東京パラ・選手を支える人-選手が求めているものは何か、きめ細かい対応でサポート

「新ノーマライゼーション」2020年1月号

鉄道弘済会義肢装具サポートセンター 義肢装具士
藤田悠介(ふじたゆうすけ)

17歳の時、兄が事故により両足を切断して義足になった。その時初めて義肢装具士のことを知る。仕事内容など調べて少しでも兄の役に立つのではないかと思い、義肢装具士の道に進む。2008年に鉄道弘済会義肢装具サポートセンターに入会、現在に至る。兄はパラ自転車競技選手の藤田征樹氏。

普段、義肢装具士として通常の生活で使う義肢装具を作っています。義足とスポーツ用義足、コルセット関係を重点的に製作しています。入会して4、5年経ってから徐々にスポーツ用義足の製作に関わり、最近はけっこう任されるようになってきました。

日常用の義足とスポーツ用義足の違いは、競技用は義足の板の部分が地面につく位置をどう変化させたら早く走れるかを考えますが、日常用はきちんとどう歩くか、という視点で製作しています。基本は生活の中で「歩く」時の体の使い方やそれぞれの特性を理解したうえで製作する必要があります。

現在、関わっているパラリンピックの選手は陸上の選手、パラバドミントンの選手、やり投げの選手です。やり投げの選手はウエイトトレーニング用の義手を作っています。彼は片方の手がありません。バランスよくトレーニングができないと筋力が弱って競技の記録に影響するため、彼の希望で100キロのバーベルを持てるトレーニング用の義手を作りました。100キロの重さをもっても義手が落ちないように工夫をしています。バドミントンの選手の義足は、陸上の選手の義足を改良してバドミントンの動きにあった形にして製作しました。バドミントンは後ろに下がる動作もあるので、後ろに下がりやすいように新しく作ったパーツをつけてカスタマイズしています。それぞれの選手の用途に合わせて新しいものを作っています。

競技用の義足は、ほとんどカーボンを使用しています。カーボンは軽くて丈夫、そして結構柔らかい材質です。義足はたわまないと力を発揮しません。選手の体型や体重、動きに適した硬さがあるので、その中から一番適したものを選択しています。

義足や義手に対する要望は選手から出されることが一番多いです。要望が出されると、頭をフル回転してどういうものを作ろうかと考えます。この選手は何を一番求めているのかをいろいろ話して聞いて、いいものを作るようにしています。そのために選手とのコミュニケーションは大事にしています。普段から選手が要望を出しやすい環境を作りたいと思っています。

製作した義足はその精度をさらに高めるために、選手が練習している現場に行って義足の調整をしています。実際に走ってみて少し調整して、走ってまた調整という、細かい調整を繰り返しています。

2019年11月にドバイで開催されたパラ陸上世界選手権大会に職場から派遣されました。行く前は日本と海外の選手のレベルにそれほど差はないと思っていましたが、世界の選手はすごく強かったことに衝撃を受けました。義足の性能や製作などの技術面について、学ぶべきことが多いと思いました。日本だけでなく他の国で勉強できたらもっといいものができるのではないかと考えています。その技術が追いついた段階で、選手からの要望にどう生かしていくかを当面の目標としています。

義肢装具士の仕事は面白いです。既存のものがなくて、新しいものを作る時がありますが、その場合は、全部自分で作るのではなく、職場で専門的な知識をもっている人に相談して、作ってもらったり、他の人に教えてもらった技術を使ってみるなど、職場の人たちに恵まれて新しいものができたりしています。

今年8月に開催されるパラリンピックでは選手にメダルはもちろん取ってほしいですが、悔いのないように頑張ってほしいと思います。そして関係する僕らも頑張らないといけないと思っています。

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