東京2020パラリンピック競技大会の見どころと障がい者スポーツのクラス分け

「新ノーマライゼーション」2019年12月号

公益財団法人日本障がい者スポーツ協会
強化部特別強化担当部長
三上真二(みかみしんじ)

皆さんは“パラリンピック”という言葉を聞いてどのような印象を持つだろうか?多くの場合「障がい者スポーツの最高峰の大会」や「オリンピックと同等の競技性がある大会」という答えが返ってくると思う。もちろんその通りであるが、もう少し深く考えてみると、パラリンピックの舞台では、アスリートの卓越した競技パフォーマンスを観ることができ、そこには多様性や公平性、創意工夫が満載されていることが分かるだろう。

ここでは、東京2020パラリンピック競技大会(以下、東京パラリンピック)の見どころと障がい者スポーツのクラス分けの2点について紹介したいと思う。

1.東京パラリンピックの見どころ

東京パラリンピックは、22の競技で熱戦が繰り広げられる。ここでは、日本選手のメダル獲得が期待される6競技について見どころを紹介する。

(1)陸上競技(オリンピックスタジアム)

陸上競技には「走る」「跳ぶ」「投げる」の多くの種目があり、さまざまな障がいの選手が参加する。「レーサー」と呼ばれる競争用車いす、板を曲げたような形のスポーツ用義足など、進化した競技専用用具が選手たちの超人的なパフォーマンスを支えている。視覚障がいのある選手はガイドランナーと一緒に走るなど、多くの創意工夫が見られる。

(2)水泳(東京アクアティクスセンター)

0.01秒でも速く泳ぐために、選手たちが練習を重ねて身につけた、障がいに応じた個性的なフォームが見どころのひとつである。飛び込みができない選手の水中スタート、手に障がいのある選手のゴールタッチなど、パラリンピックならではのシーンにも注目であり、特に視覚障がいのある選手には、コーチがタッピング(棒で選手の身体に触れる)で壁の接近を知らせるなど、コーチと選手のあうんの呼吸が勝敗を分ける。

(3)ボッチャ(有明体操競技場)

ボッチャは、ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールめがけて、赤・青それぞれ6球ずつのボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、いかに近づけるかを競うスポーツである。ボールは皮製でゴツゴツしており、思うように転がらないのが特徴。ボールを投げることができない選手は、ランプと呼ばれるスロープ状の補助具を使ったり、蹴ったりして投球する。

(4)車いすラグビー(国立代々木競技場)

四肢まひなど手足に障がいのある選手が、コート上では1チーム4名で戦うチームスポーツ(男女混合)である。パスやドリブルでボールをつなぎ、ボールを持ってトライラインを越えると得点になる。車いす同士のぶつかり合いが認められているので、激しいぶつかり合いに耐えることができる専用の車いすを使用するため、会場内は激しいタックルの音が大反響する。

(5)ゴールボール(幕張メッセ Cホール)

視覚障がいのある選手が男女別に競技を行う。コート上で、1チーム3名の選手が鈴の入ったボールを投げ合いゴールを狙う。ゴールは幅9m高さ1.3mで、サッカーのゴールのようにネットが張ってある。選手たちは転がるボールの鈴の音やレフリーのコール、笛を頼りにプレーし、守備では相手チームの声や息づかい、足音や床から伝わる振動などを頼りに身体を投げ出すようにゴールを守る。音を頼りに競技するため、観客は競技の妨げにならないよう、プレー中に声を出して応援することができない。静寂の中で激しい攻防がくりひろげられる。

(6)車いすテニス(有明テニスの森)

車いすテニスのコートやラケット、ボールはオリンピックのテニスと同じである。ルールもほとんど同じだが、障がいや車いすの特性から、2バウンドまでの返球を認めるなど一部のルールを変更している。予測と駆け引きが勝負の鍵をにぎり、返しやすい位置に何回か打った後に突然厳しいコースに打つなど、お互いに予測を働かせながら、将棋のように数手先を読みながらプレーしている。

2.クラス分けとは

ひとくちに障がいと言っても、腕や脚、視覚など障がいのある部位や障がいの種類はさまざまであり、また同じ障がいだとしても、その程度は人によって異なるものである。それぞれ異なる障がいのある選手同士が競い合っても、選手としての能力ではなく、障がいによって優劣が決まってしまうかもしれないことから、障がい者スポーツにおいては、障がいの「種類」や「程度」によって公平な条件のもとで競技を行っている。これをクラス分けと呼ぶ。

クラス分けは、それぞれの競技によって決められており、また団体競技か個人競技によっても考え方が異なっている。ここでは、代表的な陸上競技と車いすバスケットボールを紹介する。

(1)陸上競技のクラス分け

次の表1は、国内で開催されているジャパンパラ競技大会におけるクラス分け一覧表である。表中のTという記号は競走種目と跳躍種目を表し、Fという記号は投てき種目を表している。

表1 ジャパンパラ競技大会におけるクラス分け
表1 ジャパンパラ競技大会におけるクラス分け拡大図・テキスト

このように、陸上競技では、視覚障がい、知的障がい、脳性まひ、切断・機能障がい、聴覚障がいの選手を種類や程度によって細かくクラス分けされていることが分かる。

(2)車いすバスケットボールのクラス分け(表2)

車いすバスケットボールの選手には、障がいの程度の重い者から順に1.0~4.5のクラスが定められており、試合中コート上の5人のクラスの合計が14.0を超えてはならない。

このクラス分けの目的は、障がいの重い選手も軽い選手も等しく試合に出場するチャンスを与えるためで、仮にこのクラス分け制度がなかったとすると、障がいの軽い選手だけでチームを組むことが可能となり、障がいの重い選手の出場機会を奪ってしまうことになる。このように車いすバスケットボールでは、それぞれのチーム間の公平性が保たれている。

表2 車いすバスケットボールのクラス分け
表2 車いすバスケットボールのクラス分け拡大図・テキスト

3.最後に

今回は、東京パラリンピックの見どころと障がい者スポーツのクラス分けの2点について紹介した。来年8月、東京パラリンピックの会場で、障がい種類、程度という多様性、クラス分けという公平性、残存能力を最大限に発揮する創意工夫を我々は目の当たりにすることができる。

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