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平成6年度障害者文化芸術振興に関する実証的研究事業報告

 5 美術指導の考え方

美術教師が目指すべき最も重要なゴールは、さまざまな形、アイディア、素材、技術を使っていろいろと試みている創造力ある人たちの成長を支援することである。学生にとって芸術とは、楽しく、自由で、興味をそそるものでなくてはならない。表現力が大切で、技術的な能力は二の次である。学生が達成感を感じなくてはならない。作品は作った学生自身にとって大切なものであるし、また他の人にとっても意義あるものだと彼は感じているはずだ。
 芸術は、学生が何を必要としているか、どんな生い立ち、経験をしているか、どんな肉体的、民族的特性を持っているか、育った土地の文化的特質、使える資金、教師陣の専門的知識等によってさまざまである。芸術センターはその教授法において非常に柔軟性を持っているが、やはり特定の方針を外すことはできない。

 美術教師の信条

 美術教師の主な役割は、学生にやる気を起こさせ、何かを創造したいという欲求を彼らの中に植え付けることである。自分たちの感情や考え、イメージといったものを表現できる状況下で、われわれ誰もが持つ興奮を自由に解放してやる手助けをするのが教師なのだ。教師の良し悪しは学生たちが作品の制作に没頭しているか、もっと続けたいという気持ちに駆られるかどうかによって判断される。このようにして真に成長していく。正直さ、パワー、高潔な気持ちを通して出来上がった学生の作品が、技術的には非の打ちどころがないと思われる教師の作品を超えることはしばしばある。
 どんなに学生の作品が未熟なものであっても、たとえ単なる落書き程度のものであっても、学生自身のペースで作業させるべきだ。学生たちの多くは、落書きの段階さえも経験したことがないので、そういう段階を通る機会を与えられなければならない。そうして、さらなる成長がある。もし学生の中に落書きの段階をまったく越えられない、しかし自分の作業に熱中している子がいたら、教師はこの表現法を快く受け入れなければならない。このことは、教師が学生に提案をしてはいけないということではなく、学生を無理矢理教師の言葉に従わせたり、学生の芸術的試みを軽く見てはいけないということだ。
 各学生の作品はまさに学生自身の作り上げたものである。作品が教師との共同作業だということを学生が理解している場合でなければ、教師は学生の作品にいっさい手を貸してはならない。
 学生たちは表現の手段や主題を選択できる。教師は学生の視野を広めるのに主題や表現方法に関してアドバイスはできるが、決して学生を従わせてはならない。芸術作品は学生自身が創作したオリジナルなものでなくてはならない。また、教師は、学生が模写したり、まねたり、描き写したりできる絵や彫像の見本などを絶対与えてはならない。作品は簡単に出来上がるが、これでは学生の創造欲を満たさないし、芸術的能力を発達させることはできない。
 学生は自分の能力を最大限に使って創作することを学ばねばならない。芸術とは競い合うものではないので、教師が誰かの作品を掲げて、学生たちが一生懸命取り組んでいる作品のモデルにするようなことをしてはならない。また、誰かの作品が誰のものより良いとか悪いとか言うべきではない。他人と比較することは最も避けなければならないことだ。
 教師が学生の作品に対して前向きなアプローチをし、批評をするときは、建設的なものでなくてはならない。否定的なコメントをするときは、必ずどうすればよくなるかを提案したり、うまくできているところも同時にほめなくてはならない。
 学生は芸術に関して独自の判断ができるようになるべきだ。常に教師は学生の創造力を損なわないように、逆に伸ばしていくことに努めなければならない。決して学生の創造性をさしおいて、自分の創造欲を優先させてはならない。また、学生を、教師や他の学生や他の何かをまねることに頼らせてはならない。
 教師は、学生の新しい挑戦を励まし、その際生じる技術的問題の解決を支援すべきだ。しかし、もし学生のやろうとすることがあまりにも難しすぎる場合は、学生が挫折する前に取り除いてやらなくてはならない。大切なことは高度な技術を持つ職人を育てることではなく、創造力ある人材を育てることなのだ。
 芸術作品を作ったり、美的問題点を解決する方法はいくつもある。教師は、自分のやり方だけが正しいとは決して思ってはならない。
 学生には失敗したり、やり直す権利があるのだ。

 芸術家兼美術教師の言葉

 半世紀にわたって教鞭を執ってきて、芸術というようなものは、教わることのできるものではないが、意義ある表現形式に目と心を開くためにできることはたくさんある、と私は信じている。教えることで、人が洞察したものを表に出して再現するための意欲のお膳立てをすることはできる。
--Josef Alvers
 芸術を教えることはできても芸術家を作り上げることはできない。

 人は学問的な教育について語るが、言えることは、“学問”は私の芸術生活にほとんど何の意味も持たなかったということだ。
--Hans Hoffman

 私は学問的教育を受けた。勉強し、モデルを見て絵を描いた。こういったことが大切なことなのかどうか私にはわからない。あなたが学んだことで、芸術の道を進むにつれて排除していかねばならないものが数多くある。私はたまたま描くことが好きだった。私は私の受けた教育がどれほど役に立ったか定かではない。おそらくあなたが本当にやらなければならないことは、あなた自身について充分に知ることである。結局、あなたが最終的にすることは、決意だけなのだから。もし、誰かが私に、40歳になったら君は白黒だけで絵を描いているだろう、と言っても私は信じなかっただろう。こういうことはゆっくりとやってくるものだ。
--Franz Kline

 落書きやうわごとは、心や感情の直接的な表現方法であるが、より完成された形の芸術的表現というものは、個性の強い人物に影響を受けやすい。この影響を受けて、技術的には高度なレベルにまで成長するが、たとえ技術的に完成されたものであっても、製作者の内面の精神や感情というものを全く伴っていないかもしれない。
--Victor Lowenfeld

