SDGs達成に向けた日本政府の取組

「新ノーマライゼーション」2020年4月号

外務省国際協力地球規模課題総括課長
吉田綾(よしだあや)

SDGs(持続可能な開発目標)は、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指す世界共通の目標です。世界が直面している課題は多様化・複雑化しており、グローバル化の進展とも相まって、国境を越え、広範化しています。昨今の新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりは、その典型的な例といえます。これらの課題の解決に向けては、国際社会全体として取り組む必要があり、こうした認識の下、2015年9月の国連総会において、すべての加盟国が合意し、SDGsを含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。

SDGsは17の目標から構成されており、貧困や飢餓、保健、教育など主に開発途上国が抱える伝統的な開発アジェンダ、エネルギーや経済成長、不平等の解消など先進国も含めた世界全体が包摂的な成長を実現するための経済アジェンダ、そして地球環境や気候変動など比較的新しい地球規模で取り組むべき環境アジェンダなど、世界が直面する課題が網羅的に示されています。SDGsはこのような世界全体の経済・社会・環境の三側面における課題に統合的に取り組み、同時に解決することを目指しています(図1)。

図1 持続可能な開発目標(SDGs)
図1 持続可能な開発目標(SDGs)拡大図・テキスト

SDGsがこれまでの国際目標と異なるのは、先進国も含めたすべての国が達成を目指す目標ということです。経済・環境・社会の課題は互いに複雑に絡み合っており、こうした課題の解決に向けては国や分野を超えた包括的な対応が必要になります。SDGsは国や地域、年齢、性別、人種、障害にかかわらず誰にでも関係することです。そのため、すべての国、企業、自治体、市民社会、そして一人ひとりがSDGsの達成に向けて行動していく必要があります。

SDGsの達成に向けて、日本政府がまず取り組んだのは国内の基盤整備でした。2016年6月に、総理を本部長、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を立ち上げました。同年12月には、SDGs達成に向けた中長期的な国家戦略である「SDGs実施指針」を策定し、日本が特に注力する8つの優先分野(1.あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダーの平等、2.健康・長寿の達成、3.成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション、4.持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備、5.省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会、6.生物多様性、森林、海洋等の環境の保全、7.平和と安全・安心社会の実現、8.SDGs実施推進の体制と手段)を掲げました。また、SDGs実施に向けた官民パートナーシップを重視する観点から、民間セクター、NGO/NPO、有識者、国際機関、各種団体等、広範なステークホルダーが集まる「SDGs推進円卓会議」をこれまでに9回開催し、SDGs推進に向けた地方やビジネスの取組、次世代・女性のエンパワーメントの方策、国際社会との連携強化などについて意見交換を行っています。

2019年12月に開催されたSDGs推進本部第8回会合では、過去4年間の取組や国際社会の潮流、円卓会議構成員による提言やパブリックコメントを踏まえ、「SDGs実施指針」を策定後初めて改定しました。加えて、SDGs達成に向けた政府の具体的な取組を加速させるため、「SDGsアクションプラン2020」を決定し、1.ビジネスとイノベーション、2.SDGsを原動力とした地方創生、強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり、3.SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメントを3本柱とする「日本のSDGsモデル」に基づき、引き続き取り組みを推進していくこととしました(図2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

前述のとおり、SDGsの達成に向けては、政府のみならず、さまざまなアクターによる取組が重要です。政府としても、国内の取り組みを「見える化」し、より多くの主体による行動を後押しするため、SDGs達成に資する優れた取り組みを行う企業・団体等を表彰する「ジャパンSDGsアワード」を創設しました。例えば、障害者を積極的に雇用し、高品質かつ高付加価値のチョコレートづくりを実践する「一般社団法人ラ・バルカグループ」もジャパンSDGsアワードを受賞した団体のひとつです。ラ・バルカグループでは、チョコレートの製造工程を単純化・定型化することで、障害の有無にかかわらず、多様な人々が働くことのできる環境を整えています。チョコレートブランドとして、おいしく高品質なチョコレートを作り、しっかりと利益を上げ、そこで働く障害者の自立を支え、その利益を還元する。同団体の取り組みはまさに「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を実践したものといえます。ほかにも、循環型社会の構築を目指す地方自治体や地域に根ざし草の根で市民にSDGsを推進する商店街、食品廃棄物を活用して循環型のビジネスモデルを構築した企業、長年にわたって難民・国内避難民へメガネを提供する地方企業など、これまでに3回実施し、合計で36の企業・団体等が受賞しています。こうしたさまざまな主体による創意工夫が日本のSDGs達成に向けた大きな原動力となっています。

SDGsにおいて、「障害者」は脆弱な立場に置かれやすいグループとして、分野横断的にさまざまな目標の中に取り込まれています。特に、SDG4(教育)、SDG8(成長・雇用)、SDG10(不平等)、SGD11(都市)、SDG17(実施手段)においては、障害または障害者に直接言及したターゲットが含まれています。こうした障害者を含めた脆弱な立場にある人々に焦点をあてるSDGsの考え方は、日本がいち早く国際社会に向けて提唱してきた「人間の安全保障」の考え方と軌を一にするものです。日本政府は、SDGsが採択されるより以前から、人間の安全保障の理念に基づき、障害の有無によらず、個人がもつ豊かな可能性を実現できる社会づくりを推進してきました。

政府では、2030年やその先の未来を担う次世代におけるSDGsの主流化を図るため、2018年に「次世代のSDGs推進プラットフォーム」を立ち上げました。同プラットフォームは複数のユース団体から構成されており、障害者団体の方々にもその中で活躍いただいています。政府としては、今後も障害のある人を含む多様なステークホルダーの声に耳を傾け、「誰一人取り残さない」社会の実現に注力してまいります。

2019年9月に開催された「SDGサミット2019」において、グテーレス国連事務総長は、「取り組みは進展したが達成状況には偏りや遅れがあり、あるべき姿からはほど遠い。いま、取り組みを拡大・加速しなければならず、2030年までをSDGs達成に向けた『行動の10年』とする必要がある。」とSDGsの進捗に強い危機感を表明しました。2030年までの道のりも4分の1を過ぎ、達成に向けた見通しは決して明るいものではありません。今後は、より多くのステークホルダーがSDGsの周知だけではなく、達成に向けた具体的な行動を実践していく必要があります。SDGsの理念である「誰一人取り残さない」は、言い換えると、SDGs達成に向けては「誰もが何かできる」ということです。「行動の10年」の始まりにあたる本年、私たち一人ひとりがSDGs達成に向けて何ができるのかを考え、一歩踏み出すことが求められています。

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