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第3回国連防災世界会議
ワーキング・セッション
インクルーシブな災害リスク軽減における障害者の積極的な参加

浦河べてるの家
発表

浦河べてるの家発表

小原

浦河町役場の小原です。浦河町は北海道南部に位置し、南は太平洋、北は大きな山脈に接しています。夏は涼しく、冬は温暖なため、サラブレッドの繁殖が盛んな自然環境に恵まれた場所です。 一方で、海と山に挟まる形で主要幹線道路が走り、河川の流れる平野には人口が集中し、津波や洪水のリスクが高い町と言えます。 東日本大震災では、2.8mの津波が繰り返し押し寄せ、沿岸部の住宅の浸水だけでなく、数多くの車両、漁船などは流され、被害総額は3億7千万円にも及びましたが、死傷者はひとりも出ていません。 浦河町は、地震の多発する地域でもあります。歴史を観ても直下型と海溝型の地震の両方が起きやすく、10年~15年間隔で震度6以上の地震災害に見舞われます。そして、毎年のように震度4~5弱程度の地震は必ずと言っていいほど起きます。そのような環境だからこそ、地震に備える文化が身についている土地柄とも言えます。

米山

浦河町の東町第5自治会の米山です。 東町第5自治会では、昨年、春の大掃除に合わせて消防署に講師を依頼して、消火訓練とAEDの使用方法などを学びました。 自分が住んでいる地域では、8つの単位自治会が連合自治会を組織して防災部会を設けて、防災活動を行っている地域であります。 昨年は、地域の土砂災害の危険個所を知ってもらうための勉強会を開催して、住んでいる地域の危険個所を知っていただきました。 連合自治会では、2009年から国立障害者リハビリテーションセンター研究所の指導のもと、防災学習会や、一泊避難所宿泊体験、冬季間の夜間の避難訓練を地域住民やベてるの方逹も参加して、防災訓練を行っています。地域ぐるみで、「災害に強い地域づくり」を進めることは、町の繁栄の基盤につながるものと確信しています。 東町第5自治会では、2006年から、災害弱者の避難誘導体制の確立を図るために、当自治会が浦河町から推薦を受け、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の指導のもとに高齢者の避難訓練や、防災研修会を開催しています。

向谷地

「浦河べてるの家」の向谷地です。ソーシャルワーカーをしています。べてるは、精神障害をはじめとする、さまざまな障害をもつ人たちの仕事づくりと、暮らしを支援するために設立された公益法人です。私たちは2004年から現在まで、地域のひとたちと地震や津波を想定した防災活動に取り組んできましたが、障害をかかえたメンバーは災害時に避難するだけでも大変です。

秋山

べてるの秋山です。私は重度のうつを経験し、今でもストレスや日常の刺激に弱いところがあります。そんな苦労のある私たちは、防災活動といってもはじめはどうしてよいかわかりませんでした。

亀井

べてるのメンバーの亀井です。 ぼくは、統合失調症をもっていて、幻聴さんがいます。ときどき幻聴さんの言葉にふりまわされて、調子が悪くなったり働けなくなったりします。これがぼくの幻聴さんです。

幻聴

べてるに行くなー、またいじめられるぞ!

亀井

そうだなぁ、家に引きこもっていようかな…休もうかな…

秋山

亀井くん、幻聴さんとの付き合いを当事者研究しましょう!

亀井

研究してみよう!

秋山

どんなときに幻聴さんがくるの?

亀井

そういえば、心配事があるときかなぁ。

秋山

じゃぁ心配してくれてありがとうと言ってみるのはどうだろう

亀井

いいね、それをやってみるよ!
さあ、朝だ、今日もべてるに仕事に行こう!

幻聴

べてるにいくなー

亀井

ちょっと待てよ、そうだ、仲間の提案を試してみよう! 幻聴さん、いつも心配してくれてありがとう。幻聴さんも一緒にべてるに行こう。

向谷地

こうして亀井さんは、幻聴さんに感謝を伝え、仕事に誘うことで、幻聴さんと上手に付き合うコツを編み出し、べてるに行けるようになりました。

亀井

おはよう秋山さん!

秋山

おはよう亀井くん、一緒に仕事しよう! 亀井くん、私たち、病気との付き合いは研究しながらうまくできるようになってきたね!

亀井

そうだね!

