欧米先進国における補助犬/アシスタンス・ドッグの現状

「新ノーマライゼーション」2020年3月号

帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科
講師
山本真理子(やまもとまりこ)

日本の補助犬と世界のアシスタンス・ドッグ

「補助犬」は欧米で誕生し日本に導入され、今日では3種類の補助犬が日本で実働しています。欧米ではアメリカを中心に補助犬の役割が拡大し続け、実に多様な障害をもつ人をサポートするための補助犬が実働しています。本稿では、各国における補助犬の定義、補助犬に関する法律や補助犬の育成・認定について簡単にまとめ、世界の補助犬の現状を見ていきます。

なお、海外で実働する補助犬と、身体障害者補助犬法でいう補助犬は必ずしもイコールではありません。本稿では、便宜上、日本の法律では補助犬に含まれていない役割を持つ犬(サービス・ドッグ)を含めた広い意味での補助犬を「アシスタンス・ドッグ(以下、AD)」と呼びます(図)。

図 日本と欧米先進国の補助犬/アシスタンス・ドッグの分類
図 日本と欧米先進国の補助犬/アシスタンス・ドッグの分類拡大図・テキスト

ADの定義と基準

日本は、補助犬の実働数が欧米先進国と比べると少なく、未だに発展途上にある印象を受けますが、法律に関していうと、ADに関する整った法律を持つ数少ない国といえます。以下に欧米先進国におけるADの定義と基準をまとめます。

(1)アメリカ

アメリカは複数の連邦法でADを定義しています。司法省が管轄する障害を持つアメリカ人法では、障害を補うために特別に訓練されていればADとみなされ、一般の人々が利用できる施設や交通機関、住宅などへのアクセス権が認められています。精神疾患、てんかん、糖尿病、自閉症など、多様な障害をサポートする犬が法律で認められています。アメリカには国レベルでのADの認定や登録制度がないこと、訓練事業者の指定や訓練基準が明記されていないことから、犬の育成や使用は育成事業者(個人トレーナー含む)や使用者のモラルに委ねられています。

図に示したとおり、住宅都市開発省と運輸省が管轄する連邦法(公正住宅法と航空アクセス法)では、エモーショナル・サポート・アニマル(ESA)もADに含まれています。ESAは、精神疾患のある人の情緒的サポートのための動物であり、ESAの必要性を記した専門家の文書があれば、住宅や飛行機への同伴が認められています。ESAは障害をサポートするために特別な訓練を受けている必要はなく、犬以外の動物も対象となります。近年、この法律を悪用してペットをESAと称して機内に持ち込むケースが急増し、咬傷事故や機内での排泄の失敗、適切に訓練を受けたAD使用者への悪影響などが問題になっています1)。これを受けて運輸省は2020年にADに関わる航空アクセス法を改正する予定です。この法改正の草案には、ESAがADには含まれないこと、障害者のために作業をするよう個別に訓練された「犬」であること、ADの訓練、行動、健康を証明する文書の提出を航空会社が求めても良いことなど1)、複数の変更が含まれており、アメリカのADの現状はまさに過渡期にあります。

(2)オーストラリア

オーストラリアの連邦法(Disability Discrimination Act 1992)では、アメリカと同様にADがサポートする使用者の障害の種類は限定していません。また、補助犬についての訓練や認定に関する細かい定義はなされておらず、州法の定義に委ねています。一方で、同法では障害を軽減するために訓練されており、公共の場における動物の衛生面と行動が適切な基準で満たされていれば、そのような動物もADとして認められるという記載もあります。つまり、必ずしも特定の育成事業者のみにADの育成が限定されているわけではなく、使用者個人が育てたADにもアクセス権が認められた判例もあります2)。また、ADに関わる各州の法律は、ADの認定、認定する育成事業者(または訓練士)の認定、ADの表示義務、使用者証明書の携帯などを義務付けるなど細かく明記している州もあれば、補助犬に公共へのアクセス権を認めているものの、訓練や認定、証明についての基準を明記していない州もあるなど、法律の内容は州によって多様です。

