たんぽぽの家の取り組みー市民活動としてのアート、仕事づくりの実践

「新ノーマライゼーション」2020年2月号

一般財団法人たんぽぽの家 常務理事
岡部太郎(おかべたろう)

たんぽぽの家は、障害のある人たちの芸術文化を通してさまざまなプロジェクトを実施する市民団体です。1970年代から障害のある人の詩を音楽にのせて歌う「わたぼうし音楽祭」を開催。芸術文化を通して障害のある人の存在を社会に発信し続けています。1995年には障害のあるなしにかかわらず、市民による自律的な芸術文化発展をめざす「エイブル・アート・ムーブメント」がスタート。これまで全国各地で行われていた障害のある人のアート活動をゆるやかにつなげ、展覧会やセミナー、調査研究などを通して活動支援や社会発信のための学び、交流の場をつくってきました。

企業の社会貢献活動や各地の行政と連携し、地域の魅力をアートで発信するプロジェクトも開催しています。その根底には、障害のある人だけがアート活動の機会、環境を享受するのではなく、障害のある人がいる地域そのものが全体的に豊かになることが大事だという思いがあります。効率化が進み、異質な存在を排除しがちな社会で、アートに触れることで異なる文化的背景の人たちと互いの価値を尊重しあいながら交流することができます。その交流のきっかけとして、障害のある人たちの存在と表現が大きな役割を担っています。

奈良市にある私たちの拠点「たんぽぽの家アートセンターHANA」は、さまざまな障害のある人が自分の個性を発揮し、アートを通して生活や仕事ができる場所として2004年にオープン。絵画や立体造形、陶芸、織物の造形表現や、それらを食器や文具などの生活雑貨にした商品開発、ダンスや演劇、パフォーマンスなどの身体表現もしています。

大切にしているのは、枠組みを超え、ジャンルを横断しながら活動を外に開いていくこと。異なる立場の人たちと積極的にコラボレーションをすることです。このように、アートを切り口に日々の障害福祉の現場と市民運動が相互に連携しながら展開しているのがたんぽぽの家の活動の特徴といえます(写真)。
※掲載者注:著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。

ここ数年、障害のある人の所得が低く、仕事の選択肢が少ない、という課題に取り組んでいます。2007年、NPO法人エイブル・アート・ジャパン(東京)、NPO法人まる(福岡)と連携し、デザインを通して障害のある人のアートを仕事につなげる「エイブルアート・カンパニー」を運営しています。全国各地の登録作家の作品を、企業やデザイナー、クリエイターが有料で著作権の二次利用ができる仕組みをつくっています。さらに2013年から全国各地でアート、デザインを通して障害のある人と共に新しい仕事や働き方を提案している活動を紹介する「Good Job!プロジェクト」が始まりました。この取り組みは現在、奈良県香芝市にオープンした「Good Job!センター香芝」の運営につながっています。ここでも障害のある人の能力や感性を生かしながら、企業やクリエイターとの協働により仕事を生み出しつつあります(http://goodjobcenter.com)。

ここではデジタル工作機械と手仕事の組み合わせによるものづくりを展開。たとえば、人気キャラクターの張り子制作では3Dプリンタで型をつくり、その上に手作業で紙を貼り、色を塗り仕上げます。こうすることで効率化と品質の安定化につながったり、1点ものと大量生産の間の多品種中量生産が可能になります。3Dプリンタの操作も障害のある人ができるようになっています。

いま、社会で障害のある人たちのアート活動が注目されています。誰もが自由に表現できる社会をつくるためには、まだまだ解決すべき課題がたくさんあります。表現するうえで大切な著作権などの知的財産権について学んだり、最新の技術を使って仕事づくりや生活を良くしていく実験など、常に障害のある人の権利や生活を守りながら、魅力的な表現をどう広めていくかを考えていきたいと思っています。

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