,加藤兼房 カイニン酸投与による脳由来神経栄養因子のラット脳における動態. 日本神経化学会(松山)1997.10.23.
加藤兼房,仙波りつ子,竹内郁夫,伊藤秀記,岡本慶子 カイニン酸誘導痙攣ラット脳におけるストレス蛋白質の発現. 日本神経化学会(松山)1997.10.23.
上村 匡1,岩井陽一,碓井理夫1,平野伸二,竹市雅俊11京都大) クラッシックおよびノンクラッシックカドヘリンによる神経回路構築. 日本分子生物学会(京都)1997.12.16.
平野伸二,延 涼1,鈴木信太郎(1西安第4病院) マウス中枢神経系における新規プロトカドヘリンの同定. 日本分子生物学会(京都)1997.12.18.
正木茂夫,米澤 敏,蒲地雄介1,近藤寿人11大阪大) レンズフィレンシン遺伝子プロモータ領域の単離とその機能解析. 日本分子生物学会(京都)1997.12.18.
Ito, H., Katoh-Semba, R., Takeuchi, I. K., Okamoto, K., Kato, K. Responsesofsmallstress proteins,hsp27 and αBcrystallin,in rat brains with kainicacid-induced seizure. International conference on dynamics and regulation of the stress response(Kyoto)1998.3.11.

教育活動

活動者 内容
米澤 敏 生物学(愛知県立春日井看護専門学校)1997.4.1.~1998.3.31.

3.周生期学部

研究の概況

大平敦彦

 周生期学部は、脳の複雑な構造を形成する仕組みや神秘的ともいえる機能を維持する機構を明らかにし、その成果を脳障害の予防と治療に生かすことを、おもな業務としている。周生期とは、ヒトの一生のうちで、出生前後の比較的短い時期をさす。この時期に、脳では、まず神経細胞の配置が決まる。配置の決定した神経細胞は、次に長い神経線維を伸ばして遠くにある神経細胞と連絡を取るようになる。即ち、脳は、神経細胞間のインターネットとも言うべき神経回路網を形成し、からだの総司令部としての活動を始める。神経回路網の形成過程は、きわめて繊細で緻密な機構によって調節されていると思われ、それだけに様々な外的内的要因によって影響を受け易いであろう。周生期の中枢神経系が、呼吸障害・虚血・黄疸などによって、形態的・機能的に不可逆的な障害を受け易いのは、このような理由によるものと思われる。
 脳の神経回路網が形成される仕組みを分子レベルで明らかにすることは、脳障害の成立を予防したり、その治療法を開発するうえで、不可欠である。周生期学部では、神経回路網の構築に関与する分子として、細胞間隙や細胞表面に存在し、細胞認識や細胞形態を調節していると考えられている糖タンパク、特にプロテオグリカンに注目して研究を進めている。また、神経細胞の生存や分化を調節する神経栄養因子と総称される物質群についての研究も進行している。
 プロテオグリカンとは、グリコサミノグリカンと呼ばれる硫酸化多糖を結合したタンパク質の総称である。近年、プロテオグリカンが脳の発達のみならず老年痴呆などにも関与することが明らかとなるなど、中枢神経系のプロテオグリカン研究は国際的にも非常に活発になってきた。本学部も、発達期のラット脳から新しい脳特異的膜貫通型コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ニューログリカンC(NGC)を発見するなど、この研究分野の発展に貢献してきた。NGCに関する本年度のおもな成果は、マウスNGCのゲノムDNAの構造を明らかにしたことである。これは、NGCの発現調節機構の解明や、NGC遺伝子に異常を持つ遺伝病マウスの人為的作製に向けた大きな前進である。また、NGCにはスプライシングによるアイソフォームが少なくとも3種類は存在することもわかった。さらに、ラット脳の細胞分画法により、NGCの少なくとも1部はシナプスに存在することが示唆された。一方、膜貫通型タンパクの多くがCキナーゼの活性化に伴うタンパク分解反応により、細胞膜から遊離することが知られている。ラット胎仔脳由来初代培養神経細胞は表面にNGCを持つが、このNGCはCキナーゼを活性化させても膜表面 に留まっていた。これらのことから、NGCは細胞膜成分としてシナプスの形成や安定化に関わっていると思われる。
 脳の代表的な可溶性コンドロイチン硫酸プロテオグリカンであるニューロカンとホスファカンの研究でも、注目すべき知見を得た。即ち、ラット胎仔脳の免疫組織化学により、細胞接着分子L1を表面に持つ視床からの求心性神経線維は、ニューロカンが存在するサブプレートを、一方、別の細胞接着分子TAG-1を持つ大脳皮質からの遠心性神経線維は、ニューロカンが分布するサブプレートを避け、ホスファカンが比較的多く分布する中間層を、選択的に伸びていくことである。このことは、プロテオグリカンと細胞接着分子との異分子間相互作用が神経回路形成に重要な役割を果たしていることを示唆している。このような異分子間相互作用の1部には、プロテオグリカンのコンドロイチン硫酸糖鎖が関与していることが知られている。しかし、コンドロイチン硫酸のどのような糖鎖配列が相手のタンパクのどのようなアミノ酸配列と相互作用しているのかは不明である。そこで本年度から、ファージディスプレイ法という新しい手法を用いて、コンドロイチン硫酸糖鎖に結合するペプチドの検索を始めた。この研究により、コンドロイチン硫酸糖鎖の機能および機能単位の構造を明らかにできるはずである。
 脳損傷時に働く生体防御機構の研究も、昨年度に引き続き行っている。本年度は、PCR-in situ hybridization という鋭敏な方法により、ラット大脳に外科的につけた傷の周辺部に、ニューロカンmRNAを強く発現している細胞が一過性に出現することを明らかにした。また、酵素免疫測定法により、損傷周辺組織中の神経栄養因子とストレスタンパク質の量を経時的に測定したところ、それぞれの分子が特徴的な変動をしていた。一方、痙攣誘発物質であるカイニン酸を投与したラットでは、発作を起こした個体についてのみ、海馬などで脳由来神経栄養因子(BDNF)の量が一過性に上昇することが明らかとなった。これらの変動は、損傷による脳機能の障害を最小限に防ごうとする生体反応の1断面と思われる。
 小脳は、比較的単純な神経回路網を持ち、ラットやマウスでは、その形成の主要な段階が生後に起きることから、神経回路形成の機構を研究する際、良い実験系となる。周生期学部でも小脳を材料として、細胞移動やシナプス形成の機構を研究している。本年度は、小脳発達の過程で、薬物により穎粒細胞の移動を一時的に停止させるという実験系を用いて、穎粒細胞と苔状線維あるいはプルキンエ細胞との間、およびプルキンエ細胞と登上線維との間の相互作用が、神経回路形成に重要であることを支持する結果を得た。
 遺伝病の本態を解明し、その診断に役立てることは、本研究所の任務のひとつである。周生期学部では、遺伝性高ビリルビン血症の遺伝子解析と発症機序の研究を行ってきたが、本年度はギルバート症候群1家系を新たに発見し、その遺伝子変異部位を明らかにした。
 本年度は人員の移動はなかった。大阪大学大学院博士課程大学院生の安田陽子は周生期学部で研究を継続し、個別研究の項に示すような経過をあげた。また、文部省から次に示す7件の科学研究費の援助を受けた。重点領域研究(計画)1件、重点領域研究(公募)1件、基盤研究(A-1)1件、基盤研究B1件、基盤研究C2件、奨励研究A1件。

