ユニバーサル・ツーリズム-お客様の気持ちに寄り添うユニバーサルサービス

「新ノーマライゼーション」2019年11月号

京王プラザホテル宿泊部 客室
中村さおり(なかむら)

京王プラザホテルでは、1988年アジア初のリハビリテーション世界会議の開催に伴い車いすでの利用が可能な客室を設置し、これがユニバーサルサービスの原点となった(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

当時は車いすをサポートすることにも慣れておらず、会議開催前にスタッフ同士で車いすの作動やお客様ケアの練習をして準備をするようなレベルであった。しかしこれを機にホテルには健常者だけではなく、障害のある方をはじめ多様なお客様がご利用になられるということを改めて認識し、多くのスタッフが現在に至るまでさまざまなことに取り組んできた。また、補助犬の受け入れにも積極的に関わり、2002年の身体障害者補助犬法施行以前より3種の身体障害者補助犬が館内を利用できることをご案内している(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

2013年には「全国障害者スポーツ大会」のオフィシャルホテルとして約500名様の障害のあるお客様を受け入れ、2017年には「日本盲導犬協会創立50周年記念式典」で600名の出席者のうち189名の盲導犬ユーザー様と盲導犬をお迎えし、約半数の90名のユーザー様のご宿泊もいただけた。大きなイベントに限らず数多くの多様なお客様をお迎えし、ご利用いただいたお客様の声を大切に、ホテルならではのユニバーサルサービスを発揮して安心・安全で快適なホテルライフをお過ごしいただけるように取り組んでいる。

さて、多様なお客様への対応を継続して実践、成果を出していくためには単なるマニュアルのサービスでできるものではない。一例として長年培われてきたサービスの土壌の1つとして「バーズアイ」という部門や職位に関係なく社内の有志が集まり、エコロジーやバリアフリーに取り組んでいくプロジェクトがある。「鳥のように高所からの視点で社内のさまざまなことに目を向けていこう」という意味が込められている。この活動を通じて顧客満足の追求や企業としてのCSRレベル向上を目指し、2002年より活動が続いている。

当初はバリアフリーの視点だけであったが、徐々にお客様対応などソフト面も考えてより活発な活動を行うようになっている。また、車いすに乗って館内外を動きユーザー様の目線で検証をしたり(危険な場所、段差など)、社外施設見学、補助犬セミナーの開催など活発に活動している。なお、このプロジェクトメンバーは1年ごとに入れ替え、新規募集を行っている。これにより期を重ねるごとにバーズアイで培ったマインドを持つスタッフが各職場でも継続して活躍できるメリットがある。

前述でも紹介した「日本盲導犬協会創立50周年記念式典」では旧バーズアイメンバーも視覚障害者のための会場や客室への声の誘導に協力し、各持ち場のスタッフが連携してご案内の体制を作った。これにより大会関係者様からはホテルのサービスにプラスして視覚障害者への配慮がなされていることを高く評価していただくことができた(写真3)。スタッフが実際にいろいろな体験をすることで、バーズアイ活動も含め自然とユニバーサルサービスのマインドが育ってきている。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

他にもスタッフのユニバーサルマインド向上の一環として入社時研修でも勉強する時間を設けている。ユニバーサルマナー検定(株式会社 ミライロ様主催)の受検、バーズアイやユニバーサルルームの紹介、高齢者キット着用など今後の接客に直接結びつくことを勉強する(写真4)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真4はウェブには掲載しておりません。

お客様に快適なホテルライフを満喫していただくために大切なことは、施設面と並んでホテルのさまざまな情報をお伝えしサービスとして提供することである。ホテルをご利用の多様なお客様とは肢体や視聴覚そして精神や知的障害がある方、高齢者、妊婦や小さなお子様連れ、アレルギー、海外のお客様(言葉や文化の壁)と考える。

たとえば、宿泊予約の際に「車いすご利用」と分かれば、単にユニバーサルルーム(写真5)をご紹介するのではなく、着脱式の手すりや入浴補助の備品などの具体的なご説明や滞在時のご要望など細かくお話しし、確認をする。部屋タイプもお客様のご要望でユニバーサルルームとは限らない場合もある。いろいろ確認することでホテルではご用意が難しいもの、それに代わるもののご提案などもできる。物理的には難しい場合も正直にご案内する。あえて「マイナス面」もご案内することにより代案も含め私たちスタッフがお客様のお気持ちに寄り添い、少しでも快適にご滞在いただけるように努めることが何より大切である。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真5はウェブには掲載しておりません。

2020東京オリンピック・パラリンピック開催も好機となり、今まで以上にたくさんの多様なお客様が日本を、東京を訪れることであろう。

お客様が望まれることはさまざまである。私たちができること、それはまず「知ること」である。どのようなお身体の状態なのか、どのような対応が適切なのか、何をお困りなのか、そこを理解するためにお声掛けをしてみる、その方にあった接客方法を考えてみることである。「知らないこと」により、対応に躊躇(ちゅうちょ)したり、きっとこれが一番だろうと決めつけた接客をしてしまうという結果になってしまう。入口の情報を豊富にすることでお客様へのコミュニケーションが取りやすくなり、自然な対応につながる。私たちは医療従事者でも介護の専門職でもない。時には見守り、時にはお声かけをし、「知ること」を大切にする。そして何か特別なことをするのではなく、構えることなく、自然にお客様のお気持ちに寄り添うことである。何よりホテルスタッフとして日頃から行っているコミュニケーション力を最大限に活かし、ハードとソフトの両輪がバランスよく働くことでより良いユニバーサルサービスの発展となるであろう。

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