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平成6年度障害者文化芸術振興に関する実証的研究事業報告

2 地域における文化・芸術祭

平成6年度に開催された六つの文化・芸術祭の報告から、障害者の文化・芸術活動の状況を概観する。

1 アジア・太平洋とっておきの芸術祭in熊本

開催期間:1994年8月16日~9月17日

【趣旨】
 芸術文化活動とは、社会の大切なコミュニケーションメディアであり、決して優劣をもって競い合うものではなく、出会いと感動と称賛の中でお互いを暖めあい高めあうものであり、障害をもつ人・もたない人の枠を越えた感性の高まりを求めることにある。
 そこには、さまざまなジャンルの共存・共生が加味されたパフォーマンスの実現が可能となる。これこそが、「国際障害者年行動計画」が求めた「完全参加と平等」の一点であろう。
 熊本で、障害のあるなし、性別、年齢、国籍、プロ・アマの枠を越えた「バリアフリー」「スクランブル」な文化活動や芸術活動を実現するために、「アジア・太平洋とっておきの芸術祭in熊本」を開催するものである。
 またこの芸術祭は、「アジア・太平洋障害者の十年」の記念事業の一環として実施するものである。

【目的】
① 障害者の芸術家や文化団体などを発掘し、発表の場を提供することにより、障害者の芸術・文化活動を促進する。
② 障害者の芸術家や文化団体と一般の芸術家や文化団体との交流を図る中で、お互いの芸術・文化を促進しあう。
③ 「アジア・太平洋障害者の十年」の第2年度キャンペーンの一環として、アジア・太平洋9か国・地域の障害者および障害者問題に関心のある人々との交流を図りつつ、1993年10月の沖縄での国際NGO会議の決議を促進するための場とする。

○主催:アジアとっておきの芸術祭in熊本実行委員会、熊本県精神薄弱者育成会、熊本県精神薄弱者愛護協会、熊本県身体障害者福祉団体連合会
○共催:(財)日本障害者リハビリテーション協会、ベリー・スペシャル・アーツ・ジャパン

【事業概要】
 アジアとっておきの芸術祭in熊本は、1994年8月16日~9月17日、「出会い 感動inアート」をテーマに、熊本市・八代市・西合志町内の各施設を会場に開催された。本芸術祭は、展示部門とメイン行事部門とで構成されている。
○展示部門
 8月16日~9月17日。展示会場は島田美術館、熊本市福祉センター希望荘、熊本工芸会館、八代市立博物館、など17か所。陶芸、絵画、さをり織り、彫刻、写真、書道などが展示された。
○メイン行事部門
 8月27日~8月29日。会場は、熊本県立劇場、熊本県立図書館、熊本市総合女性センター、竜田市民センター、西合志町民センターなど14か所。シャンソンライブショー、うたごえライブショー、ファッションショー、人形劇、障害者理解の映画祭、「障害者の芸術活動の現状と未来」シンポジウム、アートストップ、ワークショップなどが行われた。海外からは五つの国・地域から17名が参加し、ステージ、アートストップ、ワークショップに出演した。
 このうちアートストップ、ワークショップは、8月26、27日、熊本工芸会館と希望荘で行われた。これは、大島紬、肥後手まり、さをり織り、刺し子のふきん作り、便箋を使った紙工芸、竹かご作り、手描友禅のハンカチ作り、手練り絵の実演や指導である。海外からの参加は、肢体不自由者による油絵、グラスウィービング、聴覚障害者による似顔絵、クッキー作り、ストリング・ペインティングの講習であった。これらには、子どもからお年寄り、障害者の親子など多くの人が参加して芸術に親しんだ。
 このほかに協賛の部として、「第5回熊本・第5回全九州・第3回国際さをり織り教育研究会」「子どもおもしろ村」「熊本県視覚連青年部ミュージックフォーユー'94」が熊本市内で開催された。

【事業の成果】
 アジア・太平洋各国の障害者や指導者との交流、県内外の障害者アーティストと一般のアーティストとの交流が始まった。
 県内外の障害者の芸術・文化活動への参加が促進され、継続的な取り組みのきっかけとなった。
 マスコミを通じて、障害者の芸術・文化活動への理解がより一層深まった。

2 アジア・太平洋とっておきの芸術祭inふくやま

開催期間:1994年12月~1995年2月

【趣旨】
 芸術文化活動とは、特に障害をもつ人たちの芸術文化活動とは、「社会の大切なコミュニケーションメディア」であり、決して優劣をもって競い合うものではなく、出会いと感動と賞賛の中でお互いに暖め合い高め合うものであり、また、障害をもつ人・もたない人の枠を越えた感性の高まりを求めることにあると考える。そこには、さまざまなジャンルの共存・共生をも加味したパフォーマンス(表現)の実現が可能となり、これこそ「国際障害者年行動計画」が求めた「完全参加と平等」の一点であろうと思われる。
 この福山を起点に広島県にも、障害のあるなし、年齢、性別、国籍、アマ・プロの枠を越えた「バリアフリー(境目のない)」「スクランブル(混ざり合った)」な文化活動や芸術活動を実現するために、「アジア・太平洋とっておきの芸術祭inふくやま」を開催し、このことにより「アート」を仲立ちとした多くの人たちのネットワークが構築され、誰もが参加できる楽しく新しい文化が誕生することを期待するものである。
 また、この芸術祭は、「アジア・太平洋障害者の十年」の記念事業の一環として実施するものである。