マウス NGCのcDNAとゲノムDNAのクローニング

青野幸子、安田陽子1、時田義人、松井ふみ子、谷口雅彦2、大平敦彦

 本研究室でそのcDNA(ラット)がクローニングされたニューログリカンC(NGC)は、神経系に特異的に発現している膜貫通型コンドロイチン硫酸プロテオグリカンである。コアタンパクはアミノ末端側から、コンドロイチン硫酸結合ドメイン、酸性アミノ酸に富むドメイン、EGF様ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内ドメインの5つのドメインよりなる。他のプロテオグリカンと同様、NGCは脳における神経回路形成に重要な働きをしていると思われるが、その機能については現在までのところ明らかとはなっていない。
 今回、NGCの発現調節機構を解明することを目的として、マウスNGC cDNAおよびゲノムDNAのクローニングを試みた。cDNAライブラリーは2ヶ月齢マウス脳より調製し、プローブとしてラットNGC cDNAを用いた。ゲノムについては129マウス由来の市販ゲノムライブラリーを用い、マウスNGC cDNAをプローブとしてスクリーニングを行った。cDNAについては少なくとも3種のアイソフォームを検出することができた。I型はラットcDNAの塩基配列と93%のホモロジーを示し、その推定アミノ酸配列からラットと同様5つのドメインをもつことが示唆された。2型は1型と比べて5'末端のシグナル配列が異なっていた。3型では細胞内ドメインに81塩基の挿入が認められた。2・3型とも10%の割合で存在した。ゲノムの構造解析より、マウスNGC cDNAは少なくとも6つのエクソンよりなり、alternative splicing される箇所が2ヶ所あることが明らかとなった。1・3型はエクソン1、2型はエクソン1'を持ち、3型はエクソン5を特異的に持っていた。現在、それぞれのアイソフォームの発現調節機構について研究を行っている。

