東パラ・選手を支える人-選手がより高いパフォーマンスを発揮できるように栄養面から支える

「新ノーマライゼーション」2020年3月号

独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター
国立スポーツ科学センター スポーツ研究部
研究員・公認スポーツ栄養士
元永恵子(もとながけいこ)

徳島大学大学院 栄養学研究科 博士後期課程修了(栄養学博士)。関西の福祉系大学の助手、講師を経て現在(独)日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター 国立スポーツ科学センター スポーツ研究部研究員。管理栄養士、公認スポーツ栄養士、中級障がい者スポーツ指導員、(公財)日本障がい者スポーツ協会 科学委員会委員。

国立スポーツ科学センター(JISS)にある選手用レストランは、「R3(アールキューブ)」という名前です。これは選手が食事に求める「Relaxリラックス」「Refreshリフレッシュ」「Recoverリカバリー(回復)」の3つの役割の頭文字が由来です。レストランでは厳しいトレーニングで消耗した体を回復させるための栄養素を補給し、仲間と一緒にリラックスした雰囲気で食事を楽しめて、食後には心も体も次の練習に向けた準備ができます。

ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)には、JISSのR3の他に2つの選手用レストランがあります。すべてのレストランはオリンピック・パラリンピックの選手村ダイニングと同様の提供スタイルで、食事の基本的な形である1.主食、2.主菜、3.副菜、4.牛乳・乳製品、5.果物が揃えられるのが特長です。主菜や副菜は食材や調理方法が工夫されたものが3~4品用意されます。その中から選手は増量、減量、貧血予防、リハビリテーション中など、自分の目的に合わせて食事を摂ることができます。さらにここで身につけた食事の知識は、国際大会など遠征先で料理を選ぶ時に役立ちます。

HPSCのレストランには、mellon2(メロンツー:mellonはギリシア語で「未来」)という栄養評価システムがあります。これはJISS映像・情報グループと栄養グループが中心となって開発しました。現在各レストランの給食会社の管理栄養士と、JISS栄養グループの研究員が協力して運用しており、選手は選択した料理でエネルギーや栄養素をどれだけ摂れるかをグラフで確認できます。選手が自分に必要なものを考えて料理を選択できるようになることが、栄養サポートの最終目標です。

何をどれだけ食べたら良いかという課題について、オリンピック選手ではずいぶん研究が進んでいますが、パラリンピック選手ではその障がい特性や競技特性を踏まえると、まだ発展途上です。

例えば、脊髄損傷といってもその損傷高位が腰髄・胸髄・頚髄のどこか、完全麻痺か不完全麻痺かで筋肉量や身体活動量が異なります1)。また、オリンピックのマラソンランナーは下り坂でも自分の足で走らなければなりませんが、車いすマラソンランナーは車輪が転がることにより、手で駆動せずに競争できます。このように同じ「マラソンランナー」であっても、健常者の知見を参考にしづらいこともあります。

サポート現場の栄養スタッフ(管理栄養士、公認スポーツ栄養士)は、これらのことを踏まえ、パラリンピック選手をよく見て、肢体不自由、視覚障がい、知的障がいなどの障がい特性を理解し、体重などの指標も参考にしてエネルギー必要量の設定や食事計画の立案といった栄養サポートを展開しています。JISSの研究員は、現場の課題を解決するための調査や研究を行い、得られた知見を現場に還元することで競技力向上に貢献しています。

東京2020大会は、国外での大会と比べて選手村の食事や衛生面での課題は少ないと予想されます。一方で、ある選手とは、過度な激励会や差し入れで直前の体調を崩さないよう、応援者の厚意に感謝した上で、競技のためにお断りする意志も持とうと話しています。大舞台でも特別なことはせず、いつもどおりの食事を行うことが、選手のリラックス、リフレッシュ、リカバリーには有効です。


【参考文献】

1)元永恵子. 障がい者のエネルギー必要量の設定. 体力科学, 67: 365-371, 2018

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