【目的】
① 障害をもつ芸術家や文化団体を発掘し、発表の場を提供することにより、障害をもつ人たちの芸術・文化活動を促進する。
② 障害をもつ芸術家や文化団体と一般の芸術家や文化団体との交流を図る中で、お互いの芸術・文化活動を促進し合う。
③ 「アジア・太平洋障害者の十年」の第2年度キャンペーンの一環として、アジア・太平洋各地域からの作品を招聘し、地域、国勢を超えた文化交流の基盤を構築する。
④ 新障害者の十年と明るい街づくりに向けて、障害をもつ子どもたちと青年との交流を実現し、新しい福祉の街づくりを促進する。

○主催:アジア・太平洋とっておきの芸術祭inふくやま実行委員会
○共催:(財)日本障害者リハビリテーション協会、(財)ふくやま芸術文化振興財団(ふくやま美術館、ふくやま芸術文化ホール・リーデンローズ)、福山文化連盟/日本障害者芸術文化協会、VSAJ(ベリー・スペシャル・アーツ・ジャパン)

【事業概要】
 ふくやま芸術祭(アジア・太平洋とっておきの芸術祭inふくやま)は、「アジア・太平洋障害者の十年」記念事業として、「出会い 感動inアート」をテーマに、1994年12月から1995年2月にわたって行われた。
 これは展示部門とステージ部門に分かれており、「センス・オブ・ワンダー・アーツ&クラフツ展」と題する展示部門は、94年12月13日から18日までの間、ふくやま美術館において、「コミュジケイションライブinふくやま」と題するステージ部門は、95年2月25日にリーデンローズ(ふくやま芸術文化ホール)において行われた。
○展示部門
 「センス・オブ・ワンダー・アーツ&クラフツ展」
 1994年12月13日~18日、ふくやま美術館
 [作品展示]ふくやま美術館のホールおよびギャラリーにおいて、アジア・太平洋6か国および広島県内・外から、絵画・陶・織り・書・彫刻・押し花などが展示された。
 [アートストップ]ふくやま美術館講義室およびデッサン室において、書・さをり織り・ペインティングのワークショップが行われた。
 [インスタレーション]福山城天守閣をさをり織りの作品によって演出する野外展示。
 [展示場演奏会]ふくやま美術館ホールにおいて「雲きれて陽のひかり」と題する土笛の演奏と語り。
 [展示場講演会]ふくやま美術館ホールにおいて、「LOVE is art」をテーマに、知的障害をもつ勤労少年たちの音楽活動「楽団あぶあぶあ」を主催する束野洋子氏による講演。
 [フィルムライプラリー]ギャラリーにおいて、「うれしく生きるアーティストたちその自己実現」をテーマに、障害をもちながら芸術・文化活動を行う人々を紹介するビデオの上映。紹介されたのは、脳性まひなどの重度障害をもつデザイン画家、知的障害をもつ青少年らによる楽団、ダウン症の画家、知的障害をもつ印象手織作家、養護学校でミュージカルに取り組むダウン症や自閉症の青年たちの創作活動である。
 [フォーラム]「ARTSareforALL(芸術文化にへだたりはない)」というテーマのフォーラム。
  コーディネーター:播磨靖夫(たんぽぽの家理事長)
  提言者:はたよしこ(絵本作家)、赤木博典(ふくやま美術館館長)、束野洋子(聖母被昇天短期大学講師)、清水啓一(善人工房)、岩井奈穂美(わたぼうし語り部座座長)、半田まゆみ(ヘアーメディアプロデューサー)
○ステージ部門
 「コミュジケイションライブinふくやま」
 1995年2月25日、リーデンローズ(ふくやま芸術文化ホール)
 第1部「凄いやつらのライブコンサート」
  六方ミューズアンサンブルによる器楽演奏、全国のさをり仲間による自作自演のさをり織りファッションショー、ゼノ少年牧場のグループによるゼノ喜楽太鼓、島根県桑の木園のグループによる石見神楽、阪神間八つの養護学校中高生によるオリジナルミュージカル「ライブミュージカルLOVE」など。
 第2部「コミュジケイションライブinふくやまwith桑名正博」
  桑名正博、シャンテ(視覚障害者と手話ボーカルのロックバンド)、フォークグループ赤とんぼ