 1大阪大・理、2形態学部

細胞分画法によるニューログリカンC(NGC)の神経細胞膜表面における分布解析

安田陽子1、青野幸子、時田義人、松井ふみ子、大平敦彦

 本研究室において同定された、神経系特異的コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ニューログリカンC(NGC)の機能を明らかにすることを目的として研究を進めている。NGCにはEGF様ドメインが存在し、またその細胞内領域にCキナーゼによってリン酸化され得る部位が存在する。このような結果から、NGCが細胞内外の情報伝達に関わっている可能性が示唆されている。
 本年度は細胞分画を行い、NGCの細胞膜表面における分布を生化学的に調べた。生後21日目のラット脳のhomogenateを、核画分(P1)、ミトコンドリア画分(P2)、マイクロゾーム画分(P3)に分け、作製したポリクローナル抗体を用いてWestern blot解析を行ったところ、NGCは主にP2画分に回収されることが明らかとなった。P2画分にはシナプトソームが含まれており、またNGCは神経細胞の膜表面に存在することから、我々は、NGCはシナプス形成期に情報伝達を行うことで、その形成になんらかの役割を果たしているのではないかと考えている。このことを証明するために、現在NGC抗体を用いた免疫沈降を行いNGCが情報を伝える、あるいは受け取る相手の検索を行っている。 これまでの研究で明らかとなったNGC分子の構造、発現時期、あるいは発現部位から推察すると、NGCが神経系構築の際に細胞内外の情報伝達に関与している可能性は充分あると思われ、今後はそれらを視野に入れたNGCの機能解析に取り組む予定である。

 1大阪大・理

神経系特異的コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ニューログリカンCの神経突起伸長に及ぼす効果

時田義人、大平敦彦

 ニューログリカンCは、我々の研究室において遺伝子がクローニングされたコンドロイチン硫酸プロテオグリカンである。我々はその機能を調べるために動物個体レベル、および細胞レベルでの解析を行っている。
 我々はこれまでにニューログリカンCの発現が、大脳皮質の体性感覚野で神経回路の機能単位を形成していると考えられているwhisker barrelの内部で低下することを観察している。このことはニューログリカンCが感覚入力を基にした神経回路の形成に何らかの形で関わっていることを示唆している。
 我々はwhisker barrelの内部に強制的にニューログリカンCを発現させたマウスの作製を進めると共に細胞レベルでの解析をおこなった。ニューログリカンCは、その側鎖にコンドロイチン硫酸鎖をもつが、その神経細胞の突起伸長における影響を調べるためコンドロイチン硫酸鎖を培養皿の一部にコートし初代培養神経細胞の突起伸長を観察した。その結果、興味深いことに神経突起はコンドロイチン硫酸鎖をコートした領域には侵入することが出来なかった。しかし、N-シンデカン等の側鎖であるヘパラン硫酸鎖をコートした場合にはこの現象は観察されなかった。この事は、視床の神経細胞が入力を行う顔面の感覚毛の位置を保持しながら大脳皮質に正確に投射するためにコンドロイチン硫酸鎖が機能的な障壁になっていることを示唆している。
 また、培養神経細胞にプロテインキナーゼCの活性化を促進するTPAを投与しN-シンデカンおよびニューログリカンCの変化をウエスタンブロットによって解析した。その結果、ニューログリカンCはTPAの投与によって変化がなかったが、N-シンデカンはTPA処理によって細胞膜上からほとんどが消失した。この結果は、この二つのプロテオグリカンの生理的な機能を反映しているものと思われる。

