行政の動き-ユニバーサルデザイン2020行動計画

「新ノーマライゼーション」2019年12月号

内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会
推進本部事務局企画官
菊田逸平(きくたいっぺい)

1.経緯

2015年11月に閣議決定された「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」において、2020年の東京大会を契機として、共生社会を実現し、障害者等の活躍の機会を増やしていくことが位置づけられた。そこで、多数の障害者団体が参画する分科会を12回開催して分野ごとの専門的な議論を行い、2017年2月、安倍総理大臣及び障害者団体の出席を得て、「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議(第1回)」を開催し「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を決定した。

2.ユニバーサルデザイン2020行動計画の概要

(1)基本的な考え方

障害のある選手たちが圧倒的なパフォーマンスを見せるパラリンピックは、共生社会の実現に向けて人々の心の在り方を変える絶好の機会である。「障害」は個人の心身機能の障害と社会的障壁の相互作用によって創り出されているものであり、社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」の考え方のもと、「心のバリアフリー」と「ユニバーサルデザインの街づくり」を推進することとしている。

(2)「心のバリアフリー」

行動計画で取り組む「心のバリアフリー」とは、さまざまな心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことである。行動計画においては、実施すべき取組を、学校、企業、地域に分けて施策を立てており、たとえば次のような項目がある。

  • 学習指導要領に基づく指導や教科書等の充実。
  • 教員養成課程や教員免許状更新講習等における「心のバリアフリー」の指導法等の充実。
  • 交通事業者向け接遇ガイドラインや観光・流通・外食等関係業界における接遇マニュアルの策定及び普及。
  • 地方自治体、社会福祉協議会等が連携した「心のバリアフリー」普及活動の実施。

(3)「ユニバーサルデザインの街づくり」

街づくりについては、1.東京大会に向けた重点的なバリアフリー化と2.全国各地における高い水準のユニバーサルデザインの推進という2つの観点から、幅広い施策をとりまとめており、たとえば次のような項目がある。

1.東京大会に向けた重点的なバリアフリー化

  • 競技会場や会場周辺エリア等におけるバリアフリー化の推進。
  • 空港、主要鉄道駅・ターミナル等におけるバリアフリー化の推進。

2.全国各地における高い水準のユニバーサルデザインを推進

  • バリアフリー基準・ガイドラインの改正。
  • 市町村における面的なバリアフリー化を進めるためのバリアフリー基本構想の策定促進。
  • ピクトグラム(案内用図記号)に関する標準化の推進・普及。
  • 駅ホームの安全性向上。
  • リフト付バス・UDタクシー車両の導入促進。
  • ICTを活用したきめ細かい情報発信。
  • トイレの利用環境の改善(ガイドライン等の改正、マナー改善等)。

3.行動計画の実行性の担保

行動計画は、障害当事者が参画し、障害のある人の視点を反映した内容となっている。さらに、関係府省等の施策の実施状況を確認・評価するため、2018年12月に「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議(第3回)」において、構成員の過半を障害当事者又はその支援団体が占める「ユニバーサルデザイン2020評価会議」を設置し、障害者の視点を施策に反映させる枠組みを構築した。

4.評価会議において継続的に協議されている行動計画の施策の改善状況

評価会議は2019年10月に第3回が実施された。構成員の意見を踏まえ、現時点で以下のとおり改善が図られていると評価された。

(共生社会ホストタウンのレガシー化)

  • パラリンピック交流を契機とした共生社会ホストタウンの取組が東京大会のレガシーになるよう、バリアフリー法のマスタープラン・基本構想制度における心のバリアフリーの取組の強化を検討中(注)

(ホテルや飲食店のバリアフリー化の推進)

  • 宿泊施設や施設内の飲食店のバリアフリー改修をモデルケースとして補助金で支援。
  • 国は、一定規模以上のホテル又は旅館の建築等を行う場合、2019年9月から、当該建築等を行う客室総数の1%以上のバリアフリー客室の整備を義務化(既存客室は補助金で支援)。
  • 東京都は、2019年9月から、一般客室についても一定水準(浴室・トイレのドア幅70cm、段差解消等)のバリアフリー化を義務化。さらに、誘導水準(同75cm)を推奨基準化。
  • 上記推奨基準を達成する場合に補助金を嵩上げ(9割)するとともに、容積率規制を緩和。

(障害者割引の利用者利便の改善)

  • 公共交通機関の障害者割引について、2019年3月に障害者手帳の提示以外の電子的な方法等による本人確認が可能であることを明確化したことを踏まえ、マイナンバーカードを活用した電子的な確認方法の技術基準を来年に策定予定。

(バリアフリーマップ等の整備・充実)

  • 2019年10月、バリアフリー整備ガイドラインを改訂し、車椅子使用者の単独乗降と列車走行の安全確保を両立する鉄道駅のプラットホームと車両乗降口の段差・隙間の目安値等について明確化。
  • 首都圏の主要駅において、単独乗降がしやすくなるよう整備を進める。
  • 「らくらくおでかけネット」について、視覚障害者向けの読み上げ対応や外国語対応が可能になるよう改良。

(心のバリアフリーの拡大・向上)

  • 小学校で2020年度から、中学校で2021年度から全面実施される新たな学習指導要領において、「心のバリアフリー」教育を充実。
  • 2019年4月以降の新たな教員養成課程では、「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」の科目の一単位以上の履修を義務付け。
  • 大学において、障害のある学生が円滑に修学できるようサポートを行うとともに、卒業後に社会で活躍できるよう、就労支援を含めたサポートの強化を検討。

(ユニバーサルデザインタクシーの改善)

  • ユニバーサルデザインタクシーの多くを占める車種で、車椅子乗車時の操作時間を短縮する改良を実施。
  • ユニバーサルデザインタクシー車体補助の条件として実車を用いた研修を義務化。

5.おわりに

パラリンピック開幕まであとわずかとなった。今後も、障害のある人の視点を施策に反映しながら、大会に向けた準備を一層加速するとともに、大会の成功とレガシーとしての共生社会の実現に取り組んでいく。


(注)改正バリアフリー法(2018年)では、市町村がバリアフリーのまちづくりの方針や重点対象地区を定める「マスタープラン」と、事業の実施地区や内容を特定する「基本構想」を策定することとなっている。

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