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自閉症児における共感獲得表現助詞「ね」の使用の欠如:事例研究

愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
綿巻徹

項目 内容
備考 1997年8月 発達障害研究(日本発達障害学会)19巻

目次

  1. 要旨
  2. 方法
  3. 結果
  4. 考察
  5. 文献
  6. 英文要旨

要旨:

日本語の助詞「ね」は、会話文の文末に付加されて、聞き手との話題の相互共通性を表わすのに使われる。この助詞は、健常児では通常18ヵ月から24ヵ月にかけて発現する。自閉症児は情報を聞き手と共有することに障害を有しているために、「ね」を使わないか、使ったとしてもまれにしか使わないであろうという仮説をたてた。形態素単位平均発話長がおよそ2.05、つまり文法発達段階がBrown(1973)の段階II初期にマッチングされた6歳の自閉症男児と5歳精神遅滞男児の1時間の発話標本を比較した。予想したとおり、自閉症事例は「ね」を産出せず、精神遅滞事例は「ね」を頻繁に産出していた。また、自閉症事例は精神遅滞事例にくらべ終助詞の多様性が少なかった。他のタイプの助詞に関しては、事例間に目立った差異がなかった。得られた結果を、自閉症における「心の理論」の障害という観点から考察した。

Key words:自閉症、語形論、共感、心の理論

言語と社会対人関係の障害は、自閉症児がかかえている最も大きな問題である。自閉症児の約半数は、青年期以降もことばが話せない状態にとどまりつづける(注2) (注19)。また、発達が比較的良好でことばが話せる者では、言語を実利的な道具として使うことができたとしても、それを他者との双方向コミュニケーションに使うことに障害が残りつづけることが多い(注1) (注4) (注8) (注10)。今日、言語を相互コミュニケーションのために使うスキルは語用(pragmatics)と呼ばれており、この語用の障害が話しことばをもつ自閉症児の言語障害の核心にあると考えられている(注1) (注4)

自閉症児の語用の発達と障害に関して、最近、Tager-Flusbergが一連の研究を発表している(注23) (注24) (注25) (注26)。それによれば、自閉症児は、人の心の状態を表わす心的状態語のうち、特に、共同注意(joint attention)を求める言葉と、認識(cognition)を言及する言葉(例えば、信じる、考える)の使用が乏しい。また、文法能力の発達が進みMLU(形態素単位平均発話長)が2.0を超えると、ダウン症児では共同注意請求発話の自発使用が増えるにもかかわらず、自閉症児は著しく少ない状態に留まりつづける。Tager-Flusbergのこうした一連の研究は、自閉症の一次障害を「心の理論」(theory of mind)の障害とする仮説(注5) (注12) (注13)を発展させたものである。心の理論とは、自分や他者の心の状態例えば、信念(belief)や欲望(desire)などのような、何らかの志向内容を伴う心の状態を推測することによって、行動を意味づけたり、予測することができる能力のことをいう。その発達の一環として、健常な発達では、 9か月頃に非言語の共同注意が発現し、2歳半頃には心の状態を表わす語や概念が発達する。そして、4歳では自分のもっている信念と他者のもっている信念を区別することができるようになる。しかし自閉症児には、これらの発達に障害がみられる(注5) (注14)

これらの一連の言語研究を踏まえ、Tager-Flusberg(注25)は、自閉症児の社会対人機能の欠陥はコミュニケーションや語用の機能に影響を及ぼしても、文法発達過程には確認可能な影響をなんら及ぼさないとしている。しかし、Tager-Flusbergの研究を含めて、これまでに行なわれた自閉症児の言語研究の多くは、英語獲得を対象にしたものである。英語以外の言語には、社会対人機能を言語表現するための言語手続きを文法装置の一部として備えた言語が存在している。その一例がドイツ語である。ドイツ語では、聞き手・話し手間の「親疎関係」によって、二人称代名詞「sie」と「du」を使い分けることが必要である。Baltaxe & Simmons(注3)は、ドイツ語を話す青年期自閉症者がそれを困難としていることを示す実例を明らかにしている。

日本語は、ドイツ語と同様に、聞き手・話し手間の親疎関係を文法的に表現する言語である。そのための文法装置として、日本語は、人称代名詞の多様な使い分けに加えて、終助詞(文末に付いて、聞き手に対する話し手の感情・態度を表現する助詞の下位類)や、極めて複雑に組織された敬語法などを備えている。日本語を話す自閉症児では、これらの文法装置に欠損や障害が観察されるものと予想される。