視床皮質神経回路形成過程に見られるプロテオグリカンと細胞接着分子との相互作用

福田哲也1、川野 仁2、川村光毅1、松井ふみ子、大平敦彦

 ニューロカンとホスファカンは、発達期の脳に存在する分泌型コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの主成分である。私達は、ラット大脳の発達に伴うこれら2つの分子の発現様式を免疫組織化学により調べることにより、ニューロカンは胎生16日に大脳皮質原基のサブプレートと呼ばれる部位に限局して出現するのに対し、ホスファカンはこの時期の皮質原基全体に均一に分布していることを明らかにしている。今年度は、これらのプロテオグリカンと親和性を持つことが知られているL1,NCAM‐H、TAG-1の3種類の細胞接着分子について、大脳の発達に伴う発現様式を調べることにより、神経回路形成におけるプロテオグリカンと細胞接着分子との相互作用の重要性について検討した。
 NCAM-Hは、皮質の神経細胞や伸長中の神経線維上に広く分布していた。TAG-1は、未分化な皮質神経細胞とそれらが伸ばし始めている遠心性の神経線維の表面に存在していた。一方、L1は、視床から皮質に伸びてくる神経線維の表面に特異的に存在していた。発達途上の大脳皮質におけるニューロカンとL1の分布を比較してみると、L1を発現している視床からの求心性線維は、すでにニューロカンが高濃度存在しているサブプレート上を伸びてくることが明らかとなった。この結果から、視床皮質線維は、表面に存在するL1によりニューロカンを感知し、ニューロカンの存在する部位を選んで伸長すると考えられる。
 TAG-1もニューロカンとホスファカンの両方と親和性を持つことが報告されているが、表面にTAG-1をもつ皮質からの遠心性線維は、ニューロカンの存在するサブプレートには入らず、比較的ホスファカンの多い中間層を選択的に伸びていた。皮質からの遠心性神経線維の伸長には、TAG-1とプロテオグリカン群との相互作用以外の要因も関与していると思われる。

 1慶応大・医、2東京都神経研

脳のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンに結合するペプチドの検索

松井ふみ子、安田陽子1、時田義人、青野幸子、大平敦彦

 脳に存在するプロテオグリカンとして、タンパク質にヘパラン硫酸鎖を結合しているプロテオグリカン(HSPG)群およびタンパク質にコンドロイチン硫酸鎖を結合しているプロテオグリカン(CSPG)群が知られている。これらのうち、HSPGはヘパラン硫酸鎖内の特殊な糖鎖配列部分でさまざまな成長因子と結合し、細胞増殖の調節に関与していることが明らかとなっている。一方、CSPGの一部は種々の細胞接着分子と結合し、神経線維の伸長等に関与していることが示唆されている。このCSPGと細胞接着分子との相互作用においては、CSPGのタンパク部分とコンドロイチン硫酸鎖の両者が関与していることが明らかとなっている。しかし、コンドロイチン硫酸鎖内のどのような糖鎖配列がどのようなアミノ酸配列を認識することによって、相互作用が行われているのかについては不明である。そこで、今年度より、ファージディスプレイ法によるCSPG結合ペプチドの検索を開始した。ファージディスプレイ法では、ランダムなペプチドを発現しているファージの混合物を既知の分子(ここではCSPG)と結合し、結合したファージのみを増殖させることにより、既知の分子と結合するペプチドの検索を行う。今回 は、まずラット脳から得たCSPG混合物を培養皿に結合させ、そこに、ランダムな8個のアミノ酸配列をもつファージライブラリーを加えた。培養皿に結合しなかったファージを洗浄した後、培養皿に結合しているファージをグリシン溶液(pH 2.2)で溶出した。このファージを大腸菌に感染させ、増幅した。このような結合、溶出および増幅の過程を3回繰り返し、CSPG結合ファージの混合物を得た。今後、各ファージクローンの塩基配列を調べ、CSPG結合ペプチドの検索を行う予定である。

 1大阪大・理

成獣ラット大脳皮質損傷部に現われるニューロカンmRNAの検出

尾関順子、慶野裕美1、大平敦彦、松井ふみ子、安田陽子2、慶野宏臣

 ニューロカンは発達期の脳において神経回路形成に重要な役割を果たしている。神経回路形成が盛んな幼若ラット大脳皮質では全長型のニューロカンが多量に存在するが、成熟したラット大脳皮質では存在量も減少し、分子の中央部で2分されたニューロカンとなる。しかし、成獣ラット大脳皮質を損傷すると損傷付近では幼若脳に見られる全長型ニューロカンが多量に発現することが報告されている。損傷されたことでニューロカンの生合成活性が上昇したと考えられる。そこで、インサイチュ法によるニューロカンmRNAの検出を試み。DIGラベルしたニューロカンプローブを使っての検出では、反応性を示す細胞が損傷部付近に出現していることが観察できたが非特異な反応も海馬や白質で強かった。そこで、組織切片上でPCR反応を行い信号量を増すこととした。PCR反応を進めた組織では、非特異的な抗DIG反応はほとんど発現せず損傷の影響を明瞭に観察できるようになった。損傷1日後反応性の細胞が損傷付近に少数出現した。その細胞は損傷4日後にもっとも多くなり強い反応性を示した後、10日には出現頻度も反応性も著しく低下した。損傷20日後の大脳皮質にはニューロカンmRNAの存在を示す細胞 は観察できなかった。再生はほとんど起こらないとされる成獣大脳皮質であっても、損傷により幼若型ニューロカンの誘導が遺伝子レベルで起こることが示された。損傷付近では細胞間プロテオグリカン環境が幼若型になることにより神経回路の変性防止や再構築を容易にしている可能性が考えられる。

