身体障害者補助犬をめぐる動き

「新ノーマライゼーション」2020年3月号

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室
福祉用具専門官・室長補佐
秋山仁(あきやまひとし)

1.はじめに

身体障害者補助犬法(以下、「法」という)は、2002年5月22日に議員立法として制定されました。その主な内容は、1.良質な身体障害者補助犬(以下、「補助犬」という)の育成、2.使用者に衛生管理・行動管理を義務づけ、3.公共交通機関や不特定多数の人が利用する施設における補助犬の同伴拒否の禁止、です。一方、施行後10数年が経過し、さまざまな課題が見えてきており、国としても研究や検討を進めています。ここでは、現在の施策や研究の動向についてご説明します。

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2.訓練・認定における課題

補助犬は、法に基づき第二種社会福祉事業として届け出をした事業者により訓練され、国が指定する法人が認定する仕組みで育成されています。

  訓練事業者数 指定法人数
盲導犬 14 14
介助犬 26
聴導犬 21

(平成31年1月1日現在。厚生労働省ホームページより抜粋)

良質な補助犬を育成するためには、訓練事業者や指定法人が適切に訓練・認定を行うことが欠かせません。訓練・認定の実態を把握するため、2018年度障害者総合福祉推進事業で訓練事業者や指定法人に対する調査「身体障害者補助犬の訓練・認定の実態に関する調査研究」を行いました(実施団体:みずほ情報総研株式会社)。その結果、以下のような課題があり、客観的かつ適切な認定がなされていない恐れがあることが指摘されました。

1.補助犬の訓練事業者

●職員体制、訓練、フォローアップ等の内容にばらつきがある

●質の担保のための取組が不十分である(記録の作成・保管、医療機関との連携等)

●補助犬の使用を希望する「人」のニーズや障害、生活環境のアセスメントについて消極的な事業者がある

●「使用者に対する支援」よりも「犬」の訓練に注力する事業者が多数存在する可能性がある

2.補助犬の認定を行う指定法人

●指定法人によって認定審査会1回当たりの審査頭数や検証に要する時間が異なり、認定の質に影響を及ぼしている可能性がある

●訓練を担当した者が審査に加わる場合があり、評価の客観性の担保に更なる調査が必要

●審査会に医師が参加していない事例があり、「人」や「福祉」に着目した専門的な知見からの評価がなされていない可能性がある

3.訓練事業者と指定法人共通の課題

●指定法人や訓練事業者間の情報共有の場がなく、ノウハウの共有や訓練・認定プロセスの標準化がなされにくい

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調査報告書(PDF)

3.「身体障害者補助犬の訓練及び認定等のあり方検討会」の開催

補助犬に関する理解を広め、社会における受け入れを促進するためには、補助犬の質の確保ということが欠かせません。法施行から20年近くが経過する中で、適切・適正な訓練、認定の実施に必要となる施策のあり方について具体的な検討を行うために、厚生労働省では、障害保健福祉部長が委嘱する有識者、支援者、当事者等による検討会を設置しました(座長:江藤文夫氏(元国立障害者リハビリテーションセンター総長、日本リハビリテーション連携科学学会理事長)。2019年4月に開催された第1回検討会では、現状の制度の確認と対応方針について、各構成員からのご意見を伺いました。主なご意見は以下のとおりです。

●訓練に関するご意見

  • 適正な事業運営と適切な職員体制が必要
  • 訓練事業者同士の連携が十分でない
  • きちんとした適性評価と使用者のニーズを踏まえた訓練が必要
  • 公共の場での訓練は欠かせない
  • 適切なフォローアップが必要

●認定に関するご意見

  • 透明性の確保が欠かせない
  • 認定基準や認定審査会を適正に運営できる体制が必要

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4.調査研究の実施

先に述べた検討会と並行して、2019年度~2020年度の2年間で、厚生労働科学研究「身体障害者補助犬の質の確保と普及促進のための研究」を実施しています(主任研究者:飛松好子氏(国立障害者リハビリテーションセンター総長))。本研究では、以下のテーマに基づき実施しています。

1.現行法令、既存の各種ガイドライン等の内容を学術的な視点で検証

2.補助犬の衛生管理の実態を把握し、訓練事業者及び使用者が行うべき対応を検討

3.交通事業者、飲食店、ホテル、医療機関等、各分野で補助犬使用者を受け入れるための留意点を取りまとめ

4.障害者のニーズを的確に把握するため、補助犬の種別ごとの需給推計方法を検討

普及啓発に関しては、2019年度障害者総合福祉推進事業で、「身体障害者補助犬の普及啓発のあり方に関する調査研究」を実施しています(実施団体:社会システム株式会社)。自治体や相談支援専門員、補助犬使用者、非使用者、受入事業者に対してアンケート調査やヒアリング調査を実施し、都道府県等が普及啓発イベント等を実施する際の留意点や、使用者を掘り起こすための普及啓発のあり方等について検討しています。

どちらの調査研究についても、実施にあたっては、前述した検討会の構成員からの助言を得ながら実施することとしており、よりよい制度に向けて、連動して多方面から検討を進めているところです。

5.海外の補助犬使用者への対応

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を控え、海外から補助犬使用者が多数入国することが予想されます。日本に補助犬を伴って滞在する間、施設等を円滑に利用するためには、日本の補助犬の質が確保されていることを前提として、ある程度統一した手続きが必要です。

海外の補助犬の育成等の実態を把握するため、2018年度障害者総合福祉推進事業において文献調査や対応案の検討を行いました(実施団体:NPO法人日本補助犬情報センター)。その結果、日本と海外では、特に介助犬の定義が異なること、動物検疫との連携が必要であることが示されました。

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調査報告書(PDF)

そこで、2018年、農林水産省動物検疫所や国家公安委員会にもご協力いただき、「海外から渡航してくる補助犬使用者への対応ガイドライン」を策定し、補助犬の認定を行う法人が統一的な指針のもとで対応できるよう、手続きを整理しました。これにより、海外の補助犬使用者には、入国前に「期間限定証明書」が交付されることに統一されました。また、該当する補助犬の定義は日本における補助犬と同等のものとするため、国際的な認定団体により訓練されている場合に限定することとしました。先に開設していた海外向けのポータルサイトも活用し、国内外に正確な情報を伝える必要があると考えています。

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厚生労働省 海外向けポータルサイト
“Assistance Dogs for Persons with Physical Disabilities” Portal Site

6.おわりに

補助犬を社会で円滑に受け入れるためには、受け入れる側の事業者等の理解促進はもちろん、補助犬の質の確保が欠かせません。また、補助犬使用者は補助犬の衛生管理や行動管理を適切に行わなければなりません。きちんと訓練を受け、使用者による衛生管理・行動管理が十分であるからこそ、受け入れる側の事業者等も安心して受け入れられます。今後、訓練・認定を中心に、質を確保するための方策を具体的に検討していく予定です。そして、身体障害者の自立と社会参加がより進むことを心から期待しています。

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