社会対人関係を表現する機能をになう文法装置のうち、敬語システムは、その獲得に高い言語スキルを要する。自閉症児では、言語が獲得される場合にも統語発達には遅れがあり、それが低い水準でプラトーに達している(注17)。そのため、学齢前の自閉症児を対象に敬語システムの獲得を問題にすることは適切でないように思われる。これに対して、終助詞は、健常言語発達では初期文法獲得期の最初の段階から、つまり18か月から24か月の間に発現し(注16)、精神遅滞に分類されるダウン症児においても、初期文法獲得期の最も早い段階に発現するとされている(注30)

そこで本研究は、初期文法を既に獲得している言語発達の比較的良好な学齢前の自閉症事例と精神遅滞事例とを比較して、自閉症事例では社会対人関係を表わす助詞の使用に欠如があるという仮説を確かめることにした。

日本語の助詞は、事柄や聞き手に対する話し手の立場を表わす文法機能語で、その種類は基本形が約50種、複合形も含めると100種以上もある。阪倉(注22)は助詞を、それが表現する話し手の立場という観点から、次の4類型に機能分類している。

  • 一類の助詞(格助詞):事柄と事柄の間の格関係を表わす
  • 二類の助詞(接続助詞):事柄と事柄の間の論理接続関係を表わす
  • 三類の助詞(係・副助詞):事柄に対する話し手の立場を表わす
  • 四類の助詞(終助詞):話し手の感情を表わす

これらの4類型のうち、社会対人機能に最も関係しているのが四類の助詞である。それは、疑問・感動・禁止・命令などの、聞き手に対する話し手の多様な心の状態を表わすために使われる。本研究では、話し手の心の状態、特に、信念、欲望、共感感情に着目して、四類の助詞をさらに、「発話の力をもった助詞」「共感獲得表現助詞」「その他」の3つに下位分類した。ここで、発話の力(illocutionary force)をもった助詞と呼んでいるのは、禁止の「な」や、依頼の「て」、情報請求の「か」などのように、聞き手の行動に変化を引き起こすのに使われる道具性の強い終助詞のことである。一方、共感獲得表現助詞と呼んでいるのは、例えば、「おいしいね」や「取ってね」のように、柔らかく念を押して、伝えたい情報に聞き手をより自然に同調させながら、情報を相互共有したり、説得する時に使われる終助詞「ね」のことを言う。「ね」の他に、親しい間柄の会話で使用される助詞には「さ」や「よ」があるが(注27)、これらの2助詞は道具性も共感獲得性も弱いので、終助詞の「わ」や「の」などと同様に、その他へ分類した。

分析目標と作業仮説

本研究では、言語の機能と形式の間には、Tager-Flusberg(注25)が想定している以上に密接な関係があると仮定している。そのため、社会対人関係にかかわる心理機能の障害は、語用の障害としてのみならず、社会対人関係を言語表現するための語彙や文法装置の欠損や障害として確認しうるものと予想される。そこで、自閉症児には社会対人関係の言語表現の使用が乏しいことを、助詞、語彙、会話の3つの言語レベルで検討することにした。作業仮説は以下のとおりである。

1.助詞のレベル

自閉症事例は、共感獲得表現助詞「ね」の使用が欠如しているか、使用があったとしてもそれは稀である。しかし一類から三類までの助詞と、発話の力をもった四類の助詞については、自閉症事例と精神遅滞事例の間に差がない。

2.語彙のレベル

自閉症児は質問の返答に「うん」を使わないとされている10)。いま仮に返答の「うん」や、間投詞(例「ああ」)などのような、会話を維持していくために使われる非名詞系の語と、場面内指示語(例えば、「これ」のような指示代名詞類)を合わせたものを会話指向語彙と総称するならば、自閉症事例ではこの種の会話指向語彙の使用が乏しい。

3.会話のレベル

質問への応答の仕方が、自閉症事例と精神遅滞事例では異なっている。また自閉症事例は、Tager-Flusberg(注24) (注25)の結果に示されているように、共同注意請求発話が乏しい。

I. 方法

発話標本

発達障害児の発話データベースの中から、文法発達水準が比較的高い学齢前の自閉症児1名と精神遅滞児1名の発話標本を選び出して比較した。発話標本は、家庭で、養育者(母親、精神遅滞事例の場合は、一部、おばあさんを含む)と観察者をまじえた自由場面の発話を1時間テープ録音して得た。母親には、子どもができるだけことばを話すように、観察者の持参した玩具や家庭内の玩具を使って相手をしてくれるように依頼した。持参した玩具は、自動車、レゴ、絵本(乗り物、動物)、人形(クマ、ウサギ、サル)等である。観察者は、発話の文脈をノートに記録した。子どもから観察者へ働きかけがあった場合には応じた。結果的に、精神遅滞事例は観察者と遊んでもらいたがり、観察者への働きかけが中心になり、母親はそれを傍で見守る形になった。そのため、精神遅滞事例の発話の77%は観察者との発話であった。一方、自閉症事例も観察者に働きかけてきたが、観察者の関与した発話は自閉症事例の発話の30%であった(表1)。以下の分析では、養育者へ向けた発話も観察者へ向けた発話も区別しないで一括処理した。