 1形態学部、2大阪大・理

大脳皮質損傷に伴う神経栄養因子およびストレスタンパク質の量的変動

大平敦彦、仙波りつ子、慶野宏臣

 私達の体が傷ついたとき、体内では、傷による障害を最小限に抑えるための様々な防御機構が働き始める。本研究では、脳損傷に対する生体防御機構を分子レベルで理解することを目指し、損傷により傷周辺の脳組織で発現変動をする物質群の検索を行っている。昨年度までの研究から、成獣ラット大脳皮質に外科的につけた傷の周辺部に、幼若脳型ニューロカン(代表的な神経組織特異的分泌型コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)が一過性に出現することが明らかとなった。本年度は、神経栄養因子とストレスタンパク質の量的変動について調べた。
 成獣ラット(SD,雄)を麻酔下でラット固定器に固定し、大脳皮質の特定の部位に傷(通常、深2.0×長5.0×巾0.8mm)をつけた後、2日目から40日まで経時的に損傷周辺部を採取し、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)の3種類の神経栄養因子と、hsp27およびαBクリスタリンの2種類のストレスタンパク質の量を、酵素免疫測定法により測定した。NGFとBDNFは、損傷2日後に正常値の約2倍に増加していたが、4日後にはほぼ正常値にもどった。NT-3は、動物個体間で測定値が大きくばらついてはいたが、4日以降、徐々に増加する傾向が見られ、40日後には正常値の約4倍になった。一方、hsp27は、損傷後急激に増加し、4日目には正常値の約34倍になっていた。その後、hsp27の量は徐々に減少し、20日後には正常値となった。これとは逆に、αBクリスタリンは、損傷後2日から4日までは正常値の60%ほどに減少していたが、10日以降はほぼ正常値であった。
 このように、神経栄養因子やストレスタンパク質は、脳の外科的損傷に反応して、それぞれに特徴的な量的変動をすることがわかった。この量的変動は、傷による脳機能障害を防ごうとする生体反応の1断面と思われるが、その生理学的な意義については今後の課題である。

カイニン酸投与したラット脳の脳由来神経栄養因子の動態

仙波りつ子、竹内郁夫1、伊東秀記2、加藤兼房2

 ヒト筋萎縮性側索硬化症の治療薬としての研究がすでに進められている脳由来神経栄養因子(BDNF)は、老年性痴呆の治療薬としても有力視されている物質である。しかしながら、脳における機能はいまだはっきりしていない。この神経栄養因子のmRNAは、いろいろな方法で脳に損傷を与えるときわめて迅速に変動するようである。そこで、本年度は、痙攣誘発物質であるカイニン酸(10mg/kg体重)を生後33日齢のラットに腹腔内投与し、BDNFの脳内変化を調べ、機能解明の糸口を見つけようと試みた。BDNFは、カイニン酸投与によって痙攣発作を起こした個体で12-24時間後に最大値を示し、嗅球で約16倍、海馬で約10倍および梨状葉皮質(嗅内皮質を含む)で約10倍に上昇したが、小脳では全く変化がなかった。カイニン酸投与ラットの嗅球、海馬および梨状葉皮質では、BDNF mRNAおよび14 kDaのBDNFプロテインが上昇していた。BDNFプロテインの免疫組織化学的染色の増強は、歯状回の穎粒細胞や多形細胞層および錐体細胞層(CA3-CA4)の放射状層に観察された。一方、BDNFのファミリーである神経成長因子(NGF)およびニューロトロフィン-3(NT-3)はカイニン酸投与24時間後の海馬で減少していた。海馬のBDNFプロテインの急激な上昇の意義は、現在のところ明らかではないが、NGFおよびNT-3の減少は、CA3-CA4の錐体細胞がカイニン酸によって損傷を受けるためと思われる。

 1発生学部、2生化学部

ラット小脳顆粒細胞の移動を一時的に停止させて生じる神経回路網の異常)

