海外情報-オランダの障害者雇用施策現地調査報告

「新ノーマライゼーション」2019年12月号

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会参与
寺島彰(てらしまあきら)

「大陸型福祉国家」として知られてきたオランダは、国家財政赤字増大のために、福祉国家からの脱却をはかっている。そのために、2007年と2015年に大きな社会保障制度改革を行った。

特に、2015年の改革では、高齢者及び障害者の在宅介護の責任を地方自治体に移し、中央政府からの補助金、独自財源、及び利用者の一部自己負担と、地域住民のボランティア活動により地域介護を行うようにした。また、医療は健康保険が担当するようにし、さらに中央政府が運営する長期医療ケア制度には施設介護のみを残すこととした。

また、障害者の就労支援においても、社会参加法により、保護雇用の廃止と一般就労への誘導が行われている。たとえば、18歳以前に発症した重度障害者を対象としたWajong障害手当の受給要件を厳格化する一方で、重度障害者には、全国雇用主協会、全国労働組合、地方自治体協会が協定により重度障害者のために12万5,000(10万が民間、2万5,000が公的)の仕事のポストを用意したり、UWV(年金)管理局が障害の評価と就労ポストへの割り振りを行い、重度障害者の就労を増やすための政策を行っている。

このような状況にあるオランダの障害者雇用支援策について現地調査をしたので、その一部を紹介する。

アムステルダム農福ケアファーム「オンス・フェルラング」

70ヘクタールもの広大な農場が重度障害者のための生活施設とデイケアサービスを運営している。12年前に、デイケアサービスとして始まった。現在、18歳から68歳の知的障害者、精神障害者、高齢の認知障害者60名が働いている。障害のないスタッフ50名が常勤している。

ただし、利用者は重度障害のため、農場労働者として働いているというわけではない。農場経営と障害者支援は別の組織となっていて、農場は、障害者支援における活動の場の提供という位置づけである。また、中央政府から運営費が出ており、毎年報告書を出す必要がある。年3回の抜き打ち監査もある。デイケアサービスの利用回数は、障害の程度により決められる。

ケアファームは、30年前ごろから国内農業ケア支援局の指導により全国に普及した。オランダ国内に約1,500あり、農家であれば、誰でもケアファームを開くことができる。職能団体があり、そこが承認とクオリティコントロールをしている(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

ヨーストラ・ストゥール・ヘルゾルハー社

中古椅子修理リサイクル販売会社で、2012年創立。300以上の会員組織からなるソーシャルエンタープライズNLのメンバーである。ステーンヴェークとハードヴェークの2か所に事業所がある。従業員数45名のうち30名が障害者(視覚障害、自閉症、精神障害、身体障害)で、全員非正規雇用である。UWV管理局から派遣されている。障害のない職員は正職員で、これらの職員は、仕事をしながら障害のある人に対する訓練も行っている。

ソーシャルエンタープライズであることから、ホテル、航空機会社など大企業や自治体等の顧客が多く、経営は安定している。自治体には、障害者が作ったものやサービスを購入する義務がある。

オランダのソーシャルエンタープライズには特別な法的地位はなく、多くは、民間企業である。ソーシャルエンタープライズと名乗るためには、ソーシャルエンタープライズNLにより認定される必要があり、認定されれば、ソーシャルエンタープライズのマークを使用でき、ウェブサイトでアピールできる(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

ウェストランド市のパタイネンブルグ社

以前は社会適用事業所(保護工場)であったが、社会参加法施行に伴い、2017年からウェストランド市が100%株主の株式会社である。仕事の種類は、電気器具の組み立て、パッキング、溶接、ソーラーパネルの部品製作、ケータリング、清掃などを行っている。

300名が働いており、そのうち26%は外部の仕事場で働いている。60名の指導員がいる。対象となるのは、労働能力が30%から80%の障害者、生活保護受給者、難民、失業者などである。

全体の予算は1,500万ユーロで、そのうち、市場での売り上げは400万ユーロ、国からの補助金が650万ユーロ、ウエストランド市から150万ユーロとなっている。

見た目は保護工場と変わらないが、社会参加法により労働市場での就労が求められており、株式会社となっている(写真3)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

まとめ

オランダは、伝統的に雇用主団体、労働組合、地方自治体が協定を結び、就労関係の制度を維持してきた。財政赤字に伴う社会保障改革をすすめる中で、障害者の就労支援についても、3者の協力のもと、大きな改革が進んでいる。

特に、2015年の改革では、障害者の手当を最重度障害者に限定するとともに、保護雇用制度を廃止し、また、民間企業と公的機関が障害者が働くポストを確保して、一般就労を進めるというドラスチックな改革をすすめている。

ただし、障害者の場合、判定された労働能力を超える賃金は、政府により補てんされるという「ノーリスクポリシー」は残っているので、雇用主にとっても障害者にとっても痛みはない。たとえ障害者雇用が進んでも、財政赤字解消には貢献しないと思われる。障害者雇用の責任を中央政府から地方自治体に移すことで、中央政府の赤字を少なくし、地方自治体の努力に期待するということであろうか。

また、一般就労が難しい人々の就労を支援するソーシャルエンタープライズ(ソーシャルファーム)は、多く存在するにもかかわらず公的な支援制度はなく、ソーシャルエンタープライズNLという民間団体が中心となりその普及に努めている。

ソーシャルファームは、障害者など一般労働市場において不利がある人々を雇用するための、マーケット指向の商品とサービスを用いて社会的使命を追求するためのビジネスである。企業努力により障害者などの人々の職場を確保することを社会的使命としており、財政赤字解消には有効であると思われるが、ソーシャルファームの組織を制度的に活用していないのは理解できないところである。

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