東京パラ・選手を支える人-選手のコンディションを整え、より高いパフォーマンスを発揮できるように支える

「新ノーマライゼーション」2020年2月号

独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター
国立スポーツ科学センター スポーツメディカルセンター
理学療法士
鈴木章(すずきあきら)

スポーツ分野における理学療法士の関わりは、社会復帰をゴールとするメディカルリハビリテーションだけではなく、競技復帰をゴールとするアスレティックリハビリテーションまで関わります。アスレティックリハビリテーションにおいて競技復帰に至るまでに行われるコンディショニングは「リコンディショニング」と呼ばれ、慢性外傷や後遺症、疲労などにより十分に競技能力を発揮できない競技者の運動能力回復を目的に行われるコンディショニングです1)。さらにコンディショニングの定義は「ピークパフォーマンスの発揮に必要な全ての要因をある目的に向かって望ましい状況に整えること」2)で、競技スポーツにおいては設定した目標を達成するためのすべての準備プロセスです。その目的はパフォーマンス(競技力)の向上と傷害の予防であり、要素としては1.身体的因子、2.環境的因子、3.心因的因子があります。

ハイパフォーマンススポーツセンター(以下、HPSC)では、このコンディショニングに対応すべく「コンディショニング課」があり、アスリートリハビリテーション、トレーニング体育館、ハイパフォーマンスジム、栄養、心理の5つの分野で構成しています。パフォーマンス向上には、リハビリテーションのみでは競技復帰はできません。前述した5分野で情報共有し、選手をサポートしています。

理学療法士の役割としては、パラアスリートがトレーニングを実施する場合、筋緊張による関節可動域制限がある時などに介入し、動作の改善を行った上でトレーニング指導員に引き継ぐといった連携を行っています。普段のHPSCではこのような連携を行っていますが、パラリンピックの村外支援施設として設置したハイパフォーマンスサポートセンターでもケアとトレーニングが連携して行えるような環境を整備し、選手のサポートを行いました。この村外支援施設はスポーツ庁委託事業としてリオ2016パラリンピック大会から正式に開設され、HPSCの機能を現地で再現するものです。2019年9月には味の素ナショナルトレーニングセンター・屋内トレーニングセンター・イースト(東館)が開所し、リカバリーエリア、アスレティックトレーナールーム、トレーニングジムそれぞれにおいてパラアスリートのための環境を整えました(図1、2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1・2はウェブには掲載しておりません。

パラアスリートは「障がい者」ではなく「アスリート」です。障がいはある意味「特長」や「個性」の一つと捉えることができます。競技力向上のポイントとしては、長所を伸ばすことが重要です。試合に勝つためには短所を改善して平均点にするだけでは勝てません。これはオリンピック競技でもパラリンピック競技でも同じであり、競技力向上に向けて選手の「特長」「個性」を捉えて取り組んでいます。

東京2020大会は国際大会であるにもかかわらず、自国開催となるためにその利点と欠点を十分に把握した上で取り組むことも重要です。最善のサポートができるよう、万全の準備をして大会を迎えたいと思います。


【参考文献】

1)日本体育協会編「公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト5検査・測定と評価」2007年

2)日本体育協会編「公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト6予防とコンディショニング」2007年

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