 6 創造芸術センターのアートスタジオ

創造芸術センターがどのように運営されているかを説明するために、芸術センターの機能の一つであるアートスタジオについて説明しよう。スタジオは中低所得者層の住む住宅地域に隣接し、芸術センターの総敷地面積約2650㎡のうち約1220㎡を占めている。隣には公園があり、日当たり、風通しがよく、多少建て込んではいるものの快適な場所に位置している。建物にはスロープが取り付けられており、物理的、建築構造的に障害者の行動を妨げるものはなく、また、スタジオへは公共交通機関が利用できる。
 毎日6時間授業を受ける学生がほとんどだが、なかには週2~3日だけ別のプログラムに出席する人もいる。カリキュラムは各個人の要望や必要性に応じて、個別に柔軟性を持って組まれている。スタジオはオープンスタジオで、学生はそれぞれ自分のペースで自分の作りたいものを作っていく。ここでは絵画、コラージュ、彫刻、粘土塑像、版画、織物などたくさんのことが体験できる。また、あるときには教師が同行して、博物館、美術館、芸術家のスタジオ、スケッチ旅行といった野外学習に出かけることもある。見学者、ボランティア、研修生、大学生は授業を見学したり、授業に参加することができる。

 クリエイティブ アートスタジオでのある生徒の一日

 デイビッドは、自宅から2回公共交通機関を乗り継いでスタジオに来ることを学習した。朝9時30分に着いて、出席簿に名前を書く。彼の字は読みづらいものだが、スタッフにはわかるようになった。彼は自分のコートを掛け、弁当をしまい、スモックを羽織る。美術教師が1時間前から来て、テンペラ絵具、水彩絵具、カラーペン、彫像、版画の材料などの準備をしている。こういったものは教室の周りのテーブルの上に置かれ、また、各サイズ、各色の紙がキャビネットに入っていてすぐに取り出せるようになっている。
 デイビットは自分のやりたいことを自分で決める。彼の創作意欲を湧かせるものは、目の前にある素材かもしれないし、スタジオに来る途中に見た何かのイメージかもしれないし、また、夢や空想であるかもしれない。彼は新しい作品のアイディアを持っているかもしれないし、作りかけの作品の制作を続けるのかもしれない。席は決まっていないので、どこで作業するのかも自分で決める。今朝は、やりかけの絵に取りかかることにした。
 彼は自分の絵をすぐに見つけだせなかったので、教師がたくさんある描きかけの絵の中から探し出すのを手伝った。彼は自分の絵を取り出し、あたりを見回して隣に座りたい友だちを見つける。その友だちの座っているテーブルへと向かい、画用紙を置く。部屋を歩き回って必要な絵具と絵筆を見つけ、テーブルに置く。準備OKだ。
 デイビッドは絵に集中していて、手を休めたのは午前のジュース休憩のときだけだった。教師は時折足を止め、彼に話しかける。教師はアドバイスはするが指示に従わせることはしない。教師のアドバイスどおりにするか自分のやり方でいくかは、デイビッド自身が決める。昼食の少し前に彼は絵を描きあげた。彼は教師に絵を見てくれるように頼む。教師は絵に対するアドバイスを与え、デイビッドは細かい部分の手直しをすることにした。満足のいくように完成すると、彼は絵を乾燥用のラックに置く。一人ではできないので、教師が名前と日付を書き込むのを手伝う。
 次に彼は、粘土台へ行くことにする。粘土をバットに入れたところで昼食の時間になった。弁当を持って、みんなが食べているところへ行く。コーヒーとジュースは用意されている。彼の昼食は簡単なサンドイッチだ。このことをスタッフは覚えておいて、あとでデイビッドと彼の作業に関するスタッフミーティングで掲示することにする。
 デイビッドは昼食を15分で終えて、美術の本や雑誌を見ることにする。今日は片づけの当番ではないので、ほかの学生が昼食を終えると、公園に行って昼休みが終わるまでみんなとボール蹴りをして遊ぶ。
 昼休みが終わると、彼は粘土台に戻り、頭の形を作り始める。作った形に鼻をくっつけるのに苦労して、彼は教師のところに行って問題を指し示す。教師は自分の粘土を持ってきて、くっつけるための切り目の入れ方やへらの使い方を彼に見せる。デイビッドは練習して教師の指導のもとでやり方を習得すると、自分の彫像に戻り、習ったばかりの知識を試してみる。はじめは満足のいく出来ではなかったので、もう一度やり直す。少したってから、教師は彼がどんなふうにやっているかを見にきて、もっとうまくいく方法を教えてみせる。一人のボランティアがデイビッドのやっていることに興味を示し、自分の粘土を持ってきて彼の隣に座る。彼らは新たな発見を共有している。教師は、得意気に習ったことを披露しているデイビッドに近づき、話しかけようと立ち止まるが、彼は頭の部分を作り続けている。
 3時半少し前、片づけの時間になった。デイビッドは頭の部分に湿った布をかけ、制作中の粘土作品が置いてあるところへ持っていく。明日続きをやれる。彼は使っていた台をきれいにして、道具を片づける。自分のスモックを掛けてあいさつをし、一日を終わる。
 ここに描かれたデイビッドは、自分のことは自分でできる、自分で意志決定をし、一人で乗り物に乗れる、充実感溢れる興味深い人物になっている。彼は援助や批評を適切な方法で求めたり受け入れることができ、自分の作業に完全に没頭している。芸術家として一人でやっていくことができる。しかし、もともとこういう状態だったわけではない。何年も施設に収容された後、デイビッドが初めてこのセンターに来たときは、一人ではどこにも行けなかった。名前をはっきりと言うこともできなかった。はっきりとどこへ行って何をするのかを言ってもらわないと、ただ部屋の隅に立っておどおどしているだけだった。まだまだ困難なことはたくさんあるが、彼は今や幸せで信頼できる人物であり、有望な芸術家である。何がこうした大きな変化をもたらしたのだろう。
 視覚芸術の多様な分野で、彼はすばらしい才能を持っているが、才能がすぐに表れてきたわけではなかった。彼の初めての絵は、子どもじみた、想像力に欠ける、まるでぬり絵本に描いてあるような絵だった。おそらく施設で、何時間もぬり絵をしていたのだろう。彼の絵の主題は、かぼちゃ、四つ葉のクローバー、ミッキーマウス、バグスバニーの絵だった。
 しかし、徐々に作品が変わっていった。センターへ来る途中に見える丘、山々、建物や彼が知っている人たちが絵の中に現れ始めた。部屋の隅でおどおどしている時間が少なくなり、作品に没頭している時間が増えていった。もはや、どこへ行って何をするかなんて指示される必要はなくなった。創作作業を通して、新たな発達が始まったのだ。彼は粘土細工を始めた。最初は素朴な形、続いてセンター内の人物をびっくりするほどうまく作った。彼は白黒の絵を描くことを覚え、何時間もカレンダーや出版物のデザインをした。ある芸術家が織物の実地講習にやって来ると、デイビッドはすぐにやり始めた。壁掛けをデザインし、細かい職人技能を持って完成させ、それを売った。
 彼が話し始めたのは、この発達の時期である。口ごもりながらゆっくりと、間違っていることもあったが、自分の考えていることを相手に伝えることができたのだ。動揺はまったくと言っていいほど姿を消した。もはやそんなことをしている時間も必要性もなくなったのだ。
 十分な話し合いや懸念の結果、スタッフは彼がスタジオまで一人で通えると判断した。彼はバスを下車するところにあるレストランの絵や、正しい路線番号の入ったバスの絵や、朝、家を出る時刻を示した時計の絵を描くようにすすめられた。不安や失敗はあったものの、ついに彼は覚えた。今では公共交通機関を使って、スタジオだけでなくいろいろな場所へも出かけられるようになった。
 デイビッドに起こったことは珍しいことではない。多くの学生が同様の成長過程を踏んで有能な芸術家となり、認められている。芸術の創造的経験を通して、彼らは自分のことは自分で行い、乗り物に乗り、以前より流暢にしゃべり、自分がやり遂げたことに誇りを持つことを学んだ。
 彼らの行動の中にこうした変化が表れてくる。彼らは自分たちの作品を売って収入を得る。彼らは社会に貢献する一員であり、社会は彼らの努力によって心豊かなものになる。

