ユーザーの声-伝の心との出合い、暮らしの可能性が広がる

「新ノーマライゼーション」2019年10月号

日本ALS協会東京支部 運営委員
佐藤弘二(さとうこうじ)

私は、14年前にALSと診断されました。ALSとは、体を動かすには脳からの命令を筋肉に伝えるのですが、何らかの原因で命令が届かなくなり、体中の筋肉が痩せ細り、体を動かすことも呼吸をすることもできなくなるという進行性の神経難病です。

4年前、私は誤嚥性肺炎で大学病院に緊急搬送されました。すぐにでも気管挿管をして呼吸ができるようにするところですが、私は生きることを諦(あきら)め延命処置を拒否していたために病院は挿管することも気管切開することもできないでいました。なぜ気管切開を拒否するのか? 理由はいくつかあるのですが、その中のひとつが「気管切開をすると声を失い意思疎通が難しくなる」ことでした。体も動かず声を失うことは、痛い所があっても痒い所があっても息が苦しくても、誰にも伝えることができない!生き地獄のようで考えただけでも怖くなります。入院中はそんなことばかり考えていました。そんなある日、作業療法士さんが一台のパソコンを持ってきて「この伝(でん)の心(しん)を使ってみませんか?」と言ってきました。一字一字ゆっくりと文字を打って、初めて打った文章は「おさしみがたべたい」でした。これには先生も看護師さんも大笑いしていました。この入院中ほとんどコミュニケーションがとれずイライラしていましたが、言いたいことが人に伝わる楽しさを感じた瞬間でした。「これがあれば気管切開をして声を失っても言いたいことは伝えられるのでは」と思い、初めて生きることに前向きな考えが持てるようになりました。そのことを妻と主治医に伝えてみました。突然のことで驚いていましたが意思の硬さを確認すると、その1時間後にはICUに運ばれていました。

手術も無事に終わり一般病棟に戻ってきました。人工呼吸器をつけた姿を見て先生たちも看護師さんたちも喜んでくれました。そして伝の心で打った言葉は「生きることを決心しました。またよろしくお願いします」でした。伝の心と出合ったことで、まだコミュニケーションをとれることがわかり生きる希望がわいてきました。

長い入院生活も終わり自宅に帰ってきました。病院ではわからなかったのですが伝の心で部屋の照明、エアコン、テレビも操作ができて驚きました。それとインターネットが使えることでSNSを始めることができました。たくさんのALS患者と繋がりを持つことができ療養生活の工夫や外出の装備などを教わり、生活の幅が広がりました。

これからは、この伝の心を使い就労ができるようになればいいなと思います。働くということは私たち重度障害者が生きていくうえで自信につながることだと思います。先日、重度障害者が自宅でパソコンを使い、遠隔操作でロボットを操り接客させているのをテレビで見ました。素晴らしい試みだと思いました。これからは遠隔操作で機械を動かして物を製造したり、作物を育てることもできると思います。私も現在、発達障害児のためのマルチメディアDAISY図書を自宅で製作しています。パソコンを使ってもっともっとたくさんの仕事をすることが可能だと思いました。私たち重度障害者も在宅で就労できる日もそう遠くないと思います。これからが楽しみです!

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