表1. 2事例の1時間の発話の計量的特徴
測度 a) 事例(自閉症6歳) 事例(精神遅滞5歳)
平均発話長(W) 1.41文節 1.38
平均発話長(M) 2.18形態素 2.05
最長10発話平均長 6.7形態素 7.1
発話総数 580発話 530
養育者との発話量 70% 23 b)
  • a)平均発話長(W)は文節単位平均発話長、平均発話長(M)は形態素単位平均発話長のことをいう。最長10発話平均長は、発話長が上位の発話10個の形態単位での平均長のことをいう。発話総数は不明瞭発話を除外した残りの発話の数を表している。(養育者との会話と観察者との会話を合わせた発話数)。養育者との発話量は、子供の発した全発話中の何%が養育者との会話文脈で産出されたかを表わしている。なお、不明瞭発話も含めた場合の発話総数は事例A=603発話、事例B=534発話であった。
  • b)この23%の中には、一部、おばあさんとの会話も含まれている。

対象事例

2名は、多語発話が安定的に産出可能な、つまり、形態素単位の平均発話長が2.0を少し超えている事例A(自閉症6歳男児)と事例B(精神遅滞5歳男児)である。両事例は1970年代生まれで、発話採集当時、九州地方のある都市の同じ精神薄弱児通園施設に通っていた。精神発達に関してはIQ情報を得ていないために統制がはかられていないが、文法発達に関してはBrown(注6)の段階II(MLU=2.0~2.5の範囲)の初期の水準になるように統制されている。表1に示されているように、MLU、発話量などの、言語発達の巨視的指標でみると、両事例はほとんど同一の言語発達水準にあった。なお、本自閉症事例には、鉄道時刻表の駅名を正確に記憶しているなど、高機能自閉症児の特徴が見受けられた。

発話解析法

発話標本は、日本語発話解析プログラムJUPITA形式(注28) (注29)に加工されたパソコン文書である。この文書ファイルは、1時間の録音資料から聞き取り可能な発話を文字転記した発話一次資料から作成された。平均発話長の算出と助詞の解析にはJUPITAプログラムを使った。単語および形態素への発話分割法はJUPITAの「発話分割ガイド第2版」(注28)に従った。

言語測度

両事例を比較するための測度は、発話や単語を、どれほどたくさん使ったか、また、どれほどよく使ったか、の2つを基準にした。以下では、どれほどたくさん使ったかについて言及する時には、異なり数、種類数、見出し語数という3種の用語を文脈によって適宜使いわけることにする。また、どれほどよく使ったかについて言及する時には、使用頻度あるいは使用回数という用語を使うことにする。

II. 結果

1. 助詞のレベル

助詞の類型と使用頻度との関係

一類、二類、三類のレパートリーに関しては、事例間に目立った差異がなかったが、四類に関しては、自閉症事例は精神遅滞事例よりレパートリーが狭く、使用回数も少なかった(表2)。つまり、四類のうち自閉症事例に使用が認められたのは、「の/と」「よ」「て」「か」の4種で、その延べ使用回数は助詞全体の12%にすぎなかった(なお、本研究は、共通語の助詞とそれに対応する方言の助詞をひとまとめにし、例えば、「の/と」のように一つの助詞として表記し、カウントしている。自閉症事例には方言の助詞が見られなかったが、精神遅滞事例にはかなり多く見受けられた)。自閉症事例では、質問文の文末に「の」が頻繁に使われていた点(例、「行かないの?」のような「動詞+ノ?」の質問文の終助詞の多用)を除くと、四類以外の助詞が優勢であった。例えば、話題を印づける三類の「は」(例、「お部屋は?」のような「名詞+は?」形式の質問文に使われる「は」)や、格関係を印づける一類の「の」(例、「牛乳のトラック?」のような「名詞+ノ+名詞」形式の連体修飾句に使われる「の」)などが優勢であった。

一方、精神遅滞事例の場合、使用回数の多かった上位の5助詞は、全て四類に属する助詞であった(「よ/ばい」「ね」「の/と」「かな」「て」)。これら5種の延べ使用回数は、助詞全体のおよそ5割に達していた。