【事業の成果】
 本企画ステージ部門開催直前に兵庫県南部大震災が起き、中止または延期も余儀なくされるところであったが、被災地からの参加予定者たちから、ぜひ計画通り出演したいとの意向が伝えられ、開催を決断することができた。1992年に大阪から始まった「とっておきの芸術祭」は、3年を経て平和都市を任ずる福山市で開催され、「分け隔てのない文化」を希求しながらも健常といわれる人々を中心に動いている中に障害の有無を超えた芸術文化活動の一石を投じたことは非常に意義深い。
 本企画の実施にあたり、官・民の両面から支援を仰ぐため実行委員会を構成したが、特に福山文化連盟の支援を受けることができたため、地方における文化活動の中に、障害をもつ人たちの文化活動を新しいテーマとして位置づけるきっかけができたと言える。
 また、芸術祭実施のために協力してくれるボランティアを募る必要があったが、「福祉ボランティア」のイメージが強いと、一部の人たちによる「関係者の関係者による関係者のための行事」となりがちであり、若者の参加も期待できない。「バリアフリーの芸術祭」実現のために、若者、特に高校生の参加を得ることを重要な目標として、「アート・ボランティア」を公募することとした。これに応募してきたボランティアは、2度の研修の後、自分たちで企画したスケジュールによって活動し、芸術展・ライブの準備や当日の役割を果たすことができた。また、ライブ当日は、アート・ボランティアが主体となって他の福祉ボランティアを巻き込み、120名を超えるボランティアが来場者や出演者・係員への気配りを見せたことは特筆に値する。
 本芸術祭は、障害者の作品発表の場としながらも、障害をもった人々の芸術活動をどのように考え、どのように進めればよいか、障害者問題をどのようにとらえるべきかという思想の追求をねらいとする側面があった。これを踏まえ、障害者の芸術・文化活動への今後の取り組みについては、以下の取り組みが必要と言える。
① 障害をもった人々が、文化活動の大切さを自ら認め、自ら参加し、体験し、学び、そして他者の創造的活動に触れることのできる機会をつくること。
② 障害をもった人々が文化活動ができるように、場づくり、資金づくりなどの条件をつくること。
③ 障害をもった人々の文化的活動を通して、人々の交流・相互理解・共生の場をつくること。
④ 障害者の芸術文化活動についての啓発活動に努め、障害者問題の正しい認識と諸施策をつくること。

3 京都障害者芸術祭

開催期間:1994年10月11日~17日

【趣旨】
 芸術祭文化活動は、社会の大切なコミュニケーション・メディアであり、決して優劣をもって競い合うものではなく、出会いと共感の中でお互いを高め合い祝福し合うものであるという観点から、障害の有無にかかわらず、ともに個性を生かし合う場を創設することを目的とする。
 1992年大阪で開催された「とっておきの芸術祭」、続く東京での「国民会議芸術祭」、沖縄、神戸、大阪での芸術祭などの、一連の障害をもつ人たちの芸術を広く紹介する芸術祭に参加した経験を踏まえながら、障害をもつ人、もたない人の枠を越えた「バリアフリー」「スクランブル」な社会の実現への提言をも視野に入れての企画運営を行い、芸術祭としてのより一層の充実を図る。
 1200年の長い歴史の中、常に日本の芸術文化の中心として進取の気性に富み、新しい文化を創造し続けてきた京都において芸術祭を開催することで、京都が障害者芸術の新しい発信基地となり、共生の社会の一歩を踏み出すことを望むものである。

○主催:建都1200年記念京都障害者芸術祭実行委員会、(財)日本障害者リハビリテーション協会
○共催:ベリー・スペシャル・アーツ・ジャパン
○後援:京都府、京都新聞社会福祉事業団、京都市

【事業概要】
 「京都障害者芸術祭 とっておきの芸術祭in京都」は、「バリアフリー(境界を越える)時代の出会い・感動inアート」をテーマに、1994年10月11日~17日、京都市全国都市緑化きょうとフェア梅小路会場において行われた。本芸術祭は、展示の部、環境造形の部、実演の部、舞台の部の4部門から構成されている。
○展示(エキシビジョン)の部
 10月11日~17日 ふれあい館・緑のギャラリー
 障害をもつ作家、また彼らの制作に影響を受けた作家による諸作品の展示。アジア・太平洋地域の障害者の作品、および各地域での活動の紹介。出品作品は、絵画、さをり織り、陶芸、オブジェ。海外からは、オーストラリアとカナダから絵画、台湾から書の出品があった。
○環境造形(インスタレーション)の部
 10月16日 芝生広場
 障害をもつ作家による、さをり織り作品の立体展示および野染め。障害者創作の作品(主に平面)を、京都在住の若手アーティストや会場来場者の手で、野外に立体的環境展示を行う。
○実演(ワークショップ)の部
 10月15日~10月17日 花縁日・みどりの工房
 京都・大阪府下の障害者施設で、さをり織りに取り組む人たちによる一般来場者への手織りの実演指導。障害者、健常者の枠を越えて、共同作業によって作品を作り上げる。または、お互いに学びあい個性を引き出すアート・プログラムの来場者参加による実演。
○舞台(ステージ・パフォーマンス)の部
 10月16日 芝生広場・みどりのステージ
 器楽演奏、日本舞踊、舞踏およびファッションショー。
 ペルー人からなるフォルクローレグループ「ブカソンコ」の演奏、天鼓による和太鼓と伊瑳谷門取による舞踏のセッション、視覚障害者と手話ヴォーカルのロックバンド「シャンテ」の演奏。ファッションショーは、「ダンス&ウォーク」と題して、知的障害をもつ人たちのダンスチーム「のぞみ」他の出演によるダンスパフォーマンスに続いて、「シャンテ」の演奏をバックに、京都・滋賀の施設の園生が中心となって、さをり織りのファッションを披露した。

