地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-こころんで作ったここだけの卵「ここたま」~農福連携の可能性~

「新ノーマライゼーション」2020年3月号

社会福祉法人こころん 法人常務理事
熊田芳江(くまだよしえ)

2018年4月、こころんファームに1,000羽の平飼い鶏舎が完成し、2019年3月には作業所と店舗も完成し、鶏にとって良い環境と、人間にとっても良い卵「ここたま」が完成しました。

養鶏場の建設にあたっては、できる限り鶏に良い環境にしたいと考え、いろいろ調べていくうちに「アニマルウェルフェア」(動物の福祉)という概念があることを知りました。アニマルウェルフェアとは、欧州発の考え方で、感受性をもつ生き物としての畜産に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできるだけ抑えて、行動要求が満たされた、健康的な生活ができる飼育方法をめざす畜産のあり方です。日本では有機農業とともになかなか浸透していないのが現状です。

アニマルウェルフェア自体は抽象的な考えですが、その具体的な基準、目標として「5つの自由」が国際的に認知されています。それは次のような内容です。1.空腹と渇きからの自由、2.不快からの自由、3.痛みや傷、病気からの自由、4.正常な行動を発現する自由、5.恐怖や苦悩からの自由です。「5つの自由」に照らし合わせると、こころんの養鶏場は、次のような特徴があります。1.鶏が自由に動きまわれる平飼い、2.鶏の健康と人間の健康を考えた良質な飼料を自家配合、3.水は200mの地下水をくみあげて、汚染がなく通年一定の温度であり、人間が飲んでもおいしい水、4.美しい里山と静かな環境、5.清潔な鶏舎と働きやすい環境。このように配慮して作られた養鶏場は臭いも無く、鶏も穏やかです。アニマルウェルフェアは、農福連携の一つといえます。

「生き物」を相手にするため休みのない畜産業、手のかかる平飼い養鶏場や地域の環境に配慮した農業などは、生産性や経済性を考えると割に合わない産業ですので、増えていかない理由だと思いますが、「農福連携」であればそれが可能です。これまでも畜産をはじめとする農業部門に障がい者が関わっている事例はありましたが、単に人手不足を補うためや救貧的な目的であったり、動物にも人間にも劣悪な環境だったりしていました。これからの農業の在り方として、アニマルウェルフェアや、景観保全、環境に配慮した福祉的農業など新しい価値が、もっと評価されるべきであると思います。

こころんファームの農場は地域で放置されている耕作放棄地を借りあげて開拓し、先に紹介した養鶏場の鶏糞堆肥を畑に投入して、地力を回復させて美しい畑に再生しています。現在、畑2ha、田1haの約3haの農地で無農薬、有機栽培のコメや野菜を栽培しています。

農業や食品加工は技術職ですので、たとえ障がいがあっても技術は確実に伸びていくものであり、作業能力も高くなり、さらにモチベーションもあがり、自信もついてQOL(生活の質)が向上します。

障がい者が一生懸命働く姿は地域の人々を感動させ、そこには障がいに対する差別や偏見は存在しません。我々福祉職の役割は、何よりも利用者さんの豊かな生活を応援することにあります。

農業は天候に左右され、孤立しやすく、決して楽な仕事ではありません。しかし、いろいろな形の働き方が展開できます。地域のさまざまな課題に対して福祉の担える部分はたくさんあります。地域のあらゆる機関と連携し、就労の機会を拡大して障がい者の活躍の場をたくさん作ってほしいものです。たくさんの仕事が生まれる可能性がある農福連携は、生産、加工、販売、どこからでも始めることができます。好きなこと、得意なことから始めるのもよいでしょう。地域がよく見えるようになります。

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