共感獲得表現助詞

自閉症事例には、「ね」が全く観察されなかった。一方、精神遅滞事例では、「ね」は使用頻度が第2位の助詞であった。

「ね」以外のものも含めて、発話の力の有無という観点から四類全体を見渡すと、自閉症事例には、発話の力をもった四類を使っても、発話の力をもたない四類を使わないという傾向がみられた(表2)。そこで、発話の力をもった四類と発話の力をもたない四類の相対比率が事例間で異なるかどうかをカイ自乗検定したところ、事例間に有意差が認められた(X2=86.89, p<.001, df=1)。換言すると、精神遅滞事例は、「ね」を含む四類の助詞を多用して相手(その8割弱は観察者)との親密な対話的関係を保ちながら情報をやりとりしていたのに対して、自閉症事例は相手(母親または観察者)との対話的関係の維持には言語資源を費やさず、情報や要求をストレートに表現していたと言える。

表2. 両事例の助詞の使用回数と大久保(1967)の一女児の記録件数

助詞

本調査

大久保の女児

自閉事例

遅滞事例

1歳台a)

2歳台

第一類
に(行先・相手) -b) 11 13 163
で(道具・場所) 2 9 4 55
の(所有・修飾句)c) 78 8 19 199
を(対象) - 4 5 30
が(行為者・主語) 6 2 4 167
と(仲間) - 3 4 116
から(開始点・源泉) 1 1 - 2
まで(終点) - 1 - 3
へ(方向) 1 - 1 3

第二類


て/で(継起)d) 4 17 36 248
と(並木) 1


から(継続) 1


第三類
は(主題) 204 12 44 96
も(同類) - 7 8 79
だけ(限定) 2 - 2 11
第四類
よ/ばい(親密) 3/- 29/6 65 186
ね(共感)e) - 25 44 292
の/と(中文) - 2/20 111f) 343f)
かな(ほのめかし) - 20 1 1
な(詠嘆) - 7 - 6
もん(残念/不満) - 4 7 23
から/けん(決意) - 1/3 8 54
って(引用) - 2 16 22
ぞ(強調) - 3 1 1
第四類

の/と(質問) 32/- - -f) -f)

て(依頼)

6 18 65 113
か/とか(疑問) 3/- 4/3 2 21
延べ数 344 225 463 2284

2. 単語のレベル

まず、語の意味内容を無視し、使用回数にだけ注目して、単語使用パターンを比較する。自閉症事例の異なり語数は213語で、その平均使用回数は3.9回(SD=7.11, 範囲=1~67回)であった。一方、精神遅滞の事例の異なり語数は195語で、その平均使用回数は3.7回(SD=7.18, 範囲=1~79回)であった。また両事例とも、単語の使用回数は、1時間の標本で1回ないし2回使われた単語が最も多く、それらの単語を合わせた数は、二人とも、異なり語全体の約65%を占めていた。そして、3回以上使われた単語は急速にその数が減る傾向があり、10回以上使われた使用回数の多い単語が10数語から20数語みられた。このように、使用回数別の単語の度数分布は両事例とも非常によく似ていた。結局、語の意味内容を無視した比較法では、延べ数からみても、異なり数からみても、両事例の単語使用状況に実質的な差はなかった。自閉症事例の方が、約10%ほど延べ使用語数が多かった分だけ、異なり語数が多かったにすぎない。しかしながら、使われた単語の意味内容に着目すると、事例間には以下のような大きな違いがあった。

使用回数の多い単語の特徴

話し手が繰り返し使う単語は、一般にいって、言語活動の中で重要な機能を担っているので、使用頻度の高い語の内容を検討することにした。1時間に10回以上使われた高頻度語に注目すると、自閉症事例ではその大部分が名詞、動詞、形容詞などのような具体的な意味内容をもった単語であった(23語中の22語)。例えば、それは、「電車」「行く」「鹿児島」「日本石油」などのような、本事例のよく知っている鉄道やミニカーに関係した単語であった。これとは対照的に、精神遅滞事例の場合、高頻度語の約3分の2(14語中10語)は、「うん」「はい」「ああ」などのような、対話的関係を維持調整するための会話維持機能語であったり、「これ」のような、会話場面にある実際の対象物を直示するのに使われる代名詞類であった。このように、高頻度語の中身は、事例間で著しく異なっていた。

対象物指向語彙と会話指向語彙

高頻度語に見られた特徴が語彙全体にもあてはまるかどうかを確認するため、使われた全ての単語を、(a)対象物指向語彙、(b)会話指向語彙、(c)その他に類別して検討した(表3)。ここで対象物指向語彙と呼んでいるのは、非有生の対象物をさし示す名詞類(例、「電車」)のことをいう。名詞であっても、人を表わす名詞(例、「先生」)は、動詞、形容詞などとともに「その他」に分類された。また、会話指向語彙とは、挨拶の語(例「ごめんください」)、応対や返答に使われる語(例「うん」)、場面内指示語(例、「これ」「それ」「あれ」)、間投詞(例、「ほら」)、やりもらい動作語(例、「やる」「どうぞ」)などの語をいう。