【事業の成果】
 参観者は約11万8000人。緑化フェアの会場内での開催であったため、障害者および関係者だけの集まりとは違い、参観者は全く予備知識を持たない一般市民がほとんどであったので、感動も新鮮で互いに共感するところが大きかったといえる。
 一般の市民が、障害をもつ人々の芸術を通しての出会いで共感し合い、お互いを高め合うことができる良い機会となった。これにより、京都における障害者芸術の定着という所期の目的が達せられたと言える。その後も、京都における講習会開催要請など、引き続き自由な芸術活動に関する関心が高まっている。

4 障害者と共に創る文化活動ワークショップ

開催期間:1995年2月3日~5日

【趣旨】
 障害者も健常者と同様に、毎日の暮らしの中に多様な芸術・文化活動を根づかせ、いきいきとした潤いのある生活を追求する権利を持っている。しかし、障害者の生活における芸術・文化の色彩は必ずしも十分とはいえないのが現状である。
 そこで、このワークショップでは、障害者の芸術・文化活動を実践あるいは支援している各地の活動家たちの交流の場をつくり、それぞれの成果と問題点を発表しあい、意見交換を行おうとするものである。あわせて、専門講師を招いての体験型ワークショップ、さらに各現場での実践家を招いて芸術・文化を鑑賞する場をつくり、障害者の芸術・文化活動支援者としての素養を高める機会とする。

○参加者:障害者の芸術・文化活動を支援する者(40名)
○主催:(財)日本障害者リハビリテーション協会、全国身体障害者総合福祉センター
○後援:(財)日本レクリエーション協会
○協力:(株)ミューズ・カンパニー

【事業概要】
 「障害者と共に創る文化活動ワークショップ」は、1995年2月3日~2月5日の3日間、東京都にある全国身体障害者総合福祉センター(戸山サンライズ)において行われた。
 障害者が日常の生活の中で芸術・文化活動を豊かに楽しむためには、どんなプログラムが適切か、またその実施にあたってはいかなる支援活動が必要かを明らかにするためのモデル事業として、この「障害者と共に創る文化活動ワークショップ」を2泊3日の日程で企画し、全国から参加者を募った。最近の障害者の文化活動についての関心の高まりを反映してか、幸いに定員を上回る応募者があり、ワークショップは盛会裡に終えることができた。
 今回のワークショップの内容は、障害を克服しつつ創造活動に打ち込んでいる実践家によるシンポジウム、リズム表現・言葉と身振り・クラフトの三つの領域での体験型ワークショップ、ユニークな芸術・文化活動の実践報告、参加者の交流会などであった。一方的な講義や発表ではなく、講師と参加者が一体となってつくりあげるプログラムであり、参加者は各講師の実践の深さと広がりを十分に味わうことができた。
○ワークショップ
 ・クラフトコース 講師:兼松ムツミ
   クラフト作品「ひーらいたひーらいた」「風とんぼ」の製作
 ・ダンスコース 講師:ケイタケイ
   紙風船を使ったダンス、即興劇の創作および発表、講師によるダンスパフォーマンス、ダンスの創作と発表
 ・ことばあそびコース 講師:波瀬満子
   50音表を使ったことばあそび・身体表現、「あいうえお体操」
○シンポジウム「障害者の自立・社会参加と芸術文化活動」
  シンポジスト:庄崎隆志・南浩一、コーディネーター:薗田碩哉
  「デフ・パペット・シアター・ひとみ」代表の庄崎氏による公演活動の紹介と指のパフォーマンス。コンピューターグラフィックス・アーティスト南氏によるビデオを上映しながらのコンピューターグラフィックスの世界の紹介。
○実践発表会
  健康体操における自己表現の試み 発表者:長尾正子
  藍染作品を世界に届ける「藍工房」 発表者:竹ノ内睦子

【事業の成果】
 この事業を通して、次のような点で障害者の文化振興のための新しい観点と方策とを得ることができた。
① 障害者独自の文化創造の可能性を発見した。障害者の芸術・文化は、健常者より一段劣るものという偏見に対して、障害そのものが一つの「個性」として働き、健常者と比肩しうる独特の表現や芸術的な進化を生み出す可能性があることが見出された。それは、健常者を含めて文化創造の全体を豊かにするものである。
② 健常者と障害者の間にある障壁を取り払うには、芸術のもつ力が極めて大きなものであることを再確認した。美しいものを求めてさまざまな表現に挑戦することで、障害を超えた相互理解が可能になる。演劇や音楽や造形などの芸術活動を盛んにして、障害者と共に楽しむことはノーマライゼーションの重要な課題である。
③ 一方的な講習に対して、「ワークショップ」形式の有効性を確認した。参加者の体験学習を重視することで、短い時間を有効に使った内容のある研修を行うことができる。この方法は、スポーツやレクリエーションの講習会にも応用できる。
 また、このワークショップの内容をもとに、障害者の芸術・文化活動の多様な進め方と支援の方法を整理した「障害者の文化活動サポートブック」を編集した。