慶野宏臣、尾関順子

 脳内には神経細胞とその突起から構成されるきわめて複雑な神経回路網があり、私達の神経・精神活動はこの回路網が働いた結果である。したがって、神経回路網を分析しその形成過程を解明することは精神神経疾患の病因・病態を理解し、それらを予防し治療するためにもきわめて重要な課題である。その解析には、回路網が比較的単純で、主要な回路網形成が生後に起こるマウスやラットの小脳が利用しやすい。本年はラット小脳顆粒細胞の移動を一時的に停止させることで生じる小脳神経回路網の異常について検討した。
 小脳顆粒細胞は分裂を終えるとプルキンエ細胞とシナプスを形成しながら外顆粒層から顆粒層へ移動する。抗癌剤シトシンアラビノフラノシド(Ara-C)を投与すると一時的に顆粒細胞の移動が止まり、分子層内に異常な顆粒層が形成された。そこにはピーナッツレクチン等と反応し、白質から伸びる繊維の先端が膨大した構造が存在した。苔状繊維が分子層を突き抜けて異所性の顆粒層にまで伸長し、異常な神経回路を構築したと考えられる。顆粒細胞は苔状繊維を誘引する物質を出している可能性が高い。プルキンエ細胞の樹状突起は異所性の顆粒層までは比較的正常な分枝を示すが、それから先ではほとんど分枝していなかった。Ara-C投与によりプルキンエ細胞のシナプス形成が極端に抑えられている間に登上繊維の退縮が起こり、分枝のない樹状突起が形成された可能性が高い。Ara-C投与ラットでは登上繊維とプルキンエ細胞との神経回路網は極端に粗になっていると推測される。

ギルバート症候群の1家系

青野幸子、慶野宏臣、大平敦彦、宇山英一郎1、小祝 修2、佐藤浩3

 ビリルビン:UDP-グルクロン酸転移酵素(UDPGT)は、ヘムの代謝産物であるビリルビンにグルクロン酸を抱合し、胆汁中に排出する機能をもった酵素である。本酵素の先天性代謝異常症は血清中のビリルビン値によって、クリグラー・ナジャール症候群タイプ1、タイプ2、ギルバート症候群に分類されている。クリグラー・ナジャール症候群タイプ1・タイプ2は常染色体性劣性遺伝し、主に前者はUDPGT遺伝子のナンセンス点変異、後者はミスセンス点変異によって生ずることが明らかになっている。ギルバート症候群については我々はすでに約20例の患者について遺伝子解析を行っており、この異常症は優性遺伝することを報告している。しかし、同じ変異を持ちながら発症する場合としない場合があるなどいくつかの例外が認められ、その発症機構については未だ不明な点が多い。
 今回、ギルバート症候群をもつ一家系を新たに見いだしたので報告する。発端者は55歳の女性で、ビリルビン値は3.2mg/dl、UDPGT活性は正常値の1/5で、ギルバート症候群と診断された。遺伝子解析を行ったところ、エクソン4にヘテロで変異が見つかった。1099番目のCがGに変化しており、アミノ酸としては367番目のアルギニンがグリシンに置換していた。患者の父親、姉、長女、長男ともヘテロで同じ変異が見つかり、ビリルビン値も高かった。これらの結果より、ギルバート症候群は優性遺伝していることが再確認された。この家系ではビリルビン値が容易に変動し、空腹、疲労等のストレスによるビリルビン値の増加が認められた。ストレスによってなぜビリルビン値が増加するのかは今後の課題である。

 本研究は文部省科学研究費(No09671088)の援助を受けた。
 1熊本大・医、2東京理科大、3滋賀医大

研究業績

著書・総説

著者 総説
青野幸子 神経接着分子NCAMのアイソフォーム. 神経化学 36,36-40,1997.
Oohira, A., Aono, S., Matsui, F., Yasuda, Y.1, Tokita, Y.(1Osaka Univ.) Transmembrane chondroitin sulfate proteoglycans in the developing brain: Involvements in signal transduction as well as in cell adhesion. Connec. Tissue 30: 49-56,1998.
Oohira, A. Brain development and proteoglycan.Glycoforum

原著論文

原著者 総説
Katoh - Semba, R., Takeuchi, I. K., Semba, R.1, Kato, K. (1Mie Univ.) Distribution of brain‐derived neurotrophic factor in rats and its changes with development in the brain. J. Neurochem. 69:34-42, 1997.
Atoji, Y.1, Yamamoto, Y.1, Suzuki, Y.1, Matsui, F. Oohira, A. (1Gifu Univ.) Immunohistochemicalocalization of neurocan in the lower auditory nuclei of the dog. Hear. Res. 110: 200-208, 1997.
Fukuda, T.1, Kawano, H.1, Ohyama, K.1, Li, H.P.1, Takeda, Y.1, Oohira, A., Kawamura, K.11Keio Univ.) Immunohistochemical localization of neurocan and L1 in the formation of thalamocortical pathway of developing rats. J. Comp. Neurol. 382: 141-152, 1997.
Keino, H., Banno, T.1, Ozeki, J. (1Aichi Gan Ctr.) Compositional changes in glycoconjugates recognized histochemically with lectins in Purkinje cells in suckling and adult rats. Zool. Sci. 15:27-34, 1997.