自閉症事例の場合、全発言の50%強を対象物指向語彙が占め、会話指向語彙は全発言のわずか4%にすぎなかった。会話指向語彙の中では、「これ」など場面内指示語が最も多く使われ、会話指向語彙の延べ使用回数の約半分を占めていた。このほかには、「お帰り」のような日課の挨拶のことばや、物を受け取る時の「はい」などが含まれていた。一方、精神遅滞事例の場合は、全発言の約40%を会話指向語彙が占めていた。精神遅滞事例の場合、語彙(異なり語の集合)の20%弱しか占めていない会話指向語彙を繰り返し多用することによって、会話の約40%をまかなっていた。その反対に、対象物指向語彙は異なり語彙の約25%を占めているにもかかわらず繰り返し使われる回数が少なかったため、実際の会話にそれが出現する比率は10%台まで下がっていた。

以上のように、単語のレベルにおいても、助詞のレベルで確認されたのと同様に、自閉症事例は実質的な情報内容を指向した会話を行ない、精神遅滞事例は会話的関係の維持を指向し、場面に密着した会話を行なっている、という特徴が認められた。

表3. 対象物指向語彙と会話指向語彙の比率 a)(1時間標本)
単位水準 事例A 事例B
対象物指向 会話指向 対象物指向 会話指向
出現延べ語数 b) 55% 4 12% 42
見出し語数 c) 56 5 26 16
  • a)比率は、出現延べ語数を母数とした場合の百分率と、見出し語数を母数とした場合の百分率を表している。語彙は、対象物指向語彙と会話指向語彙、その他に大別され、表中には前の2タイプの比率だけが記載してある。対象物指向語彙とは対象物を指し示す語彙のことをいう。会話指向語彙は、挨拶の語、応答に使われる語、場面内指示語(「これ」「それ」「あれ」)、間投詞、やりもらい動詞からなる。その他には、人を表す語、形容詞、副詞、動詞、疑問詞、擬声語が含まれる。
  • b)事例Aの出現延べ語数は822語、事例Bの出現延べ語数は735語。
  • c)事例Aの見出し語数は213語、事例Bの見出し語数は195語。

3. 会話のレベル

まず最初に、先行研究で自閉症言語の特徴の一つとされている質問の返答に「うん」を使わないこと(注10)が本研究の自閉症事例にもあてはまるかどうかを確かめることにする。自閉症事例には「うん」の使用が観察されなかった。なお、本研究では肯定の返答「うん」とみなさなかったが、本自閉症事例には、「うーん」に似た返答の言葉とも発声とも解釈できるものが、相手から命令、勧誘、質問が出された時に各1回ずつ観察された。一方、精神遅滞事例には「うん」の使用が高頻度に(83回)観察された。この精神遅滞事例が「うん」を使っていたのは、(1)質問に返答する時と、(2)相手の発言を受け入れ同調する時であった。精神遅滞事例のばあい「うん」は、それが生起した機会の54%は、言語応答することが義務的に要求されている場面で生起し、残り46%は、言語応答を返すことが必ずしも義務的に要請されていない場面で、例えば「動かないね」のような共感的発話や、「船作ってみようか」のような勧誘発話に対する応答として生起していた。

質問への応答

一般的に言って、言語応答を返すことを最も求められている場面は、相手から質問が発せられた時である。そこで、大人からの質問を次の3タイプに分けて、それに対する応答を事例間で比較したが表4である。

  1. Yes-No型質問
    母親:止まる?
    子供:止まる。
  2. Wh型質問
    母親:何 作るの?
    子供:時計。
  3. 明確化請求型質問
    子供:お部屋 作って。
    母親:ええ?
    子供:お部屋。
表4. 3種の質問に対する応答の出現率
応答の型 質問の型
Yes-No型 Wh型 明確化請求
自閉
64件
遅滞
71件
自閉
97件
遅滞
40件
自閉
52件
遅滞
20件
適切 5% a) 15% 36% 60% 4% 25%
質問語句の模倣 36 28 3 10 2 0
無応答 52 10 59 28 21 45
うん 0 46 - b) - - -
自己反復 - - - - 69 15
その他 c) 8 0 2 3 4 15
  • a)出現率のトータルは四捨五入のせいで、100%にならない場合がある。
  • b)-印は該当する応答が存在しないことを表している。
  • c)その他の不適切な応答と不明な応答が含まれる。