5 障害者の芸術・文化史展

開催期間:1994年12月7目~11日、12月15目~16日

【趣旨】
 日本文化、特に芸能文化の創造・普及・伝承の各分野にわたっての障害者の果たした功績の大きさは、「日本障害者文化史絵巻」やビデオ「ゑびす曼陀羅」によって明らかにされてきたが、それはまだその一端を示したに過ぎず、今後さらに補足・充実する必要がある。また、世界各地に存在する障害者に関わる神話の共通性から、全人類的な対障害者観を探り、その相違点から各民族のアイデンティティをつかみ取るなど、今後、障害者問題のグローバルな意義を問いたいと考える。
 また、半世紀にわたる活動を積み重ねてきた身体障害者の同人誌『しののめ』は、CPを主とした在宅重度障害者の生活・生涯の実態の記録であり、福祉の対象としての立場から見た社会の変遷を示すものといえる。この『しののめ』の活動をパネル展示するとともに、戦後文学に現れた障害者像をテーマにパネル展示し、個々の作家の障害者観およびその創作の背後にある社会全般の障害者観の変遷を示そうとするものである。

○主催:障害者の芸術を顕彰する会
○共催:(財)日本障害者リハビリテーション協会

【事業概要】
 シンポジウム「ゑびす曼陀羅-障害者、神話・伝承世界に出会う」の開催および障害者の芸術・文化史展「障害者と文学の50年--しののめの半世紀」として、パネル展示を行った。
○シンボジウム「ゑびす曼陀羅-障害者、神話・伝承世界に出会う」
 1994年12月7日、戸山サンライズ(全国身体障害者総合福祉センター)
 シンポジスト:花田春兆(作家・俳人)、松岡正剛(編集工学研究所所長)、田中優子(法政大学教授)、エバレット・ブラウン(写真家)、佐野正信(翻訳家)、内田勝久(鍼灸師)
 障害者の文化のルーツを物語や歴史の中から探り出し、それが現代にどういう意味を持ち、どう役立てていけるかを考える。
 アジアの障害者の十年、ひいては世界の障害者の十年を考えるに当たり、その共通なコミュニケーションとして人々の深層にある神話や民話にスポットをあてる。
○障害者の芸術・文化史展「障害者と文学の50年--しののめの半世紀」
 1994年12月8日~11日、束京都障害者福祉会館(「フェスティバル94しょうかん」における展示)
 1994年12月15日~16日、名古屋国際会議場(リハビリテーション会議における展示)
 以下のテーマで40枚のパネル展示を行った。
 「しののめの人と作品」
 「戦後の文学作品にあらわれた障害者」
 「三つのテーマに挑むとき」
  安楽死といわれた障害児殺人、障害者はさらに障害を負う、障害者問題啓発の道程

 戦後50年を迎え、一つの節目として新たな歩みを起こすためにも、過去半世紀にわたる歴史の再検討が各方面でなされようとしている。
 身体障害者の同人誌『しののめ』は、終戦の翌々年に出発した。発刊100号を迎え、満たないとはいえほぼ半世紀の歩みを経たことになる。書き継ぎ積み重ねてきた誌面の記録は、そのままCPを主とした在宅重度身体障害者の生活・障害の実態の記録であり、福祉の対象としての立場から見た社会の変遷を示すものである。この『しののめ』を、略年表(4枚)、主要同人(8枚)、二つの特集(各1枚)にまとめて紹介した。
 『しののめ』は、東京都立光明学校の文学好きの卒業生らによって回覧誌として発足した。特集のテーマは、教育問題、養護学校、就職、結婚、家庭など障害児者問題の本質を問う根本的な社会問題の提起であった。特に、福祉制度が未成熟だった60年代前半、親による重度障害児殺害事件が相次いだとき、世論は親に対して同情的であり、罪があるのは障害者福祉に怠慢な行政当局だという考えが主流といえた。『しののめ』は、安楽死を特集テーマに取り上げ、これを「親による殺人」といい、重度の障害児の命を親だからといって奪うのは問違いなく罪であるという立場を示した。『しののめ』が、時代を先取りした形で問題提起をし続けてきたことが、その特集のテーマを見ることでも明らかになるだろう。
 これとあわせて、「戦後50年、文学に見る障害者像」をテーマにパネル展示を行った。これは、松本清張『或る「小倉日記」伝』、三島由紀夫の『金閣寺』に始まって宮尾登美子の『蔵』に至るまで、一作家一作を原則に、障害者を主人公、もしくは主要人物とした20数編を綴ったものである。対象となった障害は、肢体・視力・聴覚ばかりでなく、知的障害・精神障害と広く求められており、また、同時代人に限らず歴史的人物にも及んでいる。ただし、あくまでも文学的に評価を得たものに限り、障害者自身の作品でも単なる自分史的なものは省いた。これらは文学作品である以上、個々の作家の障害者観の結晶には違いない。さらに、それらを通してその背後にある社会全般の障害者観の変遷をも窺えるだろう。
 パネル展示はおおむね好評であり、成果物である展示パネルを利用して、今後も機会を得て展示を開催していくことが考えられる。また、同一テーマによる冊子の刊行も考えられる。