 12 障害者のための芸術センターの開設に当たって

障害者のための芸術センターへの迅速かつ長期にわたる支援の鍵は、地域社会の活発な参加にある。ここで述べる地域社会とは、センターの近隣あるいはその地域に住んでいるか働いている、または芸術センターに特別な関心を寄せている障害者、健常者の人々で構成されるものである。この地域社会は政府機関、学校、組織団体、企業も含む。
 芸術センターを設立するためには、その地域社会の人々が障害者のための芸術センターの必要性を認識し、その設立の援助を約束しなければならない。
 彼らはすぐに障害者に対するありきたりの否定的な偏見を解消し、まわりにいる障害者を受け入れるよう手助けをしなければならないし、地域社会の活動に障害者が参加することを妨げている物理的、心理的障害を取り除かなくてはならない。

 芸術センターを始めるにあたって

 芸術センターはさまざまな方法で始めることができる。次にその2例を挙げてみる。
* ある地域では、養護学校のスクールバスの運転手が、すぐ近くの建物の階段に知恵遅れと思われる老人が座っているのに気づいた。彼女はその老人に近づき、何をしているのか尋ねた。彼は、「ここに座っているだけさ」と答えた。さらに質問してみて、彼女は彼の返答が本当のことなのだとわかった。その老人ジョセフには何もすることがなかったのだ。彼女は何度も彼に話しかけ、彼の本当にしたいことは絵を描くことだということがわかった。彼は彼女に自分が描いたスケッチを見せた。彼女は彼に質問をして、彼のために何のプログラムもないことを知った。彼女は精神衛生ソーシャルワーカーである姉に、この人にとってのニーズを話すと、姉は他の都市にある障害者のための芸術センターを訪問したことのある上司にこのことを報告した。彼は、非公式に調査をし、多くの年老いた障害者が絵を描くことに大変興味を持っているが、それに対応するプログラムが何もないことがわかった。姉は障害者のための芸術センターの設立を討議するために、画家や特別教育の教師を集めて会議を開いた。この企画がうまく進められるように、委員会が組織された。地方新聞がこの企画を取り上げ、芸術センターの設立の必要性を訴えた記事とともに、ジョセフの作品を載せた。多くの人がこの企画に参加し、障害者のための芸術センター設立は軌道に乗った。
* メアリージョーは自分の家の近くにある大規模な州立病院で、週2回絵画を教えていた。その作品のすばらしい出来栄えには誰もがびっくりした。そこの地方芸術協会は協会のギャラリーで、彼女の生徒たちの作品を展示した。彼女の生徒たちは退院すると障害者のためのワークショップに入れられたが、そこには絵画に関するプログラムがなかった。
 メアリージョーは、彼女の生徒である芸術家たちがもはや絵を描く機会がないということを憂えた。彼女は芸術家協会に所属する友人に相談した(その中には地域社会に大変影響を及ぼす人々も含まれていた)。彼らもそのような事態を憂え、彼女の生徒たちが彼らの創作活動を続けられるよう、彼女が芸術センターを設立するよう提案した。
 メアリージョーはこの提案への期待で胸が躍り、そして友人の支援を得た。芸術センターの実用性を判断したあと、グループは理事会を組織した。

 地域社会を引き入れること

 その地域社会のメンバーは幅広い支援組織としての役割を果たす。ボランティア活動、募金活動、芸術センターの広報活動、そして支援活動をすることを求められることもある。近所の人に物資の寄付やスポンサーの募金活動、イベントへの参加を依頼したり、適当な空き地を見つけて芸術センターを移転させるという援助をしたりする。
 その地域社会のメンバーは、芸術センターではいろいろな役割をすることになる。理事会のメンバーになったり、財政上・政治上の援助、該当する生徒をセンターに送るといった役割を果たす。
 理想的には、芸術センター設立以前から、その地域社会全体が積極的にかかわるべきである。しかし、こういうケースはまれである。通常、多少の関心を寄せている人、組織団体、精通している両親、そして障害者が芸術センターの必要性を感じ、支援を求め始める。問題を討議したり決定を下すために、関心を寄せている人たちが集まって定期的に会議を開くことは欠かせない。
 芸術センターを設立するということは、複雑で多くの時間のかかる作業の過程があり、さらに堅固で広範な基盤であるかどうかに左右されるので、この関心を寄せている中心メンバーは、ほかの人たちをこの計画に引き入れることを始めなければならない。地域社会が広い範囲で巻き込まれれば巻き込まれるほど、うまくいく芸術センターが設立される可能性が高いし、より長く存続する可能性も高い。この段階での重要な仕事の一つは、責任ある仕事を遂行できる能力と意欲のある movers and shakers を見つけだすことである。できるだけ早く、身近な学校、図書館、センターで必要なものや履行の討議をし、より多くの人を参加させるために公開会議が開かれるべきだ。
 これらの会議では芸術センターの理念や組織を決めることが大切だ。例えば、このセンターはどんな人たちに役立つのか。どこに建設されるべきなのか。この早い段階でいくつかのグループは失敗している。これらの問題を処理するために協力して仕事をしてきた中心グループの能力が足りなかったためである。前進するためには、これらの問題は解説されねばならない。
 いったん理念や組織についての基本的合意がなされれば、中心グループは芸術センターの最適立地場所、資金源、芸術センターの最適な宣伝活動、どんなスタッフが必要かを決定しなければならない。これらの問題の各々が複雑なので、違った見地から問題に取り組み、中心グループに報告できるような委員会をつくることが必要かもしれない。
 印刷代、郵送費、文具費、交通費、電話代というように、早急に必要とするもののために資金を集めなければならない。この資金調達方法にはさまざまなやり方があるということは、この時点でグループと一緒に仕事をした経験からわかっている。のみの市を開いたり、ケーキ販売をしたり、ディナーパーティーを開いたり、協会、社会奉仕社交団体(ロータリークラブ等)、障害者の両親や親戚といった個人に献金を頼んだりして少額の現金を集めるグループもある。映画、演劇、ピクニックといったような特別イベントを開催したりするグループもある。また友人、近所の人、家族に寄付を依頼するグループもある。
 芸術センターの設立の計画を発展させようとするこの初期段階では、地域社会全体を引き込むことが重要だ。

