地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-「ぬか つくるとこ」について

「新ノーマライゼーション」2020年2月号

ぬか つくるとこ 支援員/アートディレクター
丹正和臣(たんじょうかずおみ)

話をしたり、ご飯を食べたり、創作意欲がわくときは絵を描いてもいい。楽器もそこそこあるので音楽もできるし、そこにいる仲間と新しい遊びを考えるのも楽しい。または、ひがな1日ぼーーーっと寝て過ごすのも素敵だ。

「ぬか つくるとこ」は、岡山県早島町にある生活介護事業所。2013年12月に開所して6年ほどが経った。

「生活介護事業所」は、比較的重度の障害をもっている方が日中(朝から夕方まで)通う場所のこと。「ぬか つくるとこ」の特徴を一言でいうと、「やりたいことを無理せずできる場所」または「そんな雰囲気があるところ」ということだと思う。ここに通う人たちは年齢も特徴もさまざま。現在は18歳~65歳までの人が1日約20名ほど来てくれている。その中には自閉症や、統合失調症と呼ばれる人がいたり、ダウン症や元アル中の人、陽気な人もいれば、元気のない人もいる。週に1日来る人もいれば、毎日来る人もいて、当然のことだが「ぬか つくるとこ」にいる人たちそれぞれの「やりたいこと/やりたくないこと」はみーんな違うのだ。そのさまざまな「違い」が築100年以上のそれほど大きくない蔵の中でひしめきあっている。

「ぬか つくるとこ」の名前の由来である「ぬか」は漬け物などを漬けて発酵させる「ぬか床」から名前をとっている。「ぬか」は、穀物を磨いて白くする際に出る果皮、種皮、胚芽のことで、お米の場合、白米を得るために捨てられる「不要な部分」が「ぬか」にあたる。だが「ぬか」には油分が多く含まれ、栄養価も高く古くから日本人の生活の中で重宝されてきた。ぬか床で漬物をつけはじめると、毎日ぬか床を「混ぜる」という作業が生まれる。空気を入れ、手の常在菌で発酵させなければおいしい漬物は作れない。そのため、手をかけ愛情を注ぐが、仕上がる漬物の味はその都度の気温や菌の状態など、自然なものに「委ねてみないとわからない」のだ。

手をかけながら、自然の力で発酵し、不要だと思っていたが実は有益な「ぬか」のありよう。このありようが福祉や障がい、または今の社会を新たな視点で捉えるきっかけになるのではないかと思い、「ぬか つくるとこ」という名前をつけた。「つくるとこ」というのは「ものづくりができる場所、人や社会との関係をつくる場所」という思いを込めている。また、個々の「違い」や「旨味」を「ぬか床」でふつふつと「発酵」し、美味しくまたは予想だにしない味の漬物をつけれるような、芳醇な「ぬか床/場所」をめざしたいと思っている。

「ぬか つくるとこ」では利用者さんのことを「ぬかびとさん」と呼んでいる。そして、「ぬかびとさん」の魅力や個性を新たな役割や働きにつなげるワークショップなどを企画・創出し「ぬかのかたち」と呼んでいる。

例えば、読書家で詩人の戸田雅夫さんが綴る言葉のおみくじ「とだみくじ」を販売するお店「とだのま」、仮面ライダーの変身ベルトを創ることが大好きな上木戸恒太さん主宰の変身ベルトづくりワークショップ「上木戸工作室」、新聞をちぎることが好きな小池佑弥さんが主として居座る新聞の池「コイケノオイケ」、幼少期からあらゆる物(おもちゃの車や空き箱、レゴなど)を積み上げることに熱中している山田翔也さんの、モノを積むだけのワークショップ「ツミマショウヤ」などがある。これらの企画は地域のイベントなどで披露・出店され、必ずぬかびとさん本人と一緒に会場へ出向く。ぬかびとさんはワークショップの講師や店主、池の主となる。それぞれ有料のワークショップとして開催しており、ぬかびとさんの仕事や役割の一つにもなっている。また、これら「ぬかのかたち」を実施することで、ぬかびとさん自身のエピソードや魅力を紹介する機会をつくり、そうしたワークショップを通して社会との接点をつくっている。あとは実際に「ぬか つくるとこ」へ遊びに来ていただき、ここに書けなかった「ぬか」の旨味を感じてもらえたらと思う。ぜひともぬかるみにはまりに来てほしい。

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