視覚障がいパラ水泳のタッパー 選手が安全に安心してターンやゴールできるようベストタイミングを見極める

「新ノーマライゼーション」2019年12月号

日本身体障がい者水泳連盟技術委員
カリキュラム株式会社
寺西真(てらにしまさと)

視覚障がいの水泳選手の体の一部に触れて、壁の位置を合図し知らせることをタッピングという。合図を出す棒のことを国内ではタッピング棒と呼び、合図を出す人はタッパーと呼んでいる。棒は釣竿を使用していることが多い。

視覚障がいの選手は、パラリンピックでは3つのクラスに分けられる。クラス分けは資格を持った眼科医の下で行われる。目安として、以下のとおりである。

S11 視力0 光覚 手動の選手はブラックゴーグル(光が全く入らない真っ黒なゴーグル)を着用することが義務付けられている。レース終了後、審判にゴーグルが適正であるかどうかを確認される。

S12 視力 指数から0.03未満

S13 視力 0.03以上0.1未満 視力が0.1以上あるとクラス外になる。この数値は矯正が効かない視力を指す。

S11の選手には、ターンサイドとゴールサイドに各々タッパーを置くというルールがある。S12とS13の選手に関しては、必要に応じてタッピングが可能であるが、事前に申請が必要である。

タッピングの棒に関しては、特に長さや形状でルールはないが、選手に対して安全なものと明記されている。国内ではウレタンを楕円に削ったものを主として使用するが、海外のタッピング棒は、テニスボールを先につけたものやスーパーボールなど、さまざまである。

タッパーの役割は、選手の安全を確保しつつ気持ちよくターンやゴールをさせることである。仮に1mを1秒で泳ぐ選手のタッピングは10cmで0.1秒、1cmで0.01秒になるが、クロールのクイックターンや背泳ぎのロールターンなどは、5cmほど合図の場所がずれてしまうと満足なターンができなくなる。また、早く合図を出しすぎるとターン直後に壁がなくなり、逆に合図が遅いと泳者が壁に激突してしまうことがある。

そのため、日頃から選手とタッパーが何度も繰り返し練習をして、タイミングを合わせること、信頼関係を築き上げることが良い結果を出すために重要である。

タッピング棒は、選手の種目や泳力、また、ターンとゴールで棒を使い分けることがある。クロールと背泳ぎは、ストローク長(1かきで進む距離)が短いために150-180cmの棒を使用し、バタフライや平泳ぎの場合は、180-230cmの棒を使用することが多いが、選手によって異なる。また、頭部に合図を出したり、背中や腰に合図を出したり、選手とタッパーの関係で各々工夫している。背泳ぎは目や口に合図を出せないので、かなり難しい。

試合中は、タッパーは選手に対するコーチングを禁止されているため、基本的に話をすることができない。ゴールした直後も全員の選手がゴールし終え、審判の笛の合図があるまで、タイムや順位を選手に伝えることができない。選手がコースを逸脱した時のみ、安全を確保するために声を出すことが許されている。

このように、選手とタッパーが2人3脚でトレーニングして大会に臨んでいる。ぜひ、会場に足を運んでいただき、選手だけでなくタッパーも応援していただけることを願う。

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