身体障害者補助犬Q&A

「新ノーマライゼーション」2020年3月号

公益財団法人日本盲導犬協会 神奈川訓練センター
センター長・訓練部副管理長 山口義之(やまぐちよしゆき)

社会福祉法人日本介助犬協会 介助犬総合訓練センター
センター長・訓練部長 水上言(みずかみこと)

公益社団法人日本聴導犬推進協会 事務局長・育成事業部
水越みゆき(みずこし)

Q 訓練期間はどれくらいですか。また、どのような訓練をしていますか。

盲導犬

盲導犬候補の子犬(以下、パピー)は、生後2か月から1歳まで「パピーウォーカー」と呼ばれる飼育ボランティアの家庭で愛情いっぱいに育てられます。

1歳になると訓練センターに戻り、日本盲人社会福祉施設協議会が定める「盲導犬訓練計画」に沿って半年から1年間訓練をします。基本訓練では、「シット」「ダウン」などの指示を理解し、人とコミュニケーションがとれるようにします。誘導訓練では、道路の端を歩いて角や段差、障害物をパートナーに教えられるようにし、電車やバス、エスカレーターの乗降ができるようにします。公共の場で落ち着いて待機したりすることも学びます。この間訓練士が評価テストを行います。これに合格して盲導犬に向いていると判断すれば、盲導犬との生活を希望している視覚障害の方とのマッチングへ進みます。

介助犬

介助犬になる候補犬は1歳になる頃に訓練センターに入所をし、基本訓練、介助作業訓練、パブリック訓練を約1年間行います。基本訓練では、座る、待つ、伏せるなどの他、さまざまな刺激を無視できる、指示された場所で排泄ができるなど、社会参加する上で必要な基本動作も教えます。介助作業訓練では、物をくわえて運ぶ、くわえた物を訓練士に渡す、マグネットなどの指示されたポイントを鼻で押す、くわえた物を引っ張るなどを教えます。最終的にはそれらの動作が、使用者が落とした物を拾って渡す、冷蔵庫から飲み物を持ってきて使用者へ渡す、車いすを牽引するなどの作業に結び付きます。パブリック訓練では、電車やバスに乗ったりスーパーへ行くなど、介助犬になってからの社会参加を想定した訓練を行います。その後、パートナーとなる使用者と共に約40日間の合同訓練を経て介助犬になります。

聴導犬

訓練期間は、聴導犬を育成している団体によって異なりますが、1年~3年程度になります。聴導犬の候補犬は、犬の種類や大きさが決まっていないため、保護された犬から育成されることも多く、いろいろな環境や人、動物や車など人間社会のあらゆる環境に慣らすための訓練や社会参加するための基礎訓練に時間をかける必要があります。また、聴覚障害の方が犬に指示を出して行動させるため、手と声の両方の合図で動くことができるように訓練を行っていきます。

聴導動作訓練では、日常生活の中で発生する必要な音の情報を伝えることができるように、必要な音が鳴ったら反応して知らせ、音の場所まで誘導するようにします。また、外出中に後ろからくる車や自転車等の音に反応するような訓練も行います。

Q 認定の基準はどのようなものですか。

盲導犬

初めて盲導犬をもつ視覚障害の方(訓練生)は、訓練センターで寝泊まりしながら犬と約4週間の共同訓練を行います。訓練は日本盲人社会福祉施設協議会が定める「盲導犬歩行指導計画」に沿って進みます。訓練生は盲導犬に関する法令や犬の病気などを学ぶ「講義」とともに、街を歩きながら犬からハーネスで伝わってくる情報を読み取り、それを分析しながら歩く「基本歩行訓練」をします。タクシーなど「公共交通機関の利用訓練」、飲食店やスーパー、エレベーター、エスカレーターの「公共施設利用訓練」、さらに繁華街などを歩いたり、援助依頼したりする「応用歩行」、排泄や給餌など「犬の飼育管理」を練習します。

これら一つひとつ訓練科目の評価が蓄積され、一定の基準に達し最終的に「安全」「理解できている」そして「盲導犬を愛情をもって適切に飼養できる」と判断されたら、盲導犬使用者として認定です。認定者には「盲導犬使用者証」が発行されます。

介助犬

介助犬の認定は、厚生労働省が指定した指定法人にて、介助犬使用者になる肢体不自由者とそのパートナーとなるために訓練を受けた犬がペアで認定試験を受けます。

認定を受けるためには、使用者は介助犬の行動管理、衛生管理、健康管理ができているか、身体障害者補助犬法を理解しているか、介助犬は使用者の指示に従い基本動作や介助作業ができているかなどを審査されます。衛生管理については、犬の歯磨きやシャンプーなど自身で行えないものがある場合には、きちんと他者へ依頼できるかということが確認されます。介助犬として使用者に役立つかどうかはもちろんのころ、ペアとして周りに迷惑をかけることなく社会参加ができるかということも審査されます。

聴導犬

使用者と聴導犬がきちんとコミュニケーションが取れていることが重要となります。社会参加場面で使用者が出した指示のとおりに行動できる、周囲にいる人や施設等に迷惑をかけない行動を使用者も聴導犬もすることができるなどの基本的なこと、人と接していて楽しいと聴導犬が感じているかを総合的に判断されます。