 理事会のメンバーを選ぶこと

 芸術センターに対する地域社会の支援や関心が一つになり始めるので、より永続的な組織が必要となる。理事会を組織するときだ。
 理事会は芸術センターの政策決定、管理機関だ。活動力があり、独創的、そして優良な組織である責任がある。理事会は新しい考えを創案し、またそれに応えなければならない。
 さらなる仕事は、組織団体の当面のそして長期の存続を確実にすることである、これは地域社会に深く根付かせ、地域社会の要請に応えることによって達成される。
 理事会のメンバーを選ぶということは、最も重要なことである。この段階では、理事会の最優先事項は芸術センターを活性化することである。理事会のメンバーを誰にするか考えるとき、心の中で一つのこと、「この人はどんな方法で芸術センターを現実のものとすることを助けてくれるのだろうか」ということを問いながら、専門知識や特質がじっくりと検討されなければならない。
 よい理事会のメンバーとしての最も大切な資質は、芸術センター設立への献身的な働きだ。彼らは障害者のための良質なプログラムを作ることの重要性を認識しなくてはならない。理事会のメンバーは快く自分の時間、才能、友人、特殊技能を組織のために役立ててくれなければならない。彼らは直接に視察をしたり、討論をしたり、文書を通じてこのプログラムの目的や運用を認識しなければならない。彼らは理事会(普通月に一度、最初はもっと頻繁に)に出席し、委員会の一員として参加し、芸術センターの計画、業務、活動の支援をすべきだ。彼らは職場、専門領域、政治、社会活動の場で、このプログラムの擁護者として行動しなければならない。彼らはこのプログラムの特質と財政を維持し、向上させることに献身しなければならない。
 理事会のメンバー候補者にする重要な条件は次のようなものである。

  • 芸術センターの本当の必要性を理解しているか。
  • 専門家として、商売上、政治上、友人としての関係を通じて資金調達を助けることが可能で実行できるか。
  • 組織に対する名声や信頼が、その人の名前によって政治的、社会的、知的、経済的に増大するか。
  • 障害者団体の代表者であるか。
  • 少数派グループを代表しているか、またはつきあいがあるか。
  • 地域社会と取り引きすることにおいて、必要とされる実用的で専門的な知識を持っているか。
  • 新しい事業を興すことに関して専門知識を持ち合わせているか。
  • いったんその事業が始められても、その組織団体に対して優れた品質管理を維持する助けになるか。

 いったん設立されれば、理事会は芸術センターへの責任を負うことになる。理事会は関心を持っている人や組織団体からなるもとのグループと、直接協力して活動を続けなければならない。仕事の進みが遅かったり、あるいは地域の人の行動が勇気づけられるものではなくても、理事会は落胆してはいけない。組織体を作る初期段階においては、このようなことは予期されることである。示すべきプログラムは何もないし、多くのことは信頼に基づいてなされるべきである。
 理事会は芸術センターの基盤となる考えを明確にしたり、センターを宣伝したり、積極的に可能性のある場所を調査したり、このプログラムを始めるための出発資金を集めたり、永続するプログラムの設立のための補助金を求める手紙を書いたり、特別イベントを計画したり、そして地域社会との連絡を保ちながら理事会のメンバーはグループの過程を発展させることになる。うまく運んだ一つひとつの歩みが、その事業に対する信頼を高める。
 組織団体の名前、住所、電話番号、理事会のメンバーや協力関係者、そして顧問グループの名前の入ったレターヘッドの付いた便せんも用意されるべきだ。非営利団体で免税されていることも記すべきだ。この便せんはこの組織団体の永続性と信頼を確立する。

 理事会の職務

▲非営利非課税法人の設立
 他にさまざまな組織が可能だが、非営利非課税法人としての芸術センターを設立することが最も現実的で一般的な方策である。これらの法人は、州、または連邦政府の法令に従って公益を図るために設立されるもので、個人的利益のために設立されるものではない。この法令により法人は、税の免除、政府の補助金または財団の補助金を得ることが可能である。また、これによって税の控除を受ける民間の寄贈者からの資産や、他の価値ある財産を受けることが可能である。寄贈者への税控除が寄付を促すことになる。
 非営利非課税法人にはさまざまな種類があるが、共通して言えることは、州の域を越えずに組織されねばならない点である。法人の目的、理事会の義務および責任、メンバー等の詳細に関する条例が整えられなければならない。
 法人化は信頼を得るための法的手段である。できるだけ速やかに完了して資金の拠出を得ることができるように、芸術センターとしての法的な責任を明らかにしなければならない。資金は監査による承認を受けなければならない。また、適切な財務記録を維持しなければならない。法人化は法的手段であるから、手続には法律の専門家がその任務に当たらなければならない。

▲芸術センターの目的を公式に表明する
 理事会はできるだけ速やかに、芸術センターの目的を公式に表明しなければならない。なぜなら目的が法人化の条項の大部分だからである。地域の支持を得るためには目的を表明しなければならない。第4章には目的の包括的なリストが掲げられている。それぞれの芸術センターは、それぞれのニーズに最もふさわしく思われる目的を選択して適用することができる。

