車いすラグビーのメカニック 選手が安心して試合に臨むための支えに

「新ノーマライゼーション」2019年12月号

株式会社テレウステクニカルマネージャー
車いすラグビー メカニック担当
三山慧(みやまけい)

日ごろからのメンテナンスが重要

車いすラグビーのメカニックの役割は、大きく分けて競技用車いすの修理と調整である。

車いすラグビーは、唯一車いす同士のぶつかり合いが認められている車いす競技であるため、タイヤのパンクが他の競技に比べて極めて多い。パンク修理は普通の自転車と同じように、穴にパッチを貼って修理する。試合中にパンク以外の修理が発生しないよう、試合前に全選手の車いすを点検し、破損箇所の修理や消耗品等の交換をしている。

破損で一番多いのが、車いすフレームのヒビ割れ(クラック)である。練習や試合の後に必ずクラックのチェックをし、割れている箇所は溶接修理をする。ゲーム中にフレームが折れてしまうと、その選手は試合に出られなくなってしまう可能性があるからである。

また試合前には、レフリーによるチェアチェックという車検を受ける。これは車体が基準内であるかどうかの検査である。主にバンパーと呼ばれる車体の先端部分の高さや形状を厳しく点検される。チェアチェックで基準から外れていると判断されると選手は大会期間中試合に出られなくなるため、大会前にはすべての車いすを検査し、チェアチェックに合格するように調整・修理している。

1mm単位の調整

競技用車いすは、すべてオーダーメードの外国製が使われている。発注前から何度も選手と話し合いをして、どういった車いすが最も適切かを検討している。これはシーティングだけでなく、操作性や攻撃性・防御性も加味して考える。

そして、選手一人ひとりの障害の程度や体型・チーム内の役割などを考慮してシーティングをする。車いす同士がぶつかった時にお尻が前にずれないように座面のクッションを作ったり、必要に応じて胸ベルトや胸当てを製作する。座面のクッションは、主にウレタンを使い製作する。また、張り調整式の背シートを調整したり、腰部のクッションパットを入れたりしながら骨盤の位置を調整し、その選手が一番力の入る"パワーポジション"を見つけてシーティングをする。これには数日時間をかけて行う。場合によっては、試合直前まで調整することもある。

また、シーティングとは別に、試合コートの床の硬さに応じて後ろのキャスターの高さを調整する。競技用車いすには操作するための大車輪とは別に、前後2つずつ合計4つのキャスターが付いている。大車輪とキャスターの6輪すべてが床についてしまうと車いす操作が重くなるので、後ろのキャスターを少し上げる。しかし、後ろのキャスターを上げすぎると、前後にガタつきが多くなり安定して走ることができなくなる。そのため1mm単位での調整が必要となる。

選手とのコミュニケーションを大切に

修理・調整ともに選手と良く話しながら進めている。これらは選手のパフォーマンスに直接影響する部分でもあるからである。東京パラリンピックに向けて、日頃のメンテナンスをしっかり行い、選手とコミュニケーションを取りながら調整をしていきたい。選手が安心して試合に臨むための、保険やお守りのような存在になれたら良いと思う。

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