行政の動き-農福連携の現状と今後の展開

「新ノーマライゼーション」2019年10月号

農林水産政策研究所 企画広報室長
吉田行郷(よしだゆきさと)

1.農福連携とは

近年、「農福連携」と呼ばれている農業サイドと福祉サイドが連携して農業分野で障害者の働く場を作ろうとする取組が注目を集めている。こうした取組は、農業サイドからは、農村地域での人口減少・高齢化の進展を受けて農業労働力の不足や農地の引き受け手の不足への対応として期待されており、福祉サイドからは、障害者が働ける場の拡大や障害者の賃金(工賃)を引き上げられる取組として期待されている。

さらに政府は、このような効果が期待できる農福連携の取組を拡大させていこうと、2019年4月に、農林水産省や厚生労働省などの関係省庁で構成される「農福連携等推進会議」を設置し、同年6月に「農福連携等推進ビジョン」を取りまとめており、マスコミ等からも注目を集めている。また、日本農林規格(JAS)の新たな規格として「ノウフクJAS」も制定されている。民間ベースでも、2018年11月には、一般社団法人日本農福連携協会が設立され、都道府県でも2017年7月に農福連携全国都道府県ネットワークが設立され、それぞれ農福連携の推進に取り組んでいる。

こうした農福連携の取組を取組主体の違いから見てみると、1.障害者福祉施設から「施設外就労」の形で障害者が農家で農作業の手伝いをする動き、2.障害者福祉施設が自ら農業を行ったり、農業法人を併設させる動き、3.反対に農業法人が障害者福祉施設を立ち上げて障害者雇用を本格化させる動きなど多様な取り組み方があることが明らかになっている。

図 香川県による農福連携への支援スキームの概要
図 香川県による農福連携への支援スキームの概要拡大図・テキスト
資料:聞き取り調査結果を基に、農林水産政策研究所にて作成。

2.農福連携の現状

障害者と農作業、家畜飼育との相性の良さは古くから認知されており、障害者福祉施設でもかなり以前から、自給自足用に園芸を行ったり、鶏等を飼っていたと言われている。しかし、障害者が農業を本格的に行った例となると、「こころみ学園」が草分け的な存在といえる。初代の園長と当時の教え子たちが1958年に栃木県の山林を開墾し、ぶどう畑を作って農業を始めており、1980年には有限会社ココ・ファーム・ワイナリーを別途設立してワインの生産を始めたほか、原木しいたけの栽培等も行っている。

このほか、長い歴史を誇る取組としては、1972年設立の鹿児島県の社会福祉法人白鳩会(茶、養豚等)、NPO法人共働学舎が北海道に1978年に開設した農事組合法人共働学舎新得農場(酪農、チーズ生産)などが挙げられる。そして、こうした先進事例に続く形で、2000年前後から障害者福祉施設による本格的な農業への進出が急拡大している。福島県の社会福祉法人こころん、長野県の社会福祉法人くりのみ園、福井県のNPO法人ピアファームなどである。これらの取組は、それぞれ形態は異なるが、いずれも障害者福祉施設による取組である点では共通している。

他方で、障害者が1人、2人、農家に雇用されたり、お手伝いに入っている事例は、かなり前から散見されていた。しかしながら、農家や農業法人が、障害者を何人も本格的に雇用する取組は、それほど多くの例がなく、静岡県で1996年から障害者雇用に本格的に取り組み始めた京丸園(野菜の水耕栽培)が最初の先駆的な事例として挙げられる。岡山県でも、ドリームプラネット、岡山県農商、おおもり農園といったところが、2008年頃から障害者の雇用に本格的に取り組み始めている。

3.農福連携に対する国や地方自治体による支援

農福連携に対しては、農林水産省が障害者の雇用・就労を目的とした農園の整備や障害者の農業現場への定着を支援する人材育成等のための補助事業を行ってきている。また、厚生労働省でも、地方公共団体での支援体制構築に対して支援を行っており、現在、厚生労働省の支援事業を活用して農福連携の支援を行っている道府県は2019年現在46となっている。

香川県では、2011年から人手不足の農家・農業法人と農作業を手伝いたい障害者福祉施設とのマッチングに取り組み、それを全県的に拡大させたことから注目を集めるようになった。後発の府県がこの香川県の取組から学び、類似の支援を行うようになり、厚生労働省の支援事業を活用してマッチング支援を行う道府県は2019年度現在27にまで増加している。

このようなマッチングの支援が増加することで、農作業を行いたい障害者福祉施設、障害者による農作業の手伝いを受け入れたい農家・農業法人が掘り起こされ、それぞれ大きく増加している。

4.今後の見通し

こうした支援を受けて、施設外就労での農作業の手伝いという形で、多くの農家・農業法人と障害者福祉施設が結びつき出しているが、それだけでなく、すでに、農作業の手伝いという関係から次のステップに移行し、農業に本格的に取り組む障害者福祉施設や障害者の雇用に本格的に取り組む農家や農業法人も増えてきている。

農業者の高齢化、雇用労働力の不足は進展する一方であり、今後も、農作業の手伝いを通じた農家・農業法人と障害者福祉施設の結びつきは拡大していくことが見込まれ、その中から、農業に本格的に取り組む障害者福祉施設や障害者の雇用に本格的に取り組む農家や農業法人が出現してくる割合も加速的に増加する可能性が高いと考えられる。

農村地域には、働きたいという意思があるにもかかわらず働けていない障害者がまだまだいると言われており、今後も成功事例を参考にして農業分野で障害者の働く場を作る取組が増加していくことを期待したい。

menu