▲サービスを受ける人を限定する
 障害をもつ人は、法的、医学的または機能的な面で限定することができる。これは、必ずしも同一に定義されるわけではない。われわれの趣旨からすれば、障害のある人とは、身体的、知的、情緒的、もしくは社会的ハンディキャップのために、通常の環境の中で標準的な機能が果たせない子どももしくは成人として定義される。いかなる共同体においても、このような障害をもつ人々が多く存在する。
 障害をもつ子どもたちのほとんどが学校に通っているため、昼間は芸術センターに通うことができない。現実的に見て、芸術センターの全日プログラムは障害をもつ成人に限られてしまう。このため、子どもや青少年に対する定時制、放課後、週末または夏期プログラムを提供することも考えられる。
 芸術センターを機能させるために理事会は、芸術センターがサービスを供与する障害者の数を限定しなければならない。これはサービスを受ける障害者の障害の程度、参加者の年齢やその他いろいろな除外要因(自分または他人に対して暴力的であるとか、失禁するとか、プログラムによる効果を得られないとか、その他理事会が定める除外基準等)を含む。

▲必要なスペースを確保し、用地を選定し、建物を取得する
 芸術センターの用地選定がセンターの成功の一つの条件である。用地を選択するにあたって、理事会は周囲および建物自体の両面を考慮しなければならない。
 芸術センターは孤立せず、しかも周囲からの脅威を受けないようにすべきである。また、アクセスは公共の輸送機関で楽に行けるところでなくてはならない。生徒たちが身体的、心理的ないじめを受ける恐れを持たずに自由に歩き回れるような環境でなければならない。近くに公園や博物館があるのが望ましい。
 たいていの場合、開始期間の間は施設を購入するより借りるほうが賢明であろう。この期間は試験的な期間でもあるため、必要なスペース、サービスを受ける生徒数、資金面のまたは地域の支援、プログラムに対する周囲の適性等に関する多くのことを調査する必要がある。建物の購入は定住への長期的見通しが立ってからでよい。
 これらを十分考慮した上で、購入することが有利かどうかを考察する。すなわち、改造する場合は一度限りですむか、組織の永続性が見通せるか、建物への資金投資が速やかに伸びるかどうか。購入した建物の改造費用が、借りた場合の改修費用よりも個人、財団または政府機関から得られやすいかどうか。
 最小限度の改修でよく使われる例としては、店舗、スーパーマーケット、自動車のショールーム、家具店、鉄道の駅等がある。施設は車いすが自由に行き来でき、すべての規程や規約、例えばゾーニング(地帯設定)、火災、健康、建築等に関するすべてのことに合格しなければならない。これらの必要条件を満たす改修が求められる。
 適さない場所としては、小さな個人住宅、2階の事務所、小部屋に分かれた病院、入口や出口が入り組んだ荒れたビル、教会の地下、汚染された地域や騒がしい場所などが挙げられる。たとえ他の部分が条件を満たしていようと、他の組織とスペースを共有するのも、優先要求等が出る恐れがあり不適切である。芸術センターは二流市民と見なされることがあってはならない。
 無料または低コストで手に入れられるスペースを探すことも考えてみる必要がある。時折、政府機関や学校等が、余ったビルやスペースを無料または低料金で貸す場合がある。不動産仲介業者や理事会のメンバーの関係者等の協力も積極的に取り入れるべきである。しかしながら、経費節減を求めるあまり芸術センターの環境へのニーズに妥協があってはならない。孤立、貧困、身体的脅威、ある一定の設置条件を満たしていない状況などは、質の高い芸術センターの運営を不可能にしてしまう。決定にはこれらの事柄を理事が慎重に調査した上で当たらなければならない。

▲芸術センターの認可を得る
 ほとんどの州では、芸術センターには操業許可が必要である。認可条件は州によって異なる。また郡や市によってさらに規定がある。スペースを確定する前に、ゾーニング、安全性、建築、トイレ設備、収容人数、火災、健康などに関する連邦、州、地方すべての認可規定を満たしているかを調査する必要がある。前もって非公式に関係機関の承認を得ることが、認可を得る際の経費、時間両面のロスを少なくする上で望ましい。
▲「シードマネー」(新しい事業を興すための資金)を準備し、運転後の資金援助のための基盤を設置する
 芸術センターを開始するためのシードマネーは理想的には公共、民間両面から調達することが望ましいが、残念ながらこれは非常にまれである。設立資金を調達することはだんだん難しくなってきている。多くのすばらしいアイディアがこの時期の資金不足で見送られてきている。しかし、いかに困難であろうと、アイディアにメリットがあれば忍耐強く協力して資金源の調査を行い、地域の広い支持を得られれば最終的には可能であろう。
 シードマネーとは何を表すのか。これは設置に実際必要な現金と、その後約3か月間または経常的な資金繰りがスタートするまでの間のプログラム遂行に要する現金のことである。設立期間の後、プログラムには経常的な収入、例えば契約金、入会金、補助金、寄付金等を得なければならない。
 開始期間のコストを、1回限りのものと経常的なものの二つに分けてリストアップしたものが次のものである。

○一時的コスト

  • 法人設立費用
  • 許認可費用(州によって異なる)
  • 改修費
  • 家具
  • 事務諸設備:タイプライター、机、いす、ファイルキャビネット、本棚、コピー機、計算機、コンピューター
  • アート設備:テーブル、いす、イーゼル、キャビネット、道具、プリント機、フレーム、マット備品、ペーパーカッター、窯、カメラ、ビデオ設備
  • キッチン設備:レンジ、冷蔵庫、キャビネット、テーブル
  • ユーティリティ設備

○経常的コスト

  • 給与:理事、美術教師、官庁、秘書、介助人、その他のスタッフ
  • 賃貸料または抵当権支払
  • 共料金:電話、ガス、電気、水道
  • スタッフの交通費:面会費、生徒募集費、会合費
  • 事務費:文具、簿記用具
  • アート用具:紙、絵の具、粘土、筆、フェルトペン、クレヨン
  • フレーム、マット備品
  • 郵送料、絵画輸送費
  • 書簡、パンフレット、ニュースレター、ギャラリー発表の印刷費
  • 家庭用品

