海外情報-「アジア太平洋障害者連携フォーラム2019 in パキスタン」報告

「新ノーマライゼーション」2020年1月号

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会研修課
光岡芳宏(みつおかよしひろ)

2019年10月21日、22日の2日間、パキスタン・ラホール市にて、「アジア太平洋障害者連携フォーラム2019 in パキスタン~『チャリティから投資へ』障害者課題解決に向けた新たな視点を導入する~」(以下、連携フォーラム)を開催した。連携フォーラムには、パキスタンパンジャブ州知事などパキスタン国内の行政関係者をはじめ、多くの障害者団体、及び日本国大使館、国際協力機構(JICA)パキスタン事務所などから延べ200名を超える参加者があった。

この連携フォーラムは、(公財)日本障害者リハビリテーション協会(以下、当協会)が日本財団の助成を受け実施したもので、ダスキン愛の輪基金及び国際協力機構(JICA)の研修修了生(以下、研修生)を対象としたフォローアップ事業の一環として実施した。

本フォローアップ事業は、日本で研修を終えた研修生が自国・地域でそれぞれの活動に取り組む上での課題を解決するための事業として、2015年度より開始した。研修生の多くが抱えている問題として、行政関係者や障害者団体、国際協力団体とのつながりが作れず、活動に必要な支援を得られていないこと、また、所属する団体の職員の人材育成が上手くできず、運営能力や連帯感が低いために団体活動の継続や向上が難しいことがあげられていた。そこで本事業では「ネットワーク構築」に焦点を当て、研修生のエンパワメントや団体運営資金の獲得に向けたフォローアップを行ってきた。2016年、2017年度は研修生を日本に招聘し、「効果的な情報発信」や「企画書の作成方法」、「組織マネジメントの強化」といったスキルアップを主としたワークショップを開催した。2018年度は東京において、「研修生と日本とのネットワーク構築及び協働」をテーマにした2日間のフォーラムを開催し、研修生が自国・地域で取り組んできた活動成果の報告と、「ソーシャルビジネス」や「社会的投資」など活動資金を生み出す新たな方法について議論する場とした。

以上のような3年間の取り組みを経て、2019年度はダスキン・アジア太平洋障害者リーダーシップ育成事業の第3期生であるシャフィック・ウル・ラフマン氏がパキスタンに設立した、マイルストーン障害者協会(以下、マイルストーン)と共に連携フォーラムを開催した。マイルストーンは、特にネットワークを効果的に活用し、障害者の課題解決を進めており、パキスタン国内の行政関係者、障害者団体、NGOなどとも協力関係があり、連携フォーラムの運営経験を通じて、さらにマイルストーンの活動を強化できることから、業務を委託した。また、パキスタン以外の国や地域から研修生を招聘して、連携フォーラムに参加するとともに、マイルストーンの活動や組織マネジメントを学ぶことで参加した研修生のそれぞれの国や地域での今後の活動に生かしてもらうことを目指した。

初日のオープニングセレモニーでは、日本財団の笹川会長とダスキン愛の輪基金の山村理事長からのビデオメッセージが上映された。在パキスタン日本国大使松田邦紀氏からの祝辞では、イスラマバードにある日本国大使館の建物がマイルストーンの要望により、バリアフリー化が実現したことも紹介された。セレモニーの後、3つのセッションが行われた。

セッション1では、「社会課題解決に向けた障害者団体活動の持続性の確保」というテーマで、障害者団体の組織形態と資金確保について発表及びディスカッションが行われた。慈善事業モデルからビジネスモデルへの転換を念頭に、資金獲得の方法について、政府からの援助だけではなく、投資家や社会起業家からの資金、障害者支援サービスの対価など、ビジネスモデルの提案もなされたが、従来の寄付や募金などに頼らざるを得ないとの認識が示された。今後、寄付や基金などを基本とした活動資金の獲得からの脱却に向けた取り組みが課題としてあがった。

セッション2は、「障害関連の課題解決の鍵であるさまざまなステークフォルダーとの協働」というテーマで、「社会的インパクト」や「システムアプローチ」などに焦点を当て、問題解決に向けた方策が討議された。このセッションでは、女性障害者団体及び貧困・開発基金の代表が登壇し、障害者に関する課題解決には、国連の障害者権利条約や持続可能な開発目標(SDGs)といった国際的合意や目標が示されたことで、環境や教育、人権問題に関わる団体など、これまでつながりがなかった団体同士、お互いの強みや協働するメリットを認識し、関係性を築いていくことが不可欠であり、さらにパキスタンだけでなく、グローバルな視点で、企業、団体などとの協力関係の構築を意識していく必要があることが確認された。

セッション3は、「所得獲得モデルの創出と投資資金の活用による障害者の課題の解決」をテーマに、「ソーシャルビジネス」や「社会投資」などを取り上げて議論が行われた。ここでは、積極的に障害者雇用に取り組んでいる企業の事例、また日本人がイスラマバードで起業したアクセサリーショップの紹介があった。このショップはパキスタンで起きた地震の被害にあった女性障害者の働く場を生み出し、彼女らのエンパワメントを実現していることから、先駆的なソーシャルビジネスとして連携フォーラム参加者から注目された。

2日目は、パキスタンとアジア太平洋の6つの国と地域(カンボジア、ネパール、ベトナム、タイ、ミャンマー、台湾)で活動する、約20の障害者団体から活動成果について、5分間のショートスピーチが行われた。パキスタンからの発表には、人工呼吸器を使用している重度障害者が代表を務めている団体も紹介され、パキスタンの障害者運動の広がりが感じられた。また、招聘した6名の研修生はそれぞれの団体のアピールを行った。この発表を通じて、国と障害種別を超えた障害者同士のコミュニケーションが活発に行われ、ネットワーク構築の機会となった。

今回の連携フォーラムの開催によって、日本とパキスタン、そしてアジア太平洋地域の障害者団体及び国際協力団体のつながりを作り、強化することができた。慈善事業モデルからビジネスモデルへの転換については、今回のセッションで発表された、日本人が起業したアクセサリーショップの事例のように、社会起業家のアイデアや投資を障害者雇用やビジネスにつなげる先駆的な取り組みが、今後、パキスタンだけでなく、連携フォーラムに参加した研修生の国や地域においても始まることが期待される。そのためには、ソーシャルビジネスなどの専門的知識をもつリソースパーソンなどと研修生の活動とをつなぐ、マッチングの仕組みが重要となる。


「アジア・太平洋障害者リーダーシップ育成事業」

「障害者リーダーシップ育成とネットワーキングコース」

「ペーパーミラクルズ」高垣絵里代表取締役社長

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