秋山

でも、私達「突然の出来事」には弱いから、地震や大きな災害がおこったら困るよね。

亀井

こないだも大きな地震があったとき、テレビの地震速報から「逃げるな」って聞こえてきて、逃げられなかったんだよ・・・。

秋山

実は私も、怖くて固まって、逃げられなかった。
これじゃぁ大きな津波がきたら、私たち逃げ遅れちゃうね。

亀井

そのためには、もう少し、地震と津波の事を学んで研究すればいいんじゃないかなぁ!

秋山

いいね!そうしよう!
具体的な情報を集めると対策も立てやすいね。ちょっと国リハの河村先生に聞いてみよう!

河村

浦河は100年以内にとても大きい地震がくる可能性が高いです。 浦河の津波は最短で4分以内に10メートル以上のものがくる可能性があります。

秋山

ということは地震発生後4分以内に10メートル以上の高さに避難できたら安全を確保できるということですね。障がいがあっても理解しやすいDAISYを使って防災マニュアルを作り、避難訓練をしましょうね。

亀井

幻聴さんも一緒に逃げられるように練習しよう。 水や食料、特に薬も持っていけるような避難グッズも工夫しよう。それと、住んでいる自治会の避難訓練にも積極的に参加しよう

向谷地

仲間と研究を重ねて試みたのが、幻聴さんと一緒に避難するというアイデアです。具体的な対策をたてた私たちは実際に避難訓練をしました。何度も繰り返し行い、暑い夏、寒い冬、雨の日、雪の日あらゆる場面を想定し練習しました。訓練後にもミーティングをして「よかったこと」「苦労したこと」「さらによくする点」をあげて、次回の練習に活かしました。その成果が東日本大震災、3・11の時に発揮されました。

亀井

幻聴さんも一緒に仕事をしよう!
あれ、地震だ!?

秋山

地震だ!どうしよう! えっとこういう時は4分で10メートル! 亀井さん一緒ににげよう!

テレビ

東日本大震災発生。浦河にも津波がくる危険があります。海沿いにお住まいの方は高台に避難してください。

幻聴

この地震はあなたが起こしたものなので、逃げてはいけません。

亀井

幻聴さんも一緒ににげよう。

幻聴

一緒ににげよう!

津波

ざぶーんざぶーん!!

向谷地

このように、私たちは3.11の大震災がおきて浦河に津波が押し寄せたときに自主的に避難することができ約20分後には、全員が避難場所にいました。残された課題は、避難できても幻聴や緊張によって、そこに居続けるのが難しいメンバーが何人かいたことです。今私たちは、避難所で安心して過ごすための検討をしています。

秋山

避難所で過ごすのはお互い大変だよね。いっしょに緊張のメカニズムと対応策を研究しようね。まずは、まわりの人たちに挨拶をするのはどうでしょう。

秋山

避難所では、「受付にいる役場の人」への報告も大切だね

山口

べてる、全員無事避難しました。緊張したり、不安がっている人もいますが、よろしくお願いします。

秋山

避難所でも、普段しているように、ミーティングをしよう! 避難できてよかったことを出し合いましょう! 亀井くん、幻聴さんも連れてこられてよかったね!

亀井

幻聴さんも一緒にこれてよかったです!

秋山

そうだね、みんないつもどおり避難できてよかったね!

向谷地

3.11の経験を通じて私たちがわかったことは、精神障がいがあっても、事前に正しい知識と情報を知り、練習しておくことで、迅速な避難が可能になるということです。

米山

2011年に行った総合訓練では、避難場所には、徒歩や、車いす、簡易担架での避難、非常食の体験、救出救助訓練、消火訓練を実施しました。 災害が大きくなればなるほど行政の機能がマヒする事態が心配されます。平常時から地域ぐるみの協力体制が必要となってくることから、今後も「自分達の地域は、自分たちで守る」を合い言葉に誰もが安心して暮らせる地域づくりを進めてまいります。

小原

わたしたちは、地震の多い土地であっても、このふるさとを愛し、海や山の自然の恵みに感謝し、まれに訪れる災害と向き合って生活しています。 浦河町では、このようなべてるの防災活動を足がかりにひとりひとりが率先避難者となるべく、地域の災害弱者を巻き込んだ活動を展開し、尊い命を災害ごときで落とさないため「だれも取り残さない防災」を行政と民間、そしてべてるの方々と進めていきます。

向谷地

防災訓練を通じて実感したのは、障がいを持つ人は決して単なる支援の対象ではなく、自ら持っている力を発揮して自分を助けることができる、ということです。しかしそれは、決して個人の努力ではなく、普段の自治会のひとたちとの防災訓練や交流、働く場の仲間の存在を通じて実現するものだと思います。


浦河べてるの家

 当日の発表資料はこちら(英語)