 シードマネーの必要額はその施設の場所、建物の状態、サービスを受ける人数、スタッフの給与の地域レベル、アートセンターに関心を持つ人々等の熱意により大きく異なる。
 現時点(1989年)での平均的な額としては、生徒15人、開始期間3か月の場合で約25000ドルである(表12-1「開始期間の運営費実例」参照)。この数字は、もし無料の家具、スペース、改修、設備、ボランティアの協力等が期待できれば相当額を減らすことができる。地域によっては、地方の建設組合や軍(海軍建設部隊、ナショナル・ガード、文民保護部隊)や奉仕団体等からの協力が得られるところもある。公立の学校、大学、軍、市、郡、州、連邦政府や個人、団体からの余剰の資産を利用できることもある。

▲シードマネーはどうすれば得られるのか
 シードマネーの財源の近道は、障害者のための芸術センター設立に非常に強い関心を持つ富裕な後援者やグループを得ることであるが、これはあってもまれである。
 シードマネーを得る確実な方法というのはない。個人では自分にどの方法が最もふさわしいかを選ぶ必要がある。地方の財団やその地方、州に主に資金提供をする財団に接触する方法もある。このような財団はしばしば土地の更新や最初のプログラム開発のための開始補助金に関心を示してくれる。地方の財団は、総合的プログラムに対する年間補助金を自主的に支援するとか、最終的には継続的な援助にかかわってくれる場合がある。これら財団はほとんどの公立図書館の財団名簿で調べられる。
 地方公共団体の福祉機関の協力を得ることも可能である。特に障害者援助に力を入れている機関のいくつか、例えば脳性麻痺連盟、知能障害者協会、地方の自助センターなどと手を組むことが大切である。これらの組織からの人を理事会に加えることも考えるべきである。
 この開始期間中に計画がくじけそうになったり、将来資金がまったく得られなくなるのではないかという懸念にかられることがある。われわれの経験では、多くの善意の人々が計画を断念し、芸術センターが現実のものとなる可能性が出て再び挑戦するということがあった。今こそ理事会がプログラムを公表し、できるだけ多くの人々を仲間に入れることによって、士気を高める特別の努力をすべきである。
 現存の芸術センターと連絡を取ることが有効であることが多い。現存のセンターは記録、展示物、スライド等を提供してくれる。支援を行おうとする人々は、自分の地域の芸術センターが提供できるものは何であるかをよりよく理解するために、これらのプログラムを見学することができる。

▲将来の資金援助に向けての基盤作りをする
 シードマネー確保のための作業と経験は、継続的な資金集めの過程の一部と見るべきである。なぜなら、芸術センターの仕事を実現、発展させていくのに資金が不要になることはあり得ないからである。
 アイディアの段階では、プログラムを支援する準備ができていなかった多くの組織または個人も、現存もしくは進行中の芸術センターへの協力は惜しまないだろう。また、開始段階で支援を提供した個人や組織も、完成したセンターを見学することにより勇気づけられるであろう。継続的な支援の源として接触を図るべきであろう。
 宇宙開発のための建設基金への支援者と同様に、チャーターサポーター(契約支援者)というプログラムを設立することも可能である。

▲3か月予算
 理事会の最初の仕事は、詳細な収入、支出を予測した開始予算を作成することである(表12-1「開始期間の運営費実例」参照)。この予算はプログラムの段階や、芸術センターをスタートさせるために必要な基金を請願する上で、また組織の信頼性を確立する上で特に必要である。支出予算は現実的なものでなければならない。決して支出を誇張しすぎても小さく見積もりすぎてもいけない。経費を過大視すればプロジェクトは非現実的に思われ、過小評価すると芸術センターに余剰能力があると思われるからだ。収入予算もまた、現実かつ短期、長期両面での財源を考慮に入れたものでなければならない。
 操業開始後3か月には、最低限の費用を見積もっても給与(理事、美術教師、秘書、介護人)、運営費(家賃、電話、光熱費等の公共料金、事務設備、備品、交通費、印刷・郵便料等)がある。ある程度は寄付によってカバーできることも考えられるが、それに頼らない予算準備が必要である。

▲最初の1年間の総予算を算出する
 開始3か月の収入・支出予算と実際の操業コストを比較してみれば、通年の通常操業予算を作成することが容易になる(表12-2「生徒数30人の場合の年間予算案」参照)。支出に比べ、収入の見積は非常に難しい。資金の調査および確保が絶えず必要である。
 理事は予算を作成し、理事会に提出、承認を得るという責任がある。

▲新しい芸術センターを公表する
 身体障害者のための芸術センターを支援する人々は、意識の高い人々である。芸術センター設立の必要性と継続的な支援の必要性を、一般の人々に深く理解してもらうことが大切である。そのため、一般の人々への啓発プランを開発し、維持させる必要がある。公共の場での会合、特別イベント、研究会、新聞、雑誌、ラジオ・テレビ番組等を通じて理解を訴える。新しい芸術センターができるまで、地域の銀行や図書館、美術館、ギャラリー、公共機関や企業のビル等で展示することも一案である。地域によっては、大企業が率先して自分たちの広報スタッフの力を芸術センター公表のために提供してくれるだろう。

▲理事会は人事マニュアルを採用する
 理事会は作業図や関係機関の規約等に関する人事マニュアルを確立する。これには種々の手当、苦情処理等が含まれる。

▲理事会は理事を選出、任命する
 できるだけ早くキースタッフとして理事を選出しなければならない。理事が組織全体の性格を形成する。

▲アートセンターの理事を選出する
 理事会の主な任務は、理事会の精神と政策の遂行に直接の責任を持つ理事の任命と評定を行うことである。

 14 障害者芸術センターと芸術界

障害者芸術センターの館長と理事会は、芸術界全般の中で同センターが果たす役割の意義を理解していなければならない。

 芸術界とは何か

 芸術界は、専門的に、または余技として、芸術に携わるか、その支援を行う人々より構成されている。これに含まれるのは、

  • 美術館、ギャラリー、地域の芸術センターとその補助団体、その他芸術品を展示・販売する場
  • 芸術家
  • 地方や国の芸術組織
  • 障害者芸術家の組織
  • 大学・単科大学・高校の芸術学部
  • 美術関連の新聞、雑誌と美術評論家や執筆家
  • 芸術奨励に興味を持つ大企業、財団、民間団体、中小企業