そして、必要な音の情報を的確に使用者に伝え、日常生活場面や社会参加場面で使用者の安心と安全を確保するようにサポートできることが求められます。

Q 1日何回排泄をするのですか。外出中の排泄は、どのようにしていますか。

盲導犬

犬によって異なりますが、排泄は1日5~6回、犬に我慢させることがないよう使用者が定期的にさせています。パピーの頃からトレーニングを重ね、盲導犬は「ワンツー」というかけ声で排泄するよう訓練されています。土のある植え込みなどを利用して、排泄物はペットボトルの水で流す、ビニール袋を手袋のようにして拾うなどして使用者がきちんと始末します。排泄管理が一人でもできるように共同訓練で練習をします。犬に特別なベルトを取り付けて、排泄物を地面に落とさず多目的トイレや室内でもできるようなやり方も習得します。

それでも生きものですから、体調が悪い時などはタイミングが合わず失敗することがあるかもしれません。使用者が気付いていないようでしたら、声をかけて状況を伝えてください。

介助犬

介助犬の排泄の回数は個体によって、また使用者の行動パターンによって日ごとに違うということもありますが、大体、排尿が朝、昼、夕、夜の4回ぐらい、排便が朝、夕(または夜)の2回ぐらいです。生理現象でもある排泄については、合同訓練を行う中で使用者にその犬の排泄パターンを理解してもらい、どのタイミングで排泄を促すのが適切かを習得してもらいます。

介助犬の場合は、自宅では台の上で排泄をさせ、車いすユーザーでも排泄処理がしやすいように工夫をしたり、出かけた先ではあらかじめ四隅にリングを取り付けたペットシーツを多目的トイレに敷いて促すなど、使用者の身体特徴に合わせた処理の方法をリハ専門職の意見も取り入れ工夫しています。

聴導犬

聴導犬の排泄は、ペットシーツを使用して指示により行うことができるようにしています。排泄のタイミングや回数は犬によってそれぞれ違うので、使用者が把握し我慢させることがないようにコントロールしています。

外出中は、今後の行動予定や飲水量などによってトイレに連れていくタイミングを計り、多目的トイレや外などの他人等に迷惑とならない場所でペットシーツを使用して行うようにしています。

Q 補助犬は病院や飲食店にも入れるといいますが、衛生面が心配です。

盲導犬

衛生面での調査結果が特にあるわけではありません。身体障害者補助犬法は(電車やバス、飲食店や病院、ホテルなどに補助犬の受け入れ義務を定めていますが、そのために)育成事業者には良質な補助犬の育成を、使用者には犬の衛生の確保と周囲に迷惑をかけない犬の行動、両面で管理責任を明記しています。また盲導犬であることの表示、盲導犬使用者証と犬の健康管理手帳の携帯も求めています。これらの義務に反して、犬が著しく周囲に迷惑を及ぼすような場合は、入店入場を断っても構いません。

衛生面では、定期的に予防接種や健康診断を行い、使用者は、毎日犬のブラッシング、定期的なシャンプーで清潔を保っています。爪切り、耳掃除、歯磨きもしています。毛の付着に対して、必要に応じ犬にコートを着せる場合もあります。行動面でもバスやタクシー、レストランなどで、使用者の指示に従って足元で静かに待機します。

外食産業や医療機関などで清浄度調査をする際に用いられるATP検査測定メーターを利用し、犬と人の体表の数値を確認したことがあります。その際に汚れを示す数値が人のほうが高いケースもありました。犬より人のほうが目に見えない汚れが多い場合があることを示唆しています。衛生面を理由に補助犬の同伴を拒む事例が聞かれますが、盲導犬の同伴を拒む根拠にはなりません。

介助犬

犬は長年人間と共に暮らしてきた動物です。狂犬病を代表とされる犬からうつる可能性のある人畜共通感染症について予防接種や検査などが確立している動物です。アメリカCDC(疫学センター)からは、2003年に病院における環境感染のガイドラインで「清潔でワクチン接種され、適切な健康管理と訓練をされたサービスアニマルが人よりも感染のリスクが高い根拠はない」として病院での同伴受け入れについて許可すること、としています。世界的にも、国内でも補助犬が原因で感染が起こったという事例は存在しないことに理解が進むことを願っています。補助犬法では補助犬使用者による衛生管理、健康管理が義務付けられ、毎年しっかりとワクチン接種、定期検診、ノミダニ予防がなされています。

聴導犬

聴導犬使用者は、合同訓練の際に聴導犬の衛生管理と健康管理について「身体障害者補助犬の衛生確保のための健康管理ガイドライン」をもとに、日常の管理方法や各種予防に関して指導を受けています。また、健康管理手帳に獣医師による診察や検査を受けた結果、シャンプーや爪切りなどの実施記録等を記載することになっています。

外出前には被毛の管理を行うとともに、被毛飛散防止や体が汚れないように服を着用させる、粘着テープなどを持参して退室する際に被毛が残らないようにするなど、社会参加するためのマナーを守ることが義務付けられています。

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