(3)イギリス

イギリスはEquality Act 2010にて障害者の差別を禁止しており、AD使用者のアクセス権は守られています。同法では、タクシーでAD使用者を拒否することも違法とされていますが、運転手の医学的な理由により免除証書が交付されている場合、この法律は適用されません。Equality Act 2010においてもADがサポートする使用者の障害は限定されておらず、訓練基準などの明確な記述もありません。

(4)ドイツ

ドイツでも障害者差別禁止法や一般均等待遇法などで障害者のアクセス権を認めていますが、ドイツにはADに関わる特定の法律は存在しません。しかし、ADの施設への受け入れは良い慣行としてこれまでも実施されてきました。また、明確な規定は存在しないもののドイツ連邦政府の障害者問題の担当委員は、医療機関で補助犬の同伴拒否をしてはいけないと述べています。さらに、連邦食料・農業省も飲食店へのADの同伴を認めています3)。2017年には連邦評議会が、速やかにADに関する法律を制定するよう連邦政府に求めており4)、今後の動きが注目されます。

なお、EUはADの飛行機への同伴を認めるよう求めていますが、細かい規定は加盟国の法令に委ねています。そのため、国ごとのADの法的扱いや航空会社によるADの規則が異なることにより、使用者の負担が大きいことが問題になっています5)

課題

欧米先進国では、サービス・ドッグの拡大が進んでいます。多様なADの存在を法的に認めている国もあれば、慣行に従って法律がないままADの受け入れが進んでいる国もあります。いずれにしても補助犬に関わる法律が不十分な国では、適性のない犬の高額販売、ペットを補助犬と偽るという不正、補助犬とされる犬による咬傷事故などの問題が報告されています1)。アメリカ、ドイツ、イギリス、EUなどでは、法律の改正や制定に向けてすでに動き出しているのが現状です1,4,6,7)。日本は早い段階で身体障害者補助犬法が施行され、国内での補助犬の秩序は欧米と比べると保たれているといえます。時代の移り変わりとともに社会における補助犬の捉え方も変わっていくことが予想されます。時代の変化に合わせて、今後も日本の現状に即した補助犬の発展が望まれます。


【文献】

1) Office of the Secretary, U.S. Department of Transportation. (2020). 14 CFR Part 382. Notice of proposed rulemaking (NPRM).

2) Australian Human Rights Commision. (2016). Assistance animals and the Disability Discrimination Act 1992 (Cth). 2020年2月27日アクセス:
https://www.humanrights.gov.au/our-work/disability-rights/projects/assistance-animals-and-disability-discrimination-act-1992-cth#What is the legal understanding

3) European Parliament Research Service. (2016). Guide Dogs in the EU. Information on the access rights of guide dogs in all EU Member States.

4) Bundesrat. (2017). Entschliesung des Bundesrates: Gleichbehandlung aller von Assistenzhunden unterstutzten Menschen mit Behinderungen schaffen - Assistenzhunde fur Menschen mit Behinderungen anerkennen. [連邦参議院.連邦評議会の決議:補助犬に支えられているすべての障害者に平等な待遇を提供する-障害者の補助犬を認める]

5) Bremhorst A., Mongillo P., Howell T., Marinelli L. (2018). Spotlight on assistance dogs ? Legislation, welfare and research. Animals, 8 (129), 1-19. doi: 10.3390/ani8080129.

6) Assistance Dogs UK (2015). Written Evidence (EQD0081). 2020年2月27日アクセス:
http://data.parliament.uk/writtenevidence/committeeevidence.svc/evidencedocument/equality-act-2010-and-disability-committee/equality-act-2010-and-disability/written/20697.html

7) European Guide Dog Federation. (2019). European Standard for Assistance Dogs- Progress Report. 2020年2月27日アクセス:
https://www.egdfed.org/news-information/reports/report-of-2019-conference-in-tallin-estonia/european-standard-for-assistance-dogs-progress-report/

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