障害者芸術センターと美術館、ギャラリー、地域の芸術センター

 障害者芸術センターと他の美術館、ギャラリー、地域の芸術センターが、緊密な関係を確立することで相互に利益が生まれる。両者には共通点が多く、共に芸術を人々の生活の中心エネルギーととらえ、一般社会での理解を拡大させ、芸術教育プログラムを実行することに貢献している。相互に理事会に代表を参入させることで、この連携は強化される。

▲障害者芸術センター側の利点

  • 各年代の偉大な芸術作品の展示は、同センターの学生及びスタッフにとって大いに刺激や知識となり、学習教材となる。
  • 他組織とのつながりは同センターの芸術分野における信用を深める。
  • 他の既存の施設に同センターの芸術家の優秀な作品を展示できるし、同センターの芸術家は、ここに短期あるいは長期の催しに参加できる。
  • 芸術と障害についての教育的展示の計画、実行ができる。
  • 障害をもつ状況に慣れ、障害者の創造性について気づいてもらうことで、同センターは、他施設のスタッフおよび講師に教育を行える。
  • 芸術と障害についての会議やワークショップに他施設からの後援を得られる。
  • 障害者向けの特別展示の準備コンサルタントとして助言ができる。
  • 同センター展示室に、健常者の芸術家の作品を展示する機会を得る。
  • 地域の芸術組織からの支援を受けられる。

▲他の芸術組織側の利点

  • 公正な環境が確立されれば、障害者という全く新しい支持層を得ることになる。
  • 障害に対する理解が生まれてスタッフの技術の広範化が図られる。スタッフ各人は障害者に対する心理的、物理的な配慮を学び、講師は障害者の尊厳についての訓練を受ける。
  • 施設への障害者のアクセスを容易にしたり、展示物に備品を取り付けたり、補助の説明を加えたり、照明をしたりして、障害者の芸術品鑑賞の必要にさらに応えやすくなる。
  • 触れる展示、視聴覚障害者優先のギャラリー、車いすからの見学用に低くしたケース、障害をもつ有名芸術家の作品展示等、美術館やギャラリーは、特殊な要求を持つ人々向けの展示に何が必要か気づくようになる。
  • 障害者芸術センターに関わる人々の作品をギャラリーに展示できる。
  • 障害者のための、または障害者による会議やワークショップを応援することで、芸術界での地位を強固にできる。

 障害者芸術センターと個人の芸術家、地方や国の組織

 多くの芸術家が障害をもつ芸術家に非常に関心を持ち、その創造性と美を評価し、健常者と障害者の違いがほとんどないと認めている。
 非障害者の芸術家も多様な方法で障害者芸術センターと関わることができる。センターでの教授、自らの作品の展示、障害者の作品を持ち帰って教え子のために展示をすることなどが可能だ。障害をもつ芸術家を弟子にしたいとか、基金集めや授業、あるいは公開講座への参加を望むかも知れない。
 実際、すべての地域には何らかの芸術協会が存在するが、その多くが自身のギャラリーを持ち、定期的に会合を持ったり、会報を出したり、展示会を催している。障害者芸術センターは、このようなグループに活発に参加したり、会員になるべきである。
 小さい地域での芸術団体は国の芸術団体ほど活動的ではないが、国の団体に加入すれば障害者芸術センターも国家的な行事に遅れることはない。国の団体は、全国の最新芸術と接触を持ち、しばしば地域の推進力の役を果たしている。国の芸術団体の会員となり、接触を持つことは有益である。

 障害者芸術センターと州芸術クラブ、全米芸術墓金およびアメリカ・ベリー・スペシャル・アーツ(VSA)

 障害者芸術センターも州芸術クラブに参加すべきである。各州芸術クラブは会報を発行しており、会報は、展示、芸術プロジェクト、芸術界の最新情報、報奨や賞の発表を行っている。障害者芸術センターは、州芸術クラブに資金援助を頼める。州によって州芸術クラブの地域活動の程度が異なるが、中には障害者の芸術プログラムを強力に支援している団体もある。
 全米芸術基金は、芸術と障害への関心を長年表明しており、その特別支援団体基金事務所は、障害者および他の特殊グループを対象とするプログラムの支援をしてきた。支援を受けたプロジェクトは、以下の通りである。

  • 障害者の芸術家の作品を展示するギャラリーの設置
  • 在住芸術家、特殊教育の教師、経営スタッフのための訓練ワークショップヘの資金援助
  • 障害者芸術センターの在住芸術家への支援
  • 異なる美術館およびギャラリーに、障害者芸術家の特別作品展を巡回展示するための援助

 アメリカ・ベリー・スペシャル・アーツは、公演芸術のためのワシントンD.C.を拠点とするジョン・F・ケネディセンターの下部組織で、創立以来、障害者芸術への理解を深めるため非常に重要な活動を行ってきた。過去の主な活動としては、全米の障害者学童向けに、あらゆるジャンルの特殊芸術祭を開催してきた。また、大人も子どもも参加できる特別プロジェクト--アメリカ芸術展、ダンスや劇の公演、出版、その他の後援をしてきた。最近その方針を幾分変化させており、国際的なプログラムの開発を進める一方、特殊芸術プログラムの開発において州が自主性を持つよう、その力を移譲し始めている。
 障害者の芸術家の作品が世界的にますます受け入れられてきており、国家レベルでの大きな支援が行われる可能性は十分にある。

 障害者芸術センターと総合大学、地域の単科大学、高校の芸術学部

 障害者芸術センターは教育機関の芸術部門とのつながりを確立すべきである。

▲障害者芸術センター側の利点

  • 多くの教師が障害者芸術センターに興味を持つようになり、学生に同センターを訪れるよう奨励できる。学生はさまざまな芸術における障害者の働きや障害者芸術センターの意義を学ぶことができる。
  • 学生の中には、障害者芸術センターでボランティアになるものもあろう。
  • 学生、とりわけ卒業生の中には、障害者芸術センターのプロジェクト--壁画、横断幕、ステンドグラスに従事する者もあろう。
  • 学生が、障害者芸術センターの野外活動や資金の調達を支援する下部組織を組織する可能性もある。

▲教育プログラムに対する利点

  • 学生は障害者の創造性について学ぶ。
  • 学生のフィールドワーク(実地見学)やインターンシップ(実習訓練)用に、よく組織されたおもしろい教育現場を確保できる。
  • 監督者、教師、美術館職員等、芸術専攻の学生に新たな職への道を開く。
  • 障害者芸術センターから輩出される興味ある芸術に、学生は刺激を受けられる。