★しののめ特集年表

年月日 号数 しののめ誌・内容その他
昭和22年5月 創刊号 ◇束京都立光明学校(現・都立光明養護学校)の文学好きの卒業生、花田政国/土居正己/鈴木淑人/高山久子/石橋玲二/橋本佐紀子/渡久子/比奈地桂子/黒田純子/宮本佳二の9名で発足。同じものを3部書いて回覧した。
       ? 第2号 ◇回覧誌時代のものは散逸してしまったものが多く、記録も不完全なためにとびとびにしか分からない。
昭和23年5月 第3号
      12月 第4号
昭和24年5月 第5号 ◆特輯・肢体不自由者の声
       ? 第6号
       ? 第7号
       ? 第8号
昭和25年7月 第9号 ◆特輯・小児マヒ教育への希望
      10月 第10号 ◆特輯・社会から見られた我々 ◆表紙彩色・鶯亭金升
       ? 第11号
昭和26年4月 第12号 ◆特輯・家庭に望むこと
      7月 第13号 ◆往復書簡特輯
       ? 第14号
      12月 第15号 ◆往復書簡 ◆音楽の話題
昭和27年4月 第16号 ◆特輯・男と女
      7月 第17号 ◆特輯・自己紹介と友人短評/悪口と八つ当たり ◇この頃より光明学校出身以外のメンバーが増え始める。
      10月 第18号 ◆特輯・不具者としての差恥心をどう克服するか
昭和28年2月 第19号 ◆差恥心について ◆音楽の話題
      4月 第20号 ◆特輯・我々の青春とは
      7月 第21号 ◆再び差恥心について ◆音楽の話題
      8月 東雲抄 ◇創刊号から第20号までの作品の中から抜粋し、筆耕謄写刷りしたもの。
      11月 第22号 ◇多様な内容の評論と作品集
昭和29年1月 第23号 ◆松川事件判決をめぐって ◆音楽の話題
      4月 第24号 ◆特輯・往復書簡(テーマ・肢体不自由者としての意識について)
      7月 第25号 ◆特輯・生と死の問題
      10月 第26号 ◆自由テーマ創作集 ◇別冊を発行(石橋作品ほか)
      12月 第27号 ◆東雲賞候補の発表 ◆自由テーマ創作集
昭和30年3月 第28号
      7月 第29号 ◆巻頭言・田中澄江 ◇この号より筆耕謄写刷りとなり回覧ではなく会員配布となる。印刷部数60部
      12月 第30号 ◇この頃より社会的広がりをもち、問題意識をもった文が多くなる。
昭和31年5月 第31号 ◆巻頭言・賀川豊彦
      11月 第32号 ◆巻頭言・田中澄江 ◇中央公論の「地下水」欄に取り上げられる。
昭和32年4月 第33号 ◆自由テーマ創作集
      9月 第34号 ◆創刊10周年記念企画として、外部の人たちとの往復書簡を特輯。
昭和33年3月 第35号 ◆表紙絵・鈴木信太郎 ◇表紙題字がこの号より「東雲」から「しののめ」に変わる。
      7月 第36号 ◆特輯・教育 ◇肢体不自由者のこの教育特輯は大きな反響を呼ぶ。
昭和34年1月 第37号 ◆特輯・作中文学を探る=(文学の中に表れた障害者について考察)
      5月 第38号 ◇長編の大作ものが活況を呈す。
      10月 第39号 ◆収容施設の問題についての座談会記録
昭和35年4月 第40号 ◆40号記念特輯 ◇この号より筆耕謄写印刷からタイプ印刷になる。
      7月 第41号 ◆児童心理学の波多野勤子を光明養護学校に招いて行われた「講演と座談の会」記録を掲載。
      10月 第42号 ◆朝日新聞論説委員の白石凡が「しののめ」の中島静枝から聴いた話を基に8月21日の新聞紙上に書いた、障害者の年金、職業、施設、コロニー等の問題を論じた「生への尊厳」を巻頭に転載している。
昭和36年2月 第43号 ◆特輯・重障者収容施設
      4月 第44号 ◆特輯・詩歌特輯
      10月 第45号 ◆特輯・身体障害者雇用促進法をめぐって
昭和37年1月 第46号
      4月 第47号 ◆特輯・安楽死をめぐって ◇この特輯は社会的に大きな反響を呼び朝日、毎日の大新聞をはじめ週刊誌などにも取り上げられる。
      9月 第48号
昭和38年1月 第49号 ◆特輯・芽生えの頃 ◆巻頭言と表紙絵・武者小路実篤
      6月 第50号 ◆特輯・国立身障者更生センター問題
      10月 第51号 ◇特に50号記念特輯はなし。
昭和39年1月 第52号 ◆序文・中村草田男
      6月 第53号 ◆特輯・えんぴつを握り始める頃
      10月 第54号 ◆特輯・ある日の日記 ◆巻頭言・城戸礼
昭和40年1月 第55号 ◆特輯・思春期特輯