まず第一にわかった点は、自閉症事例に肯定の返答「うん」が観察されなかったのは、Yes-No型の質問が本児に向けて発せられなかったからではないという点である。つまり、自閉症事例は、遅滞事例にくらべるとやや少なかったが、それでも64回のYes-No型質問を向けられていた。自閉症事例がYes-No型質問に対して見せた反応で最も多かったのは無応答であった(Yes-No型質問機会の52%に無応答)。そして、Yes-No型質問に応答を返すことができた時にはその大半(応答を返した機会の約70%、全Yes-No型質問機会の36%)をおうむ返し型の応答でおこなっていた。なお、おうむ返し応答とは、質問文の全部または一部を摸唱して返答した応答のことを言う。一方、精神遅滞児にも、おうむ返し型応答が少なからず(全Yes-No型質問の28%)観察されたが、自閉症事例と違って、無応答が少なく、おうむ返し型応答の出現率を上回る機会に肯定的返事「うん」を返していた(Yes-No型質問が出された機会の46%に「うん」を使って応答していた)。このため、精神遅滞事例の場合、おうむ返し型応答が少なからずあったにもかかわらず、それが目立ちにくくなっていた。

次に、Wh型質問への反応を見ると、自閉症事例の場合、無応答はYes-No型の時よりも少し多めの約60%だった。しかし応答できた機会の約90%は、請求された答を適切に返すことができた(全Wh型質問機会の36%に適切に応答)。Wh型質問に対しては、Yes-No型の時と違って、おうむ返し型応答がほとんど出現しなかった。

明確化請求型の質問に対して自閉症事例は、約70%の機会において、自身の先行発話に含まれていた語句の一部を再度発話することによって、求められた情報を適切に返すことができていた。一方、精神遅滞事例は、明確化請求に対して無応答でいる比率がかなり高く、明確化請求に対する定型化した応答様式が自閉症事例ほど確立していなかった。

共同注意請求発話

「ほら!」「見て!」などのような、自分が関心を寄せている対象に相手の注意を向けさせる役目をする共同注意請求発話は、精神遅滞事例には延べ19回(1000発話当たりの出現率に換算し直すと35.9発話)観察されたが、自閉症事例には全く観察されなかった。ただし、物の受け取り行動に伴う「はい」の使用が模倣で1回、自発で1回の計2回(1000発話当りの換算出現率=3.4発話)が自閉症事例に観察された。一方、精神遅滞事例には、物の差し出し行動を始めとした相手への非言語的な働きかけに伴う「はい」や「やるよ」などの発話が延べ6回(1000発話当たりの換算出現率=11.3発話)観察された。

III. 考察

予想したとおり、助詞レベルでは、共感獲得表現助詞「ね」は自閉症事例にまったく観察されず、精神遅滞事例には高頻度に観察された。また、自閉症事例では、四類の助詞(終助詞)の使用頻度が少なく、その多様性も少なかった。共感獲得に関係しない助詞については、事例間に目立った差異がなかった。語彙レベルでは、対話調整機能をになう会話指向語彙を精神遅滞事例が多用していたのに対して、自閉症事例はその使用が極めて少なかった。会話指向語彙が精神遅滞事例に優勢だったことは、「うん」「これ」「はい」の3語が6歳ダウン症児の会話言語に優勢なことを明らかにした綿巻・西村・原(注31)の結果や、ダウン症児は指示代名詞などの閉クラスの語類にたよったことばを使い、自閉症児は、逆に、名詞類にたよったことばを使っていることを明らかにしたTager-Flusberg, Calkins, Nolin, Baumberger, Anderson, & Chadwick-Dias(注26)の結果によく合致している。また、会話レベルでは、Yes-No型の質問に対するおうむ返し応答(注10)、特定の話題内容や質問の頻繁な繰り返し(注7)、 共同注意請求発話の欠如(注23) (注24)などの、これまでに報告されている自閉症特有の言語特徴が本自閉症事例に見受けられた。要約すると、本自閉症事例には、共感獲得表現助詞「ね」という日本語固有の文法機能語の欠如が確認されると同時に、従来の研究で既に明らかにされ、日本語以外の他言語にもみられる普遍性の高い自閉症言語特徴が存在していることが確認された。以下では、自閉症の一次障害という観点から、共感獲得助詞の欠如について論じる。