その他の印刷物

著者 総説
大平敦彦 脳のプロテオグリカン、あれこれ. Matrix News 6: 3-5, 1998.
大平敦彦,安田陽子1,青野幸子,時田義人,慶野宏臣(1大阪大) 大脳体性感覚野バレル形成における新奇な神経特異的プロテオグリカンの機能. 文部省科学研究費補助金重点領域研究「神経回路の機能発達」研究成果報告書(3)pp. 37-38, 1998.
大平敦彦,渡辺英治1,松井ふみ子(1基生研) ヘパリン親和性神経栄養因子の情報伝達における脳の膜結合型プロテオグリカンの役割. 平成7年度 ~平成9年度文部省科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研究成果報告書総頁数97, 1998.
大平敦彦,松井ふみ子,青野幸子,時田義人,九島洋一1,桜井勝清1,杉浦信夫1,2,木全弘治21生化学工業,2愛知医大) 神経回路網形成期の脳に存在するプロテオグリカン群の生理機能の解析. 文部省科学研究費補助金重点領域研究「スーパーバイオシステムの高次認識糖鎖分子による構築」平成9年度研究成果報告書 pp. 197-200, 1998.

学会発表

発表者 内容
大平敦彦,松井ふみ子 ニューログリカンC:新奇な膜貫通型脳特異コンドロイチン硫酸プロテオグリカン.結合組織学会(弘前)1997.6.6.
武内恒成1,川野 仁2,渡辺和忠3,松井ふみ子,大平敦彦,川村光毅2,高橋直樹11奈良先端大,2慶應大,3東京都老人研) 神経接着分子TAG-1とプロテオグリカンの機能相関 1.細胞生物学的解析.日本神経科学学会(仙台)1997.7.17.
川野 仁1,福田哲也1,武内恒成2,大平敦彦,川村光毅11慶應大,2奈良先端大) 神経接着分子TAG‐1とプロテオグリカンの機能相関 2. 免疫組織化学的研究. 日本神経科学学会(仙台)1997.7.17.
大平敦彦,尾関順子,松井ふみ子,安田陽子1,時田義人,青野幸子,仙波りつ子,慶野宏臣(1大阪大) 脳損傷による幼若型ニューロカンの一過性発現増強.日本神経科学学会(仙台)1997.7.17.
西塚雅子1,新井康允1,田尾佳子1,2,針谷敏夫,松井ふみ子,大平敦彦(1順天堂大,2明治大) プロテオグリカン分子種からみた大脳皮質のニューロン周囲網.日本神経科学学会(仙台)1997.7.18
仙波りつ子, 加藤兼房 NGF,BDNF およびNT-3のマウスにおける加齢変化. 日本神経科学学会(仙台)1997.7.18.
Yasuda, Y.1, Tokita, Y., Aono, S., Ono, T., Sonta,S., Nakanishi, Y.1, Watanabe, E.2 and Oohira,A. (1Osaka Univ., 2Natl. Inst. Basic Biol.) Molecular biological and immunohistochemical studies of NGC (neuroglycan C), a novel brain-specific proteoglycan. XIV International Symposium on Glycoconjugates (Zurich, Switzerland) 1997.9.7.
Oohira, A., Ozeki, J., Matsui, F., Katoh-Semba, R.,and Keino, H. Transient expression of the juvenile form of neurocan after brain injury of the adult rat. XIV International Symposium on Glycoconjugates(Zurich,Switzerland)1997.9.7.
安田陽子1,時田義人,青野幸子,松井ふみ子,小野教夫,孫田信一,渡辺英治2,中西康夫1,大平敦彦(1大阪大,2基生研) ヒトニューログリカンC(NGC)の遺伝子クローニングと染色体座の決定.日本生化学会(金沢)1997.9.24.
大平敦彦 神経回路形成と脳特異プロテオグリカン.高分子討論会(名古屋)1997.10.3.
慶野宏臣,尾関順子 Ara-C投与することでラット小脳分子層内に形成された顆粒細胞層.日本動物学会(奈良)1997.10.4.
慶野宏臣,尾関順子 神経細胞移動障害モデルとしてのAra-C投与ラット小脳.疾患モデル学会(吹田)1997.10.17.
青野幸子,慶野宏臣,松井ふみ子,大平敦彦 神経系に特徴的なコンドロイチン硫酸プロテオグリカン,NGCのマウス遺伝子クローニングと小脳発達に伴う発現変動.日本神経化学会(松山)1997.10.22.
松井ふみ子,西塚雅子1,青野幸子,大平敦彦(1順天堂大) ニューロカン N-末端側断片のグリア性神経細胞周囲網への局在.日本神経化学会(松山)1997.10.22.
仙波りつ子,竹内郁夫,伊藤秀記,加藤兼房 カイニン酸投与による脳由来神経栄養因子のラット脳における動態.日本神経化学会(松山)1997.10.23.
加藤兼房,仙波りつ子,竹内郁夫,伊藤秀記,岡本慶子 カイニン酸誘導痙攣ラット脳におけるストレス蛋白質の発現.日本神経化学会(松山)1997.10.23.
上田 浩,森下理香,仙波りつ子,加藤兼房,浅野富子 G蛋白質αサブユニットの免疫沈降に伴うγサブユニットの解析.日本神経化学会(松山)1997.10.23.
Kawano, H.1, Fukuda, T.1, Ohyama, K.1, Takeuchi, K.2, Oohira, A.,and Kawamura, K.11Keio Univ.,2Nara Inst.Sci.Technol.) Interactions betweenneural cell adhesion molecules and chondroitin sulfate proteoglycans may be involved in defining discrete axonal pathways of developing rat cerebral cortex. The 27th Annual Meeting of the American Society for Neuroscience (New Orleans,LA)1997.10.25.
Nishizuka, M.1, Arai, Y.1, Matsui, F.and Oohira, A. (1Juntendo Univ.) Differential distribution of a neural chondroitin sulfate proteoglycan,neurocan,and its related small molecules in the cerebellum of postnatal rats. The 27th Annual Meeting of the American Society for Neuroscience(New Orleans,LA)1997.10.25.
Ito, H., Katoh-Semba, R., Takeuchi, I. K., Okamoto, K., Kato, K. Responses of small stress proteins,hsp27 and aB crystallin,in rat brains with kainic acid-induced seizure. International conference on dynamics and regulation of the stress response(Kyoto) 1998.3.11.