      6月 第56号 ◆特輯・青春期〔1〕 ◆巻頭言・田中澄江
      11月 第57号 ◆特輯・青春期〔2〕
昭和41年1月 第58号 ◆巻頭言・白石凡「生への畏敬」
      5月 特別号 ◇20年を迎えた一つの成果として、詩、短歌、俳句の総合的な詩歌集“詞華集「あしおと」”を出版。社会的好評を得る。
      7月 第59号
      12月 第60号 ◆特輯・“詞華集「あしおと」”出版記念パーティ報告
昭和42年6月 第61号 ◆特輯・身障者実態調査(会員45人分)報告を掲載
      12月 第62号 ◆特輯・家族
昭和43年7月 第63号 ◆特輯・8月15日 ◆巻頭言・松田道雄
      12月 第64号 ◆特輯・人と作品
昭和44年6月 第65号 ◆特輯・在宅身障者
      11月 第66号 ◆特輯・①在宅身障者(2) ②人と作品(2)
昭和45年1月 第67号 ◆特輯・走る福祉展しののめ号
      6月 第68号 ◆特輯・身障福祉審議会に関連して
      10月 第69号 ◆特輯・①1970年代と私 ②自選作品集
      12月 第70号 ◆巻頭言・田中澄江
昭和46年6月 第71号 ◇身障者定期刊行物協会の設立により、題字「しののめ」の前にSSKの文字を入れることになる。
      9月 第72号 ◆特輯・高崎国立コロニー見学
      11月 第73号 ◆特輯・車いす
      11月 増刊1 ◎脳性マヒの本(A5判70頁)
昭和47年5月 第74号 ◆特輯・雑文 ◆巻頭言・木村禧八郎
      10月 第75号 ◆特輯・①25周年記念集会 ②再び安楽死をめぐって
昭和48年2月 第76号 ◆特輯・①適職 ②電話
      3月 増刊2 ◎「強いられる安楽死」(A5判60頁)
      7月 第77号 ◆特輯・人と作品 ◇花田春兆・光明養護学校・同窓会機関誌「迎光」の編集を始める。
昭和49年1月 第78号 ◆特輯・教育
      2月 増刊3 ◎「東京の肢体不自由教育」
      8月 第79号 ◆特輯・①医療 ②電動タイプライター
昭和50年2月 第80号 ◆特輯・①著書と著者 ②電動車いす ◇在宅身障者問題を考える会に参加
      3月 増刊4 ◎「自助具百科」
      11月 第81号 ◆特輯・放送と身障者
昭和51年9月 第82号 ◆特輯・身障者と家族
昭和52年3月 増刊5 ◎「家族・教育・障害児」
      7月 第83号 ◆特輯・身障者と家族その2
昭和53年3月 増刊6 ◎「しののめ身障30年史」=しののめの歩みを軸に戦後の身障者関係の歴史を広く収集記述したもの。(A5判126頁)
      10月 第84号 ◆特輯・しののめと私 ◇創刊以来編集に携わっていた花田春兆が山北厚と編集長を交替する。
昭和54年3月 増刊7 ◎「養護学校義務化ガイド」(A5判114頁)
      11月 第85号 ◆特輯・①「身障30年史」を読んで ②養護学校義務化をめぐって
昭和55年3月 増刊8 ◎「電動タイプライターと電動車いす」(A5判52頁) O増刊はこの号で終わる。
      6月 第86号 ◆特輯・①追悼 中曽根久米雄 ②新年会講演記録「近代文学の歩み」久保田正文
昭和57年4月 第87号 ◆特輯・国際障害者年 ◇前号から2年近く間があいたのは、主に財政的な理由による。
昭和58年5月 第88号 ◆特輯・困っていること、困ること
      11月 第89号 ◆特輯・心に残っている本 ◇総評から20万円の寄付が寄せられる。
◇朝日新聞厚生文化事業団より電動車いす2台貸与。
昭和59年10月 第90号 ◆特輯・自分の生きがい ◆表紙絵・土子雅明 ◇会員の数は300名だが会費納入が少なく財政は苦しい。
昭和60年6月 第91号 ◆特輯・待たせられる事、待たされる事(身障者ゆえに待たされる事が多い、ということで)
昭和61年1月 第92号 ◆特輯・わたしの社会参加
      8月 第93号 ◆特輯・最近読んだ本 ◆特別企画・問答有用(あることについて二人の人が問答したもの)
昭和62年5月 第94号 ◆特輯・①「障害者の日」に何を……②新年会講演記録・『真の社会参加と平等とは』坂巻煕
昭和63年6月 第95号 ◆特輯・しののめ40周年
平成元年4月 第96号 ◆特輯・障害者と高齢化社会
平成2年5月 第97号 ◆特輯・私の観た障害者史(それぞれが身近に見て来た障害者、及びそれを取り巻く物の移り変わり)
平成3年5月 第98号 ◆特輯・気兼ねすること、されること(障害者ゆえの気兼ね等)
平成4年3月 第99号 ◆特輯・故人への報告、問いかけ(物故した会友への……)
平成4年10月 第100号 ◆特輯・100号記念