共感獲得助詞の欠如と自閉症の一次障害

近年、自閉症を、他者と関心や信念を共有することの障害としてモデル化する考えが広まりつつある。これは、自閉症の一次障害を心の理論の障害とする考え(注12) (注13)を発展させたもので、自閉症児には健常発達で9か月頃に発現する非言語の共同注意行為や、2歳台に獲得される心の状態を表わす語や概念の発達に障害があることが明らかにされている(注5) (注14) (注23) (注24)。こうした自閉症児言語研究の流れとは独立に、日本語研究では、最近、助詞「ね」が対話参加者間の情報共有や情報マッチングに貢献しているという仮説を支持する言語直観的な証拠や、成人を対象にした実験的証拠が集められてきている(注11) (注15)。情報共有や共感という観点から「ね」の発達とその障害を扱った研究はまだないが、本研究では、成人言語の場合と同様に、子どもにおいても認知的あるいは情緒的意味情報を相手と共有するために「ね」が使われると考えている。

個体発生的にみると、本自閉症事例に欠如していた「ね」は、健常児や非自閉精神遅滞児が助詞類の中で最も早期に獲得する助詞である。例えば、大久保(注16)の調査した一健常女児では、「ね」は18~24か月の間に発現し、この時期では、同じく四類に属する「の」に次いで優勢に使われている(表2参照)。この女児の場合、一歳台は四類の助詞が優勢で、その後、2歳になってから一類の助詞(格助詞)の使用が増加している。また、精神遅滞に分類されるダウン症児では、この健常女児とほぼ同じ順序で、まず二語発話初期段階(MLU=1.5以下の段階)に「ね」を含む四類の助詞が使用され、その後(MLU=1.5~2.0の段階)に一類の助詞が使用され始めることを綿巻・西村・原(注30)が報告している。これらのことからは、通常の言語発達コースでは、MLUが2.0を超え、しかも「の」「で」「が」を始めとする一類の助詞の使用があった場合は、これらの一類の助詞よりも早期に獲得される「ね」の使用があるのは当然だと期待される。これまでの先行研究では、社会性の障害が行動面に現われるのは2歳頃から(もっと早い場合には1歳頃から)だとされているが(注20)、本研究の自閉症事例に認められた助詞「ね」の欠如は、健常な発達で1歳終わりから2歳初めにかけて発現してくるはずの社会性にかかわる障害がまさに言語面に現われた結果であると考えられる。

本研究は同一個人における助詞発達経過を縦断追跡した研究ではないので、以下の推論は今後の検証に待たなければならないが、自閉症児の助詞獲得プロセスは、他者との情報共有や共感的関係を成立させ、調節する機能をもった助詞「ね」が未獲得のままに残された状態で、共感獲得に関与しない他の助詞類が獲得されていくという経過をたどるのでないかと推測される。

心の理論の先行物としての助詞「ね」

心の状態には「信念」や「欲望」のなど多様な状態があるが、自閉症を心の理論の障害とみる仮説では、特に、信念の発達に注目している。例えば、Baron-Cohen(注5)は、信念の発達段階を、共同注意の理解(その達成年齢は、健常児9か月、自閉症児4歳)→信念の理解(健常児4歳、自閉症児9歳)→信念の信念の理解(健常児7歳、自閉症児の場合成人期に可能かどうかは不明)の3段階にモデル化している。このモデルでは、心の理論の障害が言語面に最初に現われるのは、信念の理解が可能になる4歳である。しかし最近ではTager-Flusberg(注24)が、健常発達のもっと低年齢段階で発現し、しかも心の理論に関係している言語表現の一つである共同注意請求発話(例えば、Look at this!)が自閉症児にほとんど見受けられないことを明らかにしている。つまり、文法能力の発達が進みMLUが2.0を超えると、ダウン症児では共同注意請求発話の自発使用が増える(それ以前の1000発話当り6ないし7発話の状態から約15発話に増加する)にもかかわらず、自閉症児は著しく少ない(1000発話当り約1発話の)状態に留まりつづけることを明らかにしている。本研究においても、「ほら、見て!」などの共同注意請求発話は、精神遅滞事例の場合1000発話当り35.9発話(1時間の発話標本での実数は19発話)ほど見受けられたが、自閉症事例には見受けられなかった。日本語発達に関して参考となる先行研究がないために、「ね」の発現と共同注意請求発話の発現の発達順序関係を断定することは困難だが、本研究の結果からは、「ね」は、共同注意請求発話とともに、Baron-Cohen(注5)の信念発達モデルで健常発達における9か月の前言語的共同注意と4歳の信念理解との間のミッシングリンクとなっている部分を埋める言語的先行物(precursor)にあたると解釈できる。つまり、助詞「ね」の使用開始は、心の理論の言語的先行物のうちで、最も早く発現する言語先行物の一つであると考えてよいであろう。