講演など

講演者 内容
大平敦彦,松井ふみ子 神経回路形成と脳特異プロテオグリカン.文部省科学研究費補助金重点領域研究「スーパーバイオシステムの高次認識糖鎖分子による構築」班会議(東京)1997.7.4.
大平敦彦,青野幸子,時田義人 ラット脳の神経回路網形成におけるプロテオグリカンの機能.文部省科学研究費補助金基盤研究(A)(1)「遺伝子改変を利用した細胞外マトリックス分子の抗-細胞接着機能の解析」班会議(名古屋)1997.11.10.
大平敦彦,松井ふみ子 神経回路網形成期の脳に存在するプロテオグリカン群の生理機能.文部省科学研究費補助金重点領域研究「スーパーバイオシステムの高次認識糖鎖分子による構築」班会議(東京)1997.11.17.
仙波りつ子 脳障害によるBDNFの動態. BDNF研究会(東京)1997.12.6.
加藤兼房,仙波りつ子,竹内郁夫,伊藤秀記,岡本慶子 カイニン酸誘導痙攣ラット脳におけるストレス蛋白質誘導.文部省重点領域研究「神経細胞死とその防御の分子制御」班会議(東京)1997.12.11.
仙波りつ子 脳由来神経栄養因子の分布とその動態.大阪大学医学部(吹田) 1997.12.17.
大平敦彦,時田義人,青野幸子 小脳発達に伴うNGC(EGF様構造を持つ神経特異膜貫通型コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)の分布変化.文部省科学研究費補助金重点領域研究「神経回路の機能発達」班会議(東京)1998.1.30.
青野幸子 神経回路網はどのように形成されるか?愛知教育大学生命科学科(刈谷)1998.2.7.
大平敦彦 神経回路形成と脳特異プロテオグリカン.(財)東京都神経科学総合研究所(府中)1998.3.25.

海外活動

活動者 内容
大平敦彦 第14回国際複合糖質シンポジウムに出席、発表(スイス)1997.9.7.~9.12.
安田陽子(大阪大) 第14回国際複合糖質シンポジウムに出席、発表(スイス)1997.9.7.~9.12.

地域活動

活動者 内容
慶野宏臣 刈谷市高齢者教室(刈谷市)1997.5.15.
慶野宏臣 多治見市冬の講座(多治見市)1998.1.21.

教育活動

活動者 内容
仙波りつ子 生化学(横浜市立大学医学部)1997.4.1.~1998.3.31.
大平敦彦 神経科学(名古屋市立大学医学部)1997.4.1.~1998.3.31.
慶野宏臣 生物学(春日井看護専門学校)1997.4.1.~1998.3.31.
慶野宏臣 細胞生物学2(愛知教育大学)1998.1.1.~1998.1.31.

主題:
愛知県心身障害者コロニー  発達障害研究所年報 第26号 平成9年度 No.1
1頁~29頁

発行者:
愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所

発行年月:
1998年9月

文献に関する問い合わせ先:
愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所
〒480-0392
愛知県春日井市神屋町713-8
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