パラリンピックと障がい者スポーツ ~2020年東京大会に向けた取り組み~

「新ノーマライゼーション」2019年12月号

公益財団法人日本障がい者スポーツ協会
日本パラリンピック委員会参与
中森邦男(なかもりくにお)

1.はじめに

日本における障がい者のスポーツは、1964年(昭和39年)の「パラリンピック東京大会」を契機に、翌年の1965年から全国身体障害者スポーツ大会が国民体育大会にひき続いて開催されるようになり、また、同年、財団法人日本身体障害者スポーツ協会(現公益財団法人日本障がい者スポーツ協会・JPSA)が創設され、日本における障がい者スポーツの振興はJPSAが中心となって進められることとなった。

パラリンピック東京大会の組織委員会は、脊髄損傷者の医学的管理のため厚生省を中心に組織されたことで、以後、日本政府の障がい者スポーツ振興は厚生省(現厚生労働省)が所管し、障がい者の社会参加や自立支援の施策の中で進められてきた。2013年9月に東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催が決定したことで、JPSAの意向も踏まえ2014年4月に障がい者スポーツは厚生労働省から文部科学省に移管することとなった。この移管により、障がい者を含めたスポーツ施策の一環としての取り組みが始まったことで、障がい者スポーツ振興が大きく進むことになった。

2.パラリンピックの発展

パラリンピックは、第2次世界大戦で負傷したイギリス兵士のリハビリテーションにスポーツを取り入れたことで、病院内でのスポーツフェスティバルの開催、国際競技会(国際ストーク・マンデビル競技会、1952年)の開催、さらに、イギリス国外(1960年、イタリア・ローマ)での開催へと発展し、1989年創設の国際パラリンピック委員会(IPC)は1960年の大会をパラリンピック第1回大会と位置づけた。その後、脊髄損傷者以外(視覚障がい者、切断や脳性まひなどの肢体不自由者、知的障がい者)の選手が参加するようになり、回を重ねるごとに大会の規模が大きくなってきた。そして、2008年大会からオリンピック招致にパラリンピック開催が含まれたことで、パラリンピックの競技力が一気に向上し、その価値を高め、スポーツでは、オリンピック、サッカーワールドカップに次ぐ大きなイベントへと発展してきた。

3.パラリンピックの特徴

パラリンピックの一番大きな特徴は、障がいの種類、障がいの部位、障がいの程度(重さ)によって、それぞれの競技で競技能力に差が生じるために、同じ競技能力のある者同士が競い合うようにクラスを分けて競技することにある。たとえば、陸上競技の100m走では、男女で30イベント(視覚障がい者6クラス、車いす使用者7クラス、脳性まひ者11クラスと立位の障がい者6クラス)が実施され30個の金メダルが授与される。競技を観戦する前に、クラス分けを理解することで、より競技を楽しむことにつながる。

2つ目の特徴は、障がいのある選手とない選手が協働し、一緒に競技する競技種目がいくつか存在することである。視覚障がい者と一緒に競技する陸上競技のガイドランナー、自転車のパイロット、視覚障がい者サッカーのゴールキーパー、ボッチャのアシスタント、ボートのコックスなどがある。

その他の特徴として、下肢切断者のスポーツ用義足、陸上競技や車いすバスケットボールなどのスポーツ用車いすなど、競技用具の進歩が競技力向上を支えている。

4.パラリンピックの価値

1989年に創設されたIPCは、当初から「Athletes Centered Organization」を謳(うた)い、2003年の総会で公表したIPCのビジョンでは「パラアスリートがスポーツにおける卓越した能力を発揮し、世界に刺激を与え興奮させることができるようにすること。」とアスリートを中心に置いている。さまざまな障がいのあるアスリートたちが創意工夫を凝らして限界に挑むパラリンピックは、誰もが個性や能力を発揮し活躍できる公正な機会が与えられている。アスリートが見せる、困難なことがあってもあきらめずに限界に挑戦し続ける姿は、見る者に驚きや感動を与え、元気や勇気をもたらすなど、特に子どもたちにとっては素晴らしい刺激となりえる。

パラリンピックの一番の価値は、社会を変えていく力があることである。「失われた機能を数えるのではなく、残された機能を最大限に活かそう」というチャレンジ精神をもって、それぞれのスポーツにおいて限界に挑戦していくアスリートの姿に接すると、障がいがあることが不可能を意味するものではないことを気付かせてくれる。

5.日本選手の競技力向上策について

2014年(平成26年)に障がい者スポーツの政府所管が文部科学省(2015年からはスポーツ庁)に移管し、スポーツ庁がオリンピックなどで実施している強化策を、障がい者スポーツにおいても同様に取り組むことで、障がい者スポーツの強化環境は大きく進むこととなった。具体的には、国内競技団体(NF)に対する強化費の増額、日本パラリンピック委員会(JPC)の体制強化、中央強化拠点(ナショナルトレーニングセンター)のオリンピック選手との共同利用と拡充棟の設置、医科学情報サポート、強化スタッフ制度やアスリート助成制度の設置などがある。さらに、日本財団パラリンピックサポートセンターの設置によるNFへのサポートや企業のアスリート雇用など、東京2020パラリンピック競技大会に向け、東京2020組織委員会との連携を含め、スポーツ庁、日本スポーツ振興センター(JSC)、日本財団や日本オリンピック委員会、経済界など、関係組織・機関・企業の支援を受け、その強化環境は充実したものになっている。

6.2020年東京大会に向けた特別強化の取り組み

JPSAでは東京2020パラリンピック競技大会を成功させるために、2つの目標を立てその取り組みを進めているところである。1つ目は、全競技会場を満員の観客で満たし世界から参加する選手を迎えること。2つ目は、日本代表選手が大活躍することである。具体的には、金メダル目標を7位以内とし、目標達成のために競技団体の強化活動のほかに、JPC特別強化委員会を設置して金メダル候補選手を選定し、競技団体とも連携しながら個々の選手の強化支援を実施している。

7.まとめ

スポーツイングランド(注)の施設ガイドラインでは、障がいとは障がいのある人にあるのではなく、その人の行動を制限する環境の貧しさがつくり出すものであるとしている。たとえば、車いす利用者がスポーツ施設を使えないのは、車いすに乗っているからではなく、施設の設計や運営、人的支援が不十分であるためだとしている。

東京パラリンピックを見たり、選手と触れ合ったり、障がい者スポーツの経験などが障がい者理解につながり、さらに、年齢、性別、人種や宗教の違いなど、日本に居住する多様な人々への理解が進み、それぞれが豊かに活躍できる社会が実現することを願っている。


(注)日本でいう独立行政法人日本スポーツ振興センターのような機関。

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