対人的意味作用の障害

本研究の考えでは、言語活動とは、意味作用を原動力とする言語記号の選択・統合過程である。現実の発話の産出過程は、認知的意味(話し手の認知した世界、例えば、対象物や出来事に関する意味内容を表現する働き)、対人的意味(話し手と聞き手との間に社会・情緒的な関係を成立させたり調整する働き)、実利的意味(聞き手に向けて発話することをとおして世界を変容させる働き、例えば、物やサービス、情報を手に入れる働き)を重ね合わせて発話を組み立てていく動的過程である。共感獲得に関係しない助詞、つまり、発話の力をもった道具性の強い四類の助詞や、認知的意味を表現する一類から三類までの助詞の使用には大きな欠如がないにもかかわらず、共感獲得表現助詞「ね」が観察されなかったことは、自閉症児にとって、対人的意味を表現することが認知的意味や実利的意味を表現することにくらべて特別に困難な領域であることを意味している。自閉症の子どもや大人とのコミュニケーションにおいて重要なのは、意味作用全般ではなく、ある特定の意味作用に限って困難があるということを理解してあげることではないだろうか。

今日まで、自閉症児における社会性、例えば社会的引きこもりは、言語や認知にくらべ、加齢にともなう改善が期待される領域だとされてきた(注21)。現に、本研究の自閉症事例は、明確化請求質問に対しては精神遅滞事例よりも確実によく応答でき、また、Wh型の質問への約半数には応答しなくても、応答を返すときには約9割は適切に応答できるなど、かなり高い応答スキルを見せていた。また、「くださーい(ごめんくださいの意味)」などの日課の挨拶や、相手から物を受け取るときの「はい」など、毎日の生活に密着し、しかも、行動にはっきり現われるタイプの応対行動に付随する発話は観察された。しかし応答性とは異なる社会性の一つである共感性に関しては、従来の研究が自閉症の回復例にもその困難や障害の残存が認められる(注18) (注19)としているように、本自閉症事例でも、助詞「ね」や共同注意請求発話の欠如から、他者との情報共有や共感に困難のあることが示唆された。

今後の課題

本研究は、対象児数も、発話場面も限られており、助詞獲得経過を追跡する縦断観察ではないなどの限界をもっている。そのため、自閉症児の助詞の獲得経過が健常児やダウン症児と質的に異なるか、つまり、助詞「ね」を未獲得のまま他の助詞獲得が前進するか、という問題に答えるための十分な証拠を得たわけではない。しかし、文法発達がBrown(注6)の段階IIにある比較的文法発達の良好な自閉症事例に関する本研究の結果は、助詞の獲得が同一自閉症児内でどのように推移するか、また、助詞使用が他者との関係のとり方の困難の度合いやその改善とどのように関係しているか、さらには、場面や文脈が助詞使用にどのように影響するか、などの今後検討すべき新しい問題を提起している。

最後に、自閉症児の社会性の発達に関しては、まだ十分な知見が得られておらず、今後、その概念(例えば、応答性、共感性、役割理解、など)とその測定法が洗練されなくてはならない。日本語の助詞はその数が限定されており、しかも、その機能と形式の対応関係がかなり明確な言語要素である。このような利点をもった助詞の獲得や使用の状況を明らかにすることは、ことばの話せる自閉症の子どもや成人の社会対人的意味世界やコミュニケーションに高い客観性をもって接近することを可能にするだろう。助詞研究は、将来、社会性と認知の発達、あるいは、その障害を理解するための有力な手段になるものと期待される。

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Lack of the particle-ne in conversation by a child with autism: A case study

Toru Watamaki
Institute for Developmental Research,
Aichi Human Service Center

Japanese people often add the particle-ne at the end of their sentences as they talk, to make the listener feel as if they share similar interest in the topic that the speakers are addressing. We hypothesized that children with autism do not use this suffix at all, or even if they do, use it very infrequently due to their inability to share information with others, in contrast to normally developing children, who typically start using this element of sentence around the age between 18 and 24 months.

We compared a one-hour speech sample of a six-year old boy with autism with that of a five-year old boy with mental retardation, who were matched on mean length of utterance in morphemes (MLU) about 2.05, or early Stage II in Brown's (1973) terms. As expected, the child with autism did not produce the -ne, while the MLU-matched child with mental retardation frequently used the particle. Moreover, the child with autism produced fewer diversity of sentence-ending particles compared with the child with mental retardation.

The two youngsters showed no striking differences in the use of other particles. Findings are discussed in terms of the impairment of a "theory of mind" in autism.

Key words: autism, morphology, empathy, theory of mind

文献情報

著者:綿巻徹
題目:自閉症児における共感獲得表現助詞「ね」の使用の欠如:事例研究
雑誌名:発達障害研究(日本発達障害学会)19巻 pp.146-157
発行年:1997年8月

文献に関する問い合わせ先:
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
綿巻徹
春日井市神屋町713-8
TEL:0568-88-0811(内線3510)/ FAX:0568-88-0829