 障害者芸術センターと芸術関連メディア

 障害者芸術センターは、美術雑誌や新聞や一般情報誌の芸術コーナーでの発表に際し、図解入りの記事を用意すべきである。
 良い評判は同センターに対する一般の人々の見方に大きな影響をもたらす。よく知られることが、新規の団体、ボランティアからの財政支援の助けとなる。
 発表された記事は、切り抜き、複写などしておけば、助成金や一般の支援を求める際に使うことができる。

 障害者芸術センターと大企業、財団、民間団体、中小企業

 多くの財団と組織は芸術にとりわけ関心がある。価値ある新しい試みへの支援に誇りを持っている。また、家族の状況から障害についてよく知っている理事やスタッフがいることが非常に多い。このような人々にとって、障害者芸術センターはとりわけ興味のある分野であろうから、接触を図り、障害者芸術センターに来てもらい、その環境のもとで生み出される芸術の重要性に気づいてもらうことが大切である。
 センターにとって芸術界のあらゆる分野と緊密な関係を築き、芸術界になくてはならない力となるよう努力することは重要である。そうなれば一般の人々や民間部門が、障害者芸術センターの目標のため、また資金のために継続して援助をしてくれるだろう。

 広報と支持

 障害者芸術センターの発展のためには、地域にとって貴重な施設であるとの評価を得ることが必要である。障害者芸術センターの情報は常に一般の人々へ届くべきである。館長やスタッフ、理事会は、社会福祉機関、芸術グループ、他の専門家、父兄、他の福祉施設、政治家、障害者、ボランティア団体、企業、その他と良い関係を築くために、時間とエネルギーをかけなければならない。
 理事会は、地域の中での広範な代表活動により、センターでの新しい重要な活動展開のすべてを宣伝するという重要な役割を担う。障害者芸術センターの創立の基本概念は非常に新しいもので、センターは障害者の新しい可能性発見の最前線にあるから、既成の概念を変える手助けとなる。
 全スタッフ、ボランティア、館長、理事会は全員、障害者芸術センターの宣伝と障害者への支持確保を行う責任がある。さまざまな方法があるが、経験により以下の方法が有効といえる。

▲報道発表
 重要な情報項目があれば、報道発表用のものを作成し、新聞社、テレビ局、ラジオ局、雑誌社、適切な団体広報紙に送る。写真、芸術作品のような図解資料は、一般的にその情報を魅力的にするので、取り上げられやすい。

▲ワークショップ(研究集会)と会議
 館長、スタッフは、興味を示す個人やグループに、障害者芸術センターのプログラムヘの参加がどういうことかを知らせる。
 招待者が直接活動に参加したり、講演、映画、スライドを通して学習できるよう、センターでそのための日を設けたり、教師、学生、親等のためにワークショップを開く。
 芸術と障害のさまざまな側面についての会議を、センターや他の適切な会場--美術館、ギャラリー、大学、劇場、その他で行う。

▲放送(テレビ)

  • 学生の作品の披露や討論、スタッフや学生とのインタビュー
  • 学生の仕事ぶりを見せる、障害者芸術センターの一日
  • 学生の作品の販売、学生の壁画製作、木やカレンダーの製作等の、センターで開催される特別な催し
  • 美術館見学、芸術家のスタジオ訪問、野外での壁画製作等、センター外で行われる特別な催し

▲放送(ラジオ)

  • センターの目的と活動を解説する番組、館長とスタッフとのインタビュー
  • 障害をもつ芸術家や学生との活動におけるスタッフの対処の変化を説明するインタビュー
  • 訪問者とのインタビュー
  • 学生とのインタビュー
  • 障害者芸術センターについてのQ&A
  • 特別な催しの発表

▲展示物
 品位のある、専門的に装備された展示物を、次のような場所に据えるべきである。障害者芸術センターのギャラリー、専門のギャラリー、総合大学・単科大学のギャラリー、行政の建物(裁判所、国、州・郡・市庁)、図書館、銀行、装備のしっかりしたショッピングモール、劇場ロビー、大企業のロビー、デパートのショーウィンドー等の適切な空間。展示物は、特殊な状況や特別の催し用の準備がなされる。
 障害者芸術センターのギャラリーは、宣伝にもなる。新聞、テレビやラジオのスタッフは、いつも良い話題や映像を探している。このような人たちが見たものに感動したら、最高の宣伝となる。

▲オープンハウス
 障害者芸術センターは決して訪問者を拒否してはならないが、一度に多すぎる訪問者があると学生の妨げとなる。これに替わるものとして、時にオープンハウスを催し、多数の訪問者が障害者芸術センターの案内、プログラム説明を受けることを可能とする。学生もコース案内の訓練を受けるし、障害者芸術センターに対する、また芸術家、ガイドとしての自分自身に対する誇りを表明する機会を得ることになる。
 館長とスタッフは、関心のある人々に、障害者芸術センターのプログラム参加がどのようなことかを知ってもらいたいので、招待客が直接活動を経験し、講演、映画、スライドを通して学習できるように、特別なオープンハウスを用意する。

▲別のプログラムとの交換訪問
 館長、スタッフは、同地域やその他の地域の関連プログラムと交換を行い、相互の問題と関心事への互いの理解を深めることで、関係を強固にするべきである。障害者芸術センターへの訪問招待は、他のプログラムのスタッフや学生にまで広げられるべきである。学生、スタッフは、相互の訪問を通じて互いの境界を拡大し、多くのものを得る。

障害者文化・芸術活動推進委員会委員

氏名 所属
板山 賢治 財団法人日本障害者リハビリテーション協会副会長
花田 春兆 日本障害者協議会副代表
播磨 靖夫 財団法人たんぽぽの家理事長
城  英二 さをりひろば代表
田中 徹二 社会福祉法人日本点字図書館館長
大槻 芳子 財団法人全日本ろうあ連盟婦人部長
丸山 一郎 社会福祉法人全国社会福祉協議会障害福祉部長
奥山 元保 財団法人日本障害者リハビリテーション協会常務理事

主題・副題:障害者文化芸術振興に関する実証的研究事業報告書 平成6年度

著者名:

掲載雑誌名:
発行者・出版社:(財)日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:1頁~144頁

発行月日:平成7年3月31日

登録する文献の種類:

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