ご近所の助け合いから始める地域づくり ~富山県氷見市~

「新ノーマライゼーション」2019年11月号

氷見市社会福祉協議会
事務局次長
森脇俊二(もりわきしゅんじ)

はじめに

氷見市は、富山県の北西部に位置し、自然豊かな農村漁村地帯が広がる地域です。高齢化率は37.5%(2019年4月1日現在)で、年少人口は、年々減少する一方、世帯数は増加し、典型的な少子高齢核家族化が進む地域となっています。

氷見市では、旧小学校区(市内21地区、1985年~1990年設置)ごとに地区社会福祉協議会(以下、地区社協)があります。主な活動として、高齢者や乳幼児を対象としたサロンなどのふれあい型の地域福祉活動の他、近隣住民のチームによる日常的な支援を行う「ケアネット活動」(2019年3月末現在、744チーム、協力者1,655名)を実施しており、過疎化が進む中、活動を通じて地域生活課題を把握し、新たな拠点づくりやサービス開発を行ってきました。

1.ふれあい型の活動から生まれたケアネット活動

地区社協の設立以降、高齢者を対象としたサロンを展開し、そこから乳幼児、さらに対象者を限定しないサロンへと発展していきました。

そのような中で、地区社協による個別支援の活動である「ケアネット活動」がスタートしたのが、2003年のことです。この活動は、日常生活の中で支援が必要な方(世帯)の見守り・声掛け、ちょっとした身のまわりのお世話(ごみ出し、雪かき等)を複数の住民がチームで行うというものです。

この活動は地域ボランティアによる気づきからスタートしました。その気づきとは、いつも楽しみにしていた参加者がサロンに来なくなった際に、来ることができない住民に対して、何かできないか、というものでした。その結果、サロンに来ることを拒む住民も含めて地域による個別支援が実現し、今日の地域包括ケア体制の構築に、必要不可欠な活動となっています。

この活動の特長は、昔から残っている隣近所の関係を土台にしているという点です。一見、簡単な取り組みに見えますが、隣近所の関係があまりにも自然なお付き合いなので、それをしくみにすることに抵抗がありました。

ある地域では、「隣近所の付き合いがあるのに、どうしてそこまでしないといけないのか」という声が相次ぎました。そこで、子や孫の世代になってもお付き合いは残っているのか、尋ねたところ、皆黙り込んでしまいました。このケアネット活動は、隣近所のお付き合いが残っている今、意図的にしくみにすることで、将来に支え合いを残していく取り組みにしていくことを目的にするのだ、と説明しました。そして、地域の実情に合わせて、支援の輪が広がっていきました。

2.さまざまなケアネット活動のカタチ

活動導入後、民生委員児童委員や自治会長の声掛けで協力者がどんどん増え、活動を通じて福祉への理解も広がっていきました。以前は、障害に対する理解を得ることに苦労する場面がありましたが、「同じ地域に住んでいて、困っているから支え合うのは、当然だ」と積極的に関わる協力者が増え、さまざまなケアネット活動が展開されてきました。

60歳代で認知症により、広範囲に歩き回り、迷子になる方の場合は、地区を越えて商店や配達業者にも呼びかけ、連携する体制をとりました。その他、悪質な訪問販売を食い止めた事例や、日頃の訪問が早期発見につながり救急搬送をして一命をとりとめた事例もあります。

近年では、2015年から始まった「生活困窮者自立支援制度」に基づき支援している生活困窮者に対してもこの活動が活用されています。従来の活動では、支援対象者の9割が高齢者だったのに対し、この制度開始後は、何らかの障害を抱えている人やその世帯を地域で支える事例が格段に増えました。さらに、全国的に社会問題となっている「ひきこもり」状態に陥っているもしくは、陥る可能性のある人を遠巻きに見守る事例も増え、何か変化があれば、専門機関につなげてもらうセーフティネットとしても有効な手段となっています。

3.ケアネット活動から生まれた新たな取り組み

ケアネット活動は、地域住民の気持ちを高めるとともに、活動から見えた地域生活課題を解決する新たな取り組みを生みました。

その一つに、支援対象者を災害時や緊急時に迅速に支援へとつなげられるしくみにつながりました。具体的には、福祉と防災を合わせたマップ作成やいのちのバトン(緊急時等の支援を円滑に進めるために、本人の医療情報や緊急の連絡先、保険証の写し等を専用のボトルに入れ、冷蔵庫に保管する取り組み)の導入による個別支援の強化へとつながっています。その他、従来のケアネット活動だけでは、支えきれない地域生活課題も見え、地区社協が外出支援や買い物支援などの生活支援サービスや日常型の居場所づくりをすすめています。

このことは、地域福祉活動の充実だけにとどまらず、行政施策へとつながっていきました。「気になる人」を発見する地域住民の力が増すことにより、同一世帯内にそれぞれ複数の地域生活課題を抱えた世帯の発見にもつながりました。当時、そのような世帯への専門職や行政の支援体制は脆弱で、地域住民からそのような世帯への支援要請が出ても、核となって動く機関が不明確でした。さらに、近年の相談窓口の細分化や行政の縦割り体制により、「どこに相談すればいいか分からない」や「窓口を転々とさせられる」など、ケアネット協力者から多数の声をいただきました。

それを受けて、2014年5月に市福祉介護課、子育て支援課、市社協(生活困窮者支援担当、基幹相談支援担当、セーフティネット担当)が官民協働で行う福祉の総合相談支援窓口である「ふくし相談サポートセンター」が設置されました。この機能ができたことで、従来は、地域住民から行政や専門職につないで終わっていた事例が、ある程度行政や専門職の支援により生活を立て直せた世帯を、地域によって見守っていくケアネット活動へとつながるようになりました。

図 ケアネット活動・いのちのバトンの推移
図 ケアネット活動・いのちのバトンの推移拡大図・テキスト

おわりに

氷見市では、社会的孤立からの脱却や防止を目的とした全世代・全対象型の地域包括ケア体制の構築を目指し、2015年に「セーフティネット構想」を掲げました。その中核を担うのがケアネット活動であり、地域住民の助け合いを軸にしながら、行政や専門機関の支援力の向上を図るための体制を整備しています。これからもケアネット活動を大切にしながら、地域生活課題を解決するために、地域住民、専門機関、行政、そしてあらゆる社会資源が連携しながら、誰もが安心して生活できる地域へと近づけていくことが国が示す地域共生社会の実現につながると確信しています。

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