6 鎌倉 手で見る芸術祭

開催期間:1995年3月15日~19日

【趣旨】
 触覚による芸術鑑賞について、一般市民や美術館等に理解を深めてもらい、視覚障害者が容易に美術品等を鑑賞できるように、「手で見る」ための理論と方法を探求することを目的として「手で見る芸術祭」を開催した。

○主催:財団法人日本リハビリテーション協会、視覚障害者芸術活動委員会、神奈川県視覚障害者生活技術研究協議会、手で見るギャラリーTOM
○後援:鎌倉市、鎌倉市社会福祉協議会、社会福祉・医療事業団、株式会社テレビ朝日、神奈川新聞社

【事業概要】
 「鎌倉 手で見る芸術祭」として、1995年3月15日~19日まで鎌倉市中央公民館ギャラリーにおいて「手で見る美術展」を、3月16日に鎌倉市中央公民館ホールにおいてシンポジウム「ふれて 造って 鑑賞して」を行った。また、視覚障害者用タクチュアル・マップ「かまくら」を製作、配布した。
○「手で見る美術展」
 1995年3月15日~19日、鎌倉市中央公民館ギャラリー
 触るという鑑賞の仕方があるということ、視覚障害があっても造形ができるということを多くの人に知ってもらうことをねらいとして開催した。桑山賀行(日展、日彫展審査員)、藤井龍徳、いずれも視覚障害者の金原倫雄、宮内勝の作品をはじめとし、ギャラリーTOM所蔵のTOM賞受賞作品、神奈川県近代美術館所蔵の作品など計23点の展示を行った。
 視覚障害者にはコーディネーターが付き添い、希望する目の見える人にはアイマスクを着用してもらい、手で鑑賞してもらった。ギャラリー内では、テレビ朝日制作の「命の詩片」(宮内勝のドキュメンタリー作品)の上映を行った。また、こめ本会場の他に、神奈川県立近代美術館において3作品が手で鑑賞された。来館者数は延べ600人。
○シンポジウム「ふれて 造って 鑑賞して」
 1995年3月16日、鎌倉中央公民館ホール
 シンポジスト:ホエール・コーベスト(国立パリ科学産業博物館視覚障害アクセス部門主任)、猿渡紀代子(横浜美術館学芸員)、宮内勝(国立塩原視力障害センター教官)
 司会:直居鉄(白梅短期大学講師)
 土笛演奏家柴田毅の語りと縄文笛演奏の後、上記テーマでシンポジウムを行った。
以下は各氏の発言の要旨から。
 ホエール・コーベスト氏:パリ科学産業博物館では、手で触れられる展示会をできるだけ行うようにしており、できない場合は作品の実物の他に手で触れられる模造品を作って展示するようにしている。視覚障害者は、社会的、文化的に触るということを制限されているが、触覚により造形の喜びを感じたり、美を鑑賞することができる。
 宮内勝氏:ギャラリーTOMの展示などを通じて触覚と造形に興味を持ち、視覚を失った者にとって触覚がいかに重要であるかを認識して、実際に自分のブロンズ像を製作した。氏は造形的な物を造るという行為によって、自己の存在を確認することができた。
 猿渡紀代子氏:美術館の学芸員は、美術館のコレクションを作ることとそれをできるだけ長く保存することが仕事であるが、これは、できるだけ多くの人に作品を鑑賞してもらうということと矛盾する。しかし現在、美術館が目が見える人たちだけのものではないという考え方、美術館と視覚障害者との間に橋をかけようという活動が着実に広がっている。彫刻に触れるということは、視覚障害をもつ人だけに必要なのではなく、晴眼者にとっても、視覚だけに頼ることによって失っているものが大きいということに気づくきっかけになるだろう。
○視覚障害者用タクチュアル・マップ「かまくら」
 これは、鎌倉駅、鎌倉市中央公民館、神奈川県近代美術館などの入った触地図に、点字の解説を付けたものである。これを製作し、本芸術祭開催のギャラリー、シンポジウムに来場した視覚障害者に配布するとともに、主に神奈川県下の視覚障害者に配付した。

◎視覚障害者用タクチュアル・マップ「かまくら」
視覚障害者用タクチュアル・マップ「かまくら」の写真


主題・副題:障害者文化芸術振興に関する実証的研究事業報告書 平成6年度